Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第485号(2020.10.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

◆2017年12月、国連総会は、2021年から2030年までを「国連海洋科学の10年」とすることを決議した。「国連海洋科学の10年」は、海洋の持続的な開発に必要な海洋に関する科学的知見、データ・情報を海洋政策に反映し、SDGs達成に貢献することを目的としている。近年、温暖化による海面上昇に加え、海洋の酸性化、貧酸素化の進行により海洋生態系には危機的状況が迫っている。われわれが望む未来のためにわれわれが必要とする海洋はいかなるものであるべきかを、国際社会は真剣に議論しなければならない。残された時間は少ない。
◆海洋の管理と監督が人類の歴史において今ほど重要な時はないとの認識の下、T. Suka Mangisi 駐日トンガ大使とGreg Stone DeepGreen Metals 主任海洋科学者から「大海洋諸国の台頭」と題してご寄稿いただいた。Mangisi 大使とStone 氏は、国土の大半を広大な排他的経済水域が占める小島嶼開発途上国を大海洋諸国と捉え、人類の共同財産であるマンガン団塊の開発に必要なマイニング・コードの完成が目前に迫る中、海洋資源の開発が衡平で持続可能な形で進むことの希望とこれらの諸国のコミットメントについて語っている。ぜひご一読いただきたい。
◆鈴木聡愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授から水産養殖場において蓄積される薬剤耐性遺伝子についてご説明いただいた。薬剤耐性菌発生のスポットとして海の環境にも耐性菌ホットスポットがあること、薬剤耐性菌・耐性遺伝子の制御では「入れない、出さない」が原則であること、その対策として様々な角度からの立体的思考と総合的判断に基づいた一貫性のある行動が必要であるとのご指摘は、まさに傾聴に値する。
◆安藤宏徳新潟大学佐渡自然共生科学センター海洋領域/ 臨海実験所海洋領域長・教授からは、2019年に設立された森林・里山・海洋の3領域からなる地域創生型自然共生科学拠点「佐渡自然共生科学センター」の取り組みについてご寄稿いただいた。手つかずの自然や多様な海岸環境・里山が残り、希少種や絶滅危惧種も多く生息する佐渡島の豊かな自然環境を生かした、演習林や臨海実験所における森林生態学実習やアジアの大学との国際臨海実習など興味深い取り組みが紹介されている。地球規模での自然環境の汚染や劣化が問題となる中で、森里海のつながりを理解し、その知見を基に質の高い生物多様性を確保し、豊かな生物資源を持続的に維持していくために、人間はどのように暮らせばいいのかという「佐渡モデル」の構築に期待したい。(坂元茂樹)

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