論考

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2023/05/09

中ロの原子力協力に警戒感:中国の核軍拡が加速する恐れ

小林 祐喜
笹川平和財団研究員

1. ロシアが中国に高濃縮のウランを提供

 ロシアが中国に濃縮度が高いウランを大量に提供したことに対し、米国議会がバイデン政権に対抗措置を求めるなど、国際社会に波紋が広がっている。中国の核軍拡を加速させる恐れがあるためである。

 提供されたウランは、中国が南東部の福建省で建設を進める高速増殖炉で使用されるとみられている。同炉は本来、民生用(発電用)技術であるが、炉内での核反応により、新たにプルトニウムが生産され、それを再処理することで、核兵器に適したプルトニウムを獲得できる。

 同炉の1号機は、笹川平和財団の衛星画像分析によると、2023年中の稼働が見込まれる。米国防総省もこうした動向を把握しており、2022年11月、議会に提出した中国の軍事動向に関する報告書の中で、「中国の核弾頭の保有数は現行の350発から、2035年には1,500発に至る可能性がある」と警鐘を鳴らしている[1]。

 不透明な形での中ロ間の核物質の移動、およびそれがもたらす中国のプルトニウム増産や核軍拡は、米中間およびアジア地域の緊張を高めるばかりでなく、国際原子力機関(IAEA)による国際的な核物質の管理体制を骨抜きにし、ひいては、核兵器不拡散条約(NPT)を基軸とする核秩序の崩壊をもたらしかねない。

 本稿ではまず、高速増殖炉の仕組みを概観しながら、中国が大量のウラン提供をロシアに求めた背景を探る。続いて、米国議会の議事録を参照しながら、中ロの原子力協力が中国の核軍拡に結び付く恐れを検証し、最後に中国の核軍拡が国際社会に与える影響とそれへの対応策を考察する。

2. 高速増殖炉の仕組みと中ロ原子力協力

(1) 高速増殖炉の仕組み

 高速増殖炉は運転中の核物質の反応により、挿入した燃料以上のエネルギーを取り出せることから「夢の原子炉」と呼ばれている。具体的には、炉心にウラン燃料、あるいはプルトニウムを装荷し、このコア燃料(図1のオレンジとピンク色部分)が1年から4年かけて燃焼して発電し、中性子を放出する間に、周りを毛布のように覆うブランケット燃料(劣化ウラン)の一部がプルトニウムに変化する。このブランケット燃料を再処理することにより、燃焼効率が高いプルトニウム239を大量に獲得することができ、増殖炉の燃料として再利用できるほか、核兵器への転用が可能である。

図1:高速増殖炉の炉心概念図

中性子遮蔽・モニタリング集合体 ブランケット燃料 内部コア燃料 外部コア燃料 / 上部からの燃料集合体配置概念図 / 横からの炉内燃料集合体概念図

日本核物質管理学会・岩本友則事務局長提供

 高速増殖炉の開発は、米国、ロシア、フランス、イギリス、日本が先行し、日本では1994年から1995年にかけて「もんじゅ」とよばれる原型炉[2]が稼働していた。だが、原子炉を冷却するためのナトリウムの管理が難しく、米国は80年代に開発を中止し、英国、フランスは90年代、日本は2016年に高速増殖炉の廃炉を決めている。中国はロシアの技術支援を受けつつ高速増殖炉の開発を進め、CFR600と呼ばれる大型の高速増殖炉(電気出力60万キロワット:日本の「もんじゅ」の2倍強の発電能力)2基がそれぞれ2023年、2026年ごろに運転を開始する予定である[3]。実際、2022年9月に撮影された次の衛星画像を見れば、CFR600の1号機については、炉を収納する建屋、炉の熱により発生した蒸気でタービンを回転させて発電する建屋が完工状態であり、運転開始が近いことがわかる。

衛星画像 1

CFR600(1) CFR600(2) タービン建屋 高速増殖炉建屋

*「(C)Maxar Technologies, Inc. 2022年9月30日撮影」

 高速増殖炉の燃料は燃焼度に応じて4分の1ずつ交換するが、運転開始時の初期装荷燃料は一度にまとめて装荷するため、大量の燃料が必要になる。「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)における初期装荷のプルトニウム量からCFR600の運転開始に必要なプルトニウム、あるいはウラン燃料を試算した。

