週刊国際海洋情報(2021年10月23日号)今週の10大ニュース

1.タグボートが欧州で1000海里の自律運航に成功

米国のMachines Robotics社は、同社の自律運航システムを搭載した小型タグボートを独のクックスハーフェン港から出港させ、キール運河を利用して、ユトランド半島東側に出てから北上して、同半島の北端を周回してハンブルクに寄港する約1000海里の航海を13日間(運航時間は129時間で平均運航速度7.9ノット)かけて、米国のボストンからの遠隔監視の下、全航海の97%を自律運航し、31回の衝突回避運航と運航分離帯の航行に成功した。同ボートには、人工知能を使用した長距離コンピューター視認システムとsensor-to-propeller自律運航システムを搭載し、経路計画・動態区域認識(active domain perception)・動的衝突回避・水深探知・電子海図との連携などを可能としている。さらに複数のセンサーを複合的に駆使することによって、3.1万㎢の海域を船員の肉眼より正確かつ包括的に認識できる。船舶が航行している間、ボストンの運航管理センターでは、船舶周辺の動的な海図や、船舶の状況、船舶の周辺状況、船上のカメラがとらえたリアルタイムの画像・音声を確認することができた。

原文
October 22, 2021, The Maritime Executive

2.ICS:IMO ISWG-GHG 10の結果について前向きの評価


10月18日から開催された表記会合の結果について、国際海運会議所の事務局次長がコメントしているところその概要は以下のとおり。①外航海運に現実的な炭素税を課し、炭素中立への移行を加速するための市場原則に基づく措置(MBM)の設計について、率直な意見交換がされたことを歓迎する。②今回の会合では、世界的な規制の枠組みの中で、海運にどのように炭素課税が適用されるかについて理解を深め、地域的・国単位での対策がうまく機能しないかについて一般的に認識された。③太平洋諸国の提案と多くの共通点を持つ、ICSとINTERCARGOによる世界共通の炭素課税に関する包括的な提案について政府が詳細な検討を始めたことを評価する。④発展途上国により懸念が表明された炭素課税導入に伴う経済的な影響について検討しながら、IMOの場でMBMについてさらに審議が進むことを期待する。⑤次のステップとしては、それぞれのMBMの提案国が、当該MBMが海運活動のコストに与える影響評価を提出することとなる。

原文

October 22, 2021, ICS


3.欧州委員会:メタン排出削減戦略を発表

メタンは、CO₂に次ぐGHGであるうえに、住民の健康にも悪影響を及ぼす大気汚染物質であるため、メタンガスの排出を監視することは、2030年までのGHG排出削減中期目標や2050年までの気候中立目標を達成するうえで、また欧州委員会の「ゼロ汚染」目標を達成するうえで重要である。このような観点から、人類によって人為的に排出されるメタンガス全体の約95%を占めるエネルギー・農業・廃棄物処理分野からのメタン排出を削減するため、欧州委員会は10月14日、法的な拘束力がある措置と法的拘束力がない措置を含めたメタン排出削減戦略を発表した。具体的には、メタンの実際の排出量の把握については、分野ごと或いは加盟国ごとに、現段階では異なっているので、メタンの排出量を計測・検証・報告(MRV)する仕組みを創設する。こうしたEU域内のMRV制度の向上ばかりでなく、国連環境計画・国際エネルギー機関などと連携し、EUのコペルニクス観測衛星システムを活用して、地球全域で、メタンの大規模排出・漏出場所を特定するような国際メタン排出観測システムの構築を目指していく。

原文

October 14, 2021, 欧州委員会


4.欧州における地熱発電の可能性

建物の暖房に使用されるエネルギーはEU全体のエネルギー消費量の約4割を占めるとともに、GHGの排出量の36%を占めており、欧州グリーンディールに従い、2050年までに炭素中立を達成するために、暖房の脱炭素化の成否が重要な鍵となっている。地熱発電は、24時間通年でベースとなる電力を供給しながら、風力や太陽光などの可変的な再生可能エネルギーとの併用も可能であり、欧州ではトスカーナ地方のピサとかシエナなど、イタリア国内に最も多くの地熱発電施設を抱えるが、ミュンヘン・パリ・ウィーンなどの大都市でも、近年、地熱発電を活用することを検討している。しかし、欧州委員会では、今までは地熱発電はあまり重要視されておらず政策的な支援策がない一方で、米国・トルコ・インドネシア・中国などの国々では、国のエネルギー計画の中できちんと地熱発電が位置付けられており、欧州において地熱発電が家庭暖房の脱炭素化に貢献するためには、欧州委員会においても諸外国並みの政策的な位置づけが必要となる。

