台湾有事とハイブリッド戦争
- サイバー・軍事・地政学
笹川平和財団 特別研究員
大澤 淳
1.急速に高まる台湾有事への懸念
昨年から急速に台湾有事への懸念が強まっている。そのきっかけは、2021年3月9日米国上院軍事委員会の公聴会における、共和党のサリバン上院議員の質問に対する、インド太平洋軍のデビットソン司令官(当時)の証言であり、「2050年までに国際秩序における指導的役割を米国から奪い取る、という中国の野心の前段階として、台湾への(侵攻の)脅威は今後6年以内に顕在化する」という内容であった[1]。今年に入ってからも、米国のバイデン大統領が訪日時の記者会見で、記者からの「台湾を軍事的に守る意思があるか?」という問いに対して、明確に「YES」と答えた[2]ことが話題となった。
他方で、台湾への軍事侵攻が実際にどの程度起こりうるかについては、慎重な見方もある。内政上の理由から、台湾への全面的な軍事侵攻は考えにくい、という中国専門家も多い[3]。また、デビッドソン元司令官の証言は、予算獲得のための方便である、という見方[4]もある。
しかしながら、今年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻して以降、21世紀の今日においても、大国が軍事力を用いて侵略し、現状変更を迫ることがある、という事実が日本国民の間に広く浸透している。日本経済新聞社の世論調査でも、台湾有事に備えるべきという回答が9割に上っている[5]。また、昨年から日米両国のシンクタンクでは、台湾有事を想定したシミュレーションも数多く行われている[6]。このようなシミュレーションでは、ウクライナ戦争における状況を受けて、キネティックな戦闘だけでなく、グレーゾーン段階からのサイバー空間における攻撃も想定されている。
本稿では、台湾有事が万が一にも発生した際に、どのようなことが起きうるのかについて、ウクライナ戦争での教訓や、中国の将来戦構想を元に、頭の体操的に考えてみたい。