事業紹介

2012年
事業

スリランカ・ポストコンフリクト宗教者対話

事業概要
スリランカは30年にも及んだ内戦は終結したが、シンハラ・タミルの両民族の分断は依然同国の平和を脅かしている。一方スリランカにおける宗教指導者の有する社会的影響力は大きく、復興に向けて重要な役割を担っている。
本事業は、内戦が最も激しかったスリランカ北東部の12地域を、組織的な指導体制の構築に応じて3つのレベルに分け(フェーズⅠ~Ⅲ)、宗教指導者委員会の設立、若手宗教指導者の育成およびコミュニティ活動(他民族言語教育、異宗教の交流会等)などを通じて、宗教指導者による復興の努力を定着させることを目的としている。
本年度は、前年度までに構築した宗教指導者ネットワークを拡大しつつ、同時並行的により実践的なコミュニティ活動を展開する。このため、フェーズⅠ地区とフェーズⅡ地区では、宗教指導者を対象にしたワークショップなどを通じて、異宗教交流と平和構築への連携を進める。また、フェーズⅢ地区においては、スリランカ北東部地域の復興と安定化を図るためのコミュニティ活動を12地域で実施し、コミュニティ間の相互理解の面的拡大を目指す。
実施計画
3年継続事業の最終年度にあたる本年度は、助成先のセワランカ財団が以下の活動を行う。
  • 宗教者指導委員会の拡充(フェーズⅠ地区)
    シニア宗教指導者対象のワークショップを2回実施し、非暴力手段による地域社会の安定化などについて研修する(各2日間、25名)。
  • 若手宗教指導者の能力向上(フェーズⅡ地区)
    若手宗教指導者を対象に、人間形成や自己成長に関わる研修を1回実施する(3日間、50名)。
  • コミュニティ活動の実践(フェーズⅢ地区)
    • 12地域のシビルソサエティ委員会が中心となり、コミュニティ活動(15件、1件11万円程度)を公募する。
    • シビルソサエティ委員会を四半期に1回実施し、公募されたコミュニティ活動案および事業管理能力を審査した上で同活動を助成する。活動期間中、モニタリングオフィサーが各地域を随時巡回し、活動内容と資金の用途について確認する。活動終了後、監査機能を果たす審査委員会が、資金が適切に執行されたか確認する。
  • 宗教者ネットワーク化に向けた活動(フェーズⅠ、Ⅱ、Ⅲ地区)
    ネットワーク活動を企画・運営するため、主に次の3つの活動を実施する。
    • 宗教指導者委員会全国大会(3回、各25名) 
    • 全体調整会議(2回、各30名)
    • アイランダーセンター全国会議(1回、200名)
コミュニティ活動の理論と実践
●背景
スリランカでは25年以上にわたり、武装勢力タミル・イーラム解放の虎(LTTE)と政府側との間で激しい戦闘が繰り広げられ、内戦状態にありました。2009年5月に政府軍はLTTEを追い詰めて、ついに戦闘終結が宣言されましたが、その後もLTTEの支配下にあった北東部地域は、政府の厳しい監視下に置かれていました。北東部地域で一般市民が集会を開催するには政府の許可が必要で、「スリランカ・ポストコンフリクト宗教者対話」事業の一環として行なう宗教指導者の会議も同地域を離れて実施せざるをえませんでした。

2011年8月、戦闘終結宣言後も続いていた非常事態宣言が解除されました。ようやく平和と安定が軌道に乗ろうとしています。しかし、現地では内戦の傷跡が依然として残され、持続可能な安全・安心な社会作りは緒についたばかりです。本事業では、「コミュニティ活動」と称する地域活動を通して、スリランカの平和構築に貢献しています。
 
生々しい弾痕の残る壁                     地雷原  (*左右の写真いずれも北東部地域)

生々しい弾痕の残る壁                     地雷原  (*左右の写真いずれも北東部地域)

●コミュニティ活動とは
コミュニティ活動とは、過去の内戦を教訓にして、民族(シンハラ人とタミル人)や宗教(仏教、ヒンズー教、イスラム教、キリスト教)間の対立を乗り越えるために、宗教指導者主導によって行われている非営利の地域活動です。いわば持続可能な安全・安心な社会を作るための自立的活動です。

