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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第434号(2018.09.05 発行)

生物多様性条約のもとでの海洋生物多様性の保全

[KEYWORDS]愛知目標/EBSA/サンゴ礁
生物多様性条約事務局アソシエイトエキスパート◆柳谷牧子

生物多様性条約のもとで愛知目標の達成に向けた取り組みが行われるが、さまざまな事象が複雑に絡んでいるため、状況はけっして進展しているわけではない。
その達成のための取り組みをさらに加速させるためには、多種多様なレベルの関係機関が協力して総合的にアプローチしていく必要がある。

生物多様性と生物多様性条約

生物の多様性とは、すべての生物の間の変異性であり、種内の多様性、種間の多様性そして生態系の多様性から成る。人類の暮らしは、生物多様性を基盤とする生態系から、食料や水、気候の安定、多様な文化など、さまざまな恵みを享受しており、人類の生存にとって、健全な生態系の維持は必要不可欠なものである。
しかしながら、とりわけ産業革命以降、人間活動が及ぼす生態系への影響は深刻な状況となっている。熱帯林の減少はかつての予想以上に進み、砂漠化は進行し、野生生物の絶滅もかつてないスピードで進行した。このような事情を背景に、既存の国際条約(希少種の取引規制や特定の地域の生物種の保護を目的とするワシントン条約や、湿地の保全と賢明な利用を目的としたラムサール条約等)を補完し、生物の多様性を包括的に保全し、生物資源の持続可能な利用を行うための国際的な枠組みを設ける必要性が、国連等において議論されるようになった。専門家会合における検討、政府間条約交渉会議における交渉を経て、生物多様性条約(CBD)は1992年に採択され、その翌年に発効した。現在、196の国と地域が本条約の締約国となっている。
本条約の目的は(1)生物多様性の保全、(2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用、(3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分の3つであり、これらを達成するため、本条約には先進国の資金により開発途上国の取り組みを支援する資金援助の仕組みと、先進国の技術を開発途上国に提供する技術協力の仕組みがあり、経済的・技術的な理由から生物多様性の保全と持続可能な利用のための取り組みが十分でない開発途上国への支援が行われることとなっている。

戦略計画2011-2020と愛知目標

生物多様性条約の最高決定機関である締約国会議(COP)は、2年に1度の頻度で開催される。第10回締約国会議(COP10)は愛知県の名古屋市で2010年に開催された。このCOP10は2020年までの新たな国際目標を議論する極めて重要なCOPであり、議長国日本の尽力もあり、「戦略計画2011-2020」が採択された。この戦略計画はビジョン、ミッション、個別目標の3つから構成されている。ビジョンは中長期目標であり、「2050年までに、生態系サービスを維持し、健全な地球を維持し全ての人に必要な利益を提供しつつ、生物多様性が評価され、保全され、回復され、賢明に利用される」ことで合意された。
ミッションは短期目標であり、「2020年までに、回復力があり、また必要なサービスを引き続き提供できる生態系を確保するため、生物多様性の損失を止めるための効果的かつ緊急の行動を実施する。」と定められた。そしてその個別目標として20の愛知目標が決定された。この愛知目標において、とくに海洋に関わりが深いとされるのは、目標6、目標10、目標11の3つである(表1)。
生物多様性条約事務局(SCBD)は、生物多様性戦略計画2011-2020 および愛知目標の達成状況および今後の達成見込みについて分析した中間評価報告書『地球規模生物多様性概況第4版(GBO4)』を2014年に公表した。これによると、先の3つの目標については、目標6や11については進捗が見られるものの、目標10についてはむしろ状況は悪化しているという、大変厳しい結果が示された。

海洋の生物多様性保全に向けた取り組み

■図1 記載されたEBSA

愛知目標に加え、生物多様性条約では、COPでの決定に基づき、海洋の生物多様性保全にまつわるさまざまな取り組みが進められている。その内のひとつが、生態学的・生物学的に重要な海域(EBSA)の記載である。これは、COP9で採用された7つの基準、①唯一性または希少性、②種の生活史における重要性、③絶滅危惧種または減少しつつある種の生育・生息地、④脆弱性、感受性または低回復性、⑤生物学的生産性、⑥生物学的多様性、⑦自然性を基本としてこれらに合致する海域を記載していこうとするもので、日本が設立した生物多様性日本基金の支援もあり、大方の海域で記載を完了した。現在は、この記載されたEBSAをどのように更新していくのか、ということが議論の焦点となっており、11月に開催されるCOP14でそのプロセスが決定されることが想定される。
その他にも、海洋保護区に関連する議論として、保護区として登録されたものではないものの、有効な地域型保全手段(OECM)として考えられる地域に関する専門家会合が、今年2月に開催された。会合の結果は、7月2〜7日に開催された科学技術助言補助機関(SBSTTA)の第22回会合にて議論され、OECMの定義や基準などの案が整理された。これらについては、COP14にて更に議論され、最終決定されることとなる。
漁業関連では、Regional Sea Organization およびRegional Fishery Bodyの間での情報共有・協働の推進をSCBDが進めており、今年4月にはこのための会合、持続可能な海洋イニシアティブ(SOI)のGlobal Dialogue がソウル(韓国)で開催され、各地域の海洋関係機関の対話と協力を推進するためのロードマップが作成された。
サンゴ礁保全関連では、SCBDによる普及啓発のためのビデオ作成、地域ワークショップの開催等が進められているが、本課題のようにさまざまな事象が複雑に絡んで生じる達成のためには、多種多様なレベルの関係機関が協力して総合的にアプローチしていく必要があり、ここに難しさと目標達成に向けた可能性があるだろう。
愛知目標の達成に向けた取り組みを加速するとともに、2050年のビジョンを達成するにあたっての新目標の設定に関する議論も始まっており、生物多様性をとりまく国際的な議論が活発になっている。現場での保全の取り組みを実際に支え、動かすことのできる、実効的で効果的な国際社会の取り組みが求められている。(了)

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