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第73回 2025/06/23

ウクライナのドローン攻撃と日本に対するインパクト
―今日のウクライナは、明日のインド太平洋―

山本勝也(戦略・抑止グループ長)
福田潤一(安保・日米グループ主任研究員)

はじめに

 202X年Y月Z日、日の出までまだ間のある夜明け前

 朝一番に横浜港コンテナ埠頭への接岸を目指すコンテナ船「〇〇丸」が浦賀水道航路を北上している。浦賀水道航路は1日500隻以上の船舶が輻輳する世界有数の過密海域である。「〇〇丸」は日本企業が運航するパナマ船籍の船舶であり、日本人船長のほか10数名の多国籍船員で運航されている。

 右には富津岬が見え、左にはまだ暗い横須賀の町並みが浮かんで見えてきた払暁、間もなく浦賀水道航路を抜けて、横浜港へ向かう「〇〇丸」の船橋では、久里浜沖で乗り込んできた水先案内人と船長が横浜港への針路変更に備えて、航路内外の他の船舶の動きに細心の注意を払い、一等航海士は接岸後の諸作業の最終確認を、また広い甲板上では、甲板員たちが入港に備えた接岸準備作業をあわただしく始めている。

 まさにその時、コンテナが幾層にも積み重なったその最上部にある数十のコンテナの上部が静かに開き、そこから吐き出された無数の小型ドローンは航路を越えると水面ぎりぎりを低く静かに西に向かって飛んで行った。「〇〇丸」の乗組員が誰ひとり気づかないうちに...。

 無数のドローンが目指すその先には米海軍の空母や海上自衛隊の主力艦船が多数停泊する横須賀港が広がっていた。

 上記は、6月1日にウクライナによってロシア各地で実行され、世界を驚愕させたドローン攻撃から学んだ筆者らが、日本を舞台に起こりうる仮想シナリオとして例示してみたものである。

 6月1日の作戦は、ウクライナ保安庁(SBU)によってロシア国内に運び込まれた多数の小型ドローンがロシア空軍基地四か所を攻撃、戦略爆撃機や早期警戒管制機を含む多数の航空機に損傷を与えたというものである。この攻撃は長距離航続能力を持たない小型のドローンでも使用方法によっては他国に戦略的な打撃を加え得ることを示しており、対ウクライナ侵略におけるロシア軍の作戦能力を大きく棄損したばかりか、今後の戦争の姿を一変させ得る可能性すら秘めたものとすら言える。

 今回の作戦の詳細をウクライナ政府が公表したことで、同じ作戦が再び行われることは困難である。しかし「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」と言われるように、類似の、そしてバージョンアップした戦術や作戦が今後、世界の各地で繰り広げられることになるだろう。本稿はこのドローン攻撃が日本にとってどのような含意を持つのかを考察したものである。

1.6月1日にロシアで起きたこと

 ウクライナの発表によれば、SBUは多数の一人称視点(FPV)ドローン[1]を不特定の時期にロシア国内に輸送し、貨物コンテナの屋根部分にドローンを偽装する形で格納し、これをロシア空軍基地の近くまでトラックで輸送して、遠隔操作でドローンを発進させて攻撃を行った。全部で117機のドローンがコンテナから発進し、イルクーツク州のベラヤ空軍基地、ムルマンスク州のオレニャ空軍基地、リャザン州のディアギレヴォ空軍基地、イヴァノヴォ州のイヴァノヴォ空軍基地を攻撃した(なお、アムール州ウクラインカ空軍基地も標的であったとみられるが、ドローンを積載したトラックが爆発して失敗した模様)。その結果、A-50早期警戒管制機やTu-95及びTu-22M3戦略爆撃機等、多数のロシアの戦略用途の航空機41機が攻撃され、ロシアに約70億ドルの損害が生じたという[2]。ウクライナはこの攻撃を「蜘蛛の巣(Павутина)」作戦と称し、後日、攻撃を行ったドローンによる空撮映像を公表している(同じ発表では被害を与えた航空機として上記のほかTu-160戦略爆撃機、An-12輸送機、Il-78空中給油機を加えている)[3]。

