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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第429号(2018.06.20 発行)

高校を核にした産学官連携による地域振興とキャリア教育の推進

[KEYWORDS]産学官連携教育/COOP教育/校訓の具現
前新潟県立海洋高等学校長◆久保田郁夫

新潟県立海洋高等学校は、「高校生の力を地域産業に活かすまちづくりプロジェクト」として地域課題に取り組み、文部科学省の専修学校による地域産業中核的人材養成事業で、人づくりを目標に、企業や大学などのプロフェッショナルな人材と連携し、「実学重視」を教育理念としたCOOP教育、産学官連携教育を実施している。

地域の未来を支える人材育成の拠点

新潟県西部、糸魚川市にある新潟県立海洋高等学校(以下、海洋高校)は、単科として北陸唯一の水産系高校である。ユネスコ世界ジオパークに指定された※1豊かな自然環境下にたち、平成30年度に創立120年を迎える伝統校である。海洋高校ならではのカッター部やダイビング部のほか、相撲部や魚醤「最後の一滴」を商品化した食品研究部の活躍が知られている。平成27年度の学科改編実施により、教育のねらいと方向性を明確に打ち出し、さまざまな資源や施設・設備を「選択と集中」し、機能化させ、魅力ある高校づくりを進め、県外からの生徒募集も積極的に行い、近年は県外・遠隔地生が全校の3割超を占めている。
生徒募集は水産科としての一括募集で、1学年次では基礎教育の充実化を図り、水産海洋に関するすべての学問領域の授業および基礎実習を行うほか、科目「マリンスポーツ」の履修が特色である。2学年次からは、水産資源科(資源育成コース・食品科学コース)・海洋開発科(海洋技術コース・海洋創造コース)の2学科4コースへと分かれ、強いプロフェッショナル意識の醸成を目指す教育が展開される。2隻の実習船や、食品科学科実習棟・海洋工学科実習棟・潜水実習プール棟に加え、能生(のう)漁港には栽培漁業臨海実習棟を有し、施設設備は国内屈指といえる。卒業生の約3割が進学、約7割が就職だが、専門課程を活かした進路選択により大学等進学は増加傾向にあると同時に、就職先からの評価も年々高くなっている。
本校では、6次産業化する水産業に対応し、水産を核にした地方創生に必要なことはすべて学ぶことができるワンストップとしての海洋高校とし、産業創生の提案や大学設置・誘致に期待を抱かせる高校をも目指している。また、新潟県教育委員会により、地域と連携した特色ある学校づくり推進のための「オンリーワンスクール新潟未来プロジェクト」の実践校の一つとして指定された。

