基金について

太平洋島嶼国会議

最終セッション

議長総括

倉成  正

1988年8月26日・27日の両日、東京において、笹川平和財団の主催により、太平洋島嶼国会議が開催された。同会議は、倉成正氏を全会一致で議長に選出した。
同会議は、笹川良一笹川平和財団名誉会長が開会を宣言し、また、中国訪問中の竹下内閣総理大臣にかわり、小渕内閣官房長官が開会式に出席して、総理メッセ-ジを代読した。
太平洋島嶼国10ヵ国の代表による基調演説の後、各国の社会・経済の開発の現状、並びに今後の展望、各国の日本との関係並びに日本に対する要望に関し、自由かつ率直な討論を行った。同会議における討議の主要なポイントは次のとおりであった。

  1. 島嶼国参加者は、このように多くの島嶼国地域政府指導者が一堂に会し、島嶼国地域諸国の抱える諸問題と日本とこれら諸国との協力につき率直な意見交換を行うことは、初めての試みであることに留意し、かかる会議を開催した笹川平和財団に対し、深甚なる謝意を表明するとともに、笹川良一氏の太平洋島嶼地域に対する貢献と個人的コミットメントに賞賛を送った。
  2. 会議出席者は、近年の科学技術の急速な発達や最近の太平洋島嶼地城をめぐる政治的経済的変化に伴い、この地域がもはや太平洋の中の孤立した地域ではなくなっているとの認識で一致し、近年注目を集めてきたいわゆる「太平洋の時代」の幕開けが太平洋島嶼国にとっても意味あるものとならなければならないとの見解で同意した。
  3. 島嶼地域の開発の問題に関連して、政治・経済・社会の急速な近代化、西洋化により、島嶼地域の社会にひずみが生じていること、就中、調和とコンセンサスの理念に基づくこの地域の伝統的な文化や価値観がゆるぐことによって様々な社会矛盾が生じていることが指摘された。島嶼国参加者は、経済開発と島嶼地域の伝統の調和を計り、「パシフィック・ウェイ」を維持していく必要があることを強調した。また、この関連で、伝統的文化や価値観を維持しつつ、急速な近代化に成功した日本の例が参考となるとの意見が表明された。
  4. 島嶼地域の経済社会の現状については、一方で、この地域の平和と安定、政治的独立の維持のためには、経済的安定の確保が前提となることが指摘された。なお、政治情勢については、南太平洋非核地帯条約の発効など一定の進展が見られたことも指摘された。国内的には多くの島嶼国が、未だ貨幣経済に十分組み込まれていない貧困農漁村と脆弱な近代部門とからなる二重経済を抱えており、それぞれの部門で複雑な開発問題に対処する必要に迫られている。具体的な問題としては、不十分な食料供給、運輸、通信等のインフラストラクチャーの不備、教育、医療等社会的サービス部門の立ち遅れ、特にメラネシア地域において人口の増大が誘発した失業や都市への人口集中、一部の地域を除き天然資源に恵まれていないこと、特定産品輸出、海外からの送金及び援助に依存する経済の脆弱性、サイクロン等の自然災害による被害等が挙げられた。また、長期的な検討課題として地球レベルの温室効果が島嶼地域に及ぼす影響について議論された。
  5. これらの諸問題を解決し、経済的自立を確保するための社会経済開発の方向としては、教育・訓練と人的資源の開発を進めることが肝要であることが強調され、さらに、漁業、観光等を重点分野とするインフラストラクチャーの整備並びに小規模農業の生産基盤の強化が不可欠であることが合意された。会議出席者は、かかる開発を実現するためには受け入れ島嶼国の真の社会経済開発ニーズに適した「歓迎される」援助が不可欠であることで合意した。また、開発のための民間部門の投資の重要性が強調され、その促進のための投資環境の整備が必要であることが指摘された。
  6. さらに、上記のいくつかの問題の解決にあたっては、地域協力も有効となり得ることから、二国間協力を補完するものとしてのその役割が指摘された。
  7. 会議出席者は、島嶼地域の今後の発展のためには、政府レベルの援助のみならず、NGOの活発な協力活動が重要であることで合意した。同時に、日本のNGOの活動についての情報が極めて限られているとの指摘が島嶼国参加者からなされ、会議議長が日本国内の270の開発関連NGO団体に関する資料を出来るだけ早い機会に提供するべく努力する旨約束した。これに関連して、島嶼国参加者は、日本の民間団体が島嶼地域に対する協力をますます強化するよう要請した。また、そのような協力の一環としての太平洋島嶼国財団設立の構想に高い期待が寄せられた。
  8. 会議出席者は、日本が太平洋島嶼地域にとって同地域で重要な貢献を果してきた諸国と並んで重要なパートナーの1つとなりつつあり、その役割が今後さらに大きくなるであろうとの見解で意見の一致を見た。日本と太平洋島嶼地域との関係が将来実り多いものとなるには、相互間の人材交流 -特に次世代の交流- の拡大が不可欠であること、さらにそのような相互交流を通して、両者間の情報交換が盛んになる必要のあることが確認された。
  9. 島嶼国参加者は、これまでの島嶼地域に対する日本の援助に謝意を表明するとともに、日本のこの地域に対する関心が近年急速に増大していることに満足の意を示した。特に、1987年1月の倉成前外務大臣の島嶼地域訪問と「倉成5原則」の表明はこのような関心の増大の契機となったものとして評価された。島嶼国参加者は、日本と太平洋島嶼国地域との友好協力関係のさらなる強化に期待し、就中、政府開発援助の強化、NGO活動の展開、民間投資の増大を強く希望した。また、この関連で今後友好関係強化のためにとるべき措置、例えば賢人会議の設立構想等が提案された。
太平洋島嶼国財団設立の発表

