海洋安全保障情報旬報 2022年9月21日-9月30日

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9月21日「米国は、海洋戦略について敵味方双方から学ばなければならないー米専門家論説」(Defense Opinion, September 21, 2022)

 9月21日付の米安全保障問題関連ウエブサイトDefense Opinionは、米シンクタンクCenter for Maritime Strategy分析官Benjamin E. Maynardの“Lacking a Comprehensive Maritime Strategy, U.S. Can Learn from Friend and Foe”と題する論説を掲載し、この中でMaynardは米国の海洋戦略には大きな欠落があり、英国やロシアから学ぶべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 軍事問題専門家の間では、米国の海洋戦略には大きな欠陥があることが指摘されている。それは、平時・戦時の両面を包摂できていないことであり、米国がまとまった海洋戦略を採っていたのは、1980 年代が最後だと指摘する人が多い。
(2) 8月、最も親密な同盟国英国と手ごわい対立国ロシアが、それぞれ海洋戦略を発表した。これらは、肝心な点に欠ける米国の「2020 Advantage at Sea」よりもずっと完成度が高い。
(3) 世界中で緊張が高まる中、米国にとっては軍事力のみならず海上貿易、政治、国際法、基幹施設、環境などを含む包括的な海洋戦略を策定することが、これまで以上に重要になっている。
(4)「ロシア連邦の海洋ドクトリン」(The Maritime Doctrine of the Russian Federation)と題されたロシアの海洋戦略には、国益が明示され、戦略的課題と進行中の海軍の作戦行動、目的を達成するための手段が述べられている。ロシア政府の見解では、米国とその同盟国の外交政策をロシアにとっての最大の戦略的課題と捉えている。海洋分野では、艦隊の拡大から北極圏の大陸棚支配権の拡大まで、14の目標が掲げられている。これには、ロシア海軍の地域ごとの広範な活動や、空母等の建艦目標が含まれている。ロシアの海洋ドクトリンは、海洋資源の保全と気候変動の関係、COVID-19 による世界経済の混乱、ロシアの海上輸送の競争力、国際法制度、海洋調査についても明確にしている。安全保障以外の機能を海洋領域に含めることは、海を単に海軍の活動空間とするのではなく、政府と民間のさまざまな機関が関わる多機能領域と認識することを意味している。海洋ドクトリンに列挙された手段の全てが実現可能かどうかは、それほど重要ではなく、このドクトリンは、ロシアのシーパワーが海洋の全領域で発展するための指針となることに注目したい。
(5) 英国の「海洋安全保障戦略」(National Strategy for Maritime Security)は、さらに広範である。同文書では、平時の海軍の任務として、「自由で公正かつ開かれた海洋領域を実現するために法律、規制、規範を守る」ことと「戦闘能力の高い軍事力を育成し続ける」ことを明確に示している。この文書では、排他的経済水域や大陸棚の管理、世界の戦略的航路や海底基幹施設など、世界各地における英国の国益が定義されている。英国の戦略で特定された脅威と課題は、海上物流の混乱、密輸、港湾機能、気候変動など広範囲に及ぶ。英国海軍の規模拡大、海外における展開の強化、違法、無報告、無規制の漁業に脅かされる国々を支援する投資計画など、脅威と課題に対応するための一連の提言も添えられている。このように、英国の国家戦略は安全保障、経済、政治、環境問題のいずれに関しても、英国の海洋権益の包括的な枠組みを示している。そして、これらの利益をどのように守るか、具体的な提案も明示されている。
(6) 一方、米国は、海軍作戦部長が定める、いわゆるNAVIGATION PLAN 2022、造船計画、海軍長官の「戦略」指針、海洋三軍の「戦略」、歴代政権の国家安全保障戦略などのネットワークの中で運用されている。また、Maritime Administration(連邦海事局)やMilitary Sealift Command(軍事海上輸送司令部)には、意味のある戦略はない。これらは、包括的な価値観では一致しているが、非常に多くの指針に力点が分散しているため、海洋領域の価値や多面的な課題、戦時・平時における海洋での活動の意義がぼやけている。これが、米国の重要な海洋戦略文書である 統合軍のAdvantage at Seaは、中国とロシアが引き起こす課題に固執するあまり、なぜ海軍の力が戦闘以外で必要なのかについて十分な説明をしていない。また、米海軍がほぼ同等の力を有する脅威と向き合った場合、どう戦うかについても説明がなされていない。気候変動が海域に及ぼす影響や違法漁業など、非軍事的な海洋問題も含まれてはいるが、中国とロシアに焦点を当てたこの文書では、明らかに後付でしかない。
(7) ロシアの海洋ドクトリンやイギリスの国家戦略は、完璧ではないが、米国の海洋戦略のようなパッチワークに比べれば、はるかに完成度が高い。米国には、海洋領域における政治、軍事、経済、社会、基幹施設及び情報政策の取り組みを組織化するための枠組みがない。海軍とBiden政権は、世界の海軍関係者やライバルから学ぶべきである。
記事参照:https://defenseopinion.com/lacking-a-comprehensive-maritime-strategy-the-us-can-learn-from-friend-and-foe/233/#:~:text=The%20desperate%20need,missing%20vital%20substance.

