女性のエンパワーメントは日本のため 男性リーダーはその価値に気づき、進んで実践を

2019年3月8日

笹川平和財団は、2019/3/23(土)に第5回国際女性会議WAW!/W20スペシャルセッション1「ジェンダー投資: 世界の新潮流」をWeEmpowerと共催します。ジェンダー投資分野のリーダーや専門家を招き、より多くの資金をジェンダー平等と女性のエンパワーメントに向けるための具体策を議論する予定です。これに先立ち、W20運営委員メンバー治部れんげ氏より笹川平和財団田中会長に女性のエンパワーメントについてのインタビューをいただきました。

――2017年から笹川平和財団の主要事業に「女性のエンパワーメント」を据えています。

田中伸男会長:当財団の事業の柱は5つあります。日米関係、アジア、中東・イスラム、そして海洋のガバナンスに関するものです。これら4つの柱に加えて、「女性のエンパワーメント」の視点を入れることで5本柱の体制になっています。
 
「女性のエンパワーメント」は、国・地域を超えた共通の課題です。例えば日米関係の事業では、米国の女性議員を増やすプロジェクトに関わったキーパーソンを日本に招いてセミナーを開催しました。すると大きな成果がありました。受講した日本女性の多くが「自分も選挙に出てみたい」と思うようになったのです。日本は政治家に女性が少ないことが課題ですが、このように当財団の事業をうまく活かすことで日本と世界の女性をエンパワーしていくことができます。

――2018年のG20サミット首脳共同声明では「ジェンダー主流化戦略」の必要性が述べられています。財団の主要事業すべてに「女性のエンパワーメント」の視点を入れることは、国際潮流に沿った戦略です。

田中会長:私が当財団の会長に就任したのは4年前のことです。当財団の管理職女性比率は4割に達しており、日本の雇用主としては、かなり女性が活躍している職場と言えます。就任当時に、「女性のエンパワーメント」に注力するという旗を立てることで、優秀な女性がさらに当財団に集まってくれるはず、と考えたのです。
 
私の専門分野はエネルギー政策です。エネルギーと言えば「男性の世界」と思われるかもしれませんが、そういう中で、活躍する女性を支援してきました。例えば“Women for Energy”という女性グループをサポートしたり、エネルギー問題に関心がある女子大生の会でお話をしたりしています。男性だけで議論するのとは異なる視点に触れることができますから、私自身が説得力のある発信ができるようになると思っています。

――どういったきっかけで「女性のエンパワーメント」に関心を持つようになったのですか。

田中会長:自分自身のグローバルな経験がきっかけです。私はOECDで2回、IEAで1回、働いた経験があります。こうした国際機関で優秀な日本女性にたくさん会いました。彼女たちは英語とフランス語といった具合に二カ国語、三カ国語が流暢で、仕事でもしっかり成果を出している。一方、日本の政府機関から出向で国際機関に来ていた男性たちは、帰国したら戻る場所があるという発想なのか、女性たちに比べると総じてのんびりしていたように思います。

この対比に驚きまして、国際機関で働いている日本女性たちに色々話を聞いてみたのです。すると、彼女達は口を揃えて「日本に帰るつもりはない」「日本に帰っても自分の能力を生かせない」と言うのです。
 
これは大変なbrain drain(頭脳流出)が起きている、と思いました。日本の将来を憂う立場からは、優秀な女性が海外へ出て行ってしまうことを、どうしたら止められるか。また、海外へ出た日本女性がいつか戻ってきてもらえるようにするか、真剣に考えなくてはいけない、と思っています。

――田中会長ご自身は、どうしたら日本女性の頭脳流出が止まると思いますか。

田中会長:日本男性のマインドセットを変えることでしょう。日本の企業など、雇用主が変わるしかない、と思っています。やはり人口の半分は女性ですから、役員の3割、国会議員の半分は女性になるのが当然ではないでしょうか。現状とあるべき姿のギャップを考えると、私はクオータ制が必要だと思っています。
 
現在は男女平等が進んでいるとされる北欧諸国も、当初はクォータ制を導入していました。自然に変わるのを待っていたら、あまりに時間がかかりすぎるでしょう。

―― 女性活躍推進が必要と考える人でも、クォータ制には反対することが多いです。

田中会長:反対意見は現状のシステムで上位職についている女性から聞かれることが多いと思います。自分たちは、今の仕組みの中で能力を発揮して認められてきたのだから「女性に高下駄をはかせるのはおかしい」というわけです。
 
しかし、自然にまかせていたら変化はあまりに遅く、その間にも日本の人口は減り、優秀な日本女性は海外へ逃げてしまうでしょう。昇進昇格の形も色々あっていいわけで、私はクォータのような仕組みで上がっていく人がいてもいいではないですか、と申し上げたいです。

――財団の事業の柱に中東・アジアのイスラム圏との交流があります。この事業でも「女性のエンパワーメント」をなさっていますか?

田中会長:はい。実は、イランとの対話というプログラムがあり、その中でも女性のエンパワーメントを行っています。イラン女性は自動車を運転できますし、国会議員の数もかなり多いです。しかも、5人の副大統領のうち2人が女性です。イランの首都テヘランで大きなカンファレンスを開き、そこに女性副大統領に出席していただいたこともあります。中東と女性のエンパワーメントに関する取り組みをしている組織は日本では珍しいと自負しています。
 
UN Womenの調べによりますと、平和構築の過程に女性が関与するとまとまりやすいのだそうです。例えばタイ南部でムスリム女性と仏教徒の女性が対話を行い、うまくいった例があります。

――笹川平和財団は、3月23日~24日に東京で開催されるW20のプラチナスポンサーになっています。どんなことを期待していますか。

田中会長:日本の社会を変えるには女性の力が必要です。W20サミットでは、各国の代表者やパネルディスカッションのスピーカー等、世界中の女性リーダーが集まります。この機会に、日本と海外の女性リーダー、そして世界の女性と日本の男性リーダーが交流することで、より良い未来に向けた変化が生まれることを期待しています。
 
――最後に、日本の男性リーダーにメッセージをお願いします

田中会長:海外を見るとすぐお分かりの通り、女性が活躍している組織はたくさんあります。個人差もありますが、全体的な傾向を見ると、女性は男性とは少し違う考え方・アプローチを取ることがあります。男性、女性の両方が活躍することで、異なる強みを生かすことができます。これが「ダイバーシティ」の本質だと私は思いますし、ダイバーシティを生かすことこそ、組織を強くする秘訣だと思うのです。
 
多くの日本の男性リーダーに、このことに気づいていただき、女性のエンパワーメント、ダイバーシティの推進のために発言し、組織内の女性たちを自らが支援してほしい、と心から願っています。それが、ひいては日本の将来のためになるのです。

(ジャーナリスト 治部れんげ、写真 鈴木愛子撮影)

BE A
DRIVING FORCE
FOR WOMEN

アジアにおいて女性の経済的エンパワーメントとジェンダー平等を実現するためには、あらゆるアクターが協働することが求められます。アジアのすべての女性がそれぞれの能力を最大限発揮できる未来に向け、革新的なソリューションや方法、知識共有促進やイノベーションに取り組むパートナーを募集しています。

詳細については、awif@spf.or.jpまでお問い合わせください。