週刊国際海洋情報(2021年9月12日号)今週の10大ニュース

1.EU:排出権取引価格が史上最高の60ユーロを超える

8月30日、EUの排出権取引価格は、史上最高の60ユーロ(約7800円)を超え、この結果、電力価格も9月1日、140ユーロ(約18000円)/MWhに上昇した。ポーランドとスペインは直ちに排出権取引価格の上昇が急激すぎると表明したが、この価格上昇については、7月に欧州委員会が提案した排出権取引制度の見直しの議論の際に、EU加盟国間で議論される見込み。欧州委員会の排出権取引市場担当局長は、この高値は、天然ガス価格の高騰などによる一時的な要因によるもので、長続きはしないと強調している。取引価格の急騰に対応して、取引価格の上限制度を導入すべきという議論もあるが、取引市場に介入することは、脱炭素化のペースを落とすだけのことであり、取引価格の高騰によって各国政府の収入も増えるので、増えた収入を財源として、排出権取引価格の急騰によって影響を受ける者に対して、各国政府が自らの判断で必要に応じ補償をする方が良いとの反論もある。

原文
September 3, 2021, Euractiv

2.Fit for 55パッケージについて欧州議会運輸委員会で討議

欧州委員会運輸省(DG MOVE)の次長は欧州議会運輸委員会(TRAN)で7月に欧州委員会が提案したFit for 55(2030年までにGHGの排出を55%削減するという目標)を説明し、討議が行われた。Fit for 55の最終的な法制化作業には、TRANも含めいくつかの関係する委員会も参加する見込み。なお、以下のリンクの中に、Fit for 55が、陸上・航空・海上輸送に与える影響を簡単にまとめたfactsheetが含まれているので参照されてください。

原文

September 2, 2021, 欧州議会


3.ICS:炭素排出税を提案

国際海運会議所(ICS)は、ゼロ炭素燃料の開発・導入促進のための世界的に受け入れ可能な市場原理措置(MBM)の導入に関する提案を、9月3日IMOに提出した。具体的には、5000GT以上の外航船舶を対象に、排出するCO₂の量に応じて課税する。徴収した税は、IMO環境基金の収入となり、ゼロ炭素燃料と既存のVLSFOの間の価格差を是正し、水素・アンモニアなどの供給インフラを世界の港湾に整備するために使用される。IMO加盟国の負担を最小化し、炭素排出税の迅速な導入を図るためにも、11月に開催されるIMOのMEPCで承認される予定の50億ドル規模の研究開発基金を、炭素排出税の受け入れ基金として利用する。欧州委員会の提案に従い、国際海運をEU排出権取引制度の対象としたとしても、全世界で海運から排出される炭素の量の7.5%しかカバーできず、パリ協定の目標を達成には不十分であるうえ、海上貿易を大幅に複雑化するも,のであり、今回ICSが提案する全世界共通の強制力のある炭素排出課税の方が優れている。

原文

September 6, 2021, ICS


4.EU:Zero-Emission Waterborne Transportが戦略的研究発明アジェンダを採択

EUは、2021年から2027年の7年間の科学研究イニシアティブであるHorizon Europeの枠組みの中で、Zero-Emission Waterborne Transportに関するパートナーシップ結成に向けて、5月に提案を行ったが、9月7日、このパートナーシップの役員会が初めて開催され、目標達成のための詳細なロードマップを示した戦略的研究発明アジェンダを発表した。中でも、革新的な技術と運用を通じて、GHGや気体・液体のすべての有害汚染物質の排出をなくすよう水運・海運を変革することを先導・促進することをパートナーシップの目的とする。2050年までに水運・海運からの炭素排出ゼロを目指して、全ての主な船種・船型に対応できる経済的に普及が可能な炭素排出ゼロのための解決策を、2030年までに開発し実証することを目指す。