9月24日「台湾問題を安全保障問題化する中国―英防衛問題専門家論説」(Small War Journal, September 24, 2022)

 9月24日付の米オンライン誌Small War Journalは、英防衛問題専門家James Steelsの“China’s Securitization of Taiwan”と題する論説を掲載し、そこでSteelsは中国が台湾問題を「安全保障問題化」することで台湾侵攻の準備を整えているとして、要旨以下のように述べている。
(1)    2022年9月、台湾は中国の哨戒用ドローンを撃墜した。台湾政府によれば、当該ドロー
ンが台湾領土上空に侵入したためである。中国側は、台湾の行為を「緊張を高める」ためのものだと主張した。はたしてどちらの言い分が正しいのか。
(2) 国際安全保障研究における「構成主義」の考え方によれば、国家は、別の国家との間の何らかの問題を「安全保障問題化」し、その問題が大きな脅威となって前者に行動を余儀なくさせることができるという。それを示したのが、Putinによるウクライナ侵攻で、あくまでロシアにとってウクライナ侵攻は、ロシアの安全を守るためになされたということになる。
(3) 中国はもはや台湾の再統一の望みを隠していない。中国によればこれは中国国内の主権に関する問題であり、外部勢力の干渉は許されない。そして中国は、台湾の再統一に関して必要であれば軍事力を行使する意図を明確にしている。
(4) 歴史的に、中国軍の中心は大規模な陸軍であったが、この10年間、海軍と空軍の近代化を進めている。同様に重要なのが、Type075強襲揚陸艦を中心とした水陸両用上陸作戦用の攻撃能力を増強している。現在運用可能な同種の艦船は2~3隻だが、将来的に8隻建造する計画である。それらを運用するのが、中国人民解放軍海軍陸戦隊であり、その増強も進められている。陸戦隊は4万人の兵士と6つの旅団によって構成される。
(5) 実際に、統一のために軍事力を行使すれば、中国は米国と武力衝突に至る可能性がある。しかし、実際に米国が台湾防衛に関して中国の行動をどの程度許容するかについては、はっきりしていない。強度喪失勾配という概念があるが、それは国家の軍事力投射能力は地理に左右されるという考え方である。つまり、部隊を展開する場所が遠ければ遠いほど、戦力は低下するのである。したがって台湾周辺での戦争について言えば、中国に圧倒的な優位がある。特に中国は近年、C4ISRに多く投資をし、米海軍を数百マイルであれば押し返せるほどの能力を有している。
(6) U.S. Department of Defenseの報告によれば、米中間の軍事能力の差は縮まり続けており、もし戦争になれば双方にとって大きな対価になる。そのことは中国も理解している。したがって、将来ありそうなシナリオは中国が台湾との間の問題を安全保障問題化し、中国が犠牲者であることを訴え、安全保障上の利益を保護するための「行動を余儀なくさせた」という見せかけをして、台湾へ侵攻を開始するというものである。確実なのは、台湾の再統一に関して中国が軍事力を行使するかどうかではなく、いつ行使するのかということである。
記事参照:China’s Securitization of Taiwan

