週刊国際海洋情報(2021年11月13日号)

1.COP 26:主たる結果概要

標記については以下のとおり。①石炭火力発電については、印・中の反対で最後の段階で「段階的廃止」から「段階的削減」に目標が引き下げ。②米中が環境問題で話し合いを続けることに合意。③国際炭素排出権取引については、透明性・標準化が高まったが、環境団体は抜け道があると指摘。④法的拘束力がないものの、100か国以上が初めてメタンの排出削減に合意。⑤来年のCOPでNDCsをさらに見直すことに合意。⑥各国が排出実績を報告し、その内容を精査する制度に合意。⑦壊滅的な異常気象被害を受けた国が先進国から支援を受ける制度を作ることに合意したが、支援額や詳細なメカニズムはCOP 27に持ち越し。⑧森林伐採の停止について主要関係国が合意。⑨世界の主要金融機関が今世紀半ばまでに、投資先の脱炭素化について合意するも、世界の3大金融機関であり、主たる石炭火力発電への投資家でもある中国の金融機関が不参加。⑩今回の合意が全て実施された場合、今世紀末までの気温上昇は1.8℃に抑制可能。

原文

November 14, 2021, Blomberg


2.キリバツ政府が世界最大級の海洋保護区を指定解除へ

キリバツが管轄するフェニックス海洋保護区(PIPA)は世界遺産で40万㎢と世界最大級の面積を持ち、米国の海域と接している。キリバツ政府は、海洋保護区を解除すれば年間2億ドルのマグロ漁の入漁料収入を得られることを解除の理由として、既に指定解除を閣議決定して、国際的な関係者に2週間前に通知した。この政府決定には中国の関与が懸念されている。同国政府は、中国政府から6600万ドルの資金援助を受ける見返りとして、23年間にわたる台湾との国交を2019年に断交して、中国と外交関係を結んでいるが、PIPAは中国のマグロ漁業にとって魅力的であるばかりでなく、米軍の基地に近いという意味においても戦略的に重要である。中国は以前に米国領であったカントン島の滑走路の改良事業などを支援することを約束しており、キリバツ政府は、同滑走路の軍事転用は否定しているものの、中国の影響力が強化され、さらに、豪を中心とする太平洋諸島フォーラムからの離脱も示唆し、国際的な孤立化の道を歩んでいる。

原文

November 11, 2021, 1 News


3.The Global Commitment 2021 Progress Report

Ellen MacArthur 基金が主導し、国連環境計画と連携して、500以上の組織が参加したThe Global Commitment (GC)は、プラスチックの循環型経済を作ることを目標としているが、同基金は11月16日、標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①GCの参加企業については、virgin plasticの使用量は減少に転じて、2025年に向けてさらに急速に減少する見込み。②virgin plastic使用量の減少の原因は、概ねリサイクル率が上がったことだが、プラごみ問題を解決するためには、使い捨てプラスチックによるパッケージの廃止が必要。③プラごみを無くすためには、有志企業や先進的な国々による自主的な取り組みでは足らない。約80の先進企業と約100の先進的な国家は、プラごみを削減するための世界的な協定を作成するための交渉を2022年から開始することを支持しており、2022年2月に開催される予定の国連環境総会が、その良い機会となる。

原文

November 16, 2021, Ellen MacArthur Foundation


4.FMC:海上貨物サプライチェーンの効率化のために情報の問題点を調査

米国連邦海事委員会(FMC)は、海上貨物の速やかな物流を阻害し、サプライチェーンを非効率化している情報の問題点を特定し、改善することによって、長期的な国内貨物配送システムの信頼度を上げるための調査を開始すると11月15日発表した。調査結果を踏まえて、外航海運サプライチェーンに使用される共通情報基準と、海洋サプライチェーン全般にわたる情報の共有を合理化するための情報アクセスに関する政策と方法に関する勧告を提案することを目指している。この調査はFMCの委員長の指示の下に行われ、問題点の分析に関する第一段階の調査結果は、来年春に開催される海事データサミットで公表することを予定している。

