国際海洋情報(2021年6月25日号)
1.港湾管理者円卓会議:クリーンな海運とスマートな港湾の実現に協力
6月22-23日に、世界の20の大規模港湾の管理者が参加してオンラインで開催された港湾管理者円卓会議(PAR)では、海運の脱炭素化・物流チェーンのデジタル化と阻害要因などについて意見交換を行った。参加した港湾管理者は、ロッテルダム港が開発したルートスキャナーなどの中立な情報プラットフォームの活用などを通じて、相互に情報を共有することを確認し、コンテナ海運について共同で世界全体をカバーするGoogle Mapのようなものを開発・使用することに合意した。海運会社等は自社の船舶の運航情報をこのネットワークに1回登録しさえすれば、何回も違う港湾管理者から同じ運航情報を提出することを要求されることが無くなり、多くの時間とコストを節約できるようになる。さらに、現状では、航路に関する情報や接続する鉄道や道路に関する情報が不完全かつ不透明なため、コンテナ船の運航ルートを計画するのは複雑な作業となるが、こうしたコンテナ船の運航に関する情報を中立的なプラットフォームで共有し、簡単に最適ルートを確定できるようになれば、多くの時間・コスト・船舶からのCO₂を削減することができるようになる。
原文
June 24, 2021,ロッテルダム港 10大
2.気候変動に伴う水害によって毎年世界で2600万人が貧困層に転落
国連によれば、過去20年間で、その前の20年間と比べると、気候変動に伴って発生する自然災害の件数は倍増し、40億人の人々が被災し、多くの人々が亡くなり約3兆ドルの経済損失をもたらした。気候変動によって、降雨のパターンが変化した結果、水源に変化を与え、干ばつと猛暑の期間が長くなり、サイクロンが強くなり、洪水の危険性が増した。このような自然災害によって、持続可能で災害に強い社会を作るという持続可能な発展のための2030年開発目標の達成が困難となっている。こうした気候変動の影響を最も受ける途上国は、気候変動に適応するために必要な対策を実施する資金的な余裕がないため、先進国は約束とおり、途上国に対して、年間1000億ドルの資金援助を実施し、その半分は自然災害に対する適応力と耐久力を高めるために使用される必要がある。
原文
June 25, 2021, 国連
3.ハンブルグとキプロスで外国人船員へのワクチン接種を開始
国際船員の日にあたり、ハンブルグとキプロスは外国人船員へのワクチン接種を開始すると発表した。世界には約170万人の船員がいるが、そのうち約90万人が途上国出身で、これらの国では2024年までワクチン接種が難しい状況にある。これらの国々ではワクチン数が限られているため、船員の主たる供給国では、船員をワクチンの優先接種の対象にする動きがあり、例えばインドでは、乗船期間が始まる前の船員に優先的にワクチンを接種することが試みられている。しかし、既に乗船をして乗務している外国人船員が外国でワクチン接種を受けるのが困難な状況は続いている。国際運輸労連は、2021年末までに、自国の船員や自国に寄港する外国人の船員に対するワクチン接種を終えるよう各国に要請している。独船主協会と独船員組合は、ドイツ政府に対し、ILOで採択された決議に従い、すべての主要港湾で船員向けのワクチン接種センターを開設することを求めている。
原文
June 25, 2021, The Maritime Executive
4.EUの船舶燃料に関する新規則はLNGを排除せず
7月14日に発表される予定のEUの船舶のグリーン燃料に関する規則(FuelEU Maritime)案においては、船主に対して特別なグリーン燃料を使用することを求めることはせず、輸送単位当たりのGHG削減目標の達成だけを義務付けるgoal-based approachが採用されている。欧州委員会は、こうした結論に至った理由として、パブコメ期間中に提出された136のコメント(うち121は船主・船舶管理者・船舶燃料事業者等の海運関係者が提出)を踏まえ、柔軟性の必要性を考慮したとしている。この案に対し、環境NGOの「交通と環境(T&E)」は、2040年ころまで、LNGがEUに寄港する船舶の船舶燃料として使用され、化石燃料が今後20年間最も安価なEUの規制適合手段となって、2050年までに炭素中立を達成するというEUの目標は達成できなくなるとコメントしている。T&Eによれば、2035年までは、EUに寄港する船舶が使用する船舶燃料の過半数以上(55%)はLNGまたは植物・藻類・動物の排せつ物など持続可能性のない原料から製造されるバイオディーゼルとなると指摘している。
原文
Jun 23, 2021, The Guardian