9月26日「台湾への圧力を強める中国による白書の発表の意味―オーストラリア中国研究者論説」(The Strategist, September 26, 2022)

 9月26日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、University of Tasmania上席講師Mark Harrisonの“Beijing’s plan to crush Taiwan under the ‘wheels of history’”と題する論説を掲載し、そこでHarrisonは中国による台湾に関する新白書の発表は台湾に関する圧力を強めるための正当化過程の一環であり、オーストラリアはそれに対して台湾に関する政策の方向性を明確化すべきだとして、要旨以下のように述べている。 
(1) 米下院議長Nancy Pelosiが8月2日に訪台し、それに対して中国は4日から7日、8日から15日にかけて台湾周辺でミサイル発射を含む軍事演習を実施した。その間、中国政府は台湾に関する新たな政策白書を発表し、オーストラリアを含む全世界にその意図を発信した。 
(2) この文書は、10月の共産党大会の前に発表されるだろうとは予測されていたが、実際にこの時機で発表されたということは、中国が台湾に対する政策や軍事的事態拡大、米国の行動と結びつけて決定しているということを示している。それが中国政府の行動、決定の手法ということであろう。 
(3) 米国が戦術的な行動を開始すべきかどうかについては議論の余地がある。しかし、はっきりしているのは、台湾に対する中国の行動が拡大しているという事実である。8月の軍事演習は、中国と台湾のいわゆる中間線を超えるもので、それ以降も中国軍機は中間線を越えて活動している。この事態拡大を招いたのが、Pelosi訪台であった。 
(4) こうした展開は中国共産党のイデオロギーや台湾再統一に対する誓約と一致する。マルクス主義的科学に基づく中国共産党イデオロギーによれば、歴史には潮流があり、最終的には最終到達点、この場合は台湾再統一に向かっていくのだという。軍事的事態拡大はその過程であるという。しかし、実際に中国が台湾に侵攻し、そこを占領するかどうかは別の話である。それには膨大な危険性が伴うためである。 
(5) 中国共産党のイデオロギー的観点から言えば、台湾への圧力強化と実際の軍事侵攻の間には矛盾がある。なぜなら台湾の再統一が歴史の必然であるならば、軍事侵攻は不要だからである。その意味で、8月10日の政策白書は、統一を達成のために国の力の使用に関して制限をつけないと主張することで、こうした矛盾を調和させるための試みであると読むこともできる。中国政府としては平和的再統一が望ましいが、歴史の流れに歯向かう分離主義者や「外部勢力」がおり、それらを排除するために「すべての必要な措置」が採られる可能性があるということになる。 
(6) 以後、中国政府は世界各地でこの狙いを広めている。駐豪中国大使は、台湾人の「再教育」と分離主義者の制裁に関する、冷たい見通しを描いた。それは、台湾の人びとを台湾人であるということで犯罪者扱いすることを意味し、再統一が実際に意味するところを示唆するものである。そして王毅外交部部長は国連総会で、中国の統一という潮流に逆らうものは歴史の歯車によってすり潰されるだろうと訴えた。Biden大統領はこれらが意味するところを理解しているように思われる。彼の政権はこれまで台湾防衛に関する深い関与を表明してきた。しかしこれは、中国共産党がいう「外部勢力」の脅威に関する主張に妥当性を与えてしまってもいる。 
(7) この事態拡大の動向に対処するためには、米国とその同盟国は政策の方向性をはっきりさせるべきである。たとえばオーストラリアはこれまで現状維持を訴えてきたが、それがそもそも何を意味し、なぜそれがオーストラリアにとって利益になるのかを明確にしてこなかった。中国による新たな白書の発表は、オーストラリアが台湾に関して政策上なすべきことが数多くあることを示している。 
記事参照:Beijing’s plan to crush Taiwan under the ‘wheels of history’ 