 その後の報道によれば、ウクライナのドローン攻撃が与えた損害は10~13機の完全破壊を含む40機の損傷であるとやや下方修正される形で分析されているが[4]、それでも損傷を受けたTu-95やTu-22M3等はもはやロシアでは生産されておらず、修理に多大な困難を要すると見られる点、そしてこれらがロシアの核戦力の「空」の柱の一角を成しておりその戦略核戦力を重大に棄損するものという点において、今回の攻撃でロシアが被った被害は戦略的なレベルで甚大なものであったと評することができる。

2.何が画期的なのか

 この攻撃がロシア・ウクライナ間の戦争に与える影響が注目されているが、軍事専門家の間ではそれに留まらず、今後の戦争の姿を一変させ得る重大な示唆を持つ攻撃という見方が強まっている。この攻撃が如何に時代を切り拓くような(epoch-making)画期的なものであるかについて以下にまとめる。

(1) 短い航続距離の小型ドローンで戦略的な打撃を加えた。

 ウクライナの攻撃対象となったロシアの空軍基地は広範囲に分散している。そのうちディアギレヴォ空軍基地はロシア・ウクライナ間の国境から約460km、イヴァノヴォ空軍基地は約760km離れており、これらは既存の長距離航続能力を持つドローン攻撃の対象として想定し得る範囲内の距離であった。しかしオレニャ基地は約1,800km、ベラヤ基地に至っては約4,300kmも離れており(攻撃失敗のウクラインカ基地は約5,900km)、このような戦略的縦深性のある基地が攻撃されたことは世界の観察者に衝撃を与えた。しかも、その縦深性の克服が長射程のミサイルやドローンによって行われた訳ではないことが更に驚きであった。下記に述べるように、それはロシア国内への秘密工作を通じ、偽装した貨物コンテナを民間の輸送手段に運ばせる形で行われたのであり、このような攻撃が可能であるとすれば、もはや戦略的縦深性に守られた軍事拠点の「聖域化」は幻想であると言えるほどの衝撃である。

図:筆者作成、Google Map

(2)偽装した貨物コンテナを民間の輸送手段に運ばせる形で攻撃した。

 この攻撃が偽装した貨物コンテナ(「移動式住宅」ともされる)を民間の輸送手段に運ばせる形で行われたことも衝撃的であった。ウクライナのゼレンスキー大統領が公表するところでは、この作戦は18か月の時間をかけて行われた。SBUはまず多数のドローンをロシアに輸送し、次いでそれらを貨物コンテナの屋根部分に偽装する形で格納した。

 そして、それらコンテナをロシアの民間の輸送手段を活用する形で運搬した。ゼレンスキーはABCニュースのインタビューにおいて、ドローンを運んだのはロシアのトラック運転手であり、「彼らは何も知らなかった」と述べている[5]。すなわち、SBUはドローンの輸送に関しては単にロシアの民間業者に委託し、貨物コンテナを必要な時間に必要な場所に運ばせただけなのであろう。そして遠隔操作で攻撃を実施した訳である。つまり、攻撃に用いられたプラットフォームとその操縦者は無関係の第三者でさえありうるということだ。

 攻撃が偽装した貨物コンテナを用い、民間の輸送手段を活用する形で行われたことは、ロシアにとって単純な空軍基地への打撃以上の意味がある。ロシアはこの攻撃の後、全国規模での貨物トラックの大規模検査を開始したという。民間の貨物コンテナにこのようなドローンが隠されている可能性が否定できなくなったからである。結果として幹線に大きな渋滞が生じ、商業活動の停滞を招いたとされる[6]。今回のウクライナの軍事作戦は、ロシアに対して国内の一般的な流通網の信頼性や安全性を根底から洗い出させる必要を生じさせたとも言えるのだ。

 作戦上の見地からは、こうした検査活動によって同種の作戦を再び実行することは困難であると見込まれるが、同時にロシアはほぼ恒久的に検査のための商業活動の停滞を甘受せざるを得ず、そのこと自体がロシアに対する重大な費用賦課(cost-imposition)となるであろう。