笹川平和財団名誉
会長  笹川 良一

この度、太平洋島嶼国10ヵ国及び8つの地域の政府首脳をはじめ、島嶼国関係各位の御参加を得て、笹川平和財団の主催する太平洋島嶼国会議が成功裡にその閉会を迎えることが出来ましたことを嬉しく思います。
また、終始熱心に様々な形で会議に参加していただいた皆様のお陰と厚く感謝申し上げます。この会議で語られた多くの事柄、この会議で確認されたいくつかの希望については、先刻の議長総括が要約して余すところがありません。
しかし、ここで、私の声なき声を聴く耳、見えざるものを見る目の感じ取ったことをさらに付け加えさせていただくことをお許し願いたいと思います。
私は、この会議の中に、果てしなく広がる紺碧の太平洋を見ました。水平線に沈む太陽と、南十字星を見ました。ココ椰子の葉のそよぎと祭りの打楽器の音を聴きました。
それらはすべてこの地域の人々の持つ文化と、誇りと、信念を声高らかに語り、この地域の進歩と安定した発展への飽くことのない努力を力強く述べられておりました。私は、大統領でもなければ首相でもない、一民間人として何をなすことができるか、いかにしてこれらの声に寄与することが出来るか、深く考え、そのささやかな一歩として基金の最終目標額30億円となる「笹川島嶼国財団」の設立に思い当たりました。
この財団の活動を通じて、島嶼国と日本とは固い絆で結ばれると同時に、この地域の人々の希望、信念、そして発展への道程はより高められ、強められるものと信じます。
私はまた、この会議の中から、世界平和と核兵器の廃絶に向けての祈りの声を聴きました。真理は常に平易な言葉によって力強く語られることを望みます。「世界は一家、人類皆兄弟姉妹」という私の信条は、世界平和、人類のすべての悲惨からの解放を意味します。
軍備の廃止、核兵器の廃絶は、私がこれまで訴え続けてきたとおり、人類の悲願であります。この会議と、新たなる財団の設立が、この人類の悲願の達成に向けてわずかなりとも寄与することが出来れば、私の喜びはこれに過ぎたるものはありません。
主催者一同に代わり厚く御礼申し上げ、御挨拶といたします。

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