9月27日「インド洋での中国海軍の活動はインドを苛立たせる―日経済紙報道」(NIKKEI Asia, September 27, 2022)

 9月27日付の日経英文メディアNIKKEI Asia電子版は、” Indian Ocean rivalry: China's naval maneuvers irk New Delhi”と題する記事を掲載し、中国海軍のインド洋での活動に対する脅威と今後の見通しについての各専門家のコメントを要旨以下のように報じている。
(1) 9月21日、インド海軍参謀総長R. Hari Kumar大将はその講演で次のことを指摘している。
a. 三方を海に囲まれ、北にヒマラヤ山脈を有するインドは、インド洋のお膝元に位置している。
b. インド洋への出入りは東西の難所を経由するため、インドに地理的な優位性をもたらす。
c. インド洋は、さまざまな課題や安全保障上の脅威を管理するという困難な課題をインドにもたらす。
d. 中国は、パキスタン、バングラデシュ、ミャンマー、タイなどインドを取り囲む国々に潜水艦を売却、贈与、納入交渉中であるとともに、インド洋には常時、5から8個海軍部隊を展開している。
(2) 米Carnegie Endowment for International Peace(カーネギー国際平和財団)のIndian Ocean Initiative責任者Darshana Baruahhaは次のように述べている。
a. 中国の主要な利益は西太平洋にあるが、インド洋はその脆弱性が潜む場所である。
b. 中国の原油の4分の3を供給する10ヵ国のうち、9ヵ国からの輸送は安全、安心、安定したインド洋に依存している。
c. 中国が海洋と世界への野望を前進させ続ける中、インド洋の確保は優先事項である。
d. インド政府側は、中国の海洋工作に不快感を表している。
(3) 8月16日から22日にかけて、中国の測量船がスリランカのハンバントタ港に入港しようとした際、コロンボにある中国とインドの代表団の間で激しい言葉の応酬が繰り広げられた。インドが中国船の訪問に反対したため、スリランカは中国に入港延期を要請し、最終的に入港は延期された。その後、中国の戚振宏駐コロンボ大使は8月26日付の地元紙に、外国船舶の寄港許可はスリランカ政府の主権の範囲であると記し、暗にインドを揶揄した。
(4) インドO. P. Jindal Global University のPankaj Jha教授によれば、中国は過去2~3年間、インド洋の海底地図を作成しており、船舶を供給し、保守・修理のための人員を配置できる海洋軍事システムを構築しようとしている。
(5)米シンクタンクCenter for a New American Security(以下、CNASと言う)の非常勤上席研究員Tom Shugartは、インド洋に潜水艦基地を獲得する意図を直接示すものはないが、中国がジブチのような汎用海軍基地と、グワダル(パキスタン)、ハンバントタ(スリランカ)、タンザニアといった場所に表向きは商用だが、軍事目的を含んだ施設を建設する戦略を採っていると述べている。
(6) 中国の計画者たちが思い描くとおりに事が運ぶわけではない。たとえば、タイにType039A通常型潜水艦を納入する計画は、中国が搭載を約束していた静粛化したMTU396エンジンの入手が、武器禁輸措置のためにドイツが拒否したことで停滞している。中国側は国産エンジンへの交換を申し出ているが、タイ側は結論に至っていない。中国はパキスタンとバングラデシュにも潜水艦を売却しているが、これらの国々の経済状況が、高価な潜水艦艦隊を維持し、中国に協力するかどうかは、はっきりしていない。
(7) Australian National UniversityのNational Security College上級研究員のDavid Brewsterは、次のように述べている。
a. 潜水艦の取引は、関連する海軍による潜水艦の訓練と運用に関する重要な知見を中国に与え、それを活用してこれらの海軍との関係や影響力を高める可能性がある。
b. 米国やインドとの関係を乱すことを恐れて、タイ、バングラデシュ、ミャンマーは、たとえ平時であっても中国の潜水艦寄港を求めることはない。
c. パキスタンは全く異なる分類に属し、原子力潜水艦を含む中国潜水艦の訪問を定期的に許可しており、カラチには潜水艦の整備施設を建設中である。
(8) インド陸軍退役中将V.K. Chaturvediは、中国は非常に長い間、インドを包囲しようと試み、潜水艦を売却し、牙城を築く動きは懸念すべきと指摘している。そして、英King's College LondonのHarsh V. Pant教授は、近隣の大国間の緊張を引き合いに出して、次のように述べ、これに同意している。
a. 中国とインドは海だけでなく山間部でも対立している。ヒマラヤ山脈の国境紛争では、2年前に戦闘により死者が出た。
b. 最近、国境地帯から軍隊を撤退させる動きがあったが、中印両国の緊張した関係と、インド洋の戦略的情勢に介入しようとする中国の動きは、インドにもこの地域の軍事化を進めるよう圧力をかけている。
c. 中国の軍事力がインド洋に存在するようになれば、インドもそれに対応しなければならなくなる。インドがインド洋で享受しているような地理的優位性は中国には無いが、このまま中国が近代化を進め、海軍力を拡大していけば、10年後にはインドがその優位性を失う危険性がある。
(9) U.S. Department of Defenseが議会に提出した最新の報告書によると、人民解放軍海軍は現在、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)6隻、攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)6隻、通常型潜水艦46隻を運用している。そして、米海軍情報局が2020年に予想したデータでは、SSBNは2030年までに8隻に、SSNは13隻に増加するとされている。通常型潜水艦は、米国とその同盟国を第1列島線から締め出すことを目的とした中国の戦略に最も適しており、中国はこれを第1防衛線と見なしていると専門家は指摘する。
(10) U.S. Department of Defenseの議会報告書は、2020年代半ばまでに、中国がType093BSSNを建造する可能性が高いと指摘し、この新型潜水艦は、陸上攻撃用巡航ミサイルを装備すれば、秘密裏に攻撃を行うことができる、と述べている。そして、CNASのTom Shugartは「これらの潜水艦がインド洋で活動すれば、いつかこの地域の重要な陸上施設を標的にできるようになるかもしれない」と述べている。
記事参照:Indian Ocean rivalry: China's naval maneuvers irk New Delhi

