週刊国際海洋情報(2021年10月16日号)今週の10大ニュース

1.独政府:エネルギー価格高騰対策として再生可能エネ追加料金を引き下げ

独では、再生可能エネルギーの整備を促進するために、再生可能エネルギー法に基づき、電力料金に上乗せする形で、電力利用者が高額の追加料金を負担してきたが、エネルギー価格急騰対策として、再エネ追加料金を42.7%来年1月から引き下げ、1kWhあたり3723ユーロ(約49万円)とすることを10月14日発表した。電力利用者から徴収された再生可能エネルギー追加料金は、風力・太陽光施設の生産者に対して支給されているが、昨年は、コロナ対策として追加料金は3.9%引き下げられ、現在電力利用者が支払う電力料金の約1/5を追加料金が占めている。再生可能エネルギーによる発電量は、2022年には、対前年比11TWh増加して、239TWhとなる見込み。来年からの追加力金の引き下げで、年間4000kWh電力を消費する標準的な家庭で年間132ユーロ(約17000円)の電力料金の引き下げとなる。

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October 15, 2021, Reuters

2.UNSG:IMOにCO₂削減目標の引き上げを求める

北京で開催された国連地球持続可能な交通会議における国連事務総長冒頭発言中、海運の脱炭素化に関する部分の発言の概要は以下のとおり。①IMOの加盟国は当面のCO₂削減策に取り組んでいるが、現在の対策は、地球の気温上昇を産業革命然と比べて1.5 ℃以内に抑制するというパリ協定の目的には合致せず、今世紀末までに3℃以上気温が上昇するシナリオに沿っている。②IMO加盟国は2050年までに船舶のCO₂排出量を半減するという現在の目標を見直して、パリ協定の目的に従い、2050年までに炭素中立を目指すべき。③2050年までの炭素中立を実現するためには、2030年には、新造船に当たっては、商業採算性が取れるゼロエミ船を選択するのが標準となるようにすべき。

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October 18, 2021, The Maritime Executive


3.欧州エネルギー危機:ポーランドがFit for 55パッケージの見直・停止を要求

10月21日から22日にかけて開催される予定のEU首脳会合では、最近のエネルギー価格の急上昇に対して、短期的な加盟国ごとの対策で対応するか、現在合意されているEUのエネルギー政策の見直しを検討する必要まであるかについて議論される見込みだが、ポーランドは、エネルギー価格の高騰に伴い消費者に過大な負担がかかれば、消費者がEUの気候変動目標自体を拒否する可能性があるとして、18日、欧州委員会に対して、2030年までに対1990年実績比でGHG排出量を55%削減するというFit for 55政策の変更または実施の延期を求めた。同国は同時に、排出権取引制度の適用範囲を交通と建物(の冷暖房)に拡大することについても、消費者の負担を増やすとして、見直すことを要求している。欧州委員会はオランダやフランスの支持を得て、Fit for 55において、航空機化石燃料のケロシンへの非課税措置の撤廃や他の化石燃料への増税を計画しているが、ポーランドは、エネルギー課税についても現状維持とすることを要求している。

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October 19, 2021, Reuters


4.英国:世界の有力投資家を集めて再生可能エネ等への投資を勧誘

10月19日、英国政府は合計で24兆ドルの資金を運用する200人を超えるトップクラスの金融・投資家を世界から集めて、英国への環境投資を促進するサミットを開催する。英国政府はすでに、スペインの多国籍電力企業のイベルドローラから洋上風力発電に60億ポンド(約9500億円)の投資を得たのを含め、炭素中立の倉庫・廃棄物の脱炭素化技術などの事業に、合計で97億ドル(約1.5兆円)の民間投資を確保したと発表している。今回の投資サミットは、英国がEUを離脱して以来最大のもので、環境技術開発に関する国際競争を勝ち抜くために、資金と提携者を募るもので、エリザベス女王が招待者をウィンザー城に招いてもてなすほどの力の入れようである。英首相とビルゲイツは、再生可能電力から生産されるグリーン水素・長期のエネルギー備蓄・持続可能な航空燃料などの技術開発のため、4億ポンド(約630億円)の共同事業を実施すると発表した。

