週刊国際海洋情報(2021年9月26日号)今週の10大ニュース

1.欧州港湾協会:Green Guide 2021を発表

欧州港湾協会(ESPO)は、5月28日に開催したESPO Conference Regatta 2021の際に、Green Guide 2021の骨子を既に発表しているが、9月17日、「Greenな未来に向けた欧州の港湾のためのマニュアル」と題した完成版を公表した。本ガイダンスは欧州の港湾をグリーンにするための手法と明確なガイダンスを提供するほか、気候変動によって、欧州の港湾が現在直面している課題について、迅速に対応する方法も示されている。本ガイダンには、EUレベルで引き上げられる気候・環境対策に関する基準に対応して、各港湾が段階的に個々の目標を引き上げていくために、各港湾の行動計画のテンプレートや、港湾の環境を改善するための方策のチェックリストなどが含まれている。今回はGreen Guideと併せて、70を超す港湾の環境問題に関する先進事例を取りまとめたデジタルデータベースが創設されており、データベースは今後継続的に更新される。

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September 17, 2021, ESPO

2.UN Global Compact:Ocean Stewardship Coalitionを立ち上げ

9月20日、UN Global Compact:は、生物多様性と気候変動といった二つの危機に対処するためにOcean Stewardship Coalitionを立ち上げ、Blueprint for a Climate-Smart Ocean to Meet 1.5℃を発表し、以下の行動を呼びかけた。①海洋に関する気候変動緩和策や適応策を国家GHG削減行動計画(NDCs)や国家適応計画(NAPs)に位置付ける。②藻場やマングローブといった天然資源が、生物多様性の保全や気候変動の緩和に果たす役割をCOP 26の場を活用して政治的に認識させる。③海洋空間計画の中に緩和策と適応策をきちんと位置付け、適切に設計された海洋保護区の理想的な活用を図る。④気候変動対策と生物多様性の保全を両立させるような生態系を修復・包括する海洋管理を民間部門が実施するよう奨励する。⑤海洋関係の企業は、当該企業のバリューチェーン全体として1.5℃目標を達成するような科学的根拠に基づいた目標(SBTs)を設定し、野心的な気候変動緩和対策を実施する。

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September 20, 2021, UN Global Compact


3.ロンドン国際海運週間晩餐会における英国運輸大臣スピーチ

標記スピーチ中、海運の2050年までの炭素中立に関する部分の概要は以下のとおり。①7月に英国政府は「交通脱炭素化計画」を発表して、green shippingへの転換の速度を速めることを表明した。②船舶の償却年数は長いので、長期間にわたって誤った投資をするのを回避するために、海運業界と協力して正しい投資選択をする必要がある。③このため、運輸省の中に、海運の脱炭素化を進めるための新たな組織であるUK SHOREを新設した。④運輸省としては、まず内航海運の船舶について、ゼロエミッションでない船舶の販売を禁止することについて協議を開始する。⑤海運は航空や自動車のように脱炭素化については注目されてこなかったが、海運から排出されるGHGは鉄道とバスから排出されるGHGより多いので、2050年までに外航海運の炭素中立を目標とすることを英国政府として発表した。⑥野心的な目標だが、達成可能な目標である。

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September 20, 2021, 英国政府


4.中国:海外における新規石炭火力発電所の建設停止を約束

中国はインドネシアやベトナムなどの途上国で、一帯一路構想の下、石炭火力発電所をはじめとして多くのインフラ建設事業にかかわってきたが、他の諸国がパリ協定の目標を達成しようと努力を続ける中、米国やCOP 26の議長国である英国から、海外における石炭火力発電所建設支援を中止するよう強い要請を受け、2021年上半期には、海外の石炭火力発電事業に対する資金支援を停止している。9月22日、習近平国家主席は、国連総会の演説で、「中国は、今後、途上国における低炭素エネルギー開発を支援し、中国国外で石炭火力発電所の建設は行わない。」と表明した。この約束は何時から適用されるのか、既に計画が承認済みの事業についても建設が中止されるのか、建設のみでなく、金融支援も停止するかなど、今後細部の詰めが必要だが、今回の表明の内容は各国が期待していたものであり、米国の気候問題担当のケリー大統領特使や、COP 26のシャルマ議長も、今回の中国の約束を評価している。

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September 22, 2021, BBC


5.Getting to Zero Coalition:2050年までの海運脱炭素化を政府に要求

世界海事フォーラムや世界経済フォーラムが主導して、150社以上の海事・エネルギー・インフラ・金融企業などによって構成されるGetting to Zero Coalitionが2050年海運脱炭素化のための宣言(Call to Action for Shipping Decarbonization)を発表し、2030年までに、新たな船舶についてはゼロエミッションが標準となるよう以下の事項について政府に要求している。①2050年までに外航海運を脱炭素化することを約束すること。②業界が実施するゼロエミ海運実現のための施策を支援すること。③2030年までにゼロエミッション海運が標準化するのに必要な政策的な環境を整備すること。(なお、この宣言には、わが国から邦船3社・Class NK・三井物産が署名している。)

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September 21, 2021, 世界海事フォーラム