 もんじゅは英語版の紹介パンフレットによると、初期燃料として、コア燃料5.9トンを装荷した。このうち、コア燃料としてプルトニウム239など核分裂性の(核分裂して燃焼する)プルトニウムを約800キログラム装荷したと推定される[4]。CFR600は、電気出力がもんじゅの2倍以上の設計であり、核分裂性のプルトニウムが約1.8トン必要となると推計される。また、ウラン燃料をコア燃料とする場合は、約8.6トンが必要であるが、後述するように、高速増殖炉用のウラン燃料は特殊な工程が必要になる。

(2) 中国のウラン濃縮、プルトニウム生産の動向

 上記の必要量と、中国におけるウラン燃料の製造技術、プルトニウム生産動向を分析すれば、なぜ、中国が高速増殖炉用の燃料供給をロシアに依存せざるを得なかったかが見えてくる。

 天然ウラン鉱石は、核分裂し燃料となるウラン235の比率がわずか0.7%で、99.3%は核分裂しないウラン238であり、そのままでは原子力発電の燃料として使用できない。そのため、ウラン235の割合を高めるウラン濃縮工程が必要であり、遠心分離機を滝状(カスケード)に幾重にも重ね、ウラン235を238から少しずつ分離する。日本をはじめ、現在、世界で運転されている軽水炉と呼ばれる原子炉で使用される核燃料は、ウラン235の割合を5%程度まで濃縮したものである。中国は、この原子炉に用いる濃縮ウランの生産量において、世界第4位の地位を占めている(図2参照)。

図2:世界のウラン濃縮シェア(2020年)

ウラン濃縮業界の世界市場シェアの分析」(deallab)などを参照に筆者作成

 しかしながら、高速増殖炉でウラン燃料を用いる場合、燃焼強度を上げる必要があり、ウラン235の濃縮度を20%程度まで高めなければならない。中国のウラン濃縮技術はロシアからの技術移転を土台にしている(写真1参照)が、この技術ではウラン235の濃縮度を20%程度に高めた燃料を抽出することが難しい。

写真1:ロシア製の遠心分離機

TENEX Japan ウェブページ

 その濃縮技術は図3に示すように、濃縮ウランガスの捕集・回収工程において、5%を超える濃縮ウランを回収できない設計になっているのである。

図 3:ウラン濃縮の工程

ウランガス供給 天然ウランガス 六フッ化ウランシリンダ /ウランガス捕集・回収 濃縮ウランガス捕集装置 通常≦5%の濃縮ウランで臨界管理設計 濃縮ウラン回収シリンダ / 劣化ウランガス捕集装置 劣化ウラン回収シリンダ 濃縮カスケード

日本核物質管理学会・岩本友則事務局長提供

 また、このウラン濃縮施設については、中国はIAEAの査察を受け入れ、5%以上の濃縮ウランを製造しないことを証明している。ウラン濃縮は核開発につながる技術であり、ウラン235の割合を90%にまで高めれば核兵器用のウランとなる。5%への濃縮技術を獲得すれば、約90%の高濃縮ウランの製造も理論上可能になる。中国は核兵器国であり、NPTにおいてIAEAによる査察を義務付けられていないものの、ロシアは自らが移転した技術が核拡散に直結しないよう、中国にIAEAの査察受け入れを求めたとみられる。

 こうした事情から、現時点において中国は、高速増殖炉用のウラン燃料を自給できないとみられる。

 プルトニウムに関しては、中国は長年、内陸部にある甘粛省の軍用施設でプルトニウムを生産してきたが、その施設は1987年までに閉鎖されている[5]。民生用プルトニウムについては、IAEA「国際プルトニウム管理指針」への中国自身の申告により、2016年時点の中国の保有量は40.9キログラムとなっている。

表 1:国際プルトニウム管理指針(中国)
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
累積量 13.8 13.8 13.8 13.8 25.4 25.4 40.9
* IAEA「国際プルトニウム管理指針2017年版」を参照に筆者作成

 中国には軍用施設で生産された兵器用プルトニウムが1トン弱保管されていると推定されるが、民生用と合わせても高速増殖炉の初期運転には足りないうえ、兵器用のプルトニウムを増産するために現在保管している兵器用プルトニウムを使用することは、核戦力増強の速度を一度落とすことになるため、中国がこの選択肢を採用するとは考えにくい。

 中国は、高速増殖炉の早期稼働による兵器用プルトニウムの獲得という目的と、現状のウラン濃縮技術およびプルトニウム保有状況を考慮した結果、高速増殖炉の初期運転用の燃料供給をロシアに求めたとみられる。