 加えて言えば、ドローンの誘導が近場の見通し線内から、もしくは衛星通信を利用した誘導ではなく、ロシア国内の携帯電話ネットワークとAIによる自律誘導を組み合わせた形で行われたらしきこと[7]も特筆に値する。このような民間の通信ネットワークを使った攻撃の阻止には広域なネットワーク遮断が必要となる可能性があり、このことも攻撃を受ける側にとって重大な費用賦課となり得るものであろう。

(3)小型ドローンによる群集(スウォーム)攻撃への対処が難しいことを改めて示した。

 ウクライナが公表した映像[8]を見ると、ドローンは空軍基地から約6km程度のごく近距離で発進し、攻撃を加えているものと見られる。そしてロシアはこうした奇襲的な低高度飛行のドローン多数の襲撃にほぼ有効な対応を採ることができなかったように感じられる。ドローンに対する積極的な発砲や妨害措置等の取り組みが見られず、ドローンには低速でホバリングして攻撃目標を選定するような余裕も感じられる。つまりロシアは完全に不意を打たれ、なす術もないまま攻撃を一方的に受けたという状況だったのだろう。

 このことはドローンによる攻撃への対処の難しさを改めて示している。特に防空レーダーに引っ掛からず、近距離から低空を多数で飛行してくる群集(スウォーム)攻撃に従来の軍事プラットフォームが如何に脆弱であるかをよく示している。本来、このような攻撃には低空探知用のレーダー及び対空機関砲又は電子的妨害装置等の組み合わせが必要であるが、ロシアはそうした備えをしていなかった。他方で他の映像では航空機の上にタイヤを敷き詰めているような取り組みが見られ、これは対ドローン用とも言われるので、ロシアとしてもドローン攻撃の可能性を無視していた訳ではなかった可能性がある。しかし機体を露天で駐機させていた点を含め、結局はロシアのドローン対処は甘すぎたと言うべきであろう。

 ウクライナが使用したドローンが極めて小型だったにも関わらず、多くの航空機に無視できない損害を与えている面も注目される。これは燃料や兵装に引火して被害が拡大した可能性が考えられるが、小型でペイロードの小さいドローンでもやり方次第では装備や施設に深刻な打撃を与えられる可能性を示唆している。

3.日本が想定しておかなければならないこと

 ドローンが現代の軍事作戦に及ぼす影響は、2020年9~11月のアゼルバイジャン・アルメニア間の戦争で、アゼルバイジャンがバイラクタルTB-2をはじめとするトルコ製の無人機を多数活用してアルメニア側の車両を撃破したことで特に注目されるようになった。その後、ロシア・ウクライナ間の戦争においてドローンは日々の戦闘から戦略目的の長距離攻撃に至るまで広範かつ日常的に使用されるようになり、現代戦において既に当たり前の存在になっている。それでも2025年6月のウクライナによるロシア空軍基地へのドローン攻撃は、以下の点において戦争の新たな時代を切り拓くものであると言える。

 すなわち、①短距離飛行の小型ドローンでも戦略攻撃が可能であることを示した点、②民間輸送に偽装した秘密工作の形でこの種の作戦遂行が可能であることを示した点、そして③既存の軍隊のレガシー・プラットフォームをこの種の攻撃から防護することが極めて難しいことを実際の事例で示した点、の三点において、である。ロシアはおそらくドローン攻撃の可能性を無視していた訳ではなかったが、それでも結果的に多くの戦略用途の航空機を喪失するという大打撃を甘受せざるを得なかった。

 そして同じことは他の紛争においても起こり得る。既に6月13日に発生したイスラエルによる対イラン攻撃でも、イラン領内に持ち込まれたイスラエルの自爆ドローンがイランの防空網を含む戦略目標を攻撃した事案があった[9]。そのため日本にとって、この出来事が近い将来どのような含意を持つかの検討は不可欠である。下記に述べるように、日本はとりわけこの種の攻撃には脆弱な面が否めない。対策の検討は急務であろう。以下に、日本がこの攻撃から学ぶべき含意について述べる。

