【イベント報告】 投資家として求める社会的インパクト

2022.02.28
 

笹川平和財団は1月24日、ジェンダーに関する社会的インパクト創出に関心を寄せる二人の投資家を招き、セッション「投資家として求める社会的インパクト ~ジェンダーの視点から~」をオンライン開催しました。
※本セッションは「Social Impact Day 2021」の一環として実施されました。
 
そもそもなぜ、社会的インパクトの一つとしてジェンダー視点が重要なのでしょうか。
 
セッション冒頭で、モデレーターの笹川平和財団ジェンダーイノベーション事業グループの松野文香グループ長は、「女性に投資することは、『賢い投資』である、と言われます。なぜなら、女性に投資するとその本人のみならず、その家族、コミュニティーへの波及効果が絶大だと言われているからです。」と話します。
 
このセッションでは、機関投資家とプライベート・エクイティ・ファンド、それぞれの投資家の立場から、ジェンダー視点の重要性と情報やデータの可視化と活用についてお話を伺いました。
 

ESG投資のすべての側面で「多様性」が重要

最初のスピーカーはインベスコ・アセット・マネジメント株式会社の日本株式運用部でヘッド・オブ・ESGを務める古布薫さんです。インベスコはESGの取り組みを長く取り組み、グローバルにも高い評価を得ています。機関投資家の立場でお話を頂きました。
 

ESG投資において、多様性が益々重視されるようになっている、と古布さんは話します。それを物語るのが、日本企業のガバナンスの底上げを目的に、2015年に金融庁と東京証券取引所が共同で策定した「コーポレートガバナンス・コード」の変遷です。2018年の第一回改訂において、取締役会の機能発揮のためにジェンダーや国際性を含む多様性が必要と明記され、更に2021年の第二回改訂では、社員における多様性の確保、育成の重要性にも言及され、ジェンダーの多様性もが非常に重要な点として掲げられるようになりました。
 
「インベスコとしても、取締役会の女性役員比率や企業倫理におけるジェンダー平等、人権、人的資本等、ESG(環境・社会・ガバナンス)のすべての側面で多様性を重視し、機関投資家の最も重要なスチュワードシップ活動の一つとして、インベスコの定めたポリシーに基づいて、議決権行使を行うことで企業に働きかけています。また、企業との建設的な対話を意味する「エンゲージメント」においても、ジェンダーは重要なテーマであり、企業の統合報告における人的資本に関する情報開示や、ダイバーシティ強化、人材・デジタルへの投資によって、優秀な人材が獲得でき、均一で多様性に欠ける組織が抱えるリスクを避けることができることを企業に伝えています。」



日本ではまずジェンダーの多様性の向上を

日本企業の現況を振り返ると、企業における女性の管理職比率は年々徐々に上がっているものの、2019年時点で係長級は20%、課長や部長クラスに至っては10%前後と、未だ低い状態です。
 
「日本企業においては、まずジェンダーの多様性を向上させること、具体的には取締役会における女性取締役比率を引き上げることが大切です。女性役員の比率が30%を超えると、女性が『クリティカルマス』となり、多様性な意見が意思決定に反映されるようになります。また、取締役会以外でも、透明性の高い人事戦略のもと、ジェンダーの多様性が確保されることが必要です。これにより、ジェンダー以外の多様性向上にも好影響を与え、持続的に企業価値が向上していきます。」
 
このような考えは他の機関投資家の間でも広がっていることが、内閣府男女共同参画局が発表した 「ジェンダー投資に関する調査研究報告書」(2021年)でも示されています。報告書では、投資判断において女性活躍情報を活用する理由のトップは企業の業績に長期的に影響があると投資家が考えるためであり、重視する情報としては女性役員比率が最も多く挙げられています。その他、投資家が開示を求める具体的な項目として女性の管理職比率、女性活躍に関する取り組み方針、女性従業員比率等も挙げられています。
 



しかし企業側との認識には未だギャップがあるようです。一般社団法人 生命保険協会の報告書では、投資家側がダイバーシティ推進のために重要となるデジタルと人材への投資を投重視する一方で、企業側は設備投資や株主還元等をより重視していることが示されています。
 
