週刊国際海洋情報(2021年9月19日号)今週の10大ニュース

1.米・中・EUの海運競争政策担当部局が意見交換

2年に1回開催される「世界規制当局サミット」の第5回会合が欧州委員会の主催で、9月7日、欧州委員会の他に米国から連邦海事委員会、中国から交通運輸部が参加して開催された。会合では、①コンテナ海運に関するサービスの需給バランス・海上物流のボトルネック・サービスが混乱している原因などのパンデミック発生以来のコンテナ海運サービスの状況。②そうした状況に対応して各国の当局がとった対応。③コンテナ海運の持続可能性・円滑な運営を促進するため、今後取ることのできる施策。について協議された。歴史的な海上貨物輸送需要の高まりと、異常な運賃高騰について、規制当局・議会・国民の関心が世界的に高まっている。クリスマスを前に季節的な輸送需要のピークシーズンに既に入っており、コンテナの不足や港湾の混雑がさらに悪化することが懸念されている。

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September 13, 2021, American Shipper

2.英国政府:IMOで2050年までの海運脱炭素化を主張へ

今週からロンドンでは国際海運週間が開幕するが、開幕に合わせて、英国の運輸大臣は、同国として、2050年までに外航海運を完全に脱炭素化することを支持すると表明した。同大臣は、さらに2025年までに炭素を排出しない船舶が商業運航を始め、2030年代には、英仏海峡のフェリーの脱炭素化を目指すことも表明する予定。英国政府は既に7月14日に、「交通脱炭素化計画」を発表しており、英国運輸省内に、海運からの炭素排出削減を専門に担当するUK Shipping Office for Reducing Emissions (UK SHORE)を設立する予定。英国の海運を含む各種海事関係業界の団体であるMaritime UKの議長も、英国政府が海運脱炭素化を主導するのを歓迎している。

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September 13, 2021, 英国政府


3.英国船主協会も2050年海運炭素中立化をIMOに要求

英国船主協会は、英国政府の決定に従い、IMOに対して、2050年までの海運のCO₂削減目標を50%から100%に引き上げることを要求する。英国船主協会のChief Executiveは「英国船主協会は海運環境問題の先頭に立って大胆な行動をとるときが来た。2050年までに海運から排出されるCO₂を半減するだけでは足りず、IMOとして炭素中立に合意することが不可欠である。」と語り、同協会の会長は「気候変動は人類にとって最大の脅威であり、海運業界の全員が排出削減のためできることはすべてやるべきで、IMOに2050年までの炭素中立目標を掲げることを求め、海運業界が真剣に責任を果たすことを示すべきである。」と語った。英国政府が最近発表した第6次排出枠の割り当て(Carbon Budget)の対象に初めて海運が含まれることとなり、「交通脱炭素化計画」のなかでも、2050年までに海運も炭素中立化することが求められている。

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September 12, 2021,英国船主協会


4.Global Methane Pledge:2030年までにメタンの排出量を30%削減

メタンはCO₂に次ぐGHGで、エネルギー・農業・廃棄物処理産業から多く排出されているが、米国とEUは、パリ協定の1.5℃気温上昇抑制目標を実現するため、2030年までにメタンの排出量を2020年実績比で30%削減することに合意し、COP 26を目前に控えて、他の主要経済国にもGlobal Methane Pledgeに加わることを17日にも正式に共同で要請する。メタンはCO₂に比べて強力なGHGだが、大気中に存在できる期間が短いので、メタンの排出量の抑制は、地球温暖化対策として即効性が期待できると8月に公表されたIPCCの報告書でも指摘されている。17日には、中国・ロシア・インド・ブラジル・サウジアラビア・ノルウェー・カタール・英国・NZ・南アなどを含む主要GHG排出国が会議を開催するが、この場で、米国とEUが共同で提案する見込み。エネルギー分野でメタン排出の主原因となっているパイプラインや貯蔵施設からの漏出は低コストで修繕することが可能と専門家は指摘している。

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September 14, 2021, Reuters


5.ICS:船員・船主向け新たなコロナ対策ガイドラインを発表

船員に対するコロナワクチンの接種は進展を見せているものの、依然としてわずか25%の船員しかワクチンを接種しておらず、ほとんどの船員は2022年までワクチン接種を待たなくてはいけない状況にある。また、船員の移動制限によって、船員の交代が自由にできない状況も継続し、18か月以上継続勤務している船員もおり、世界の海運活動を危機的な状況にしている。このようなパンデミックに伴う困難から船員や船主を守るため、国際海運会議所は、ロンドン国際海運週間の初日に当たり、国際海事保険協会(IMHA)・INTERTANKO・国際運輸労連・欧州船主協会・Intercargo・国際港湾協会などの関係機関と連携して、コロナ対策ガイドラインを新たに改訂して発表した。ガイドラインは、ワクチン接種に関するもの、船員の上陸に関するもの、船員手配仲介業に関するもの、船員のメンタルヘルスに関するものなどに分かれている。

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September 13, 2021, ICS


6.EC副委員長:電力価格の高騰の時こそエネルギー転換を進めるべき

欧州における電力の卸売価格は今年に入ってから約2倍と記録的に高騰しているが、これは石炭・天然ガス・CO₂価格の高騰と、再生可能発電の発電量が少なかったことが原因となっている。気候問題担当の欧州委員会のティマーマンス副委員長は、欧州議会で、「もしわれわれが5年早くエネルギー転換を始めていたら、化石燃料への依存度が下がっており、再生可能エネルギーの発電価格は安定しているため、電力価格がこのように高騰することはなかった。」として、エネルギー転換の速度を加速すべきであると述べた。CO₂排出権の価格も今年に入ってから高騰しているが、電力価格高騰には1/5程度しか寄与していないとも語った。独立系の気候・エネルギー問題のシンクタンクの分析でも、今回の電力料金高騰の主たる原因は、天然ガス価格の高騰のためと分析している。

