事業紹介

2012年
事業

島サミット海洋環境シンポジウム

事業実施者 笹川平和財団 年数 1年継続事業の1年目(1/1)
形態 自主助成委託その他 事業費 4,493,496円
事業概要
2012年5月25日、26日に沖縄で第6回太平洋島サミットが開催される。本事業は、国内外で日本と太平洋島嶼国が注目されるこの機会を利用し、沖縄県那覇市で海洋環境シンポジウムの開催を通じて、持続可能な島嶼社会構築のために、海洋環境の共通課題解決に向け、太平洋島嶼国および沖縄県が協力して取り組む機運を高めることを目的とする。
同シンポジウムにはパラオおよびパラオと類似する環境にあるミクロネシア連邦、ポリネシア地域のサモア、メラネシア地域のフィジーから海洋環境に携わる実務リーダ-を招へいし、沖縄県の環境関係者と当財団事業の成果および各地の取り組みについて紹介するとともに、共通課題に関するパネルディスカッションを行う。
実施計画
2012年5月25と26日に沖縄県で開催される、第6回太平洋島サミットに合わせ海洋環境シンポジウムを開催する。
  • 海洋環境シンポジウム(公開)の開催
    2012年5月、沖縄県那覇市において沖縄県および琉球大学の協力の下、開催する。
    • シンポジウム内容
      a) 当財団が構築したパラオ型総合的海洋保護区モデルの紹介。
      b) 海外実務者よりミクロネシア、ポリネシア、メラネシアの取り組みと課題を紹介。
      c) パネリストによる海洋環境の共通課題解決に向けた議論の実施。
    • 参加者の招へい(パネリスト:日本人専門家・海外実務者、海外メディア)
      a) 日本人専門家(パネリスト):パラオ型総合的海洋保護区モデル構築に関わった専門家。
      b) 海外実務者(パネリスト)・海外メディア:パラオ、ミクロネシア連邦、サモア、フィジーの海洋環境実務リーダー、パラオ現地テレビ局記者。
    • 成果の情報発信
      a) パラオ現地テレビ局および沖縄県のメディアを通じ、太平洋地域および日本国内に向けて情報発信を行う。
      b) シンポジウム記録を報告書として作成し、出席者および海洋関係機関に配布する。
実施内容
太平洋島嶼域海洋環境シンポジウム
5月17日(木)~18日(金)、第6回太平洋・島サミット記念事業の一環として「太平洋島嶼域海洋環境シンポジウム」が開催された。第一日目の17日は琉球大学と笹川平和財団で共催。笹川平和財団はパラオ共和国から下院議長のノア・イデオン氏、天然資源環境観光省保護区ネットワーク局 (PAN)局長のジョセフ・アイタロー氏、オセアニアTV(OTV)ディレクターのオルケリール・カズオ氏の3氏とサモアからアレイパタ&サファタ海洋保護区トラスト・ソサエティ(NGO)ディレクターのプレア・E・イフォポ氏を招聘した。パラオの海洋保護の歩みを丁寧に語られたイデオン氏の基調講演を筆頭に、自国で保護区のネットワーク化に取り組んでいるアイタロー氏とその広報・環境教育に関わっているカズオ氏、NGOの立場で海洋保護区の維持管理に取り組んでいるイフォポ氏が、それぞれ事例紹介を通じてパラオとサモアの取り組みを明解に説明した。また日本側からは琉球大学の土屋誠教授が基調講演でサンゴ礁生態系サービスや海洋保護区とそのネットワーク化の意義、そして「パラオ型総合的海洋保護区モデル」の紹介を行い、沖縄県水産業改良普及センターの鹿熊信一郎博士が「里山・里海」の考え方や沖縄の海洋生物資源に海洋保護区の事例について発表が行われた。
 
パラオのイデオン氏(左)とアイタロー氏(右)

パラオのイデオン氏(左)とアイタロー氏(右)

パラオ共和国は1981年に自治政府を樹立後、1994年に米国との自由連合盟約を締結し独立した。イデオン氏は、2004年に政界に進出し立法に携わっているが、それ以前は漁業・海洋資源分野で、重要な役割を担っていた。イデオン氏は海洋資源管理の重要性を地域住民と共有するために、独立以前から国内各地の地域コミュニティと対話を続けた。1994年にNGOパラオ・コンサベーション・ソサエティ(PCS)を共同で設立し、国内外の支援を受けながら、海洋保護区の設置を推進した。

パラオ共和国は2000年に入ると、保護区の効果を高めるために有効であるといわれる保護区ネットワーク(PAN)の導入を求め、2003年に最初のPAN法が制定された。2006年にはPANのミクロネシア地域への拡大を目的として「2020年までに沿岸海洋資源の30%、陸域資源の20%を効果的に保護する」としたミクロネシア・チャレンジ・イニシアティブがミクロネシア地域の3カ国2地域で合意された。2008年には同イニシアティブのパラオ国内での実行のため、パラオの環境を享受する外国からのパラオ訪問者に保護区維持管理費用の負担を求める環境使用料(Green Fee)の導入を含む改定PAN法が制定され、環境使用料は2009年11月に導入された。環境使用料は国の予算には組み込まれず、政府から独立した機関PANファンドを通じて、PANに登録された保護区の維持管理を行う州政府などに維持管理計画に基づいて提供されるものであり、パラオの環境を楽しむために訪問した人々が直接環境保護に関わることができるユニークな仕組みとなっている。イデオン氏はパラオ国内のこれらの取り組みについて中心人物として関わっており、アイタロー氏は実施者として活躍している。

