問題意識・目的
 本プロジェクトは今後の国際システムが、経済面における諸国家の経済システムの<統合>と、安全保障面における利益の再配分をめぐる<対立>という、二つの大きな潮流によって特徴づけられていくのではないか、という基本的な作業仮説から出発しました。経済の次元では、市場経済と自由貿易を基調とした統合のプロセスを維持しようと志向する国々が、共通の土俵の上で競争することが予想されます。一方安全保障の次元においては、そのような競争から生じる経済力の分布の変化が地域的な軍事バランスの変動を引き起こし、とりわけ台頭が顕著な国々が安全保障上の利益の再配分、さらには各種ルールの変更を他の諸国に求め、国家間関係の緊張が高まることも予想されます。
 
 こうした趨勢にある国際環境に適応し、日本の安全を保障するための政策が、超党派の合意に支えられ、十分な国家資源を投じられていれば、日本の安全保障上の利益を広範にわたって独自に守るような内容になりえます。しかし残念ながら、現下の日本の状況は、少子高齢社会に突入したことなどによる社会保障予算の増大や巨額の政府債務残高といった国家的課題に直面するのみならず、それらの解決を困難にする「政治の融解」とでもいうべき政治状況に置かれています。
 
 変容する国際環境と安全保障資源が制約されていく国内状況という内外の構造的な条件の下で日本の安全保障を考えるとすれば、まず国際場裏における自らの生存や影響力の拡大にとって不可欠となる安全保障上の「利益」の分布構造にまで遡って「脅威」概念を再構築する必要があります。そのうえで、限られた安全保障資源を日本の防衛力にどう配分するか、そしてわが国の防衛力だけでは守りきれない利益をアメリカとの同盟及びわが国の外交によっていかに守るのかを明確にしなければなりません。
 
討論の様子

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