週刊国際海洋情報(2021年10月9日号)今週の10大ニュース

1.米エネルギー省:地域的な太陽光発電で500万戸の家庭に電力を供給

10月8日、米国エネルギー省は、2035年までに発電を完全に再生可能エネルギーにするという国家目標実現のための一方策として、共同体ごとの太陽光発電(Community Solar: CS)によって、2025年までに500万個の家庭に電力を供給することを目標にすると発表した。これまでは、太陽光パネルを設置できるような家を所有できる家庭しか、太陽光発電を利用できなかったが、共同体単位で太陽光発電施設を整備することによって、家持でないすべての家庭でも太陽光発電の恩恵を受けることが可能となる。この目標の達成により、10億ドルのコスト削減と、共同体ごとに新たな労働機会を提供できる。同省によれば、既に太陽光発電によって、1900万戸分の電力を供給できる発電量を確保しているが、地域的な偏りがあるので、共同体ごとに太陽光発電施設を整備すればこれを補完できる。

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October 8, 2021, The Hill

2.英国:2035年までに化石燃料による発電から脱却

英国の保守党の大会で、ジョンソン首相は、現在進行中の天然ガス価格の高騰といったエネルギー価格の変動の影響を緩和するためにも、英国が世界を主導する洋上風力発電や他の再生可能エネルギー、炭素回収貯蔵(CCS)を活用した水素の利用などによって、2035年までに化石燃料による発電から脱却すると言明した。発電に占める再生可能エネルギーのシェアは現在43%だが、天然ガス火力発電も依然として、全体の1/3弱の11.4GWを発電しており、発電量の約1/6を占める原子力も将来的に継続する見込み。英国政府が電力価格の上限を引き上げたにもかかわらず、天然ガス価格の高騰により、10社以上の電力事業者が既に倒産し、今後も破綻する電力事業者が出る見込みだが、この冬には暖房・電力料金の更なる高騰が消費者を圧迫する見込み。

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October 4, 2021, The Guardian


3.MSC104結果概要(海上自律運航船:MASS)

10月4日から8日まで開催された表記会合の結果(海上自律運航船(MASS)の部分)の概要は以下のとおり。①MSC議長は、文書提出国とMASS WGの前議長と事務局と協力し、他のIMOの委員会とも調整して、次回会合でさらに検討するための、作業の範囲・段階・時間を含む今後のロードマップの案を作成する。②上記作業計画には、特に2022年から2023年の間の2年計画を含み、次回MSC105(2022年4月20日から29日まで)においては、2025年までに作業を終了することを目標として、Development of a goal-based instrument for MASSを新たな議題(目標)とする。③この新目標の第1段階としては、今後の手順と時間的な道行について共通認識を得るためのロードマップの作成とすることに合意。④最終的には、MASS運航に関する法的拘束力のあるinstrumentsを準備することを目標とすることに合意。⑤ロードマップ作成のため、MSC105ではMASS WGを再設置することで合意。

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October 11, 2021, Safety4Sea


4.OECD:コンテナ運賃の高騰が世界の物価上昇に与えた影響を調査

OECDの最新のEconomic Outlook報告書によれば、G20諸国における消費者物価指数(CPI)は今年の年末までに4.5%上昇する見込みで、上昇幅の1/3に当たる1.5%はコンテナ運賃と商品相場の上昇に起因するとしている。OECDが発表する海運指数は2020年2月を100として、現在は482に上昇している。OECDはコンテナ船腹量の顕著な増加は、2023年 まで待つ必要があり、現在の運賃の高水準はしばらく続くと分析している。一方で、HIS Markitの専門家の分析によれば、米国については、商品価格に占める海上輸送コストは3%から6%にすぎないので、コンテナ運賃価格の高騰は、実際には消費者物価を0.1%から0.2%上昇させたに過ぎないと分析している。

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October 13, 2021, Splash 247