「日本の男女共同参画の歴史のなかで、『コーポレートガバナンス・コード』の制定はまだ6年前のこと、今後更に企業の情報開示が広がり、多様性が進む余地は十分にあります。」と古布さんは話します。

多様なステークホルダーの関与が鍵

企業におけるジェンダーの多様性を加速させていくには誰の力が必要でしょうか。
 
「多様なステークホルダーの関与が鍵」と古布さんは話します。企業における多様性を進める取り組みの一つとしてTOPIX100の構成銘柄(企業)における女性役員(取締役及び監査役を含む)の比率を30%に引き上げることを目標に2019年に「30%クラブジャパン」が立ち上がりました。様々な国に同様の目的を掲げた「30%クラブ」がありますが、ジャパンの特徴は「統合的アプローチ」。上場企業だけではなく、機関投資家、大学、メディア、政府機関等様々なステークホルダーとの連携を目指しています。
 
古布さんは「企業におけるジェンダーの多様性は、企業だけが努力したり、機関投資家が、目標を達成してくださいと言ったりするだけで実現を目指すものではなく、30%クラブジャパンが取り組んでいるように、幅広いステークホルダーの参画によって効果的な影響が期待できます。」と話しました。
 

ジェンダー・インパクト特化型のプライベート・エクイティ・ファンドのインパクトの創出方法

続いてのスピーカーは、依田 純子さんです。依田さんはアジアではまだ数の少ないジェンダー・インパクト特化型のプライベート・エクイティ・ファンドのSweef Capitalでアドバイザリーボードメンバーを務めるほか、ジェンダー投資やNGOでの活動等を通じてジェンダー・インパクト創出に資するさまざまな取り組みをされています。
依田さんは非公開市場(プライベートマーケット)におけるジェンダー・インパクトを求める投資の事例をお話頂きました。紹介する事例はSweef Capital(Southeast Women Economic Empowerment Fund)。フィリピン、ベトナム、インドネシアの成長ステージの女性起業家に直接投資しながら、ジェンダー・インパクトの創出を目指しています。

 
「東南アジアの女性は収入のほとんどを家族のために費やしており、女性の収入が増えていくことで女性や家族の生活が改善されることが期待されます。」と依田さんは話します。Sweef Capitalの中核メンバーは金融業界で活躍してきた女性たちです。1億ドルのファンドを設立し、女性の経営者が活躍していたり、女性が多く雇用されていたり、女性のニーズに応える事業を行っている卓越した企業に投資しています。プライベート・エクイティ・ファンド投資家としての立場から、Sweef Capitalは投資にとどまらない、深いレベルでパートナーとして経営者に関わります。具体的には、プライベート・エクイティ投資の三つのプロセスの中で、以下のようなかかわり方をしていきます。
 
1.投資
・投資する前にまず、投資候補の会社がどのような価値観やミッションを持っているのか、どのようなジェンダー・インパクトが見込まれるのかを独自に開発したツール「ジェンダーROITM」を使って評価します。更にデューデリジェンスを行い、従業員、サプラインチェーン、カスタマーベース等、深く調べます。
・投資前に改善が必要な場合は改善のための計画(アクションプラン)の作成と実施を支援します。
・投資委員会の承認後、投資を開始します。
2. 成長
・企業価値を向上させながら、経済的リターンを増やすために、戦略やマーケティングの助言を行うと共に、ジェンダー・インパクトを出していくサポートを様々な側面から行います。
3. イグジット
・イグジットし前に、その後も長期にわたりインパクトが続くようにサポートします。
 

