アジア太平洋地域の上場企業の
ジェンダー平等度を分析

――女性の管理職比率だけではない日本の課題

 2022年7月13日、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数ランキングが発表された。各国における男女格差を経済・政治・健康・教育の4分野で測り、2006年から、ほぼ毎年発表している。
 最新の発表で日本は116位だった。昨年の120位と比べて下がらなかったが、大きく上がることもなかった。経済分野は、昨年117位だったものが121位に下がっている。G7など先進国はもちろん、東アジアの中でも低い順位に留まった。
 日本政府は近年、女性活躍を掲げ、企業では女性管理職の登用も行われているはず。それにもかかわらず、国際比較調査の結果は悪い。なぜなのか。
今後、日本企業が取り組むべき方向性が見える報告書が1カ月前の6月に発行されている。笹川平和財団が企画した「アジア太平洋地域の上場企業における ジェンダー平等推進度ランキング」報告書だ。

 この報告書は、オランダのデータ会社エクイリープが独自の19項目の基準を用いてアジア太平洋地域の1181社のジェンダー平等推進度を分析し、市場ごとの傾向を分析したものである。
 近年の上場企業は様々な非財務諸表について世界各地の調査機関から開示を求められており、調査疲れしている、と言われることもある。そんな中でもエクイリープの調査が重要なのは、世界の機関投資家に使われているためだ。
 2020年12月18日、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、アメリカの投資調査会社モーニングスターとエクイリープが共同開発したジェンダー・ダイバーシティ指数を採用した。当初、3000億円程度を投資すると発表している。つまりエクイリープの調査は、単なるランキングに留まらず、企業が機関投資家から選ばれるための指針なのである。

――アジア太平洋地域の傾向と日本の特徴

 調査結果を見ると、上場企業の女性トップはまだ非常に少ないことが分かる。アジア太平洋地域では、上場企業CEOの14%が女性、CFOの26%が女性だった。そんな中、日本の上場企業はCEOの女性比率は1%以下に留まった。
 エクイリープの調査では、女性リーダーの数だけでなく、組織全体のジェンダー平等度合いの結論と言える、男女賃金格差も重視する。ただし、世界を見渡してもこのデータを開示する企業は少なく、オーストラリアでは23%、シンガポールでも22%の企業しか男女賃金格差情報を開示していない。日本に関しては4%に留まる。
 日本企業の取り組みが他地域より進んでいる分野もある。産休育休制度とセクハラ対策だ。日本は中央政府が保証する産休・育休と給与保障の割合がアジア太平洋地域の中では突出して手厚いからだ。また、日本では上場企業の52%がセクハラ防止制度を備えており、これはアジア太平洋地域ではトップである。オーストラリアの50%が続き、シンガポール26%、ニュージーランド22%、香港19%となる。
 総じていえば、日本企業は制度づくりには熱心であり、国際比較においても進んでいる方と言える。逆に言えば、日本企業の課題は制度以外にある。

―― 個別企業を見ると

 先に述べた19の基準に基づく分析でアジア太平洋地域の上場企業、約1200社のトップとなったのは、オーストラリアの不動産会社Mirvac(ミルヴァク)でスコアは79%だった。同社は従業員、上級管理職、役員いずれの段階でも人員のジェンダーバランスが取れており、男女いずれも40~60%を占めている。
 日本企業の中でトップは武田薬品工業。グローバルでは208位でスコア60%であり、上位企業とは差が大きい。グローバルで299位のポーラ、444位の資生堂が続く。いずれも日本では女性活躍先進企業として知られるが、国際水準では上位に入れない状態だ。
日本企業は平均スコアが28%で、アジア太平洋地域でもグローバルでも低い水準となった。世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数でも、日本は東アジア地域の中で低順位となっていたこととつじつまが合う。
 冒頭で紹介した通り、エクイリープの調査は、金融系の調査会社が活用して指数開発などに使われ、機関投資家の意思決定に影響を与える。グローバル4000社の中で、トップ100に日本企業が入らない現状に、経営者は資金調達の観点から危機感を持つ必要があるだろう。

―― 日本企業は何をすべきか

 ジェンダーの観点から投資家に選ばれるため、日本企業がやるべきことは2つある。
 1つは人員構成のジェンダーバランスを取ることだ。これは必ずしも男女半々を目指すことを意味せず、どの職位でも片方の性別の人が6割を超えないようにすればいい。CEOのようなトップマネジメントや取締役に女性を増やす必要性は言うまでもない。
 報告書は15頁で日本の現状と課題を分析する中で次のように記している。

  ""There were more CEOs named Hiroshi (14) than female CEOs (4). "
 
 つまり、女性CEOより「ヒロシ」という名の男性CEOの数が多いということだ。日本の上場企業がいかに男性リーダーに偏っているかを端的に示している。
 2つめは男女賃金格差を開示することだ。エクイリープが調査対象とした上場企業に関していえば、男女賃金格差是正についての方策を発表していたのはソフトバンクだけだった。
 男女間賃金格差の情報開示を求める動きは、日本の政策とも合致する。政府は2022年6月3日、「女性活躍・男女共同参画の重点方針」、いわゆる「女性版・骨太の方針」を決定した。ここで最初に言及されているのが「女性の経済的自立」であり、男女間賃金格差への対応が取るべき施策として挙げられている。
 特に、男女が同じ組織で働いていても、女性が男性と比べて低賃金になりがちであることを踏まえ、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を開示することを義務化すると共に、有価証券報告書についても、同内容の開示を義務付けることになった。有識者で構成する内閣府男女共同参画連携推進会議は、7月13日に金融業界の有識者や投資家からなる「男女間賃金格差情報開示チーム」を発足、男女別賃金の中央値を比較すること、男女格差の要因分析を行うことなどを提案している。

―― 女性の数を増やすだけでなく経営全体にジェンダー視点を

 エクイリープが企業分析に用いている基準は、管理職や役員など意思決定層の女性比率に留まらない。生活給の補償や男女賃金格差の開示、柔軟な勤務制度、人材採用や育成、加えてサプライチェーン全体への配慮や人権対応を見る。つまり、企業活動全般に人権尊重に基づくジェンダー平等が実践されているか否かを計測する。最近、注目が集まっている「ビジネスと人権」の観点も含む包括的な調査なのである。

(ジャーナリスト 治部れんげ)

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