事業概要
本事業は、スリランカ北東部の12地域を3つのレベルに分け(フェーズⅠ~Ⅲ)、宗教指導者委員会の設立、若手宗教指導者の育成およびコミュニティ活動(他民族言語教育、異宗教の交流会等)などを通じて、宗教指導者による復興の努力を定着させることを目的としている。
実施計画
3年継続事業の2年度にあたる本年度は、以下の活動を行う。
- 宗教者指導委員会の拡充(フェーズⅠ地区)
シニア宗教指導者対象のワークショップを6月と11月に実施(2日間、25名)し、異宗教間の理解促進、紛争管理、非暴力手段による地域社会の安定化などについて研修する。
- 若手宗教指導者の能力向上(フェーズⅡ地区)
若手宗教指導者対象のフォローアップ・トレーニングを5月と10月に実施(3日間、50名)し、前年度のオリエンテーション・トレーニングを補完する。
- コミュニティ活動の実践(フェーズⅢ地区)
- シビルソサエティ委員会を12の地域で新たに立ち上げる。同地域を対象にコミュニティ活動(10件、1件15万円程度)を公募する。
- シビルソサエティ委員会を四半期に1回実施し、公募されたコミュニティ活動案および事業管理能力を審査した上で同活動を助成する。活動期間中、モニタリング担当者が各地域を随時巡回し、活動内容と資金の用途について確認する。活動終了後、監査機能を果たす審査委員会が、資金が適切に執行されたか確認する。
- 宗教者ネットワーク化に向けた活動(フェーズⅠ、Ⅱ、Ⅲ地区)
ネットワーク活動を企画・運営するため、次の4つの活動を実施する。
- 宗教指導者委員会全国大会(4半期毎に1回、各25名)
- 全体調整会議(4月、10月、各30名)
- アイランダーセンター全国会議(3月、200名)
- データベース構築
実施内容
紛争のあった地域で初めて宗教指導者委員会を開催

ジャフナで開催された宗教指導者委員会の様子
2011年8月2日から4日にかけて、宗教指導者委員会が最北端の都市ジャフナで初めて開催されました。同市の位置する半島部では、スリランカ内戦時にタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)と政府軍との間で激しい戦闘が行われました。内戦終了後もスリランカ政府の管理下に置かれ、集会の自由は厳しく制限されていました。今回、宗教指導者委員会の開催が同市で可能になったのは、平和への道のりが見えてきた象徴的できごとでした。仏教、ヒンズー教、イスラム教、キリスト教の各宗徒が一堂に会した宗教指導者委員会を開催できたことは、主にヒンズー教徒とキリスト教徒で構成される地元民にとって、異宗教への寛容性を醸成するきっかけとなりました。

宗教指導者と地元民の会合
宗教指導者によるコミュニティ活動の推進
コミュニティ活動とは、過去の内戦を教訓にして、民族(シンハラ人とタミル人)や宗教(仏教、ヒンズー教、イスラム教、キリスト教)間の対立を乗り越えるために、宗教指導者主導によって行われている非営利の地域活動です。今年度は10件のコミュニティ活動が予定されています。スリランカ北部の都市ジャフナでは、次のような活動が進められています。
●子供に安全な遊び環境を提供するコミュニティ活動

子供の遊び場の設置について議論するコミュニティ活動の責任者たち
スリランカでは2011年9月に非常事態令が解除されましたが、現地では銃を携行した兵士と弾痕の残った廃墟をいたるところで見かけます。ジャフナ市内では子供が安心して遊べるところはほとんどありません。このコミュニティ活動は、市民生活の中心となるコミュニティー・センターの敷地内に滑り台やベンチなどを設置し、次世代を担う子供たちに安心して遊べる環境を提供するものです。遊ぶことを通じて、お互いに譲り合い、思いやることの大切さを育みます。同時に異文化の交流を若いうちに体験し、異民族・他宗教間の対立の無益さを学ぶことを目的にしています。
● 帰還した避難民に安全な水を提供するための井戸修復のコミュニティ活動