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October 19, 2021, Reuters


5.大手荷主連合が2040年までに使用船舶をゼロ炭素燃料船に限定することを宣言

アマゾン・イケア・ミシュラン・ユニリバーなど世界的な大手荷主企業8社からなるゼロエミ船実現のための荷主連合(Cargo Owners for Zero Emission Vessels: COZEV)は、パリ協定の目標である地球の気温上昇を産業革命前と比較して1.5℃以内に抑制するため、2040年までにこれらの企業の貨物の海上輸送をゼロ炭素燃料船に限定することを目指すことを宣言した。この宣言により、海運企業やゼロ炭素舶用燃料製造事業者による投資が加速化されることを期待している。以上の目的を達成するため、同荷主連合は、運航面・技術面で船舶のエネルギー効率を最大化したうえで、ゼロ炭素燃料の大規模な導入について明確な計画を持つ海運会社と連携し、さらには、こうした連合の目的を理解し、目標の実現を支援することができる3PL事業者とも必要に応じ連携していく。

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October 18, 2021, COZEV


6.英国政府:炭素中立戦略を発表

英国政府は、10月19日、炭素中立戦略を発表したところ海運・航空分野の概要は以下のとおり。①英国首相の打ち出した「脱炭素化のための10大政策」の一環として、英国政府は、ゼロエミッション船の開発と港湾の脱炭素化技術開発の実証試験を促すために、本年3月にClean Maritime Demonstration Competition (CDMC)を公募し、55の事業が採用され、英国内外の208の企業が参加して、3350万ポンド(約53億円)が投資されて、2022年3月までに実証試験等が実施されることとなった。②このCDMC公募の成功を踏まえて、運輸省内に新設したUK Shipping Office for Reducing Emissionsが、この事業を複数年度の事業に拡大し、ゼロエミ船と海運脱炭素化に必要なインフラの技術開発・実証試験を促進する。③ゼロエミ航空輸送を世界的にリードし、経済的に競争力のある持続可能な航空燃料(SAF)の開発を進めるために、政府が1.8億ポンド(約280億円)支援して、SAFの製造施設を建設して、2030年までに航空機燃料の1割をSAFに転換することを目指す。

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October 19, 2021, 英国政府


7.EU排出権取引制度:ギリシャが欧州委員会に現実的な対応を求める

欧州委員会はこの夏に海運をEUの排出権取引制度の対象とし、2023年から適用を開始し、3年間の経過期間を経て、2026年から本格適用することを提案しているが、EUの船舶の58%を保有するギリシャの首相は、欧州委員会委員長に書簡を送り、海運をEU排出権取引制度の対象に含めるにあたって、現実的な対応を取るように申し入れたところその概要は以下のとおり。①海運会社が排出権を購入することによって得られる収入を加盟国に還元し、海運の脱炭素化のための技術開発などに使うべき。②現実的・建設的な解決策を得るため、欧州委員会は、直ちに同国並びに海運業界と協議すべき。③排出権取引制度は、競争条件の不均衡が発生しないように、厳格に適用されるべき。

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October 20, 2021, Reuters


8.COP 26:中・印を含む新興国が先進国を非難する共同大臣声明を発表

31日から開催されるCOP 26を前に、中国・インド・エジプト・インドネシア・パキスタン・サウジアラビア・ベトナムなど24の新興国の大臣が、(先進国も開発途上国も含めて)すべての国が今世紀半ばまでに炭素中立達成を目標としようとする先進国の方針に反対する声明を発表した。声明では、パリ協定の合意の内容を勝手に書き換え、2050年炭素中立という目標をすべての国に対して押し付けるのは、不公平で気候変動に対する公正さにも欠けるとしている。こうした先進国・途上国共通の目標を押し付ける代わりに、まず先進国が2030年までに完全な脱炭素化を達成することによって、途上国のエネルギー需要に応え、途上国に経済発展する時間的余裕を与えるべきであると主張している。パリ協定では、今世紀の後半に人間により排出されるGHGと(森林や海洋に)吸収されるGHGの量の均衡を取るとされているが、これは単なる精神的な目標で、すべての国が目指すべき目標ではないと主張している。