独自に開発したツールでジェンダー視点のインパクト測定・マネジメント(IMM)を行う

Sweef Capitalは、社会課題解決のニーズが大きく、かつ高い成長率が見込まれる分野として、ヘルスケア、持続可能な食料システム・消費財、教育、気候レジリエンスの4分野に焦点をあてています。
それぞれの分野の中でジェンダー・インパクトが発現するよう、①コーポレートガバナンスとリーダーシップへの助言、②財務管理、③マーケティングと戦略、④オペレーション、⑤追加資金調達のサポートと多岐に亘って企業の成長を支えます。
さらに、⑥ジェンダー・インパクトを向上させるために、「ジェンダーROITM」という独自に開発したIMMツールを用いて戦略的なモニタリングを支援しています。ROIはレジリエンス(Resilience), 機会(Opportunity)と包摂(Inclusion)の頭文字をとったもので、リーダーシップ、従業員、バリュージェーン、社会の4つの要素それぞれ見ていきます。
「ジェンダーROI TMで得られたデータに基づき、収益とジェンダー・インパクトの相乗効果をもたらす目標設定を経営陣ができるように支援しているのです。



[パネルディスカッション①]トップのコミットメントを得るためには

続いてのパネルディスカッションでは、古布さんのお話にあった、ジェンダー平等の推進におけるトップのコミットメントの重要性について、モデレーターの松野からトップのコミットメントを引き出すことに成功した具体例をお伺いしました。
 
古布さんは「ジェンダーというテーマで企業側と対話をしていると、ジェンダーの取り組みをいろいろとしているものの『情報開示』となると、どのような情報を開示してよいのか、意味があるのか、という点で悩んでいらっしゃる場合が少なからずあると感じています。」と話します。
 
「私たちは投資家の立場で、情報開示をおすすめしています。ジェンダーの取り組みやデータの開示をしていくことで、投資家との対話が促進されると、どのような開示をするとその情報が資本市場に浸透するのか、どのような取り組みをしていくと良いか、理解されていくと思います。」
 
実際、ジェンダー平等の取り組みが評価されるのであればと、30%クラブジャパンに参加してみよう、と決断した企業の実例もあったということです。
 

[パネルディスカッション②]行動変容を促進するために

次にプライベート・エクイティ・ファンドとして、インパクトを最大化するために、どのような伴走支援をしているかの詳細を改めて依田さんにお伺いしました。
 
「投資前から経営者と共に作成する、『アクションプラン』の進捗を3か月ごとにレビューし、改善を図っています。さらに1年ごとに詳細な評価を行いジェンダー平等が進展しているか確認します。」
 
「従業員のジェンダーバランスの改善は比較的容易ですが、サプライヤーや顧客など、バリューチェーンにおいてジェンダー平等を推進していくのは簡単ではありません。新しい考え方と行動変容が必要です。」と依田さんは話します。
 

日本でもジェンダー・インパクトの議論を

ジェンダー・インパクトを重視する投資はまだまだ日本では成長する余地があります。
最後に、二人のスピーカーに対して、これからどんなことが必要なのかコメントをお頂きました。
 
古布さんは「歴史的な経緯を踏まえて、現状の課題は何であるかを定義することがまず必要。」と話します。
 
日本の経営陣からは「わが社の女性社員は昇進に積極的ではない、女性があまり手を挙げないので、女性活躍が進まないのは仕方ない」といった意見が聞かれることもあります。
 
「そういったときに、日本の男女共同参画の歴史的な経緯、現状の制度を鑑みて、なぜ社員の方がそのような思考になっているのかをまず理解することが重要です。多様性がなければ、今の時代に必要なイノベーションは起こせず、多様性のためにはガバナンスと透明性の実現が必要である、ということを改めて再認識していくことが重要であると思います。」
 
また、依田さんは「ESGの投資額が世界でも日本でも増えているが、インパクトをしっかりと見ていくこと、そしてなぜそのインパクトが重要なのか、という理解を企業、投資家で広げていくことが大切だと思います。」お話されました。
 
最後に松野は次の通りセッションを締めくくりました。
 
「今回のセッションからは投資家が企業の『ジェンダー情報』を投資判断に活用していること、女性活躍に関する情報開示することで企業価値の向上にもつながることが明らかになりました。投資家はもはやESGやインパクト投資をするか、しないか、の議論からは既に動いており、次のステージ、つまりどうやってはESGやインパクト投資をするか、どんな効果が出てきているのかに注目しています。企業側がジェンダー情報の開示を始め、あらゆるタイプのジェンダー情報の改善を目指していくことで、結果として企業価値の向上につながり、ジェンダー平等も推進することになることを期待します。」

BE A
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