国際海洋情報(2021年9月30日号)

1.太平洋島嶼国とアジア諸国がIMOに2050年海運炭素中立を提案

マーシャル諸島・キリバツ・ソロモン諸島はIMOのMEPC 77に、2050年までに海運の脱炭素化を図ることを求める提案を提出したが、世界の気候変動の影響を受けやすい約50の諸国によって結成されているClimate Vulnerable Forum (CVF)は、アジア諸国の11か国が参加して、第4回のアジア地区会合を開催し、CVMとしてもアジア島嶼国の提案を支持して、2050年までの海運炭素中立化を目指し、IMOで審議される強制力のあるGHG排出課税についても支持することを決議した。

原文
October 2, 2021, Hellenic Shipping News

2.CSIS報告書:Russia’s Climate Gamble

戦略国際問題研究所(CSIS)が、ロシアの北極戦略に気候変動が及ぼすリスクを分析した標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①ロシアは経済的にも軍事的にも北極圏の開発を進めているが、気候変動がもたらすロシア北極圏の軍事施設に対する物理的な影響、世界的なエネルギー転換や脱炭素化の動きがロシア北極圏の資源開発に与える影響を本報告書では検討する。②ロシア政府は気候の温暖化はロシアの北極政策にとって好ましいものととらえており、ヤマルLNG事業の成功に続いて、北極海北航路の迅速な開発やヴォストク石油開発事業など新たな巨大事業に乗り出そうとしている。③ロシアはこうした新たな経済権益を守るために、新たな基地の建設を含む北極圏における軍事力の強化を図っており、軍事演習やミサイルの発射テストを増加させている。④しかし、北極海の温暖化は世界平均の3倍で進む一方、世界的な、特に欧州諸国の脱炭素化の動きが、ロシアの北極圏における資源開発・軍事戦略の将来的な成功に大きな影を投げかけている。

原文

September 24, 2021, CSIS


3.McKinsey:2050年までに主要産業のメタン排出を46%削減することが可能

9月23日、マッキンゼーが「メタン排出量の削減:いかにして(主要排出)5分野が気候変動危機に対処できるか」とする報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①世間ではCO₂の削減が着目されているが、メタンはCO₂に次ぐGHGで、産業革命以来発生した地球温暖化の3割に寄与している。②過去20年間、メタンの排出量は約25%増加したが、パリ協定の目的を達成するためには、今後メタンの排出量を年率2%削減する必要がある。③マッキンゼーの今回の調査では、既存の技術を前提に妥当なコストで、メタンの排出源となっている主要5分野から排出されるメタンの量を、気温上昇を1.5℃以内に抑制することが可能となる2030年までに20%、2050年までに46%削減することが可能であることが判明した。③主要5分野とは、農業、石油・ガス業界、石炭採掘、固形廃棄物処理、排水処理の5分野で、合計で全体の98%の排出量を占めているが、各分野において、経済的に実施可能な削減方策がある。

原文

September 23, 2021, McKinsey


4.研究報告:クルーズ観光による 環境と人間の健康への影響

Marine Pollution Bulletin 173巻に今週発表された標記報告書の概要は以下のとおり。①クルーズ船による環境汚染に対する規制は十分でなく、クルーズ船が寄港する港湾やサンゴ礁などの海洋生態系に悪影響を与えるとともに、クルーズ船が使用する化石燃料は航空機と比べても輸送単位当たりの炭素排出量が高い。②環境汚染の一例が、銅などの重金属が含まれる船底防汚材で、船底に付着する生物をすべて殺す能力があり、海水によって分解されず、海底に蓄積されていくので、海洋生態系に与える影響が大きい。③本研究は、既存の200以上の研究を再検討したものだが、こうした科学的な検討によって、クルーズ観光を利用する観光客の意識が高まって、環境に負荷の低い船舶燃料の使用や、環境負荷の少ない船底防汚材の使用などによる環境に配慮したクルーズ観光の実施を事業者に求めてほしい。

原文

October 2, 2021, Inside Climate News