国際海洋情報(2021年8月6日号)

1.ロスアトム:定期船が北極海北航路を使用できるように施設整備等を計画

ロシアの国営原子力企業で北極海北航路(NSR)の運営を任されているロスアトムの会長は、スエズ運河の閉塞事故以降、コンテナ海運業界がNSRの利用に強い興味を示しているとして、NSRを利用したコンテナ船の通年運航が可能となるように、航路両端に2つの積み替えコンテナターミナルを整備するとともに、3隻から6隻のLNGを燃料とする砕氷船の新たな建造、航路上の港湾施設並びに通信・航行支援施設の整備を、プーチン大統領に提案した。NSRを利用した通過貨物量の昨年の輸送実績は3300万トンだったが、ロスアトムの子会社のロスアトム貨物は、2024年までに輸送量を8000万トンまで拡大できると見込んでいる。ロスアトムは、NSR上に必要な物流施設を整備するために、DPワールド社と共同事業を立ち上げることで合意している。

原文
August 9, 2021, The Maritime Executive

2.IPCC報告書:メタン排出削減の要請とLNG燃料船

これまでCO₂に比べて、大気中における存在期間が短いメタンには議論の焦点が当たっていなかったが、9日発表されたIPCC報告書では、大気中に存在する20年間でCO₂と比べて86倍の地球温暖化効果のあるメタンの排出削減の必要性を強調している。4月には、世界銀行も海運の脱炭素化に関する報告書を発表し、各国政府に対し、現在のLNG燃料促進政策を見直し、LNG燃料供給インフラへの投資を直ちにやめ、メタン排出規制を堅持するよう求めている。一方で、LNG燃料を推進するグループは、既存の重油燃料と比較して、製造から燃焼まで23%のGHG削減効果があり、技術開発によって、2030年までに生産・流通過程におけるメタンの漏出はなくなると反論している。現在発注済みの船舶総数の28.4%はLNGを燃料として使用できる船舶となっている。

原文

August 10, 2021, Splash 247


3.IPCC報告書:COP 26に向けて困難な政治的な交渉へ

9日にIPCCが発表した報告書は、COP 26まで12週間を残すばかりとなった政治家・事業家・政策決定者にとって厳しい警鐘となった。長い間、政治家たちは気候変動に関する科学的知見に対して迅速に対応してこなかったが、選挙民や消費者が、熱波・山火事・洪水といった異常気象に苦しむ中で、対応が迫られている。COP 26の議長は①石炭使用停止期限の明確化②すべての新車のゼロエミッション化を今後14-19年間で達成③2030年までに森林伐採の停止④メタンガス排出の大幅な減少などの具体的な主要目標についてCOP 26で合意を目指すとしているが、その中でももっと重要な目的が「気温上昇を1.5℃以内に抑制することをあきらめない。」ことである。しかし、6月のG7首脳会合、7月のG20環境大臣会合では、中国・インドなど一部の新興国の反対で一切の進展がなく、COP 26の成功が見通せない状況にある。中国の首席交渉代表は、いくつかの国が気温の上昇を2℃以内に抑制するというパリ協定の目標を書き換えようとしているとして、1.5℃以内の目標を掲げる国々に対して公然と批判している。

原文

August 10, 2021, CNN


4.米国防総省:気候変動に備えるため気候変動作業部会を設置

2018年にハリケーン・フローレンスが北カリフォルニアに914mmの集中豪雨を降らせたときには、3か所の海兵隊施設が洪水により36億ドルの損害を受けた。数週間後には、フロリダ州のティンドル空軍基地がハリケーン・ミッシェルによって47億ドルの損害を受けた。2020年は大規模な山火事がせまって、北カリフォルニアのトラビス空軍基地の隊員に退避命令を出した。そして、早期警戒レーダーシステムと通信設備を備える北極海空軍基地が、海岸浸食によって、防波堤・滑走路の損害を受けており、海岸浸食と永久凍土の融解によって、北極圏に存在する基地のインフラは大きな損害を被っている。バイデン政権に交代してから、国防総省は気候変動作業部会を設けて、気候変動に対する迅速な対策を検討している。

原文

August 9, 2021, Military Times