Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第408号(2017.08.05発行)

ペンギンが主役の水族館

[KEYWORDS]長崎ペンギン水族館/最長飼育記録/生態観察
長崎ペンギン水族館館長◆楠田幸雄

長崎水族館から長崎ペンギン水族館へ引き継がれた、ペンギン飼育は今年で58年目となる。
これまで数々のドラマや記録を残しながら、ペンギンに特化した施設として世界一と世界初を掲げている。
現在は、ペンギンの入手が難しくなり、将来に向けてペンギン大国である日本の動物園・水族館が協力しながらペンギンたちの種保存のために活動している。

長崎でのペンギン飼育

2001年に長崎ペンギン水族館はオープンした。ペンギンに特化した水族館であるが、魚類や無脊椎動物も飼育し、自然体験ゾーンにはビオトープ※1があり、海ではカヤック体験もできる体験型の水族館である。
ペンギン水族館の前身は長崎水族館(1959~1998年)で、1965年に国内で初めてキングペンギンの繁殖に成功し、1977年にはその三世も国内で初繁殖した。1993年、国内初のジェンツーペンギンの人工育雛に成功。また、エンペラーペンギン「フジ」の国内最長飼育記録28年5カ月、キングペンギン「ぎん吉」の世界最長飼育記録39年9カ月、ペンギンパレードの元祖など、ペンギン飼育に懸けては注目されていた。
しかし、施設の老朽化・入館者減少により運営会社は、これ以上の経営は困難とのことで、1998年3月末に39年間の歴史にピリオドを打った。しばらくはペンギンたちの行方がどうなるのか?と心配したが、市民やペンギンファン等の熱望もあり、長崎市が長崎ペンギン水族館を新設し、すべてのペンギン7種120羽が引き継がれた。
自慢の施設は、亜南極ペンギンプールである。水深4m、2階まで吹抜け構造の水槽は、当時は国内最大級で、2階からは陸部とプールが同時に見え、ヨチヨチ歩きから一転してダイナミックな泳ぎを観察できる。また、温帯ペンギンゾーンは、半屋外施設で生息地の環境を擬岩などで再現している。そして、2006年にはコガタペンギンの飼育施設とペンギングッズ・ギャラリーを増設。2009年には、ペンギンを自然の海で泳がせる「ふれあいペンギンビーチ」を開設。そして、2015年にはヒゲペンギンが名古屋港水族館とアドベンチャーワールドの協力により入館し、世界のペンギン18種類の内、世界一となる9種類を飼育することになった。
約180羽のペンギンたちの7割は長崎生まれで人馴れしている。飼育場はペンギンを間近で観察・体感できるのが特徴である。また、ペンギンパレードや餌やり体験、タッチング等のイベントを通して、ペンギンの体のつくりや運動能力、生態などを学ぶことができる。

長崎ペンギン水族館とキングペンギン http://penguin-aqua.jp/キングペンギンのパレード

ペンギン大国日本

何故、暑い長崎にペンギン?と良く聞かれことがある。日本は第二次世界大戦後、食糧不足となり、1946年南氷洋捕鯨を再開した。その捕鯨船がペンギンを持ち帰り各地の動物園・水族館へ寄贈し、このペンギンたちが長崎水族館にも入館し、さまざまな記録や物語を展開してくれた。このような背景から「ペンギン=南極」のイメージが日本には残っているが、種類によっては、赤道直下のガラパゴス諸島、南米のペルーやチリ、アルゼンチン、南アフリカやオーストラリアなど比較的温暖な国や島々にも生息している。日本は、世界一のペンギン大国で、国内のおよそ100カ所に11種類、約4,000羽が飼育されている。
野生のペンギンは、国際条約や各国の保護政策によって入手が難しい状況で、動物園・水族館にとっては大きな痛手である。長崎では、これまで7種類の繁殖に成功し飼育数は増えているが、繁殖が難しい種は羽数も僅かである。キングペンギンが年に1回、産卵する1個の卵は無精卵が多く、原因特定も難しいのが現状である。そんな中、2016年に世界で初めて人工授精による繁殖が成功した。しものせき水族館でフンボルトペンギンが、大阪・海遊館ではイワトビペンギンが誕生した。ペンギン飼育技術の未来が開けた業績である。
また、繁殖が順調なフンボルトペンギン属を中心に、将来的にも健全で持続的な種保存のために(公社)日本動物園・水族館協会の各園館がブリーディング・ローン※2や個体の等価交換、卵の移動などを実施しており、当館も積極的に関わっている。

世界初! 自然の海でペンギンが泳ぐ「ふれあいペンギンビーチ」で想う

本館の横には橘湾が広がり、自然体験ゾーンの海浜部を活用した「ふれあいペンギンビーチ」が2009年にオープンした。U字型の両側突堤にペンギン脱出防止のネットを張ったシンプルな施設である。満潮時の海面は、縦・横が60m、深い所の水深は3mである。10時30分に館内の飼育場よりフンボルトペンギン10数羽が約100m歩いて海へと泳ぎ出す。自然の海なので、網目からはカタクチイワシや小魚、エビやカニなどが入り、ペンギンたちは捕食や好奇心から、飼育場では見られないイルカ泳ぎや潜水行動、四足歩行※3を見せてくれる。また、砂浜にいる時は、近くで写真撮影も可能であり野生地にいるような錯覚を感じる。
そして15時には係員の誘導で飼育場へ帰る。この施設は、ペンギンたちもお気に入りの様子で、2013年には市民ZOOネットワークのエンリッチメント大賞を受賞した。
日本より遠く離れた生息地も重油流出などによる海洋汚染や海洋ゴミ、餌の減少、生息地の開発や新たな捕食者の侵入、交通事故、地球温暖化、エルニーニョ現象などでペンギンたちの生活が脅かされている。希少なペンギンたちが激減や絶滅しないことを願うと共に、ペンギンを通してこれまで以上に自然や環境教育の必要性を感じ、併せてペンギンたちの研究やさらなる繁殖技術、飼育環境の向上に努めて行きたい。(了)

ふれあいペンギンビーチペンギンとダイバーのふれあいランチタイム
  1. ※1水族館前の日見川河口域と海岸を活かした「自然体験ゾーン」に、雑木林や田などを模した水辺に水草や抽水植物、小魚等を飼育する環境が整備されている。
  2. ※2希少な動物を絶やさず増やしていくために、動物園や水族館同士で動物を貸したり借りたりするブリーディングローンという制度をつくり、協力して種の保存を実施している。
  3. ※3羽と足を使って、陸上を四つ足で進む様子。

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