(1)小型ドローンによる攻撃が戦略攻撃となり得る可能性を認識すべきである。

 従来の日本は主にミサイルや航空攻撃の脅威への対処を念頭に置いてきた。そうした攻撃は、例えば航空基地の破壊を通じて航空戦力を無力化したり、港湾ないしは水上艦艇そのものを破壊して海上戦力を無力化したりといった効果を企図したものとなることが懸念されていた。それと同時に、サイバー攻撃まで含めた攻撃が電力や通信、輸送といった重要インフラの機能を阻害することが懸念されてきた。したがって、ミサイル防衛や反撃能力の充実に加え、サイバー防衛能力の向上にも努めている訳であるが、今後はこうした懸念に加え、短距離飛行の小型ドローンもこれらの戦略的な効果を発揮し得る攻撃手段として活用される可能性を想定しなければならない。そしてもはや戦略的縦深性といった概念が意味を失っている現実も直視せねばならない。そもそも自衛隊や米軍の基地など防衛拠点のみならず日本には天然の戦略的縦深性は存在しないに等しい。

 短距離飛行の小型ドローンだからそうした攻撃に活用されることは考えられないといった幻想は今や過去のものとなった。開かれた社会である日本は幾らでもウクライナと同様の手法で攻撃用のドローンを国内に持ち込まれてしまう危険性がある(あるいは国内調達のドローンをそうした手段に改造されてしまう可能性もある)。後程詳述するが、そうしたドローンは簡単に戦略的な攻撃手段に利用され得る。海自基地の水上艦艇は極めて脆弱であり、ドローン単機でもレーダーや兵装を破壊されて無力化され得る。空自基地の航空機も同様で、露天駐機の機体は簡単に標的にされて破壊され得る。レーダー施設に関しても同様だ。重要インフラにも類似の脆弱性があろう。政府や自衛隊等の要人が個人の単位で斬首作戦(decapitation strike)の標的となることも考えられる。衛星の活用を含む通信ネットワークの充実と、AI技術の発展によるドローン操縦の自律化が、こうした傾向に拍車をかける。現在の日本社会は単に長射程のミサイル攻撃や航空攻撃のみならず、この種の攻撃にも極めて脆弱であることを、まずは自覚せねばならない。そのうえで対応を考える必要がある。

(2)民間の輸送手段に偽装した形で攻撃が行われる可能性に備えねばならない。

 国際人道法は戦争における戦闘員と非戦闘員の区別を明確な形で設けることを前提とする。そして戦闘員に対する攻撃は認められても、非戦闘員への攻撃は認められないのが原則である。しかし現代の戦争では残念ながらこれらの区別は次第に曖昧になりつつある。特に中国は『孫子の兵法』用間編からの伝統で諜報・工作活動を重視する傾向にあるほか、近年では「軍民融合」や「超限戦」等の思考に基づき、軍民や平時・有事の境を越えた戦争=政治目的の達成のための活動遂行を躊躇わない。

 結果的にウクライナが実行したような、民間の輸送手段に偽装した形での攻撃が平時・有事を問わずに行われる可能性を日本として無視する訳にはいかない。日本の物流ネットワークがロシアのトラック運転手のように全く気付かない形で攻撃手段の運送に使われることは考え得るし、いわゆるサプライチェーン上のリスクといった形でその種の攻撃が行われることも考え得るであろう[10]。中国が日本を攻撃しようと意図すれば、貨物船などの民用船舶や航空機をその種の攻撃手段として用いることも想定の範囲内としておかねばならない[11]。ただし、今回のウクライナの作戦を見れば、プラットフォームとなる車両や航空機、船舶及びその操縦者たち関係者は作戦とは全く無関係な第三者であり、必ずしも動員された中国人や企業[12]である必要すらない。

 冒頭の仮想のように検疫・通関前の船舶から、あるいは領海外を航行する無関係の第三者である外航船舶から米軍や自衛隊の基地、発電所などの重要施設、首相官邸や主要な政府施設を攻撃するなどといったことは決して荒唐無稽なシナリオではない。

