国際海洋情報(2021年7月2日号)

1.EU排出権取引制度改革案:海運・陸上交通・暖房を対象に追加

7月14日に、欧州委員会から発表される予定のEU排出権取引制度改革案が明らかになったところその概要は以下のとおり。①現在排出権取引制度の対象は、電力・EU域内の航空輸送・鉄鋼/化学など多くのエネルギーを消費する重工業の各分野であるが、今回の改正で海運・陸上輸送・建物の冷暖房の3分野を対象に追加する。②海運については、できれば現在の排出権取引制度と統合されることが望ましいとされつつ、別枠の制度となる可能性が残されている。③自動車の燃料と家庭の暖房燃料を排出権取引の対象とすることについては、相対的に貧困層に重い負担となるという反対意見も根強く、提案ではこれらの部門から得られた新たな収入の少なくとも半分は、貧しい家庭に還元されるべきとされているが、EU加盟国は排出権取引制度から得た収入をどのように使用するかについて自由に判断できる。④現在対象となっている事業者に与えられている一定量の無料排出枠については、2030年までにGHG排出量を55%削減するというEUの目標に従い、段階的に大きく削減され、それに伴い排出権取引価格も上昇する見込み。

原文

July 1, 2021, Euractiv


2.IRENA:「世界エネルギー転換アウトルック」を発表

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①IRENAが試算した気温上昇を1.5℃以内に抑制するシナリオに従えば、2050年までに世界の経済成長を2.4%押し上げ、1.22億人の新規雇用を創出することができる。②このためには、エネルギーの効率化・再生可能エネルギー・電化の促進・送電網の整備・水素等に、2050年までに33兆ドル、年間で2019年の世界のGDPの5%に当たる4.4兆ドルを投資する必要がある。③一方でこうした投資を通じて、大気汚染の防止・健康の増進・気候変動緩和による外部経済効果が期待でき、具体的にはエネルギー転換のために1ドル投資すると2ドルから5.5ドルのプラスの経済効果が期待できるので、2050年までに30兆ドルエネルギー転換のために投資することにより、合計で61兆ドルから164兆ドルのプラスの経済効果を生むことができる。

原文

June 30, 2021, IRENA


3.中国:排出権取引制度の開始を再延期

中国政府は、当初排出権取引制度を2020年末までに開始する予定であったが、パンデミックの影響で開始が遅れ、中国の生態環境部の大臣は6月末までには開始したいと2月に表明していたが、6月28日、排出権が取引される予定の上海環境エネルギー取引所の広報担当は、排出権取引制度の開始が再延期されいつ開始することができないかわからないと語った。仮に排出権取引制度が開始されたとしても、当初は大量の自由排出枠が対象とされる業界に認められるため、CO₂排出削減のために実質的な効果が出るのは数年かかるのではないかという懸念も表明されている。

原文

June 28, 2021, Bloomberg


4.EU:使い捨てプラスチック指令が7月3日から実施

2019年に制定されたEUの使い捨てプラスチック(Single Use Plastic: SUP)指令が7月3日から実施されることとなり、プラスチック製の綿棒・食器(ナイフ/フォーク/スプーン/皿)・ストロー・マドラー・風船の柄・ポリスチレン製のコップとトレイを販売することができなくなった。また生分解性として流通しているプラスチックの袋も、マイクロプラスチックに分解されて長期間環境に残されるので、酸素分解性のプラスチックの袋の販売も併せて禁止された。今回禁止されたSUPは欧州における海洋プラスチックごみの約7割を占め、喫茶店やレストランでは、竹やセルロースなど生分解性の素材でできたカップやストローを使用しなくてはならない。しかし、SUPでも袋・ボトル・飲料/食料の容器・パッケージ/ラップ・タバコのフィルター・生理用品・濡れナプキンなどは使用が制限されるものの、製造事業者がごみ処理のコストを負担し、環境への影響を周知する教育キャンペーンをすることを条件に、全面使用禁止とならない。

原文

July 3, 2021, DW