国際海洋情報(2021年7月6日号)

1.海技研がアルファラバルのスクラバーを利用してCO₂回収実験に成功

7月5日、アルファラバルは海上技術研究所と共同で、日本の新造船で、同社のハイブリッドスクラバー(閉鎖状態で実験)を利用して、補助のディーゼル機関から排出されるCO₂排気の回収に成功したと発表した。同社ばかりでなく、TECO2030などいくつかの企業がスクラバーを船舶からのすべての排気を清浄化するシステムにする技術開発を現在進めているが、もし技術開発に成功すれば、船舶から排出されるGHG削減のためのコストのかからない手段として、重油燃料の使用可能期間を数十年延ばすことになる可能性がある。

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July 5, 2021, Ship & Bunker


2.深海の低炭素海水域から強力なGHGであるNOxが発生

海洋生物が死ぬと海水中に沈み腐敗するときに海水中の酸素を消費することによって、「死の海水域」と呼ばれる低酸素の海水域を形成し、そこではほとんど生物は生息することができない。このような低炭素海水域は自然にできることもあるが、沿岸域から流れ込む農薬や下水によって、海水が富栄養化して藻が大量発生し、その藻が枯れて腐敗するときに低炭素海水域ができることが多い。この低炭素海域の下の海底の土が、NOxの発生源となっており、深層水が海洋の表面に浮上する際に大気中に放出される。「笑気ガス」と呼ばれるNOxはCO₂より300倍以上強力なGHGだが、人類の活動によって、NOxの大気中への放出量が年々増えており、海洋から放出されるNOxの割合は全体量の1/4を占めている。気候温暖化に伴う海水温の上昇は、低炭素海水域の範囲を拡大し、海洋からのNOxの排出量が増加し、さらに気温上昇に寄与するという悪循環が成立している。

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July 6, 2021, The Conversation


3.「交通と環境」:EU ETSはEUと域外国の間の海上運送も対象にすべき

欧州の環境NGOの「交通と環境」は、標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①欧州におけるCO₂排出量の多い企業のトップ10のうち、9社は発電事業者だが、MSCが非電力事業者では唯一6位に入った。②MSC/Maersk/CMA CGM/COSCO/Hapag-Lloydの大手コンテナ船社5社が排出するCO₂の66%から79%がEUとEU域外国との間の航路で排出されていた。③従って、7月14日に発表される予定のEU ETS改革案で、ETS拡大の範囲をEU域内の海運活動に限った場合は、大手船社が排出するCO₂の大部分が対象外となり、EU域内を中心に運航する小規模な海運会社のみ影響を受けることとなる。④さらに、EU域外国との間の航路をETSの対象から外すことによって、ETSの収益が減り、海運の脱炭素化を進めるために必要な研究開発投資資金も確保できなくなる。

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July 6, 2021, 交通と環境


4.国連主導の投資家連合が世界共通の最低炭素価格の設定を要求

国連が主導して結成された、合計で6兆円を運用する43の投資機関からなるネットゼロ資産所有者連合(Net Zero Asset Owner Alliance)は、7月6日、世界の異なる制度の間の最低炭素価格を共通にし、パリ協定の目標を達成するために、最低炭素価格を2030年までに3倍に引き上げる必要があると声明を発表した。世界銀行の調査では、世界で現在約64の異なる排出権取引制度や炭素課税制度があり、世界で排出されるGHGの21%をカバーしているが、これらの異なる制度間で炭素価格は大きく異なっている。このような異なる制度が混在する状況では、世界的な大規模投資家や大企業にとって、低炭素化を進めるための新たな技術開発に投資をするための、長期的なリスクを管理し戦略を立てることが困難となっている。同連合としては、炭素価格が乱高下することを避けるためにも、制度間で共通の最低炭素価格を設定し、段階的にこの最低価格を引き上げていくことを提案している。

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July 6, 2021, Reuters