インド太平洋地域のディスインフォメーション研究シリーズ Vol.4
シンガポールにおける「偽情報・誤情報」対策: POFMAとFICA
- サイバー・軍事・地政学
- 東南アジア
南洋理工大学(シンガポール)
社会科学部公共政策・国際関係学科 准教授
古賀 慶
インド太平洋地域のディスインフォメーション研究シリーズ掲載のお知らせ
この度、IINA(国際情報ネットワーク分析)では、笹川平和財団プロジェクト「インド太平洋地域の偽情報研究会」(2021年度~)において同地域のディスインフォメーション情勢について進めてきた調査研究と議論の成果を「インド太平洋地域のディスインフォメーション研究シリーズ」として連載いたします。IINA読者のご理解のお役にたてば幸甚です。
1.はじめに
東南アジアの要衝に位置するシンガポールは、国力が周辺国に比べ極めて小規模であるため、国家の安全や存続を当然視すること避け、常に国民にその脆弱性を訴え続けてきている。インドネシアやマレーシアといった地域大国に囲まれ、大国間紛争に常に巻き込まれてきた歴史的経緯を踏まえると、その認識は、経済的発展を徹底的に追求する姿勢や、域内における圧倒的な軍事費を以て最先端の軍事技術・装備の獲得を目指すその姿勢に強く表れている[1]。しかし、このような厳しい国際環境を生き延びる上で最重要条件は、国内政治の安定にある。これは、メディアの社会・政治言説等を厳しくチェックしている日々の情報管理についても同様のことが言える。
それでは、シンガポールは国内安定を脅かしかねない「偽情報・誤情報」を、いかに管理してきているのだろうか。本稿では「偽情報・誤情報」におけるシンガポールの対応と目的を概観し、その管理体制について分析を行う[2]。具体的には、シンガポール政府は偽情報及び情報操作防止法(POFMA: Protection from Online Falsehoods and Manipulation Act)と外国介入対策法(FICA: Foreign Interference Countermeasures Act)に焦点を当てて、シンガポールの社会的・政治的な背景および国際関係の観点からその設立過程や目的を浮彫にする。その後、シンガポールが確立しつつある対「偽情報・誤情報」体制と日本や欧米等の民主主義国家との親和性について論じることとする。