週刊国際海洋情報(2021年9月5日号)今週の10大ニュース

1.米国が中国に海外の石炭関連事業への金融支援の停止を要求

中国が2013年に一帯一路を開始して以来はじめて、中国は今年に入ってから海外の石炭関連の事業への投融資を凍結しているが、米国の気候問題担当のケリー大統領特使は、来週中国を訪問して、海外の石炭関連事業に対する金融支援を停止することを中国政府が正式に宣言するよう求める予定。しかし、中国政府は西欧諸国の圧力に屈する形でこのような対策を取ることは好まず、あくまで中国政府独自の方針として気候変動問題に対処していきたいと考えており、この問題については、今後も継続して石炭に依存していきたいとする途上国の理解者として振る舞いたいとの思惑もある。バイデン政権はこれまでも中国に対して、国際的な気候変動対策に関わる基準に中国も従うよう圧力をかけ続けており、ケリー特使は、中国が現在公約している「2030年までにCO₂の排出量をピークアウトさせ、2060年までに炭素中立を達成する。」という目標を、中国政府がさらに上方修正することを期待している。

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August 27, 2021, The Hill


2.英国の地熱発電水から大量のリチウムの採取が可能

英国のコーンウォールで、4.5万世帯の電力を供給するために、4か所の地熱発電所の建設が計画されているが、地熱発電に利用される地下の200℃の熱水には、1リットル当たり250mgのリチウムが含まれることが発見された。リチウムは電気自動車の普及のために必要なリチウム電池の原料で、計画されている4か所の地熱発電所から年間4000トンのリチウムの生産が可能と見込まれている。地熱発電は、初期投資コストが特に高いため、投資的に魅力が低く、欧州の再生可能エネルギーの中で占める比率は低いが、発電に加えて、リチウムの生産が可能となれば、一気に投資家の注目を集める可能性がある。リチウムの生産は現在中国への依存が高く、経済安全保障上も、英国内で生産できる意味は大きい。

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August 30, 2021, Euractiv


3.シンガポールが30日以上同国に滞在する外国人船員に対してワクチン接種

シンガポール運輸省は、8月30日、同国内に30日以上滞在し、生活必需品の輸送に従事し、またが旅客フェリーで働く外国人船員を対象に、8月30日からワクチンを有料で接種するSea Crew Vaccination Initiative (Seavax)を開始した。対象には、オフピーク時にシンガポールにドック入りするクルーズ船上のクルー、造船所で修繕を行う船舶の船員、マリーナに停泊中のヨットの乗員、漁船の乗組員、船舶に日用品などを供給する船舶の船員、シンガポール内のフェリーの乗務員などが含まれる。

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August 30, 2021, The Straits Times


4.EEA/EMSA:欧州海上輸送環境報告書を発表

9月1日、欧州環境庁(EEA)と欧州海上安全庁(EMSA)は、初めてとなる欧州海上輸送環境報告書を発表したところ、報告書が指摘している海運が環境に与える影響の主な点は以下のとおり。①GHG:EU及びEEAに2018年に寄港した船舶から排出されたCO₂の量は1.4億トンで、世界全体で船舶から排出されたCO₂総量の18%となった。②大気汚染:2019年に欧州に寄港した船舶が排出した二酸化硫黄の量は163万トンで、世界全体の排出量の16%を占めた。③海中騒音:コンテナ船のプロペラなどから発生する海中騒音は2014年から2019年にかけて、2倍以上に増加した。④外来性生物の持ち込み:1949年以来、EU海域への外来性生物の持ち込みの原因の半分は海運によるもので、海洋生態系に強い悪影響を与える合計で51種類の外来性生物が持ち込まれた。⑤油濁損害:2010年から世界で発生した18件の大規模油濁事故のうち、欧州で発生したのは3件(17%)で、石油の輸送量が増加する中で、欧州域内の油濁事故は減少している。

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September 1, 2021, EMSA


5.適正な交代ができないで継続乗務する船員割合が微減

適切な船員の交代を促すNeptune Declarationは、合計で9万人以上の船員を管理する10人の船舶管理者が収集した情報に基づき、毎月船員交代の実施状況をまとめて船員交代指標を発表しているが、最新の状況は以下のとおり。①船員雇用契約の期限を超えて乗務を続けている船員の比率は8.9%で、先月の9%から微減した。②船上で11か月以上継続乗務している船員の割合も1.2%で、先月の1.3%から微減した。③ワクチン接種を受けた船員の比率は、先月の15.3%から21.9%に増加したが、主要国における一般国民のワクチン接種率がおおむね50%を超えていることと比較すれば、船員のワクチン接種率は相対的にまだ低い水準にある。

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September, 2021, The Neptune Declaration


6.DNV:Energy Transition Outlook 2021を発表

標記報告書の概要は以下のとおり。①世界のエネルギー関連のCO₂排出量は、2030年までに9%しか削減されず、今世紀末までに地球の気温は産業革命前と比較して2.3℃上昇する。②太陽光発電と風力発電の増加によって、最終エネルギー使用量に占める電化比率は、現在の19%から2050年には倍増して38%になる。具体的には、2032年までに新車販売の半分は電気自動車になり、2050年までに冷暖房の32%はヒートポンプで供給されるようになる。③電化によるエネルギーの効率化が進み、エネルギー原単位は今後30年間、GDP成長率を上回る年平均2.4%改善する。④化石燃料への依存度は漸減するものの、2050年においても50%を維持する。需要量は2050年までに、天然ガスは現状維持、石油は半減、石炭は1/3となる。炭素回収貯留(CCS)技術の開発・普及は遅れ、2050年の段階でも化石燃料の燃焼から排出されるCO₂総量の3.6%しかCCSによって回収されない。