 民間の輸送手段を利用した攻撃を防ぐには、基本的にはサプライチェーン・リスクをしっかりと管理すると共に、国内に持ち込まれる貨物に対する検査体制を充実させる以外にはない。しかしそのためのコストは膨大なものとなる。日本には台湾や香港を含む中国方面から週に約290隻のコンテナ船が来航する[13]。また東京港だけで年間2,183,795TEU[14]のコンテナが国外から輸入されている[15]。全ての貨物を満足いくまで検査することは不可能である。しかし一つの見落としがあればテロと同様、戦略的な衝撃を伴う攻撃を阻止できない可能性が残る。民間に偽装した攻撃の阻止は国内に持ち込まれた後のみならず、冒頭の仮想のように入国前、接岸前の船舶では検査することさえ難しい。

(3)自衛隊基地や重要インフラを適切な方法で防護する手段を見出さねばならない。

 日本はドローン攻撃に対しては従来も現在も脆弱なままである。本来厳重に防護すべき自衛隊基地や(政府施設を含む)重要インフラでさえ例外ではない。懸念される事態も実際に起こっている。2015年4月の首相官邸無人機落下事件では、官邸屋上に放射性物質を搭載したドローンが落下したが、政府は何ら有効な対策を打てなかった。2024年3月下旬に発覚した護衛艦「いずも」上空ドローン飛行事件では、ドローンが撮影した映像が公開された後もその真偽を巡る論争が起き、そもそも実際の飛行があったのかどうかが長らく決着しなかった(その後、5月になってようやく「本物の可能性が高い」となり、撮影者の中国人の存在も明らかとなって実際の飛行があったことが確定した)。

 現行の「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」(小型無人機等飛行禁止法)は、防衛関係施設を含む重要施設の周囲概ね300mの範囲での小型無人機等の飛行を禁止するが、上記の護衛艦「いずも」上空ドローン飛行事件では、海自はそもそも飛行の事実そのものに気づいていなかった。探知できなければ迎撃や阻止ができるはずもないが、探知できていたとしてもその時点で迎撃・阻止の手段もなかった。しかしもしドローンが攻撃手段として利用され、OPS-50レーダー[16]など各種センサーを損傷したり、飛行甲板を破壊したりしていたら、「いずも」は修理のため長期間無力化されてしまった可能性が高い。同様の事態はその他のイージス艦や護衛艦、潜水艦等にも起こり得たであろうし、米海軍の艦艇に影響が及ぶ可能性も考えられた。

 自衛隊、そして重要インフラまで含めれば、日本政府全体は、早急にドローン阻止の実践的対処法を確立しなければならないが、その道は険しい。大きな問題の一つは自衛隊の基地等が十分な緩衝地帯がないまま余りに民間施設と近接していることである。緩衝地帯が不十分なら如何に迎撃システムがあっても反応時間が限られる恐れがある。あるいは早期に探知できても、民間区域への被害を恐れて迎撃を躊躇うことにもなる。基地の防護と民間の付随的被害の回避を天秤にかける必要が出てくるであろう。群集攻撃ならばリスクはますます高くなる。

 この問題の克服は難しいが、それでも自衛隊基地や重要インフラ等は、まずは区域とその周辺におけるドローンの侵入を探知する有効なシステムを構築しなければならない。低空探知用のレーダー導入が考えられるが、監視を24時間365日ヒトがやるのは困難なので、AIによる自動識別機能を搭載した全周カメラ等も活用する必要がある。そしてこれと迎撃システムを接合する必要がある。

 だが、どのような迎撃システムが望ましいかは検討の余地がある。ドローン捕獲用のドローンは安全だが、群集攻撃に対処できない。艦艇搭載用の近接武器システム(CIWS)のような装置は強力だが区域外への弾丸の危険性がある上、無数のドローンによる群集攻撃に装填弾数が足りるのかはなはだ疑問が残る[17]。小型のレーザー迎撃システム[18]は有効だが、撃ち落としたドローンが付随的被害を招かないか懸念がある。指向性の高出力マイクロ波(HPM)迎撃[19]も有効と見られるが、やはり近隣への付随的被害は気にかかる。基地や施設と近隣の民間施設の間に十分な緩衝地帯が取れない日本の事情の下では完全な迎撃システムはなく、便益とコストやリスクのバランスを総合的に判断するしかないであろう。なお、上記は迎撃システムを念頭においた記述だが、それ以前に航空基地のような施設では、露天駐機を極力避ける、堅固な格納庫に機体を収容する、といった受動的な防護も必要となろう。これらの対応を既存のミサイル防衛の枠組みのみならず、対ドローン防護の視点でも充実させねばならない。