原文

September 9, 2021, Offshore Energy Biz


5.EU:戦略的未来予想年次報告書2021年版を発表

9月8日、EUが標記報告書を発表したところ、将来的にEUに影響を及ぼす全世界的な大きな潮流として以下の4点を取り上げている。①気候変動と他の環境面での課題:地球温暖化は、今後20年以内に、産業革命前と比較して1.5℃以上上昇し、21世紀半ばには2℃に近づき、世界的に飲料水や食料の確保が厳しくなり、2050年までに2億人に対し、人道支援が必要となる。②デジタル高速接続性と技術変革:インターネットに接続する機器の数が、2020年の304億台から、2030年には2000億台と増加する。機器・場所・人々の間の接続性の向上は、新たな製品・サービス・ビジネスモデル・生き方・働き方を生む。③民主主義への挑戦:2020年の時点で、世界の34%の人々が民主主義が後退しつつある国に住み、わずかに4%の人々が民主主義が改善しつつある国に住んでいる。新たな手段やオンラインプラットフォームを利用して、大規模な情報操作が行われ、民主主義制度の脅威となり、新たなタイプの情報戦が起こっている。④世界秩序と人口構成の変化:世界は多極化し、2030年までに中国が最大の経済大国となり、インドも今後20年間でEU経済を抜く可能性がある。世界の人口は、2030年には85億人に、2050年には97億人となる一方、EUの人口は2050年までに5%減少して、4.2億人程度になる。

原文

September 8, 2021, 欧州委員会


6.ロイズ船級協会:海運脱炭素化実現の方策

ロイズ船級協会が標記報告書を発表したところ、実現のために必要な5条件として提言しているのは以下のとおり。①先行的な各国・地域ごとの対策に優先して世界的な共通の対策を取るためには、現在のIMOにおける審議ペースでは遅すぎ、2023年までの暫定的なGHG削減戦略の見直しを早急に進めるべき。②商業的に採算の取れる代替燃料の開発とその供給インフラの整備が不可欠。③脱炭素化のための技術開発には資金の確保が重要だが、海運分野の決断が遅れれば、投資資金は他の環境分野の投資に流れ、決断の遅れは資金コストの上昇を招く。④海運・港湾・サプライチェーンの効率化のためには、情報の共有・分析を可能とする情報の透明化が必要。⑤脱炭素化を進めるには海運の枠を超えた分野横断的な連携が必要。

原文

September 9, 2021, ロイズ船級協会


7.米国:2050年までにすべての航空燃料を持続可能な航空燃料に

米国大統領府は、9月9日声明を発表し、2030年までに航空からのGHG排出量を20%削減し、2050年までに炭素中立化するため、以下の政策をとることを発表した。①持続可能な航空燃料(SAF)増産のため、燃料のライフサイクル全体で最低50%以上GHG排出を削減できるSAFに対して、新たな税額控除制度を創設し、2030年までにSAFの年間生産量を最低30億ガロンまで引き上げる。②SAFの開発を支援するため、SAF製造事業者に対して最大43億ドルを財政支援する。③航空機の燃料使用効率を30%以上向上させるような技術開発を促進する。④航空機の燃料使用量を削減するため、航空管制や空港の効率性を改善する。なお、米国政府は今後数か月以内に、包括的な航空気候変動対策行動計画を発表する予定。

原文

September 9, 2021, The White House


8.マースクCEO:IMOに化石燃料船の建造期限の設定を求める

マースク社CEOのスコウ氏は、10日、「欧州委員会が2035年までに内燃式エンジンを持った自動車の生産の打ち切りを表明しているように、IMOも海運脱炭素化の野心的な目標と手段を定めて、化石燃料船建造期限の設定を行うべきである。」と表明した。マースク社は世界最大のコンテナ船社で、最大の船舶燃料購入者でもあるが、炭素を排出しない外航船の導入について、海運業界を先導し、サプライチェーンの脱炭素化を図りたいHP/Microsoft/Unileverなどの大手荷主の要請にこたえて、韓国の現代重工に対し、既に16000TEUの8隻のメタノールを代替燃料として使用できるコンテナ船を発注済みで、実際に国際航路に脱炭素化コンテナ船を就航させる最初のコンテナ船社となる。スコウ氏は脱炭素燃料へ直ちに移行することに熱心で、他のコンテナ船社がLNG燃料船の大量導入を行っていることを強く批判している。

