国際海洋情報(2021年8月5日号)

1.英国の交通脱炭素化戦略(航空分野の影響)

英国の運輸省(DfT)は、7月14日に交通脱炭素化戦略を発表した。航空分野は、全世界のGHG排出量の約3%を排出し、今後も輸送量が増加することが予測されるところ、脱炭素化(Jet Zero)のためには長期的な戦略が必要となる。このため、英国持続可能な航空連合は、GHGの排出量を2030年までに15%、2040年までに40%削減することに合意している。さらに、ゼロエミッション飛行の促進と持続可能な航空燃料(SAF)の生産促進のため2020年に英国政府・航空業界・学識経験者から構成されるJet Zero協議会が結成された。DfTは国内航空を2040年まで、国際航空を2050年までに炭素中立化させるために、システムの効率化・持続可能な航空燃料・ゼロエミッション飛行・排出量取引・旅客に対する航空利用に伴う炭素排出量に関する情報の提供の5点につき、提案を発表しコメントを募集している。このDfTの提案に対しては、航空機利用に関する国民の態度の変化を促したり、航空輸送旅客数やフライト数に上限を設けるといった気候変動委員会の提案が含まれず、政府は未だ実用化されていない今後の技術開発に過度に依存しているというような批判が既に出されている。

原文
August 4, 2021, CMS 

2.気候変動に関する政府間パネル:第6次評価報告書の一部(WG 1)を発表

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は7月26日、第1作業部会が作成した自然科学的根拠に関する報告書を承認し、8月9日公表した。この報告書は2022年中に完成される第6次評価報告書を構成する最初の報告書となる。報告書によれば、人類の活動によって、産業革命以前と比較して、既に約1.1℃気温が上昇しており、迅速かつ大規模なGHGの排出量の削減を実施しなければ、今後20年間に、世界の気温は、産業革命以前と比較して、1.5℃またはそれ以上に上昇する見込みで、2℃以内に抑制することさえ困難になる恐れがあるとしたうえで、以下のような気候変動の影響を予測している。①豪雨と洪水の増加と干ばつの多発。②降雨のパターンが変化し、高緯度地帯では降雨量は増加する一方で、亜熱帯では降雨量が減少する。③海面の上昇が続き、より頻繁かつ大きな高潮に沿岸部は襲われ、100年に1度起こるレベルの水害が世紀末には毎年発生する。④気温上昇により、永久凍土・積雪・氷河・氷床・北極海の海氷の融解を促進する。⑤海水温が上昇し、海水の酸性化・低酸素化が進み、海洋の生態系とそれに依存する漁民等に大きな影響を与える。⑥都市部においても、猛暑・豪雨による洪水・海面上昇の影響をより強く受けることとなる。なお、6次評価報告書では、地球全体の分析でなく、初めて地域的な評価と情報の提供を行っている。

原文

August 9, 2021, IPCC


3.UAE:船員の権利を保護するキャンペーンを開始

UAEには湾岸地域のハブ港湾として、年間2.1万隻の船舶が寄港し、2万社以上の国外・国内の海運関連会社が業務を行い、年間1700万個のコンテナを扱っているが、UAEのエネルギー・インフラ省はコロナによる制約が続く船員を支援するため”Supporting our Blue Army”キャンペーンを開始して、UAEに寄港する船舶で働く船員の生活の質を改善することを目標とする。具体的には、無料のコロナワクチン接種を含む医療の提供などについて、船員を優先的な職種に認定して、外国人船員に対しても平等な扱いを保証する。契約の期限を超えて、船上で働く世界で21.4万人を超える船員の交代も積極的に容認する。コロナの問題に加えて、船員放棄の問題についても、同キャンペーンでは、船員の権利を保護し、船員の権利を保証しない船主や海運会社を厳しく取り締り、違反する船舶はUAEに入港することを拒否するとしている。

原文

August 9, 2021, Al Arabiya


4.国連安全保障理事会:海上の保安の担保に国際的な協力が必要

8月9日、国連安全保障理事会において海上の保安について討議されたところその概要は以下のとおり。①パンデミックによる海上輸送の減少に関わらず、2020年上半期は、海賊と武装強盗の件数が20%増加した。地域別にみると、マラッカ・シンガポール海峡や南シナ海などアジアにおける事件数は約2倍となる一方、ギニア湾ではこれまで前例のないレベルの事件が発生し、最近ではペルシャ湾・アラビア海でも懸念される状況となっている。②こうした海上の治安の維持には、世界的な対応が必要で、事件抑止のための直接的な対応ばかりではなく、事件を発生させる貧困・失業・治安悪化・地域政府の統治能力の欠如などの根本的な問題の解決にも協力して対応する必要がある。③海上の保安は、海域の領有権をめぐる争いやIUU漁業によっても脅かされている。

原文

August 9, 2021,国連