3. 米国が懸念する中国のプルトニウム増産と核戦力の増強

(1) 高まる米国の警戒感

 中ロの原子力協力の深化に対し、国際社会の警戒は高まっている。2023年3月上旬、米国下院の公聴会において、米国防総省で核兵器や宇宙分野などを担当するジョン・プラム次官補は「ロシアと中国の原子力分野での協力を懸念している」と述べたうえで、その理由として、「高速増殖炉はプルトニウムを回収するものであり、プルトニウムは兵器として用いられるという事実を避けて通れない」と、ロシアによる中国へのウラン供給が中国の核増強につながると証言した[6]。

 今後、中国において、CFR600(2基)が予定通り運転を開始すれば、これだけで年間最大330キログラム超の兵器用プルトニウムを獲得できる。ミサイルに装填する核弾頭1発に必要なプルトニウムを3.5±0.5キログラムと換算すれば、82-110発の核弾頭に相当する。米国の核不拡散の専門家や政策立案経験者で組織するシンクタンク「Nonproliferation Policy Education Center」(NPEC)は、高速増殖炉の技術上の困難を加味し、取り出せる量に幅を持たせたうえで、高速増殖炉によるプルトニウムの年間当たりの生産量と2030年時点の累積について、表2のように試算している。

表 2:高速増殖炉による中国のプルトニウム生産
小型増殖炉(kg) CFR-600(2基、kg) 累計量(kg)
2012-2020 45-46 45-56
2021 5-7 50-63
2022 5-7 55-70
2023 5-7 60-77
2024 5-7 91-164 156-248
2025 5-7 91-164 252-419
2026 5-7 91-164 348-590
2027 5-7 187-337 540-934
2028 5-7 187-337 732-1278
2029 5-7 187-337 924-1622
2030 5-7 192-346 1121-1975
* NPEC「China’s Civil Nuclear Sector : Plowshares to Swords?」を参照に筆者作成

 現在保有しているとみられる分と合わせると、2030年末時点の中国の兵器用プルトニウムの総量は2.9トン±0.6になる。核弾頭830発±210に相当する[7]。冒頭に紹介した米国防総省の「2035年までに1,500発の核弾頭保有の可能性」という分析が、今後の中国のプルトニウム増産見込みと合致しており、ジョン・プラム次官補の警鐘が、単に中ロ接近への警戒だけでないことが分かる。

(2) 核弾頭数の増加がもたらす中国の核戦略の変化

 中国の核弾頭数が1,000発台に達すれば、それは米国やロシアの作戦配備の核兵器数に中国が近づき、やがて追いつくことを意味する。

表 3:世界の核弾頭数(2021年6月現在)
国名 全弾頭数 作戦配備
ロシア 6,260 1,600
米国 5,550 1,800
中国 350 0
フランス 290 280
イギリス 225 120
パキスタン 165 0
インド 160 0
イスラエル 90 0
北朝鮮 40 0
合計 13,130 3,800
* 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)『世界の核弾頭一覧』(2021年度版)を元に筆者作成

 そうなれば、中国の核戦略が変化する可能性がある。

 中国は1964年、核実験に成功して以来、核攻撃に対する最低限の報復能力を持つことで抑止力を確立する最小限抑止政策を志向してきた。具体的には、米国あるいはソ連からの第1撃に耐えて残存した核弾頭により、米ソの大都市への反撃能力を担保する。経済力、技術力で劣る当時の中国の実情に鑑み、第2撃で相手も確実に破壊できる「対称な均衡」ではなく、大都市への反撃力により、相手に核使用を思いとどまらせる「非対称な均衡」だった[8]。

 しかし、世界第2位の経済大国となった中国は核弾頭保有数の引き上げを図るとともに、弾道ミサイルの複数個別目標再突入弾頭(MIRV)化など兵器の近代化を進めている。最低限抑止政策を変更し、米国との間で相互に決定的な打撃を与え合う能力を保有し、勢力均衡を追求し始めた可能性が高い[9]。

4. 中国の核戦略の変化がもたらす影響と求められる対応

(1) 中国の核軍拡が国際社会に与える影響

 中国の核軍拡や核戦略の変化は、軍事上も、核不拡散の観点でも、国際社会に深刻な影響を与え得る。軍事面では、中国が米国との間で「相互確証破壊」を確立できたとの認識に至れば、アジア地域の安全保障問題に対する米国の介入を抑止できると判断し、台湾の武力統一をはじめ、力による現状変更を含めた高圧的な行動を引き起こす懸念がある。

 また、中国の核兵力増強に対するロシアの支援は、米国の核抑止戦略にも影響を及ぼす可能性がある。米国は、米国、中国、ロシアがそれぞれ独立したプレイヤーとして相互に抑止し合うゲームではなく、米国 vs 中国・ロシアというゲームを想定しなければならなくなり、米国の核兵器増強のインセンティブはより高まることになる。すでに米国は、これまで必ずしも積極的ではなかった新型ICBMの開発を進めている。米空軍とNorthrop Grumman社が、老朽化したミニットマン型ICBMの後継として"Sentinel"と呼ばれるICBMの開発を行っており、2023年3月に第1段ロケットの燃焼実験に成功した。