原文

October 25, 2021, Euractiv


5.UNEP:Emission Gap Report 2021を発表

10月26日、国連環境計画(UNEP)は、標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①地球の気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃以内に抑制するというパリ協定の目的を達成するためには、同協定締結後、各国が約束した自主的な国家排出削減目標(NDCs)に従って排出されるGHG総量と比較して、更に55%を削減しなくてはならないが、COP 26を前に、各国が排出削減目標を引き上げ、再提出された新しいNDCsによっても、2030年までにわずかに7.5%分の削減量が追加されるにすぎないことがわかり、パリ協定の目標達成からは大きく乖離していることが分かった。②この結果、改訂後のNDCsに従えば、2030年までに地球の気温が産業革命以前と比べて、2.7℃上昇することが予測される。③2050年までに炭素中立を果たすことを各国が合意し、その目標達成のためにしっかりとした2030年までのGHG排出削減結果を作成すれば、2030年までの気温上昇を2.2℃に抑制することができる。

原文

October 26, 2021, UNEP


6.UMAS:A Strategy for the Transition to Zero-Emission Shipping

英国ロンドン大学UMASがGetting to Zero Emissionのために標記報告書を作成し、発表したところその概要は以下のとおり。①海運が化石燃料依存から脱却するのは可能であるが、現在のエネルギーミックスに関する政策を大幅かつ迅速に変更する必要がある。②一方で、 風力の利用などによる既存の技術を用いた船舶の運航効率の最大化が必要であり、効率化なしでは、ゼロエミッションへの移行はより割高で困難かつ混乱することになる。③IMOにより世界的な規制が変更される前の呼び水として、海運業界のリーダーシップ・連携・早い段階での投資が初期段階においては重要な役割を果たす。④また、各国レベル・地域レベルなどあらゆるレベルの規制改革がIMOの政策転換を補完・促進することになる。⑤大規模なゼロエミ燃料(SZEF)への移行には、新造船だけでなく、既存の船舶についてもSZEFが使用できるような改修が必要となる。 

原文

October, 2021, UMAS


7.中国:GHG削減に関する国家目標の更なる積み増しはせず

パリ協定の加盟国は、31日から開始されるCOP 26に先立ち、既存の国家目標(NDC)の見直しを行うことが求められているが、中国政府が国連事務局に正式に提出し、事務局が10月28日公表した同国のNDCによれば、 ①2060年までに気候中立化し、②2030年までにGHGの排出量を減少に転じ、③単位GDPあたりの炭素密度を2030年までに65%削減し、④風力と太陽光発電能力を1200GW以上にすることが表明された。今回の新たなNDCは既存の2015年に発表されたNDCと比較すれば改善されているが、2020年12月に習主席が発表した内容と同じで、NDCの更なる上積みは実現しなかった。

原文

October 28, 2021, Politico


8.COP 26:2050年脱炭素化のためには海運のGHG削減戦略の見直しが必要

ロンドンで開催された世界海事フォーラムにおいて、COP 26で業界代表を務めるロイズ船級協会の気候変動担当者は、ロイターの取材に対し、「既存のIMOのGHG削減戦略では、2008年実績比でGHGの排出量を50%以上削減するとされているが、COP 26で2050年までに全体として炭素中立化をめざすことに合意すれば、交通分野抜きでは、全体目標の達成が困難となるため、既存のIMOのGHG削減戦略では不十分となる。」と語った。9月には、海運会社・港湾管理者・石油メジャーなどの先進的な200以上の組織が連携して、2050年までの海運脱炭素化を達成すると表明しており、COP 26の議長国である英国を含む多くのIMO加盟国も2050年までの海運脱炭素化に対し支持を表明している。IMO事務局長は、26日、IMO加盟国は、GHG削減戦略の目標の引き上げも含め、広範な検討を既に開始していると語った。

