国際海洋情報(2021年8月3日号)

1.大西洋南北海流循環の力が過去数十年にわたり弱くなり不安定化

世界的な気象現象は海流による熱の移動に大きく影響を受けており、メキシコ湾流を主体とする大西洋南北海流循環(AMOC)は、熱帯で出来た暖かな海面の海水を大西洋北部に押し上げ、代わりに、北大西洋の冷たく塩分濃度の高い海水が沈んで、深層海流となって南に還流することによって、大西洋のエネルギーバランスを維持している。しかし、8月5日にNature and Climate Changes誌に発表された研究では、過去150年間における北大西洋の8か所における海面の温度と塩分濃度を分析した結果、大量の降雨と海氷・氷河の融解水によって、北部大西洋の海水の塩分濃度が落ちて軽くなり、深層に沈みにくくなったため、AMOCの循環力が過去数十年間にわたり弱まっていることが判明した。もしこの傾向が続いて、AMOCが極端に弱まると、西欧において冬季の異常な寒冷化が発生し、熱帯の季節風が乱れるなど大規模な気候変動をもたらす可能性がある。

原文

August 6, 2021, CNN


2.NATO:北極海の温暖化による軍事的影響の分析に自律運航潜水艇を活用

NATOは気候変動が安全保障に与える影響について分析し対応するための世界の先導的な機関になるという目標を、NATO 2030アジェンダにおける重要目標の一つとしているが、NATOの科学技術機構(STO)に所属する海事研究試験センター(CMRE)は、既に何十年にもわたり、世界中の海洋から音響データを収集して、海の水深・塩分濃度・海水温をモニターしてきた。米国海洋大気庁(NOAA)によれば、グリーンランドの氷床が融解する速度は、1992年から2001年の間の平均は年間340億トンだったが、2012年から2016年の間の平均は2470億トンと融解のペースは7倍以上に加速度化してきており、CMREは自動知能(AI)によって管理された自律運航潜水艇(AUVs)を活用して、北極海から継続的に安定した情報の収集を今後もさらに進めるとともに、北極圏への軍事的投資を増加させ、天然資源が豊富な北極圏に足場を築こうとするロシア・中国等に対抗していく。

原文

August 7, 2021, Defense News


3.MPA:シンガポール港内作業船の完全電化を支援

シンガポール港には、港から船舶まで人員・物資を輸送するためなどに1600隻のディーゼルエンジンで運航する港内作業船があるが、シンガポール海事港湾庁(MPA)とシンガポール海事研究機構(SMI)は、2020年9月に港内作業船の電化のための提案募集を開始し、関連業界とワークショップ等を実施し、73の企業と10の研究機関から16の提案を受けた。これらの提案を審査した結果、今後5年間で港内運送船を完全に電化するための研究・設計・建造・運航を促進するため、両機関は、Keppel FELS/ Sea Tech Solutions/Sembcorpの3社が主導し、30の企業・研究機関が参加する3つのコンソーシアムに対して、MPAの海事グリーン未来基金の資金を活用して支援をすることを8月5日、決定した。

原文

August 5, 2021, MPA


4.パリ協定の目標達成のためにはCO₂だけでなくメタンガスの排出削減が不可欠

国連気候変動枠組条約(IPCCC)事務局は8月9日に、気候変動の状況を包括的に見直した「気候温暖化に関する第6次報告書」を発表して、これまでに人類の行動によってどのように地球が温暖化し、人類が不可逆的な危険なポイントに極めて近づいていることを発表する予定だが、政策決定者に対する最も重要なメッセージの一つは、メタンガスの排出が地球温暖化に大きく貢献しているということであろう。メタンガスは、畜産業・シェールガスの生産・きちんと管理されていない既存の石油ガス田から排出されるが、CO₂と比較して80倍以上の地球温暖化効果がある強力なGHGである。上記報告書作成の中心的な人物の1人である「ガバナンスと持続的な発展に関する研究所」の所長は、メタンガスの排出を緊急に削減することが、地球温暖化を1.5℃以内に抑制するという目標を達成するための唯一の選択肢であると語っている。

原文

August 6, 2021, The Guardian