 一方で、現在の米国は核弾頭配備数の急速な増強には消極的であり、核兵器だけでなく他の手段も併用した抑止を行うオフセット(相殺)戦略を取るべきだとする意見も米国内で聞かれる。すでに日本は自らの抑止の努力を日米同盟の中で米国の抑止と統合する方向にあるが、米国がオフセット戦略をとれば抑止の計算はより複雑になり、日米同盟の在り方にも影響を及ぼす可能性がある。

 核不拡散体制への影響も深刻である。NPT第6条は核兵器国に対し、「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を課している。第6条遵守を求める非核兵器国の声に反し、核兵器国が核軍拡に動けば、NPTを離脱する締約国が増え、NPTを基軸とする世界の核秩序が大きく崩れる恐れがある。

(2) 日米、および国際社会が取り組むべきこと

 それでは、日本および国際社会はこの状況にどう対応すべきだろうか。

 2022年末に閣議決定された日本の国家防衛戦略は、まず、米国との抑止力強化の取り組みを訴えている。日米安全保障条約の実効性を高め、日米共同で抑止力を強化する取り組みを行い、中国の力による現状変更を阻止する狙いである。

 同戦略は同時に、「大量破壊兵器等の軍備管理・軍縮及び不拡散についても、関係国や国際機関等と協力しつつ、取組を推進していく」と表明している。この方針に沿い、日本は、唯一の戦争被爆国としてNPT体制の信頼性を維持する方策を提唱すべきである。米国の同盟国として、米国およびロシアに対して軍備管理条約を維持するよう求めるとともに、隣国として中国に軍備管理条約の重要性を訴えるべきである。米国と中国が軍備管理に関する話し合いを開始すれば、核の透明性を高め、地域の安全保障環境の改善につながる。

 さらに、より具体的な貢献として、原子力の民生利用を核兵器開発にリンクさせない監視技術など、日本が培ってきた技術の導入を呼びかけることも重要である。日本は核燃料サイクル施設によるプルトニウムの分離と高速増殖炉での再利用を認められた唯一の非核兵器国である。それは、日本が軍事転用可能な核物質を利用するにあたり、IAEAに全面協力し、兵器転用を防止するための監視技術を確立してきたためである。

 中国が発電用として高速増殖炉を活用するのであれば、日本を含む他国が口をはさむ問題ではない。日本の監視技術により、発電利用を国際社会に対して明らかにし、軍事転用を防止することができれば、国際的な安全保障環境の改善に向けた貢献になる。こうした技術も外交の手段として最大限活用しながら、日本は核軍縮・核不拡散の強化に向け、具体的な取り組みを始めるべきである。 日本がこのような取り組みを進めるためには、核軍拡競争を避ける米国のオフセット戦略は望ましいが、抑止の効果を確実なものにするために、日米同盟における日本のさらなる経済的、外交的、軍事的貢献が求められることも理解すべきである。

(了)

1 Office of the Secretary of Defense, “MILITARY AND SECURITY DEVELOPMENTS INVOLVING THE PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA 2022”

2 高速炉の開発は、実験炉、原型炉、実証炉、実用炉と段階的に進められる。実験炉で技術の基礎を確認し、原型炉で発電技術を確立して、実証炉で経済性を見通した上で、商業用の実用炉に至る。

3 “China’s Civil Nuclear Sector: Plowshares to Swords?”, p. 16.

4 日本核物質管理学会・岩本友則事務局長への聞き取り。2023年4月24日。同氏は「もんじゅ」の稼働にあたり、IAEAと査察の在り方などを協議した経歴を持つ。

5 張会(Hui Zhang)「中国のプルトニウム・リサイクル計画-現状と問題点」『New Diplomacy Initiative』2022, Vol15, 1頁。

6 米国防総省ウェブページ「Russia Reportedly Supplying Enriched Uranium to China」2023年3月8日。

7 Office of the Secretary of Defense, “MILITARY AND SECURITY DEVELOPMENTS INVOLVING THE PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA 2021”

8 秋山信将、高橋杉雄『「核の忘却」の忘却の終わり~核兵器復権の時代』勁草書房、2019年6月、73-92頁。

9 “MILITARY AND SECURITY DEVELOPMENTS INVOLVING THE PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA 2020”, pp.85-86.

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