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October 20, 2021, Climate Home News


9.COP 26:環境関連法案をめぐる米国内の政治混乱が米国の指導力に影響

国際環境開発研究所(IIED)によれば、COP 26を10日後に控え、バイデン大統領のインフラ法案と財政調整法案の中の、電力事業者に再生可能エネルギー転換へのインセンティブを与えるClean Electricity Performance Plan(CEPP)をはじめとする環境関連政策が、化石燃料事業者寄りの共和党・民主党の上院議員によって、廃止・縮減されれば、COP 26における米国の実行力に対する信頼性を失い、米国主導の高い気候変動目標の合意にも悪影響を与える可能性がある。バイデン大統領の提案している法案には、民主党の上院議員が二人反対しており、その一人の西ヴァージニア州選出のManchin議員は石炭業界と深いつながりがあり、同州の発電事業者は、2040年まで3か所の石炭火力発電所の操業を継続するため、4億ドルの投資を計画している。現在全米の電力の60%以上は化石燃料によって発電されているが、大統領が目標として掲げた2035年までの発電部門の脱炭素化を達成するためには、CEPPが有力な政策手段となる。

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October 21, 2021, Climate Home News


10.UNEP:「環境から解決へ:海ごみとプラスチック汚染に関する世界的評価」

10月21日、国連環境計画(UNEP)は標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①河川・湖・海洋に流れ込むプラスチックごみの量は近年急増しており、その量は2030年までに倍増することが予測されており、人類の健康・世界経済・生物多様性・気候変動への大きな脅威となっている。②プラスチックのライフサイクルベースでみると、2015年においてはプラスチックに関連するGHG排出量は、CO₂換算で1.7ギガトンであったが、2050年までに6.5ギガトンとなり、世界的なCO₂許容排出量(global carbon budget)の15%に達する見込みで、プラスチック問題は地球温暖化問題としてもとらえることができる。③使い捨てプラスチックなどの既存のプラスチック製品の代替として、開発が進められているバイオプラスチックや生分解性プラスチックは、既存のプラスチックと同等の科学的悪影響を環境に及ぼす。

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October 21, 2021, UNEP


その他のニュース

1.海事環境
 (ア)代替燃料
  ①供給インフラの整備
   IAPH: IMO GHG ISWGで港湾インフラに投資することを要請 原文14/10
 (イ)船舶から排出されるGHGの削減
  ①金融機関による海運脱炭素化の試み
   海運業界・IMOに対して強まるESG金融の圧力 原文19/10
2.エネルギー転換
 (ア)今後の見通し
  ①EIA
   米EIA: International Energy Outlook 2021を発表 原文16/10
 (イ)化石燃料一般 
  ①化石燃料の予想生産量
   UNEP: 2030年の化石燃料生産量は1.5℃目標達成限度量の2倍超 原文20/10
 (ウ)世界同時エネルギー危機 
  ①EU
   EU首脳会議:エネルギー危機対策の詳細は閣僚級会合に持ち越し 原文21/10
3.海洋環境
 (ア)海洋プラスチックごみ
  ①海底に堆積したプラスチックの影響
   北極海においても進むマイクロプラスチックによる海洋汚染 原文21/10
 (イ)サンゴ礁
  ①The Earthshot Prize
   第1回Earthshot 賞:海洋部門はバハマのサンゴ養殖事業者に 原文17/10
4.港湾
 (ア)港湾混雑問題
  ①解決策
   G7貿易大臣会合:サプライチェーンの混乱解消の即効薬なし 原文22/10
5.生物多様性の保全
 (ア)実態調査
  ①環境DNA
   UNESCO:海洋世界遺産の海域で環境DNAの採集調査を開始 原文18/10
6.プラスチックごみ(一般)
 (ア)プラスチック製造に伴う環境への影響
  ①CO₂排出量
   プラ製造から廃棄までのCO₂排出量が環境に与える影響 原文22/10


Webinar情報

1.UN Conference Ocean Decade Kickoff Conference for the Western Pacific
November 25-26
https://www.ioc-westpac.org/decade-kickoff-conference/registration/