コミュニティ活動は通常、スリランカ政府の目の届かない地域で実施されますが、宗教指導者が案件の企画から実行まで地域住民を支援します。宗教指導者は地域の問題にもっとも精通しているため、コミュニティ活動の予算規模や内容を適切に判断できるのみならず、実施過程における公正性や公平性も保てます。

コミュニティ活動は公募によって決められ、シビルソサエティ委員会の審査を通過した案件に対して、日本円で約10万円前後を援助します。同委員会は、内戦が最も激しかったスリランカ北東部の12地域に、セワランカ財団によって設置された組織です。


シビルソサエティ委員会により案件が認められれば、宗教指導者(または地域住民)とセワランカ財団との間で正式に契約書が結ばれ、承認の証しとして小切手が手渡されます。
 
契約書の締結                               小切手の受領

契約書の締結                               小切手の受領

●コミュニティ活動の実践
-他宗教交流の場としてのコミュニティ・ホール建設
プッタラム県イハラカランベ(Ihalakarambe)村は、道一つはさんで仏教徒とキリスト教徒が住む約350人の小さな農村です。過去、宗教を異にする村民どうしが積極的に交流する姿はほとんど見られませんでした。このため、他宗教交流に取り組んでいる宗教指導者は、その一環としてコミュニティ・ホールを村内に建設することを発案しました。建設にかかる費用は約20万円と見積もられましたが、シビルソサエティ委員会からの援助額だけでは不足するため、残りを村民の寄付で補うことにしました。また、村民は無償で労力を提供し、コミュニティ・ホール建設に協力しました。仏教徒とキリスト教徒が共に汗を流しあって1年をかけて完成させたコミュニティ・ホールは現在、集会場や教育など他宗教交流の場として使用され、地域の支えあいや一体感を生み出す源になっています。
 
コミュニティ・ホール完成を喜ぶ村民

コミュニティ・ホール完成を喜ぶ村民

-心の拠り所としての寺院の再建
ムライティブ県カルヴァッドゥケニ(Karuvaddukkeni)村は、長い間、LTTEによって支配されていました。スリランカ政府軍との激しい戦闘が繰り返され、多くの尊い生命が失われるとともに、村民の心の拠り所としていた寺院も破壊されました。この村ではヒンドゥー教と仏教とが同居し、同じ境内で同一の神像を信奉していました。内戦後、村の復興の第一歩として、村民の精神を唯一支えてきた寺院の再建を目指すことにしました。シビルソサエティ委員会は、特定の宗教に偏らないことを確認したうえで、宗教指導者の願いを認めました。再建された寺院は、壁の無いトタン屋根葺きだけの質素な寺院ですが、ヒンズー教徒と仏教徒は、内戦前のように共生し、中央に安置された神像を熱心に拝んでいます。
 
柱だけ残る旧寺院に隣接して立てられたトタン屋根葺きの新寺院

柱だけ残る旧寺院に隣接して立てられたトタン屋根葺きの新寺院

-民族融和のためのスポーツ交流
ムライティブ県プトゥックディールップ(Puthukkudiyiruppu)地区は、約8割をタミル人が占めており、国内避難民(IDP)の帰還も終了していません。タミル人のシンハラ人への遺恨はいまだ完全に消えておらず民族融和が急がれています。こうした環境下、同地区の中央大学(Central College)では、宗教指導者と協力しながら、スポーツを介してシンハラ人とタミル人の交流を図っています。選ばれたスポーツ種目は、スリランカでもっとも人気のあるクリケットです。また学校長の話では、この地域には民族対立のほかに、カースト制度による差別問題も抱えているため、文化や社会状況に対する相互理解の一助としてクリケットが取り入れられました。シビルソサエティ委員会では、クリケット用具購入のための費用を支援しました。シンハラ人とタミル人の混成チームを編成し、またカースト制度の階層を超えてプレーします。クリケットを通じて、互いに打ち解けて親しくなることが期待されています。
 