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September 1, 2021, DNV


7.中国が一定の外国船舶の運航に対する規制を強化する改正法を施行

8月27日、中国海事局は、中国が管轄する海域を航行する①潜水艦②原子力船③放射性物質を運送する船舶④石油・化学製品・LNGなどの有害物質を運送する船舶⑤中国の海上交通の安全を脅かす可能性のある外国船舶は、船名・船舶番号・現在位置・衛星電話の番号・輸送している貨物の内容などの情報を、AISが使えないときは、中国が管轄する海域を運航中2時間ごとに中国当局に連絡することを義務付ける改正海上交通安全法を、9月1日より施行すると発表した。この新たな義務を順守しない外国船舶は、中国が管轄する海域から退出することを求められることもある。改正法には、特定の国が対象にされていないものの、東シナ海・南シナ海・台湾海峡に展開する米・英・日の軍艦を念頭に置いていることは明らかであり、同海域において中国と領有権を争うアジア諸国や米国の同盟国と中国の間の緊張を高める可能性がある。

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September 1, 2021, Asia Times


8.UNEP:各国の大気汚染規制法制度を分析した報告書を発表

9月7日の国連International Day of Clean Air for blue skiesに先立ち、国連環境計画は、9月2日、標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①大気汚染は、最大の健康リスクで、世界の人口の92%は、世界健康機関(WHO)が定める大気汚染基準より、劣悪な環境で生活し、特に低所得国に住む女性・子供・老人が影響を受けており、最近の研究では、大気汚染の程度とコロナ感染の関連可能性についても指摘されている。②WHOは大気汚染に関するガイドラインを発表しているものの、それを適用・実施するための世界共通の法的枠組がなく、34%の国では、大気汚染基準が定められていない。大気汚染の基準を定めている国についても、各国の基準を比較するのは困難な状況にある。③さらに、大気汚染基準が定められている国の1/3しか、大気汚染基準を順守することを法的に義務付けておらず、基準を満たしているか排気をモニターすることについても少なくても37%の国で法的に義務付けられていない。④近隣国からの大気汚染についても、国境を越えた大気汚染問題に対処する法的制度がある国は31%にとどまった。

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September 2, 2021, UNEP


9.豪政府:洋上風力発電推進法案を提案

9月2日、豪政府は同国内における洋上風力発電施設の建設を促進する法律案を提案した。同法案は洋上風力発電施設の建設・運営・保守管理・解体に関する枠組みを規定している。政府が最近発表した報告書によれば、既に計画中の洋上風力発電事業は10件以上あり、合計発電量は25GWにのぼる。陸上風力発電は、2020年には、既に合計で7.4GW発電し、同国の総発電量の約1割を供給し、さらに21件(合計発電量4GW)の事業が今後建設される予定。

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September 2, 2021, Reuters


10.米ケリー特使と英COP 26議長が相次いで中国を訪問

米国の気候変動問題ケリー大統領特使は8月31日から9月3日まで、中国の天津を訪問して、気候変動問題について中国の環境問題特使の解振華と意見交換した。ケリーは4か月前に、解特使と上海で会談したが、今回は特に海外の石炭関連事業への支援を中止することを求めた模様。ケリー特使はオンラインで王毅外相・韓正副総理とも会談した。中国は今年に入ってから、海外の石炭関連事業への金融支援を停止しており、米の要求に応じる可能性がある一方、王毅外相はケリーに対して、中米関係の全体的な改善がなければ、環境分野のみで協力することは難しいと伝えた。英国のCOP 26のシャルマ議長は、既にインド・ロシア・ブラジルなど約30か国を訪問しているが、ケリー特使に続いて、9月に中国を訪問し解特使と会談し、海外ばかりでなく、中国国内についても石炭火力発電所への新規投資の停止を求める予定。

原文

September 3, 2021, Carbon Brief


その他のニュース

1.エネルギー転換
 (ア)産油国の戦略
  ①太陽光発電への投資
   イラクがOPEC加盟国に再生可能エネへの投資強化を呼びかけ 原文01/09
2.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①海洋生態系への影響
   Crown Estate等が洋上風力発電が海洋生態系に与える調査を開始 原文23/08
 (イ)供給見通し
  ①豪
   太陽光パネルの普及により企業・家庭のエネルギー自給率が上昇 原文30/08
3.安全保障
 (ア)日本との2国間安全保障
  ①英国
   HMS Queen Elizabeth空母打撃群が日本を訪問 原文03/09
4.気候変動
 (ア)気温上昇
  ①成層圏極渦蛇行
   北極の温暖化によって北半球の寒波が引き起こされることを証明 原文03/09
 (イ)山火事
  ①米国
   大統領:カルドア山火事でカリフォルニアに非常事態宣言を発令 原文02/09
 (ウ)異常気象による損害
  ①WMO
   異常気象による死亡者と経済的損失に関する報告書を発表 原文31/08
5.海洋環境
 (ア)油濁汚染
  ①陸上起源
   シリア精油所から油が地中海に流出しキプロスまで汚染拡大 原文01/09
6.海運経済
 (ア)環境投資に伴う経済的影響
  ①割高な運賃
   マースクの脱炭素戦略による輸送コスト上昇の影響 原文26/08
7.大気汚染
 (ア)健康に与える影響
  ①寿命の縮減
   大気汚染を減らせば世界の平均寿命を2.2年延長することが可能 原文02/09