 いずれにせよ、ドローン対処のシステムは、低空を大量に飛行してくる群集攻撃に対処可能なものでなくてはならない。こうした判断を現場に委ねることには無理があり、あらかじめ政治が一定の方針を定めておく必要があることは言うまでもない。そして探知から迎撃へ至る一連のプロセスは、水上艦艇におけるCIWSと同様に、高度に自動化・自律化されていなくてはならない[20]。こうした迎撃を可能にするための指揮統制やドクトリンの整備も必要である。そして何より、基地や重要インフラ等の周辺の「地元」の理解を得ることも不可欠となるであろう。

おわりに

 ウクライナのロシア空軍基地に対するドローン攻撃は、今後の戦争の姿を一変させる可能性を持つ画期となった。しかし同時にそれは、開かれた社会においては民間の輸送手段を活用する形で小型ドローンによる戦略攻撃が行われる可能性がある、という脆弱性の警告を伴うものでもある。海洋に囲まれた島国の日本にとって、海洋は外界からの脅威を防ぐ堀であると同時に、誰もが容易に近づくことのできるアクセスルートでもある。

 日本は従来、ミサイル防衛や反撃能力の充実、サイバー防衛能力の向上を通じてそうした備えを進めてきた経緯があるが、それだけでは不足している。小型のものを含むドローン攻撃の可能性について認識を新たにし、民間の輸送手段に偽装した形で攻撃が行われる恐れを自覚した検討を行い、そして自衛隊基地や重要インフラ等を守るために最適な対ドローン防護システムを構築しなければならない。それは自衛隊だけの取り組みではなく、政府全体、ひいては社会全体の取り組みを要することである。

 繰り返しとなるが、現代の戦争が社会のありとあらゆる要素を攻撃の手段として活用するという本質から目を背けることは許されない。今回は偽装コンテナと民間の輸送手段が攻撃の手段として使われた。しかし社会の脆弱性はそれ以外にも豊富にある。どのような手段が攻撃を受ける側にとって不意打ちとなる形で活用されるのか、「考えられないことを考える」姿勢が必要になる。社会の全ての要素を戦争のレンズを通して捉え、どこに脆弱性があるのか、それをどう是正できるのか、予め考えて備えておくことが今後の国家に求められる基本姿勢となるであろう。

1 FPV(First Person View)ドローン:一般的なドローンと異なり、ドローンから見た視点の映像を操縦者が、まるで有人機に搭乗して操縦しているかのようにリアルタイムで見ながら遠隔で操縦することができるドローン。

2 “Russian Offensive Campaign Assessment, June 1, 2025,” Institute for the Study of War, June 1, 2025. [https://understandingwar.org/backgrounder/russian-offensive-campaign-assessment-june-1-2025]

3 “SSU releases unique footage of special operation ‘Spider Web’ hitting 41 Russian strategic aircraft (video),” Security Service of Ukraine, June 4, 2025. [https://ssu.gov.ua/en/novyny/sbu-pokazala-unikalni-kadry-spetsoperatsii-pavutyna-u-rezultati-yakoi-urazheno-41-viiskovyi-litak-stratehichnoi-aviatsii-rf-video]

4 “Ukraine’s ‘Spiderweb’ operation damaged 40 Russian aircraft, destroying at least 10–13, senior NATO official says,” Medusa, June 4, 2025. [https://meduza.io/en/news/2025/06/04/ukraine-s-spiderweb-operation-damaged-40-russian-aircraft-and-destroyed-10-30-senior-nato-official-says] なお、これはNATOの見積もりだが、米国防総省の見積もりでは20機が被弾、うち10機前後が破壊と更に限定的に見積もっている。” Exclusive: Ukraine hit fewer Russian planes than it estimated, US officials say,” Reuters, June 5, 2025. [https://www.reuters.com/business/aerospace-defense/ukraine-hit-fewer-russian-planes-than-it-estimated-us-officials-say-2025-06-04/]

