国際海洋情報(2021年7月12日号)

1.DNV:船舶燃料としての液体水素に関する検討課題を発表

DNV主導で、26企業によって結成されたMarHySafe共同開発事業が、船舶燃料としての液体水素についての課題を整理したハンドブックを発表したところその概要は以下のとおり。①液化水素の取り扱い・保管・船舶への供給に関する安全面について、より多くの試験を実施する必要。②LNGの取り扱い経験は参考になるものの、LNGと液化水素は大きく違う部分もあり、LNGと同様に船上で取り扱うと非常に危険な場合がある。③CO₂の削減やエネルギー効率の観点から、水素を他の燃料と混ぜたり、アンモニアに変換せずに、可能な限り純粋な水素のまま使用する方がベター。④国際ガス燃料船安全コード(IGFコード)に定める「代替設計(Alternative Design)」の手順が現状では最善の方法。⑤IMOの規制・船級協会の規則・旗国や港湾当局ごとに異なる法令解釈など、規制の適用については今後の課題。

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July 15, 2021, DNV


2.気候変動は台風を強力にするが、発生頻度は変わらず

Nature Communication誌に発表された研究によれば、気候変動によって大西洋のハリケーンをより強力にし、降雨量が増え、大型化するのが速くなり、継続期間を長期化させたりはするが、発生頻度は150年前と比較して増えていないことが分かった。2020年には。これまでにはない30ものハリケーンが発生し、気候変動がハリケーンや台風の発生頻度や強さにどのように影響を与えるのか注目を集めた。過去30年間の衛星観測情報を分析した結果、ハリケーンの数・強さ・大型化する速度が過去30年間増加しているのが確認された。しかし、米国海洋大気庁による1851年からのハリケーン観測記録をもとに、衛星観測が始まる前の時代に見逃されていたハリケーンの数を補正した結果、過去150年間、ハリケーンの発生件数に明らかな傾向はみられなかった。

原文

July 13, 2021, Science News


3.EU ETS:EU域外との海上輸送にも50%適用(3年間の経過措置付き)

欧州委員会は海運についてもEUの炭素中立目標に貢献するよう、旗国を問わず5000GT以上の船舶について、EU排出権取引制度(ETS)を拡大適用することを発表した。具体的には、EU域内の海上輸送とEUの港湾に接岸中に排出されるCO₂の100%とEUとEU域外国との間の海上輸送から排出されるCO₂排出量の50%に適用される。この拡大適用により、海上輸送から排出される総CO₂排出量の2/3にあたる9千万トンのCO₂にETSが適用され、エネルギー効率の改善と低炭素代替燃料の使用が促進され、重油燃料と代替燃料の間の価格差も緩和されることとなる。激変緩和のため、海運会社は制度導入から3年間は排出したCO₂の一部のみの排出権を購入すれば済むが、規則違反に対しては罰金だけではなく、2年以上継続して適正な排出権を購入しなかった海運会社の船舶はEU港湾への入港禁止措置が取られる。

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July 14, 2021, 欧州委員会


4.約3000人のクルーズ乗員・乗客が船室に閉じ込められたまま帰港

シンガポールは、国内でコロナの感染者も少なかったため、昨年の11月からクルーズ業界は、シンガポール国民だけを対象として、外国の港に寄港しない「どこにもいかないクルーズ」を実施し、外国旅行ができないシンガポール国民の間で人気を集めていたが、Genting Cruise Lineが運航していたクルーズ船でコロナ陽性の乗客が出たため、1646人の乗客と1249人の乗員はそれぞれの船室を出ることを禁じられたまま、シンガポールに帰港することを余儀なくされた。当該乗客は、ワクチン接種済みで、3泊4日のクルーズに乗船する前に、出発前に義務付けられている抗体検査で陰性だったが、シンガポール国内の感染者の濃厚接触者であることがわかり、速やかに隔離されたが、その後の検査で陽性であることが確認された。

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July 14, 2021, Reuters