現在パラオの沿岸海洋資源の45%、陸域資源の20%が保護区として保護され、ミクロネシア・チャレンジ・イニシアティブの目標をクリアした。環境使用料も年約200万ドルを集めている。今後の課題は、各保護区の効果を高めることにあり、そのためには各保護区の維持管理を直接担う地域の人材育成が必要であるとのことであった。

このように小島嶼国が、地域住民から国まで、伝統社会から現代社会まで、漁業分野から環境分野まで、財政面も含め、国が一体となって自国の陸域および海域の環境保護を行う取り組みは、世界的にも先進的なものである。そのため、笹川平和財団島嶼国基金では「ミクロネシア海洋保護区モデル構築のための総合的研究」事業で現地調査を行い、「パラオ型総合的海洋保護区モデル」を構築した。今後、同様な小島嶼環境にある太平洋の国や地域にモデルを紹介し、各地の海洋環境の保全に貢献することが当財団の願いでもある。(モデル図参照)
モデル図

モデル図

サモアのイフォポ氏

サモアのイフォポ氏

サモアでは1990年代半ばに大型のサイクロンが2度直撃し、沿岸および陸域で多大な損害を受けた。特に沿岸海域では漁業資源が減少し、その危機感から国が中心となって海洋保護区の設置が進められた。国の取り組みには農業水産省の水産局による漁業資源を重視した村単位の保護区と天然資源環境省による生物多様性保全を重視した広範囲な保護区があった。トップダウンの取り組みは地域住民の活動を制限するものとして理解が得にくく、必ずしも好意的に捉えられたわけではなかった。しかし、2000年代半ばに入り、水産局による保護区設置の効果として漁業資源の回復・増加が認められるようになり、各村が自主的に海洋保護区の設置を求め、水産局がそれをサポートするという地域住民によるボトムアップの取り組みに変化した。

天然資源環境省が管轄する保護区は、首都アピアのあるウポル島南岸東部アレイパタと南岸西部サファタにある。これらウポル島南岸は、2009年9月30日に149名が犠牲となった津波が直撃した地域であり、沿岸のサンゴ礁生態系も大きな被害を受けた。この災害をきっかけとして、両保護区をより効果的なものとするために、2011年に地域住民によるアレイパタ&サファタ海洋保護区トラスト・ソサエティというNGOが設立された。

今回現地の取り組みを発表したイフォポ氏は、2011年まで天然資源環境省の職員であったが、サファタのマタイ(酋長)の一人でもあることから、同NGO設立に伴い、同NGOのアレイパタ&サファタ海洋保護区マネージャーとして活動を行っている。

パラオやサモアを含む太平洋地域が共通して抱えている課題は、実際に保護区の維持管理を行う地域住民レベルのキャパシティ・ビルディングである。そのために人材育成と環境教育を充実させ、子どもの頃から海洋保護に対しての意識を高めると共に、地域住民の理解と連携を高めることであるという意見も多く出た。また、太平洋地域では、マグロ資源やハタ、シャコガイなどの沿岸海洋資源を対象とした外国船による密漁が後を絶たず、その取締りの難しさが意見として出された。また国によって管理対象となっていないナマコは、アジアの業者による乱獲が進んでおり、資源が枯渇すると別の地域に業者が移動することが繰り返されている。パラオでは法的規制が行われることとなったが、各地で同様の取り組みが必要であろうとの意見が出された。
パネルディスカッション
アイタロー氏(左)、琉球大学土屋誠教授(右)

アイタロー氏(左)、琉球大学土屋誠教授(右)

 
イデオン氏(左)、沖縄県水産業改良普及センター鹿熊信一郎博士(右)

イデオン氏(左)、沖縄県水産業改良普及センター鹿熊信一郎博士(右)

 
聴衆からの質問も活発に行われた(左)、イフォポ氏(右)

聴衆からの質問も活発に行われた(左)、イフォポ氏(右)

既に梅雨入りした沖縄は朝のうち雨。朝のうちは会場参加者もまばらだったが、昼から曇り空となり参加者も増え、最後のパネルディスカッションではマグロの管理など漁業と自然保護に関するものなど様々な質問がフロアからも出された。環境保護は地元経済の繁栄と両立するものでなければ続けることは難しい。如何にして持続可能な海洋環境保護を行っていくのか?島国である日本にとっても今後益々重要になっていく課題である。

今回のシンポジウムは、地元紙琉球新報や沖縄タイムスにも取り上げられた。また沖縄NHKではお昼のニュース、琉球朝日放送では19:55のQABニュース・ステーションQで放映された。更にパラオのOTVのマーケティング部長のオルケリル・カズオ氏も来日しており、このシンポジウムの一部始終を録画した。OTVは来月にはグアム・サイパンでも放映を開始するパラオのテレビ局でこの会議の模様は地元ネットワークに載せられて放映される予定。
事業成果
第6回太平洋島サミット開催に伴い、沖縄県宜野湾市で当財団の「パラオ型総合的海洋保護区モデル」や、太平洋島嶼国の海洋環境に関する取り組みを紹介するプレイベント「島サミット海洋環境シンポジウム」が、2012年5月17・18日、沖縄県と琉球大学の協力により開かれました。パラオ型総合的海洋保護区モデルの紹介や、ミクロネシア、ポリネシア、メラネシアから参加した実務者による海洋保護への取り組みが報告され、海洋環境の共通課題の解決に向けたパネルディスカッションが行われました。
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