原文

November 15, 2021, FMC


5.米EPA:トランプ時代の航空機からのGHG排出規制を変更しないことを表明

オバマ政権が2016年に国際民間航空機関(ICAO)で交渉し、航空機からのGHGの排出基準を世界で初めて定めたICAOの規則(2028年から適用)を施行するために、トランプ政権が政権末期に作成した米国の国内規則を、航空機に関する国際的な統一基準を守り、米国の航空機製造事業者の国際的な競争力を維持するために、環境保護庁(EPA)はそのまま、1月11日から施行した。これに対し、2050年までに炭素中立を実現するためには、ICAOの基準は既に時代遅れになっているとするカリフォルニア州をはじめとする11州がこの国内規則の施行差し止めを求めて提訴していた。EPAは、炭素中立目標に合わせて、この規則を見直すべきかどうか検討する時間を裁判所に求めていたが、11月15日に、合衆国控訴裁判所に提出した書面で、規則の見直しを行わないと表明した。EPAは、航空分野をはじめとする交通分野から排出されるGHGを大幅に削減する必要性は認識しており、次回の第41回ICAO総会では、ICAOの現行基準の引き上げを求めていくとコメントしている。

原文

November 16, 2021, IHS Markit


6.コロナ期間中に世界の主要港湾における大気汚染物質の排出量が急増

シンガポールの南洋理工大学(NTU)による調査では、2020年の7月から2021年の7月までのパンデミック期間中にシンガポール港に停泊中の船舶から排出された大気汚染物質排出量は、2019年実績比で2倍以上(+123%)になったのをはじめ、ロサンゼルス港は同2倍(+100%)、ロングビーチ港は65%、ハンブルグ港は27%と船舶から排出された大気汚染物質排出量が増加したことが分かった。コロナの影響で港湾における荷役・待機時間が通常より長くなったため、港内に停泊中の船舶から排出される大気汚染物質の排出量は4港湾平均で79%増加した。大気汚染物質の内訳は具体的に、CO₂/SOx/NOx/黒鉛/一酸化炭素/メタンについて排出量をそれぞれモデル化した。

原文

November 16, 2021, Nanyang Technological University


7.欧州委員会:現代重工業による大宇造船海洋の買収を正式に不許可か

2019年の3月に現代重工業(HHI)が大宇造船海洋(DSME)を買収する正式契約を、DSMEの55.7%の株式を保有する韓国産業銀行と締結し、同年11月に欧州委員会に対して、買収を承認するよう申請をした。欧州委員会の競争当局は、本買収を承認すれば、大型コンテナ船・タンカー・LNG/LPG運搬船の分野で、独占状態となって競争が阻害されるとの懸念を示し、HHIは一部の部門の切り離しを提案するなど協議を重ねたが、コロナのために必要な情報の提供が遅れたため、昨年の7月に審査は中断されていた。The Korea Timesによれば、このほどこの買収を承認しないことでEU内部の合意が成立した。本件買収については、昨年12月に中国政府の承認が下りたほか、シンガポール・カザフスタン政府も承認している一方、韓国・日本両政府はまだ承認していない。

原文

November 17, 2021, Offshore Energy Biz


8.White House:Recent Progress at Our Ports

11月17日、White Houseが標記ブリーフを発表したところ、海運に関する部分の概要は以下のとおり。①より多くの運賃を稼ぐために、海運会社が米国からの輸出貨物を積載せずに、空のコンテナを中国に送り返す比率は、今年に入ってから70%を超えている。②これは輸出農家だけの問題ではなく、米国の輸出入事業者に対して、海運会社が公正な扱いを行っているかと言う問題である。③2011年には、アライアンスがコンテナ海運に占める占有率は、29%にすぎなかったが、現在では80%のシェアを9大海運会社が3つのアライアンスに分かれて管理しており、アジア=北米西岸航路では、95%のシェアを握っている。④7月には、「米国経済の競争促進のための大統領令」を発出して、連邦海事委員会(FMC)に対し、海運会社が米国の輸出入事業者に対して不公正な課金を徴収しないよう厳しく取り締まるよう督励し、FMCは既に必要な調査を開始している。⑤アライアンスは独占禁止法の一括適用除外の対象だが、海上輸送量が不当に制限され、または、運賃が不当に引き上げられ、競争が大幅に制限された場合には、FMCはアライアンス協定に介入する権限を持っており、司法省も政府の一員として、FMCを支援する準備ができている。