原文

October 28, 2021, Reuters


9.COP 26:妥協点が見えない「国際排出権取引制度」に関するルール作り

パリ協定第6条は、国際的な排出権の取引について定めているが、パリ協定のいわゆるRulebookの最後に残った困難な争点となっている。第6条に従えば、外国の炭素削減事業に投資すれば、自国で炭素排出削減を実施したものとみなされるが、外国における排出削減量の認定について、厳格な規則がなければ、パリ協定の目的達成の抜け道となってしまう恐れが強い。中国は7月に独自の排出権取引市場を創設し、ロシアは広大な森林地帯を炭素吸収源として高く売りたいと考えており、この規則作りに重大な関心を寄せている。しかし、2019年のマドリッドにおける前回交渉でも、この問題が最後に残された困難な課題となり、交渉期間が2日間延長されたにもかかわらず、9種類以上の規則案ができただけで終わった。COP 26のシャルマ議長は、本件について、シンガポールとノルウェーの大臣に依頼して、最後の閣僚級準備会合で非公式協議を行い、妥協点を探ったが、各国は従来からの主張を基本的に繰り返しただけで、妥協点が見えずに終わっている。

原文

October 26, 2021, Climate Home News 


10.UNDP:The State of Climate Ambitionを公表

10月28日、国連開発計画(UNDP)が標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①後発発展途上国(LDCs)と小島嶼国(SIDs)の93%は、既に国家排出削減目標(NDCs)を提出したか、提出を準備している。②一方で、国連気候変動枠組条約事務局がCOP 26に報告するために設定した最終提出期限である10月12日を無視して、G20諸国のうち3か国は、つい数日前にNDCsをようやく提出したばかりである。③G20諸国のうち、18か国のNDCsには長期的な目標しか記載されておらず、世界のGHG排出量削減を1.5℃目標を達成するのに必要な軌道から逸脱させないために必要な実効的・短期的対策が記載されていない。④こうして、G20諸国がもたついている一方で、気候変動危機の最前線に立っている世界の最貧国が、気候変動対策の先駆者としての役割を果たしている。⑤LDCsとSIDsから提出されたNDCsの86%はGHG削減目標が引き上げられているが、これらの国のGHG排出量は世界全体の総排出量の7%を占めるに過ぎない。

原文

October 28, 2021, UNDP


その他のニュース

1.気候変動緩和対策
 (ア)CO₂削減目標と実績
  ①世界全体
   UNEP: Emission Gap Report 2021を発表 原文26/10
 (イ)排出権取引制度
  ①EU
   EU首脳会合:東欧諸国が既存のエネルギー政策の見直しを求める 原文22/10
 (ウ)COP 26
  ①産業界の要望
   COP26:航空・海運業界CEOが脱炭素化に向けた支援を要請 原文21/10
  ②エネルギーメジャーとの関係
   COP26:石油大手等が上位スポンサーとなることを拒否される 原文22/10
 (エ)メタンガス
  ①UNEP
   世界メタン誓約:豪は反対・NZは賛成も 原文28/10
 (オ)Green Finance
  ①気候変動関連情報の開示
   英:気候変動関連財務情報を来年4月から大企業等に開示義務化 原文29/10
2.エネルギー転換
 (ア)世界同時エネルギー危機
  ①EU
   欧州エネルギー担当大臣会合 :天然ガスの共同購入提案を見送り 原文27/10
  ②ラ・ニーニャの影響
   ラ・ニーニャ現象の発生でエネルギー危機がさらに悪化の見通し 原文24/10
3.海洋環境
 (ア)海洋プラスチックごみ
  ①マイクロファイバー
   英:洗濯水に含まれるマイクロファイバーによる海洋汚染の防止 原文26/10
4.プラスチックごみ(一般)
 (ア)リサイクル
  ①フィリピン
   比でプラごみを建築資材にリサイクル 原文20/10


Webinar情報

1.COP 26: Virtual Ocean Pavilion
October 31-November 12
https://cop26oceanpavilion.vfairs.com/en/registration-form

2.COP 26: Virtual Ocean Pavilion
November 25-26
https://www.ioc-westpac.org/decade-kickoff-conference/registration/