原文

September 10, 2021, The Maritime Executive


9.米国の港湾混雑は最悪の水準となる一方で、中国の港湾混雑は大幅改善

米国の3大港湾において入港待ちしている船舶の数は7月以来徐々に増加を続け、LA/LB港ではBloombergが世界の港湾の混雑状況の調査を始めて以来最悪の40隻のコンテナ船が入港を待っている。東海岸ではジョージア州のサバンナ港では、20隻の船舶が入港待ちで、NY/NJ港でも滞船数は4月以降増加を続け最悪の水準になっている。米国以外の世界各地でも、クリスマスを前に輸送需要の繁忙期になる一方で、港湾の滞船など物流網にボトルネックができることによって、小売・製造事業者への配送が遅れ、輸送能力が減少し、運賃は記録的な水準に高騰している。一方、中国の寧波港周辺の港湾混雑は、8月末をピークに大幅に改善されたが、分散化された貨物を引き受けた青島港などでは8月以来滞船状況が続いている。

原文

September 10, 2021, gCaptain (Bloomberg)


10.米下院民主党が1500億ドルのClean Electricity Payment Programを発表

米下院民主党は、9月8日、バイデン大統領の地球温暖化対策の柱となる電力の脱炭素化のために、太陽光・風力・水力などの低炭素エネルギーによる発電を年率4%以上増やした電力会社は、2023年から2030年までの間、エネルギー省からの報奨金を受け取り、目的を達成できなかった電力会社は反対に罰金を支払うという内容の予算総額1500億ドルのClean Electricity Payment Programを発表した。より具体的には年率4%以上Clean Electricityの供給を増やした電力会社を対象として、対前年比1.5%を超える増加分について、1MWhあたり150ドルの報奨金が支払われる。Clean Electricityの定義としては、1MWhあたり0.1MT以上のCO₂を排出しないことが基準とされており、天然ガスから発電された電力はClean Electricityとはみなされない。

原文

September 10, 2021, Reuters


その他のニュース

1.気候変動緩和対策
 (ア)COP 26
  ①途上国グループ
   気候変動の影響を強く受ける国々が緊急合意を要請 原文08/09
2.エネルギー転換
 (ア)化石燃料一般
  ①既存埋蔵量の開発停止
   1.5℃目標のためには化石燃料埋蔵量の大部分の開発中止が必要 原文08/09
  ② 投資の停止
   ハーバード大学が化石燃料への投資の停止を宣言 原文10/09
3.気候変動
 (ア)気温上昇
  ①米国
   NOAA: 米国で史上最も暑い夏となる 原文09/09
4.海賊等個別事案
 (ア)中東一般
  ①攻撃件数
   中東における石油関連テロ攻撃が今年に入ってから増加 原文08/09
5.北極
 (ア)北極海北航路
  ①運航の効率化
   ガスプロムネフチとソヴコムフロトが北極海海運の効率化で連携 原文04/09
 (イ)観光
  ①クルーズ
   仏クルーズ船が北極点に到達 原文10/09
6.港湾
 (ア)港湾荷役
  ①組合の自律運航船への反発
   米国東海岸港湾組合:無人船の荷役を実施しないことを表明 原文07/09
7.航空のCO₂排出削減対策
 (ア)持続可能燃料
  ①BA
   乗客に持続可能な燃料を購入してもらうシステムを導入 原文07/09
8.大気汚染
 (ア)現状分析
  ①WMO
   2020年中の大気汚染がわずかに改善するも短期で終了 原文03/09