Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第412号(2017.10.05発行)

グローバル化に対応した水産海洋教育 ~焼津水産高等学校が取り組んだSPH事業~

[KEYWORDS]スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)/グローバル化/水産海洋教育
静岡県立焼津水産高等学校校長、全国高等学校水産教育研究会会長◆古木正彦

焼津水産高等学校は、平成26〜28年度には文部科学省研究指定であるスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)事業にも取り組み、漁業・水産業および、水産物流通の高度化・グローバル化に対応した、わが国の水産業界をリードする専門的職業人の育成をめざしている。

焼津水産高等学校について

焼津水産高等学校は、静岡県中部地方の駿河湾西海岸に面した東洋一の遠洋漁業基地として名を馳せた焼津漁港をもつ焼津市に立地している。新焼津漁港は整備され、水深7m岸壁の広大な敷地面積を誇り、500トン級ならば10隻は接岸可能となる水産庁特定第三種漁港にあたる。遠洋カツオ一本釣り漁船が常時水揚げしている。外港では海外巻き網漁船の水揚げ基地として賑わっている。
1922(大正11)年に創立し今年で95周年を迎える伝統校で、地域の水産業界からの強い応援をいただき、就職状況も大変よく地域から愛されている学校である。学科構成として、「海洋科学科」「栽培漁業科」「食品科学科」「流通情報科」の4学科で1学年5クラス体制の200人定員である。学校全体では3級海技士養成施設である専攻科課程を含めると今年度の全生徒数は617人になり水産科単独校としては全国水産海洋系高等学校の中で最大規模を成している。
大型実習船は2009(平成21)年6月竣工の4代目にあたり、559トン型カツオ一本釣り漁船の機能をもつ安全性と快適性を追求した最新鋭の実習船を運航している。この乗船実習の教育効果は絶大であり、実習船で学ぶ海洋科学科の生徒たちは、「海、船、魚」を大海原という大自然の中で実体験できる環境の中で学び、漁船や商船の航海士、機関士、漁業従事者や海洋関連産業の人材として育っている。栽培漁業科は日本一の施設といわれている養殖場を持つ臨海実習場で、淡水および海水魚を中心とした生産実習を展開し、養殖業に就職する生徒も多い。食品科学科では、鮪のツナ缶や海苔のつくだ煮をはじめ、80有余年もの伝統の味である実習製品の製造実習等が充実し、魚介類を使った商品開発研究も盛んであり、地元焼津の食品産業界に多くを輩出している。流通情報科では、生徒による模擬会社「魚国(うおこく)」の運営による実践教育の中で、地産地消および新商品の開発などで地域商店街の活性化に貢献している。
本校は、文部科学省の研究指定を、平成16、17年度は地域の小学校、中学校と交流する「専門高校プロジェクト」、平成18、19、20年度は水産資源を活用した新商品の開発と流通実践を各学科の生徒が課題研究としてまとめた「目指せスペシャリスト」、平成21、22年度は地域産業界、行政(水産庁)、教育界との連携を強化しリーダー的存在としての職業人を産業界とともに養成する「地域産業の担い手育成プロジェクト」、そして平成26、27、28年度のスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)と通算で12年間にわたり先駆的に取り組んできた。
なお、平成22年度には、「第三回海洋立国推進功労者表彰 内閣総理大臣賞」を受賞している。

カツオ一本釣り実習焼津水産高校実習船「やいづ」

スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)事業の展開

本校は昨年度までの3年間、文部科学省研究指定であるSPH事業に取り組んだ。目標は、「漁業・水産業および、水産物流通の高度化・グローバル化に対応した、わが国の水産業界をリードする専門的職業人の育成」とし、内容は、全学科の共通プログラムとして、大手水産会社における就業体験・品質管理の研修や「海外インターンシップ」と銘打ったタイ・バンコクでの食品会社での就業体験はまさにグローバルな教育活動である。あわせてカセサート大学や東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)の視察もおこなった。また、各学科においては、科学技術の高度発展に向けた専門性を高める特徴的な研究に取り組んだ。ここ焼津市の水産加工企業でも国内向け商品から海外向けの商品の輸出に向けて動き出す企業も多くなっている。日本の魚食文化を今こそ大きく発信する時であろう。やがてこのSPHの学習効果が地元企業に還元してくことが期待できる人材になるだろう。それは、生徒たちに新鮮な感動を与え、新しい時代における自らの仕事への関わり方への問題意識を提起することができたからである。

N&N Foods Companyの玄関にて

グローバル化への対応

SPHに続けと、文部科学省主催による産学協働の「トビタテ! 留学JAPAN日本代表プログラム 高校生コース」に応募し、ニュージーランドのフィティアンガ、オーストラリアのケアンズ、カナダのバンクーバー等に渡航した。今年度もクロアチアのアドリア海へ、アメリカのヒューストンへ、再びミクロネシアへとこの夏休み中に飛び立った。また、SPHの継続事業として、学校独自の計画でふたたびタイ・バンコクの食品会社でインターンシップを実施する予定である。静岡県教育委員会の主催では、台湾での海外インターンシップ、短期留学ではオーストラリアのシドニーへ飛び立ち、今年度も再び派遣される。生徒たちは徐々に感化され、私費でも渡航しようという意欲ある生徒たちが増えているのも事実である。このように、本校のグローバル化への対応は、「教育の構造化により定着した」と推定できる。語学を学ぶための海外留学体験もあるが、本校ではプロフェショナル意識の育成のために、海外インターンシップを推奨している。水産海洋教育としてグローバルな視点が必要なことは言うまでもないが、チャレンジ精神を持って未来を切り開くための、多様化への対応力が求められているのである。
また、遠洋航海実習での外地寄港地活動に伴い、台湾国立基隆高級海事職業学校の生徒と本校実習生との交流を深めて3年になる。お互いに海に学ぶ生徒同志としての見識を高め合い、明日の水産と海事に係わる未来ある産業人を目指し、国際的な視野を深めることにつながった。また、昨年度から太平洋のマグロ・カツオ漁業の最前線基地となっているミクロネシア連邦のポンペイ寄港も実現し、現地学生との交流会も実施されるようになった。

台湾国立基隆高級海事職業学校練習船「育英2号」の見学

水産海洋教育の展望

次期学習指導要領の基本的方向性として文部科学省から「身につけた知識・技能をもとに、思考力・判断力・表現力を駆使して、何かを創造していく力を身につける」ための教育が示されている。新しい時代に対応した時代を支える人材の育成という視点で、今後も本校は、グローバル化に対応した水産海洋教育の充実をさらに図り、全国にその新たなる成果を発信していきたい。(了)

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