国際海洋情報(2021年6月1日号)

1.炭素相殺措置はCO₂が大気中に存在する期間継続する必要

(論説)CO₂はひとたび大気中に放出されると、数百年にわたって大気中に存在し続けるので、炭素相殺(carbon offset)措置を実施する代わりに、CO₂を大気中に排出する場合には炭素相殺措置もCO₂が大気中に存続する期間中継続する必要がある。例えば、植林は最も広く実施される炭素相殺措置だが、植林した森林が火災で焼失したら、相殺効果はそこで終わってしまう一方で、相殺措置の代わりに排出されたCO₂は大気中に残り続けるので、不完全な相殺となってしまう。この問題を解決するためには、炭素相殺措置をCO₂排出企業が購入する際に、炭素相殺措置だけではなく、上記のように初めの相殺措置が無効化したときに、同様の相殺措置を引き続き講じるための保険を作って、この保険も併せて購入させる方法が考えられる。さらに、このような将来のリスクを偶発債務(contingency liability)として企業会計上明示させる必要がある。

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 June 5, 2021, The Conversation


2.G7財務大臣会合:気候変動関連リスク等の開示の義務化に合意

6月5日から開催されたG7財務大臣会合では、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の勧告に従い、企業に対して気候変動関連リスク等の開示を義務付けることに合意した。本件についてはG20でも議論される予定で、COP26の前に国際的な合意が成立する可能性がある。気候変動リスクの開示によって、投資家が投資決定のための正確な情報を入手することを可能とし、炭素中立に必要な民間投資を促進する目的がある。英国ではすでに昨年11月に気候変動関連リスク等の開示を義務付ける提案が発表されており、具体的には、英国内で500人以上を雇用し、年間売上額が5億ポンド(約775億円)を超える企業に対して、年次報告書の中で、気候変動と炭素中立移行に伴うリスクを開示することを提案しており、1500社以上が対象となるものとみなされている。所管のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、2022年4月からの実施を目指して、パブコメを既に開始している。

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 June 6, 2021, edie


3.火災事故を起こしたコンテナ船から漏出した汚染物質は周辺海域を広く汚染

スリランカ当局とサルベージ会社は、同国沖で火災事故を発生し損傷したコンテナ船MV X-Press Pearl号の船体から輸送されていた300トンを超える油が流出するのを防ぐ作業を続けているが、船体は既に大きく損傷しており、コンテナ船に積載されていた化学製品とプラスチックペレットは既に海中に流出し、これまで同国で発生した最悪の環境災害となっている。有名な観光地である同国の南西の海岸には既に多くのペレットが打ち上げられ、約150㎞の海岸線を汚染し、当該船舶の運航会社であるX-Press Feedersは刑事告発される見込み。プラスチックペレットの大きさは穀物の粒とほぼ同じなので、海鳥や魚に誤食されやすく、これらの生物を死に至らせることもある。さらに、海岸に打ち上げられたペレットが、波によって、再び海中に戻されると広く拡散して回収することが不可能となる。コンテナ船には、硝酸・メタノール・水酸化ナトリウムなどの化学物質を積載した1486個のコンテナと、ナードルと呼ばれる小さなプラスチックペレットを積んだ約400個のコンテナが積載されていた。

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 June 4, 2021, Bloomberg Quint


4.Ever Given: UK P&Iが座礁時の運航速度は運河側が管理と反論

3月にスエズ運河で座礁したEver Green号の事故原因について、スエズ運河庁のトップは、座礁時に同船は運航速度を上げすぎていたためとし、スエズ運河庁側の責任ではないと表明しているが、同船の保険者であるUK P&Iは、「船舶の運航については船長が責任を持つのが一般的だが、スエズ運河を船隊を組んで通航する際には、スエズ運河の水先人とスエズ運河庁の船舶交通管理サービスが、船舶の運航速度や誘導するタグの利用可能性などを含む船舶の運航を管理しており、事故発生時に運河庁が適切なタグボートをつけずに、同船に運河に入ることを許可したことに責任を負うべきだ。」と6月3日反論した。同船はまだ運河庁に拘束されたままで、運河庁と船主側は賠償金の額について交渉を続けているが、運河庁は賠償請求額を当初の9.16億ドルから、5.5億ドルに減額したうえで、2億ドルの補償金を支払えば、同船を解放するとしている。

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 June 3, 2021, Reuters