Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第220号(2009.10.05発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆白露の節気が過ぎ、本号が読者に届く頃にははや寒露となる。この夏は自然界においても、政治や社会の仕組みにおいても、これまで間歇的に露見するだけだった変化が顕在化したことで長く記憶されるだろう。言うまでもなく前者は海の温暖化に伴って異常気象の現れ方が変わってきたことであり、後者は政界の激変に関するものである。
◆9月の始めに科学技術外交の一端を担うプロジェクトの立ち上げで南アフリカ共和国を訪問した。南インド洋の気候変動がアフリカ南部の洪水や旱魃に大きな影響を及ぼすことが最近の研究から明らかになったため、その予測をアフリカ南部地域の農業や産業に役立てようというプロジェクトである。南アフリカ共和国ではアパルトヘイト政策の後遺症が深く、先進性と後進性、豊かさと貧しさがモザイク状に分布している。このような国において若手人材の育成を支援しながら、プロジェクトを遂行するのは容易ではない。しかし、戦後60有余年、国際的には稀にみる安定した自由主義体制の下で科学技術を磨いてきたわが国の研究者にとって、夢のある舞台が用意されていると感じたのも事実である。
◆今号では、まず藤田大介氏が総合的な磯焼け対策を可能にする水産庁のガイドラインについて解説する。沿岸環境とそれを取り巻く地域社会の双方に働きかけ、持続的に利用可能な海を復活させようとする柔軟な試みに期待したい。岡 俊彦氏はソマリア沖に出没する海賊対策の現況について報告する。政争の具とされてマスコミを賑わすことは多いが、はるかな現場からの声は国民にも政治家にもなかなか届かない。先に挙げたアフリカの未来を担う人材育成も同様であるが、わが国はグローバル海洋国家を目指して地政学的な視点をより強化する必要があるのではないか。こうした国の未来を担うのは次世代である。澤田喜純氏は商船三井によるCSR活動「キッズクルーズ」を紹介する。このような意義深い活動がさらに大きく展開してゆけるような豊かな社会を形成してゆきたいと思う。  (山形)

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