6.EMSAのドローンを利用してジブラルタル海峡でSOx規制取り締まり

スペイン海運局は、欧州海事安全庁(EMSA)の遠隔操縦ヘリ(CAMCOPTER)を利用して、7月中旬から10月末まで、ジブラルタル海峡上空で、船舶から排出されるSOxについて取り締まりを実施中。これまでCAMCOPTERは北欧のSOx排出特別規制海域で、SOx排出規制監視に用いられてきたが、特別規制海域以外で取り締まりに使用されるのは今回が初めて。CAMCOPTERは25㎡以下の限られたスペースで離着陸が可能で、6時間以上かつ100km以上の航続距離を持ち、ガスセンサーと光学・赤外線カメラを搭載している。スペイン海運局は、1日当たり10隻程度の船舶から排出されている排ガスの検査をCAMCOPTERで実施しているが、これまで検査した294隻のうち、27隻から排出規制違反の恐れがある排気が観測された。観測された情報は自動的に暗号化されて、EMSA THETIS-EUに送信され、違反事例について警告する。CAMCOPTERの観測情報だけでは摘発されないが、PSC検査官がこの情報を活用して当該船舶を重点的に臨検し、必要に応じてサンプルを採集して検査の上、訴追されることとなる。

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September 20, 2021, EMSA


7.英国首相国連総会演説のポイント

英国首相は9月22日、国連総会で演説し、各国首脳に対し、気候変動対策について気温上昇を1.5℃以内に抑制する目標を維持するため、石炭・自動車・資金・森林の4点が重要な課題としたうえで、具体的には以下の点について各国の協力を求めた。①2040年までに、ゼロエミッションでない車の販売を禁止する。②対1990年実績比で、2030年までにCO₂排出量を68%削減する。③今世紀半ばまでに、炭素中立を達成することをすべての国が一緒に宣言する。④石炭火力発電所の利用を先進国では2030年までに、途上国では2040年までに停止する。⑤森林と生物多様性の減少を2030年までに停止して、回復に転じる。同首相は、石炭の使用の停止について、同国では石炭がエネルギー使用に占めるシェアが5年前は25%だったのが、石炭利用の削減に努めた結果、現在では2%にまで大幅に削減した自国の経験を上げ、世界のCO₂排出量の28%を占める中国が海外における石炭火力発電への支援を停止すると約束したことを評価しつつ、さらに中国国内における石炭火力発電の停止に取り組むよう求めた。

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September 23, 2021, BBC


8.英国OGA:洋上構造物脱炭素化のための研究提案の募集を開始

英国政府は現在、North Sea Transition Dealとして、2021年末まで洋上構造物の電化を支援しているが、その後継事業として、9月23日、英国石油ガス庁(Oil and Gas Authority: OGA)は、現在天然ガスまたはディーゼルによって電力を供給されている英国の大陸棚上の洋上構造物の脱炭素化を進めるため、技術的・工学的・商業的な研究開発提案の募集を開始した。採択された提案については、総額100万ポンド(約1.5億円)の研究支援資金が分配され、2022年3月末までに研究成果を取りまとめることが求められる。洋上石油ガス掘削リグから排出されるCO₂の2/3は、天然ガスまたはディーゼル油による発電によって発生するものであり、仮に電力を陸上や周辺の洋上風力発電施設から調達できれば、リバプール市の全家庭から年間排出されるCO₂の量に相当する2-3MptaのCO₂排出を削減することが可能で、4GW分の新たな洋上風力発電施設の建設にもつながる。

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September 23, 2021, Oil & Gas Authority


9.EU:COP 26共通交渉ポジションの合意が難航

現在、EUはCOP 26を控えて、EUとしての共通交渉方針の作成作業中だが、共通方針の策定のためには、全27加盟国の同意が必要であり、いくつかの論点について全加盟国の合意を得ることができない懸念がある。その論点の一つが、EU全加盟国が5年ごとにNDCsを見直すことを義務付けるか、5年ではなく10年ごとに見直すことも認めるかという問題で、デンマーク・オランダ・スペインなどの過半数の加盟国は5年ごとの見直しによって、他の諸国により野心的な目標に見直すプレッシャーをかけることができるとしている一方で、ポーランド・ブルガリア・ルーマニアなどの東欧諸国は、見直し期間について5年か10年を各国が選択できるようにすべきとして反対している。EUは5年間の見直しを提案しており、各加盟国は、24日に議論を行う予定。

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September 23, 2021, Reuters


10.国連主導で石炭火力発電所の新設停止合意に7か国が署名

石炭火力発電所から排出されるCO₂の総量は、世界全体のCO₂排出量の約1/3を占めており、国連事務総長は、各国が本年中に石炭火力発電所の新規建設の停止に合意することを希望し、COP 26のシャルマ議長もCOP 26で同様の合意をすることを望んでいるが、チリ・デンマーク・フランス・ドイツ・モンテネグロ・スリランカ・英国の7か国は、石炭火力発電所の新設を停止する(No New Coal)合意に署名し、国連はCOP 26までに署名国数を拡大することを目指すとしている。2017年には、Powering Past Coal Alliancesが結成され、石炭火力発電所の新設の停止ばかりでなく、既存の石炭火力発電所を2030年までに停止することに41か国が既に合意している。COP 26を前に、同様の自主的な連合結成の動きがあり、先週には、米国とEUが主導して、2030年までにメタンガスの排出を30%削減するGlobal Methane Pledgeが締結され、8月には、デンマークとコスタリカが主導して、2050年までに石油ガスの生産を停止するBeyond Oil and Gas Allianceが結成されている。 

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September 24, 2021, Bloomberg


その他のニュース

1.気候変動緩和対策
 (ア)COP 26
  ①途上国に対する財政支援
   英首相:国連で各国首脳に気候変動に関する途上国支援を要請へ 原文20/09
2.大気汚染
 (ア)大気汚染基準
  ①WHOガイドライン
   新たな大気汚染防止ガイドラインを発表 原文22/09