海洋高校実習船『海洋丸』。日本海周辺や太平洋海域で乗船実習やマグロ延縄漁業実習などを行う

地域との連携による持続可能なまちづくり

本校の同窓会である(一社)能水会と糸魚川市が連携し、海洋高校の商品開発や安全管理のノウハウを地域振興に活かしながらキャリア教育を推進することを目的に2015(平成27)年から「糸魚川市水産資源活用産学官連携事業」に取り組み、同年4月には「シーフードカンパニー能水商店」を設立。海洋高校の生徒が開発した魚醤「最後の一滴」(商品名)を、総合実習や部活動で製造から国際的な販売に携わり、グローバルな視点によるキャリア教育を行っている。
事業は、魚醤の製造拡大に加え、ハラール認証の取得をとおして国際的な販路拡大を目指すとともに、マレーシアなどに行って市場調査を行い、イスラム圏への製品の市場開拓を進めている。また水産業の裾野を広げて行くため、モズクやバイ貝など地元漁業の伝統的漁法の技術習得並びに、チョウザメやイトウなどの新しい資源養殖技術を確立し、その加工品等の製造・販売を新しい産業として地域に根付かせ、地域の雇用創出を図るものである。加えて、世界ジオパーク等の観光資源を活用した国内外の観光客の誘致等により、交流人口の拡大を図り、糸魚川市および周辺地域の活性化を図ることとしている。
しかしながら、企業内での人材育成は難しいため、 学校と連携して人材育成を行いたいとする企業ニーズが存在する。こうしたニーズが企業と学校との新たな連携教育としてCOOP教育※2に繋がっている。COOP教育をグランドデザインの軸として、海洋高校は糸魚川版デュアルシステムの構築を目指し、「地域連携課題」に関する内容を授業に加えるなど、地域課題を発見し、解決する人材育成を追求した。生徒は自らの専門分野を生かした業務を体験することで、さらに学ぶべき専門知識、自己の将来像・適職を明確化できることが可能になった。
企業や地域を包括した地方創生グランドデザインに産学官連携教育を取り込む試みは、学校教育という視点のみならず、地域企業と学校との連携によって、新たな産業創出と地域産業の振興や社会の発展に貢献できる人材の育成を目指すものとなった。また、コミュニティへの参画や地域課題の解決をとおして、生徒一人ひとりの能力を育むとともに、地域の活性化につなぐ取り組みが行われることとなった。これらにより、若者の地域離れを食い止め、地域を再生する可能性を含むものと思われる。

校訓の具現化「水産報国」

内閣府「地方創生加速化交付金事業」、文部科学省「成長分野等における中核的専門人材養成等の戦略的推進事業」の採択により、生徒の活動はより高度な学習とキャリア教育の実践に反映されている。フード・アクション・ニッポンアワード2015での審査委員特別賞、グッドデザイン賞2016、第3回ディスカバー農山漁村の宝30選に選定され、本校が校訓の一つとして進める「水産報国」※3の取り組みの成果として、国レベルの評価をいただいた。加えて、平成28年度第69回新潟日報文化賞社会活動部門において、授賞趣旨である文化・産業の発展に寄与する顕著な業績に値すると評価された。さらには、内閣総理大臣賞・第10回海洋立国推進功労者表彰では地域振興部門での最高の栄誉にも輝き、平成29年度は「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」としてバージョンアップされた文部科学省事業にも取り組み、国・県の施策と校訓の具現の一致を得ることができた。

新しい高等教育機関への期待

これからの職業人材養成においては、成長分野等で求められる人材に必要な能力の育成に迅速に対応していくことが重要である。とりわけ、変化への対応を求められる中で、事業活動の最前線に立ち、新規事業への進出や海外展開等に際しても、事業現場の中核を担い、現場レベルの改善や革新(イノベーション)を牽引していける人材の養成強化を図ることが課題となる。
今後求められるのは、自己の職業分野における高度な専門技能等を備えると同時に、変化への対応等に必要な基礎・教養や、理論にも裏付けられた実践力等を兼ね備えた質の高い専門職業人の層を確保していくことであり、このような人材の養成のためには、技能と学問の双方の教育を融合し、産業界との連携を強化した仕組みが必要と考えられる。
これらのことを踏まえれば、職業実践に軸を置きつつ、学術の教育にまで至る、実践的な職業教育に最適化した「専門職大学」を創設・設置して対応することが、効果的と考えられる。海洋高校は、その取り組みの延長線に新しい高等教育機関の設置・誘致による地方創生を実現させるべく実践例を積み上げている。(了)

  1. ※1糸魚川ユネスコ世界ジオパーク http://www.geo-itoigawa.com/index.html
  2. ※2COOP教育=Cooperative Education。教育機関・企業・学生の協力関係に基づき、単位の認定も行う教育プログラムの一環として提供される職業体験。
  3. ※3「水産報国」=新潟県立海洋高等学校の校訓の一つ。水産・海洋における専門的技能を養い、地域・わが国の発展に貢献できる有為な人材を育成する。
    新潟県立海洋高等学校URL http://www.kaiyou-h.nein.ed.jp/guide/index.html#jump03
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