5.露大統領:2060年までに炭素中立実現を表明

ロシアは世界で4番目のGHG排出国であり、露大統領は、過去何年も、人類が地球を温暖化していることに懐疑的で、既存のエネルギー計画では、2050年までGHGの排出量は増え続け、今世紀末まで、炭素中立は実現できないこととなっていた。しかし、6月には、同大統領は方針を転換して、政府に対し、2050年までに同国が排出するGHGの量をEUの排出量以下に抑制するための計画を作成するよう命じ、10月13日、同大統領はロシアエネルギー週間のフォーラムで、将来的に石油・ガスの果たす役割は減少し、同国は遅くとも2060年までに炭素中立を達成すると表明した。科学者によれば、同国のシベリアと北極圏は、世界の中でも気候変動の影響を最も受ける地域であるとされている。

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October 14, 2021, The Moscow Times (AFP)


6.IRENA:「2050年までに海運を脱炭素化する道筋」報告書を発表

すべての海運活動から排出されるCO₂の量は、世界で6番目から7番目に排出量の多い国と同程度の規模であるが、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、世界の気温上昇を1.5℃以内に抑制するというパリ協定の目的に従い、外航海運の燃料の最低7割を、再生可能電力から作られたグリーン水素から製造された代替燃料や進歩したバイオ燃料等の再生可能燃料に置き換えることによって、外航海運から排出されるCO₂を最大で80%削減するためのロードナップを示した報告書を10月13日発表した。具体的な方策としては、①グリーン水素を利用した動力の間接的な電化②進歩したバイオ燃料の利用③船舶のエネルギー効率の向上④世界の貿易システムの制度的な変更による海上輸送量の減少を4本柱としている。さらに短期的には、進歩したバイオ燃料がCO₂削減の主体となって、2050年までには、船舶燃料の最大10%を占め、中期的には、グリーン水素を原料としたEアンモニア・Eメタノールが燃料の主役となり、2050年までに合計で船舶燃料の6割を占め、なかでもEアンモニアは最大で43%のシェア、量にして、現在の世界のアンモニア総生産量に匹敵する1.83億トンに達すると予測している。

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October 13, 2021, IRENA


7.国連持続可能な交通会合が北京で開催

COP 26を数週間後に控え、10月14日から3日間、北京で国連「持続可能な交通会合」が開催され、交通部門が地球温暖化問題・経済成長・持続可能な開発にどのように対応していくかについて討議される。この会合の開会挨拶で、国連事務総長は、「2030年までに世界は再生可能エネルギーに大きく転換しなくてはいけないが、中でも持続可能な交通の実現が重要となる。交通分野から排出されるGHGは、世界のGHG総排出量の1/4を占め、2050年までに地球規模で炭素中立を達成するためには、すべての交通分野を脱炭素化する必要がある。」と表明する予定。世界銀行によれば、持続可能な交通への転換によって、2050年までに70兆ドルのコスト削減が可能で、例としては、道路輸送の整備によって、アフリカでは食料の自給自足が可能となり、2030年までに1兆ドル規模の地域的な食糧市場を作ることが可能となると指摘している。

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October 14, 2021, UN


8.White House:Roadmap to Build a Climate-Resilient Economyを発表

米国White Houseは「気候変動に対する抵抗力のある経済を作るためのロードマップ」を10月15日発表した。この報告書の中で、米国政府は、気候変動に関連するリスクを異常気象による物理的なリスクと化石燃料に依存した経済から脱却するための「転換リスク」の二つに分け、金融システムと米国民の家計を、気候変動リスクから守るための広範な検討中および将来の施策について概説している。White Houseは、連邦金融制度規制機関や予算関係者に対し、気候変動によってもたらされる危険と当該危険に対する社会的な対応を評価する枠組みを策定するように求めている。さらに連邦政府機関は、各機関の活動や各機関が国民に提供しているサービスが、気候変動によってどのような影響を受けるかについても検討することを求められている。現在証券取引委員会が検討中の気候変動に関する情報公開に関する新たな規制や、金融安定監視委員会がまもなく発表する予定の金融システムに対する気候変動リスクに関する報告書などの既に実施・発表されている施策を中心に、報告書では取り上げられている。