5 “Zelenskyy says Russian drivers 'didn't know anything' about role in audacious drone attack,” ABC News, June 7, 2025. [https://abcnews.go.com/Politics/zelenskyy-russian-drivers-didnt-role-audacious-drone-attack/story?id=122587358]

6 “Shutting Stable Doors – Blitz on Truck Traffic Post-Spiderweb Disrupts Russian Commerce,” Kviv Post, June 5, 2025. [https://www.kyivpost.com/post/54002]

7 “How Ukraine pulled off an audacious attack deep inside Russia,” Reuters, June 5, 2025. [https://www.reuters.com/graphics/UKRAINE-CRISIS/DRONES-RUSSIA/mypmjzayyvr/]

8 SBUがYouTube上に公表した以下の映像を参照のこと。これはドローンの発進からベラヤ空軍基地上空への攻撃までを示している。 [https://www.youtube.com/watch?v=heUNBIY49Jo]

9 イスラエル情報機関モサドはイラン領内に潜入した工作員がドローンでイランの攻撃目標を打撃する映像を公表している。” Rare footage shows Mossad deploying precision strike systems inside Iran,” ynet news.com, June 13, 2025. [https://www.ynetnews.com/article/ske00wtfqxg]

10 サプライチェーン上の脆弱性が重大な軍事的効果を伴う攻撃の手段として利用された例は、例えば2024年9月にイスラエルがレバノンのヒズボラが調達したポケベルや通信機に爆発物を仕込み、一斉に爆発させることでヒズボラを機能不全にした出来事が挙げられる。ヒズボラ戦闘員はこれで直接的に被害を受けた他、通信手段へのアクセスが容易ではなくなり、その後のイスラエルの空爆で指導者ナスララを失うといった軍事的敗北を喫した。

11 中国の平時からの民用航空機、鉄道、船舶の軍事動員については山本勝也「旧くて新しい中国の軍民融合:民間輸送力の戦力化」CISTEC Journal, No.198, 2023年3月に詳しい。

12 中国では、すべての中国国民、民間企業はもちろんのこと、任意の民間組織などあらゆる組織が、平時有事を問わず国防に関する任務を遂行する義務を負い(国防法第7条)、国防動員は「平時と戦時を結合し、軍と民を結合し、軍を民の中に融けこませることを方針する」(国防動員法第4条)ことが規定されている。

13 国土交通省「日本に就航する外貿定期コンテナ航路便数(便/週)」 [https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001517679.pdf]

14 TEUとは、20フィートで換算したコンテナ個数を表す単位。

15 国土交通省「港湾別コンテナ取扱量(TEU)ランキング(2023年速報値)」 [https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001517676.pdf]

16 OPS-50レーダー:「いずも」型護衛艦に搭載されている対空目標の捜索や航空管制のための多機能3次元レーダー。艦橋構造物上部に座布団の様に貼り付けられているように見える。

17 近接武器システム(CIWS:Close-in weapon system)。迫りくる対艦ミサイルから艦艇を守る最後の防御システム。探知・追尾レーダーと攻撃武器が一体化・自動化されたものが一般的。公表されている毎分約4,000発といった数値はあくまで発射速度であり、装填弾数とは異なる。

18 例えば、防衛装備庁が防衛装備品の展示会「DSEI Japan 2025」に出展した、「車両搭載高出力レーザ実証装置」などが代表的である。防衛省・自衛隊「DSEI Japan 2025への出展について」、令和7年4月15日。 [https://www.mod.go.jp/j/press/news/2025/04/15a.html]

19 例えば、谷口大揮ほか「ドローン・UAS 対処にも適用可能な高出力マイクロ波技術の研究」、防衛装備庁「技術シンポジウム2019発表要旨」p.7 [https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2019/img/ats2019_summary.pdf]

20 基本的にAIの自律に任せるがヒトが介入して止めることができる、という意味の「ヒトがループに乗る(human on the loop)」運用法が想定できる。

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