古井戸修復の様子
内戦の終結に伴い、避難民の故郷への帰還が増加するにつれて、安全な水の確保が重要な課題になりつつあります。しかし水道インフラは不十分で、各地の井戸も破壊されたままです。わずかに残された井戸には、住民が10km先から水を汲みにやってきます。このコミュニティ活動は、破壊された井戸を修復し、住民に安全な水を提供するとともに、避難民のいっそうの帰還促進を目的にしています。文字通り井戸を避難民帰還の「呼び水」とするものです。このコミュニティ活動では、井戸水をヒンズー教徒とイスラム教徒(ジャフナの2大宗教)にわけ隔てなく無料で提供し、井戸を異文化交流の場とすることを意図しています。
アイランダー・センター全国会議の開催
4月25日から2日間、異民族・他宗教の壁を越えて交流を深めるイベントが、助成先のセワランカ財団研修所「アイランダー・センター」で実施されました。仏教、ヒンズー教、イスラム教を信仰する約200名のシンハラ人とタミル人が一堂に会し、異文化交流を通じて友好関係を築き、紛争後の平和を考える機会となりました。
アイランダー・センター全国会議と称するこのイベントは当初、3月末に予定されていましたが、中心人物の宗教指導者の一人が亡くなられたために、1カ月の喪服期間を経て実施されました。
研修所の「アイランダー」という言葉は、セワランカ財団のハルシャ会長の新造語で、すべてのスリランカ人を表す「島の人々」という意味です。スリランカは光り輝く島という意味ですが、この言葉はシンハラ人のものです。他方、シンハラ人と長年対立してきたタミル人にとっては容易に受け入れがたい言葉でもあります。そこで民族融和に心を砕いているハルシャ氏は、誰でも受容できる「アイランダー」という言葉を編み出しました。

アイランダーセンターは国立公園の近くにあるため、周辺には多くの種類の野生動物が生息しています。 空にはクジャクや色彩豊かなインコなどが群れ、池にはワニを見ることもあります。
●朝の活動
アイランダー・センターで起居を共にしたシンハラ人とタミル人の一日は、毎朝1時間の共同清掃から始まりました(Shramadana活動)。清掃後、他宗教に触れる試みとして、ヒンズー教の礼拝(Ganesh puja)、キリスト教聖歌、ヨガ、瞑想、イスラム教のお祈りのなかから一つを、人種や宗教を問わず自由に選んで体験しました。

民族融合を説く仏教、ヒンズー教、イスラム教の指導者たち
●研修の内容
午前と午後の2時間、各種のプログラムを自主的に選択できるラーニング・セッション(LS)が設けられました。たとえば、さまざまなテーマについてディベートする参加型学習プログラム、映画などについて語る文化プログラムなどが準備されました。シンハラ人とタミル人は話す言葉が違いますので、スリランカでは通常、連結語として英語が使用されます。今回の研修では英語を理解する人が少なかったため、シンハラ語とタミル語の通訳とファシリテーターの3名が手助けをしました。

ラーニング・セッションの様子(左:平和について考えるプログラム、右:研修を補助する通訳とファシリテーター)
●夜の行事
毎夜6時から10時頃まで、マーケット・フェアや文化交流行事が催されました。民族色や地域性を色濃く反映した屋台がアイランダー・センターの庭に連なり、各地域で作られた農産物、衣料、家財道具、植木などが並びました。マーケット・フェアに並行して文化交流行事が行われ、伝統的な民族舞踊や寸劇などが紹介されました。最終日には、優れた展示と地域物産品を紹介した屋台を表彰しました。

スリランカ北東部地域出身者による屋台
事業成果

ワークショップの様子
本年度は、シニア宗教指導者のネットワーク化に向けた活動として、
宗教指導者委員会の全国大会のほかに、全体調整会議を4回開催しました。また、若手宗教指導者の能力向上のためのワークショップを実施するとともに、宗教指導者主導による非営利の
コミュニティ活動を継続しています。2011年8月に
ジャフナ市で開催された全体調整会議は、一般市民が集会の自由を得た、象徴的な出来事となりました。

全国大会に参加した宗教指導者たち
事業実施者 |
セワランカ財団(スリランカ)
|
年数 |
3年継続事業の2年目(2/3) |
形態 |
自主助成委託その他 |
事業費 |
10,895,850円 |