銃弾で削り取られた大学の看板

銃弾で削り取られた大学の看板

 
 
実施内容
●宗教指導者委員会全国大会の開催
宗教指導者委員会(RAA:The Religious Action Alliance)は、スリランカの民族・宗教対立の問題解決を図るため、4半期ごとに(*)全国規模で、各地区の宗教指導者が一堂に会する「宗教指導者委員会全国大会」を開催しています。この大会の開催では、内戦の激しかった北東部の平和構築に対して、いかに宗教指導者が貢献できるのか、その役割について議論し、具体的な課題を明らかにすることを目的としています。

*現地の治安や天候、宗教指導者の予定などの状況により、開催時期は変動します。

10月14日、スリランカ北東部のワウニア県(Vavuniya)において宗教指導者委員会全国大会が開催され、4宗教(仏教、ヒンズー教、イスラム教、キリスト教)の代表者24名が参加しました。大会では、各地区の宗教指導者委員会の活動、シニア宗教指導者ワークショップ(7月26日~27日)、笹川平和財団の助成によるコミュニティ活動(6件実施中)など、2012年度上半期の活動状況及び成果についてとりまとめるとともに、下半期の取り組みについて決定しました。

本大会行事の一環として、大会に参加した宗教指導者たちは、ワウニア県および首都コロンボ市に所在する各宗教の寺院を訪問し、異宗教交流に努めました。
 
●2012年度アイランダー・センター全国会議の開催
アイランダー・センター全国会議が、3月26日から3月29日までの間、シンハラ人とタミル人の宗教指導者や市民運動家など414人を集めて、開催されました。この会議は、宗教、民族、思想を越えて、幅広い対話と交流の促進を目的にしたものです。本会議の成果をもとに、これまで構築してきた宗教指導者のネットワークがさらに深化、拡大しました。
 
27日と28日の研修会は、毎朝6時からのSharamanda活動と呼ばれる共同清掃で始まりました。その後、宗教指導者により、他宗教体験セッションが行われました。参加者はヒンズー教の礼拝(Ganesh puja)、イスラム教のお祈り、キリスト教聖歌、読経、ヨガ、瞑想の6種類から自由に選択し、他宗教への理解を深めました。
 
研修会のハイライトであるラーニングセッションは、午前と午後に2時間ずつ設けられました。午前には、肥満予防、スリランカの紅茶栽培の歴史、北部・東部・南部における紛争体験に関する5つのプログラム、午後には有機堆肥、Jeevamurtha(肥料)、ジュース、淡水養殖魚用栄養剤の4種類の製造法プログラムが用意されました。参加者はこれらの中から4つのプログラムを選び、日常生活に必要な知識と技能を学びました。
 
毎夕、研修会の終了後には、各地域で作られた特産品を並べた屋台が開かれ、食品や家庭用品、服飾品などが販売されました。最終日には、最も優れた屋台、食品、雑貨がそれぞれ表彰されました。同時に文化交流行事も行われ、歌や踊り、寸劇などの伝統文化芸能が披露されました。22時までのプログラムでしたが、多くの参加者は夜中まで共に過ごし、親睦を深めました。
 
 
事業成果
紛争が終結したスリランカに和平を定着させることを目的に、北東部の11地域を対象とした宗教指導者委員会の新規設立をはじめ、若手リーダーの育成やコミュニティー活動の実践などを支援しました。宗教指導者委員会の拡充のため仏教・ヒンズー教・キリスト教・イスラム教の各代表者を集め、2012年7月と2013年1月に対話を通じて宗教和解を目指す研修会を2回開催しています。また、若手宗教指導者の論理的思考を高めるための研修も行われました。コミュニティー活動においては、異文化交流と宗教対立の緩和を目的に、20件もの各種活動を行いました。本事業の総仕上げとして3月末には宗教者ネットワーク化に向け、アイランダーセンター全国大会が開催され、414人が参加し、民族の融和を促す活動が行われました。

事業実施者 セワランカ財団(スリランカ) 年数 3年継続事業の3年目(3/3)
形態 自主助成委託その他 事業費 10,715,603円