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【Ocean Newsletter】最新号

第418号(2018.01.05 発行)

米国の海洋空間計画からみた日本のEEZ管理のあり方

[KEYWORDS]海洋空間計画/沿岸域総合管理/排他的経済水域(EEZ)
東北公益文科大学公益学部講師◆樋口恵佳

排他的経済水域(EEZ)を含む海洋空間には、海上輸送、漁業、生態系の保全・復元、海洋生物の生息地保護、安全保障など、多くのセクターが利害関係を持っている。
米国では、地域のさまざまな利害関係者を集めた団体が主体となって、セクター・主体間の利用調整のためボトムアップ形式で「沿岸・海洋空間計画」が作成され、連邦政府の承認・後押しと共に実施が進められている。
日本の沿岸・EEZ管理政策においても、このようなバランスの取れた枠組みが参考になる。

米国の海洋政策と沿岸・海洋空間計画

EEZを含む海洋空間においては、従来の海上輸送や漁業、安全保障に加えて、石油・天然ガスの資源開発や洋上風力発電などの新たな開発が始まり、生態系の保全などの観点も含めて、多くのセクター(分野)が利害関係を持っている。利害関係を持つ主体も一様ではなく、国家、地方政府、地域の人々、産業界などさまざまである。
米国では、地域のさまざまな利害関係者を集めた団体が主体となって、このように輻輳するセクター・主体間で、沿岸からEEZまでの海洋空間を利用するために、「沿岸・海洋空間計画(CMSP; Coastal Marine Spatial Planning)」が作成され、連邦政府の承認・後押しと共に実施が進められている。今回は、このような取り組みに焦点を当ててご紹介したい。

米国の沿岸域管理の歴史

■米国の地域海洋計画区域
(出典:米国海洋大気庁)

米国では、沿岸3海里までの水域は、州が管轄権を有している。この体制の根拠となるのは1972年の沿岸域管理法であり、同法によれば、州が沿岸域の管理計画の策定と実施を主導する。連邦政府はこの計画を承認し、補助金を交付することによって計画の実施を促進させる。この法律による枠組みのもとで、米国の州や地域では、沿岸の環境保全、水質改善、魚や野生動物の生息地保護等のためにさまざまな取り組みが行われてきた。
これらの沿岸水域に関する取り組みは、官民の枠を超えたパートナーシップを作成して行われてきた。例えば1991年にブッシュ政権下で設立された「沿岸アメリカパートナーシップ」は、連邦政府による省庁横断的な協定の形が取られており、個別の沿岸保全プロジェクトに対して複数のステークホルダーが参加している※1
オバマ政権下では、2010年の大統領令に基づき、このような経験を踏まえたCMSPの枠組みが用意された。この結果、海洋空間計画の枠組みは、大規模生態系に基づくことで州の境界を越え、また従来の州管轄水域だった3海里を超え、米国のEEZまで及ぶことになり、9つの計画地域が用意された。ただしこの計画地域の元になった大統領令は、州に対し拘束力を持つものではなく、この枠組みに参加するかは各州の任意である。よってCMSPの枠組みにおいて研究・技術を提供する米国海洋大気庁が述べるように、米国のCMSPは、トップダウンの新たな規制を課すものではなく、地域に促されたボトムアップの計画プロセスである。
このようにして、現在5計画地域において自主的な枠組みである地域計画機関が設立されており、2016年12月には、北東地域海および中央大西洋地域海の2つの計画地域において策定されたCMSPが、国家安全保障会議等と同等の位置に置かれた、米国の海洋政策の実施を監督する統合的組織である国家海洋会議(NOC; National Ocean Council)※2による承認を受け、実施に向けて取り組みがスタートした。この計画地域のうち、以下では北東地域海の「北東地域海洋計画」を紹介したい。

北東地域海洋計画

米国の北東地域(ニューイングランド)6州、連邦に承認されたネイティブアメリカンの6部族団体、9つの連邦機関、そしてニューイングランド漁業管理委員会は、2010年のオバマ大統領による大統領令を受け、2012年に北東地域計画機関を立ち上げた※3
北東地域には、連邦と州との連携や複数州にまたがる地域でのデータ共有などのための機関が同大統領令以前から存在していた。2005年には、ニューイングランドにおける連邦と州との海洋政策連携のための北東地域海洋委員会が設立されているほか、沿岸の州単位ではあるが既に海洋計画の策定が完了していたところもあった。また2010年には、地域の海洋管理に関するデータを提供する北東海洋データポータルが始動している。2012年に設立された北東地域計画機関は、このように活発な地域の自主的な取り組みを補強する形で設立されたといえる。
北東地域計画機関は地域海計画の実施に責任を持つ。同機関は公式に、毎年約2回のペースで「北東地域計画機関会合」を、年1回のペースで「市民会合(public meeting)」を開催し、「北東地域海洋計画」の策定のために、広範なステークホルダーからのインプットを含めた膨大なデータ収集や調整を行ってきた。
ステークホルダーは、上述の「北東地域計画機関会合」「市民会合」への参加のほか、北東地域計画機関が組織する複数の計画プロジェクト(商業漁業マッピングプロジェクトや天然資源の分類プロジェクトなど)への参加、ウェブサイトへの投稿、州諮問機関を通じたインプットを行うことで、地域計画機関による計画策定に寄与することができる。
2016年の12月には、このようにして策定された「北東地域海計画」がNOCによる承認を受けた。これからは、既存の機関との連携、ステークホルダーへのフィードバック、および北東地域計画機関が主要トピックごとに形成するワーキンググループ等のメカニズムを通じて実施されていくことになる。

日本のEEZ管理のあり方

日本のEEZ管理を見ていくと、法律や実施計画、あるいは補助金等の面で、輻輳する海域利用の調整を国がサポートするといった体制は十分に整っていないように思われる。これには、EEZは国連海洋法条約に認められた活動以外については公海と見なされるため、各セクターに紐づいた立法を超え、全分野を包括する立法が難しいという点や、日本には伝統的漁業管理体制が存在しており、国がこのような地域の枠組みに抵触しうるかたちで新たな海域利用の枠組みを策定するのは現実的でないというところもあると考えられる。
米国のCMSPは、地域の沿岸・EEZ管理について、政府が法律と補助金、大統領令という複数の枠組みによりサポートするという形式をとっており、政府機関との連携を達成しつつ、実際の計画策定は地域主導のボトムアップ形式であるという特徴があった。
すべてを地域任せにするのでもなく、完全に既存の体制を排してトップダウンで枠組みを作成するのでもない、バランスのとれた政策として、日本も学ぶところが多いように思われる。(了)

  1. ※1U.S. Commission on Ocean Policy. An Ocean Blueprint for the 21st Century. Final Report. (Washington, DC, 2004) p. 173.
  2. ※2国家海洋会議=米国の海洋政策の実施を監督する統合的組織。国家安全保障会議等と同等の位置に置かれる。
  3. ※3ニューイングランド漁業管理委員会とは、1976年の連邦法に基づいて、連邦の管轄とされる沿岸の3海里から200海里までの海域の漁業資源の保全および管理のために、全国に8つ設立された地域委員会の1つである。また、北東地域計画機関(Northeast Regional Planning Body)には、このほか準メンバーとしてカナダとニューヨークが加わっている。
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