原文

November 17, 2021, The White House


9.MEPC 77:プラスチックペレットを有害物質に加えることを検討

5月25日に発生したシンガポール籍のコンテナ船X-Press Pearlの火災事故により、同船から1680トンのプラスチックペレットが9700トンの他のプラスチック製品などの汚染物質とともに、スリランカの沖合14.5kmの海上に流出した。流出したプラスチックは、スリランカの海岸を何kmにもわたって漂着・集積して、同国で史上最悪の海洋環境汚染事故、かつ世界でも最大のプラスチックペレット汚染事故となり、流出したペレットの約1/3しか回収されていない。同様なプラスチックペレットによる海洋汚染事故は、過去10年間で、香港・南ア・北海などで発生している。海洋プラスチックごみのうち、船舶起源のものは約20%にすぎないが、このような船舶からのプラスチック汚染を防止する国際ルールができておらず、MEPC 77では、スリランカや環境NGOが、プラスチックをMARPOLの規制対象の有害物質に追加指定するよう提案している。

原文

November 19, 2021, Splash 247


10.UNCTAD:Review of Maritime Transport 2021

標記報告書の概要は以下のとおり。①2020年前半は、パンデミックの影響で海上輸送量は3.8%減少したが、予想よりは減少幅が少なく、タンカー部門を除いて、同年後半には回復した。②貿易量の増加に応じて、海上輸送量も2021年には4.3%増加する見込みだが、2022年から2026年の中期的な成長予測は2.4%と、過去20年間の平均成長率の2.9%より鈍化する見通し。③海上輸送量は順調に回復したものの、港湾部門の混乱は続き、パンデミックによる船員の船上における超過労働の問題も完全には解決していない。④旅行制限や生産量の削減の影響で、2020年には、原油・石油製品・LNGの輸送量は7.7%減少した一方で、コンテナ輸送量は1.1%、ばら積み貨物輸送量も中国の強い景気回復によって、1.5%の減少にとどまった。⑤物流のボトルネックの存在・運賃の高騰・不均衡な経済回復などによって、海上輸送の不安定な状況が続いている。⑥2020年中に世界の船腹量は3%増加し21.3dwtとなり、100gt以上の船舶は99800隻に達した。⑦新造船発注量は2019年に続き2020年も16%減少したものの、2021年に入って、新造船発注量は増加に転じ、特にコンテナ船は、過去20年間で最大の発注量となっている。

原文

November 18, 2021, UNCTAD


その他のニュース

1.気候変動緩和対策
 (ア)排出権取引制度
  ①EU
   EU ETS: 投機的な取引が行われている証拠なし 原文11/19
 (イ)Green Finance
  ①企業別炭素中立計画
   企業経営者にとっての炭素中立計画に盛り込むべき要素 原文11/12
 (ウ)特定フロン(HFC)規制
  ①米国
   米大統領:オゾン層破壊物質廃絶のキガリ改正批准を上院に要請 原文11/17
 (エ)COP 27
  ①主たる議題
   COP 27はエジプトで気候変動に対する防災に焦点をおいて開催 原文11/12
2.海事環境
 (ア)船舶から排出されるGHGの削減
  ①Green Finance
   マースク:Green Finance Frameworkで5億ユーロを調達 原文11/19
3.エネルギー転換
 (ア)石油・ガス開発の拒否
  ①米国
   米政府がメキシコ湾における原油開発のためのリースを再開 原文11/7
4.再生可能エネルギー
 (ア)支援制度
  ①中国
   中国政府:再エネに対する2022年の補助予算額は約38.7億元に 原文11/16
5.安全保障
 (ア)南シナ海
  ①中国
   中国海警局:南シナ海で比の補給艇に対して放水して補給を妨害 原文11/18
6.環境政策一般
 (ア)各国の政策
  ①EU
   European Green Deal: 欧州委員会が新たに3つの規則を提案 原文11/17
7.循環型経済
 (ア)リサイクル戦略
  ①米国
   米EPA: National Recycling Strategyを発表 原文11/15


Webinar情報

1.COP 26: Virtual Ocean Pavilion
November 25-26
https://www.ioc-westpac.org/decade-kickoff-conference/registration/