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September 15, 2021, Euractiv


7.UNFCCC:NDC統合報告書を発表

9月17日、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は、COP 26開催を前に、加盟国から提出された改訂後のNDCs(各国が自主的に決めたCO₂排出削減目標)を取りまとめた統合報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①7月30日現在で、パリ協定加盟国191か国のうち、全体の59%にあたる113か国からNDCsの提出があり、そのうち86か国がNDCsを見直し、または新しいものとした。②113か国のうち、70か国は今世紀半ばまでに炭素中立とすることを目標に掲げ、2030年までに2010年実績比で約26%のCO₂排出削減に取り組むこととなる。③ただし、多くの途上国は、先進国から必要な資金を含む支援を受けることを条件に、NDCsに取り組むことを表明している。④今回取りまとめられたNDCsが全て実施されれば、2030年までに世界全体のCO₂排出量をピークアウトすることができる。⑤多くのNDCsの中で取り上げられている気候変動適応策の実施については、先進国からの支援が特に重要となる。

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September 17, 2021, UNFCCC


8.米大統領:世界の首脳にメタンの排出削減を要請

バイデン大統領は、4月に主催した気候変動サミットのフォローアップとして「主要経済大国フォーラム(Major Economies Forum)」を9月17日オンラインで開催し、2030年までにメタンガスの排出を対2020年実績比で30%削減するという米国とEUとの間で合意されたGlobal Methane Pledgeに多くの国が参加するように要請した。英国のジョンソン首相が直ちに参加を表明したのに加え、アルゼンチン・インドネシア・イタリア・メキシコが参加を表明し、ガーナとイラクも参加を前向きに検討すると表明した。世界でメタン排出の多い、トップ15か国のうち、既に6か国が参加を表明したこととなる。国連によれば、メタンは地球の気温上昇の約3割の原因となっており、CO₂より強力なGHGであるメタンの排出量の削減が、地球気温の上昇のペースを減速させる最も有効な方策であると国連の気候変動対策専門家は指摘している。

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September 17, 2021, Reuters


9.国連:気候変動に関するUnited in Science 2021報告書を発表

国際気象機関(WMO)・Global Carbon Budget・IPCCなど気候変動問題にかかわる国連の諸機関が共同で標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①大気中のCO₂・メタン・酸化窒素の濃度は継続して上昇しており、WMOの観測によれば、北半球におけるCO₂濃度は、大部分の観測地点において、2020年には410ppm以上、2021年前半には415ppm以上となっている。②2019年における世界全体におけるGHG排出量は史上最高の43Gtとなり、パリ協定の交渉が始まった1990年代初期と比べると、56%増加している。③2017-2021年の世界平均気温は、2021年初頭のラニーニャ現象の影響で、2016-2020年の平均気温と比べて少し下がった。2016-2020年の間の北極海の最小海氷面積の平均は、1981-2010年の平均と比較して28%狭くなった。

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September 16, 2021, WMO


10.米連邦海事委員会:不平申し立て手続きに関するガイダンスを近日中に発表

米国連邦海事委員会(FMC)は、9月15日Dyeコミッショナーによるコンテナの超過保管料金と返却延滞料金請求に関する二つの提案について投票の結果承認した。第一の提案は、両料金の不当な請求に関し、荷主や貨物自動車運送事業者など、誰がFMCに対して異議申し立てを行えるか。船主側から異議申立人に対する報復行為を制限するために、異議申立が棄却された際に、どのような場合に船社が負担した法律費用を異議申立人に請求できるかに関するガイドラインを発表する。第二の提案は、規則変更に関する事前告知(Advanced Notice of Proposed Rulemaking: ANPRM)を近日中に発表して、①両料金の請求に当たり一定の情報の提供を、FMCが船社と海事ターミナルオペレーター(Maritime Terminal Operators: MTOs)に義務付けるべきか。②両料金の請求をどのような条件で行うかについて、船社とMTOsが条件を順守するようFMCが要請すべきか。について意見を公募する。

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September 15, 2021, FMC


その他のニュース

1.気候変動緩和対策
 (ア)CO₂削減目標と実績
  ①NDCsの見直し状況
   各国のNDCsの見直しが停滞 原文15/09
   先進国の真剣な取組がない限り今世紀末までに気温が2.7℃上昇 原文17/09
2.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①米国
   洋上風力発電施設建設の専用港湾がニュージャージーに建設 原文10/09
  ②英国
   洋上風力発電建設のために約340億円を追加補助 原文13/09
 (イ)太陽光発電
  ①米国
   米エネルギー省:太陽光発電拡大戦略を発表 原文08/09
3.気候変動
 (ア)移民・難民問題
  ①今後の見通しと対策
   世銀:気候変動によって生じる移民問題に関する報告書を発表 原文13/09
4.港湾
 (ア)港湾ターミナル事業者
  ①港湾ターミナル利用率
   コンテナターミナルの処理能力が輸送量の拡大に追い付かず 原文17/09
5.航空のCO₂排出削減対策
 (ア)持続可能航空燃料
  ①米国
   DOE: 航空・海運用のバイオ燃料の開発に6500万ドルを支援 原文09/09
6.船舶の安全性
 (ア)燃料電池搭載船
  ①消防設備等に関するガイドライン
   IMO CCC 7: 燃料電池動力船に関する暫定ガイドライン案を採択 原文16/09
7.海運政策
 (ア)白書
  ①英国
   海事報告書(2019-2020年度)を公表 原文14/09