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October 15, 2021, The Hill


9.世界エネルギー危機:中国・EUの対応

石炭の供給量の不足と天然ガス価格の高騰によってもたらされている世界的なエネルギー危機は、アジアや欧州諸国の政府にとって最重要課題となっているが、停電や停電による工場の生産能力の低下をもたらしている。冬季が近づく中で、電力・エネルギー料金の高騰を抑制するために、EUは今週の首脳会会合で、加盟国諸国に上限価格制度や政府補助の導入を緊急措置として認めることを検討する。世界の工場である中国も、エネルギー危機の影響を最も受けており、最近の数年間は米中貿易紛争のあおりを受けて、米中間のLNG貿易量は現状維持水準にとどまっていたが、中国石油化工や中国海洋石油集団は、米国のLNG輸出事業者とLNGの長期購入契約について交渉に入っている。こうしたエネルギー危機の中で、中国をはじめいくつかの国は、石炭依存にかじを切っており、中国は石炭の増産体制に入っているが、石炭の先物価格は高騰を続け、今年に入ってから3倍に値上がりしている。

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October 15, 2021, Reuters


10.G7金融大臣会合:途上国支援・炭素課税について検討

10月13日、ワシントンで開催されたG7金融大臣・中央銀行総裁会合の環境部分の概要は以下のとおり。①COP 26を数週間後に控え、議長国の英国はIMFが提案しているResilience and Sustainable Trustに資金を拠出することを表明し、他国にも拠出を求めた。この信託は、IMFの特別引出権(SDR)準備金を活用して、低所得国や脆弱な中所得国が健康や気候変動問題に取り組み、環境に配慮した持続可能な経済成長ができるよう支援することを目的とする。②CO₂削減のための炭素課税について、各国の制度の整合性をどのように取り、各国がパリ協定に従って、気候変動問題に取り組む中で、carbon leakageが発生しないように、国際的に取り組むことについて、共同で検討を開始する。

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October 14, 2021, Edie


その他のニュース

1.エネルギー転換
 (ア)エネルギー価格の高騰
  ①EU
   米が露に対し欧州エネルギー危機の解決に協力するよう要請 原文15/10
2.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①米国
   米国政府: 7か所の大規模洋上風力発電施設の整備を計画 原文14/10
 (イ)太陽光発電
  ①屋上設置型太陽光パネル
   各建物の屋根に設置する太陽光パネルの可能性 原文12/10
3.パンデミック関連
 (ア)ワクチン等に関する知的財産権の免除
  ①国際運輸労連
   国際運輸労連:各国首脳にコロナワクチン知財権の免除を求める 原文14/10
4.安全保障
 (ア)南シナ海
  ①マレーシア
   マレーシア:南シナ海問題で真っ向から中国に臨む 原文05/10
5.海洋環境
 (ア)サンゴ礁
  ①世界全体の状況
   第6次世界のサンゴ礁の状況報告書:2020年 原文05/10
6.生物多様性の保全
 (ア)COP15
  ①途上国に対する支援
   中国:途上国の生物多様性を保護するため15億元の基金を設立 原文12/10
  ②準備会合
   生物多様性COP 15昆明準備会合:昆明宣言を採択 原文13/10
7.船員
 (ア)船員の権利の保護
  ①行動規範
   船員の権利と福祉を守るための行動規範が策定 原文12/10
8.港湾
 (ア)環境政策
  ①水素生産・供給施設の整備
   世界港湾水素連合が初会合を開催 原文14/10


Webinar情報

1.UN Conference Ocean Decade Kickoff Conference for the Western Pacific
November 25-26
https://www.ioc-westpac.org/decade-kickoff-conference/registration/