9月27日「ロシアによる千島列島の軍事化―米専門家論説」(CSIS, September 27, 2022)

 9月27日付の米Center for Strategic and International Studiesのウエブサイトは、Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS研究員Ike Barrash の“Russia’s Militarization of the Kuril Islands”と題する論説を掲載し、ここでBarrashはロシアが2015年以降、北方四島を含む千島列島でミサイルシステムの配備、軍事基地の拡張など軍事力を大幅に増強しており、日米両国政府は、これについて外交、経済、情報の包括的対応をいかに行うべきかについての協議をもっと頻繁に行うべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1) ウクライナ侵略の影響を受けて、日本が主権を主張する北方四島に対するロシアの最近の急速な軍事化が、人知れず大きく進んでいる。第2次世界大戦末期にロシアに占領された、「北方領土」として日本が主権を主張している国後島、択捉島、色丹島、歯舞群島は、何十年にもわたって日ロ両国の関係を複雑にしてきた。10年も経たないうちに、少なくとも一部の島々が日本に返還されるかもしれないと思われたこともあった。故安倍首相の任期中、日本は、北方四島の返還の合意に達するための善意を育むことを期待して、ロシアとの関係強化のために絶えず努力してきた。日本は、地域の経済発展、共同観光事業、外交交渉に協力した。しかし、安倍元首相のオリーブの枝は、ロシアに島々を返還するようには説得できなかったようである。ロシアは島々を引き渡す方向に動くのではなく、少なくとも2015年以来、島々の恒久的な軍事的配備を高めてきた。メディアの報道や衛星画像は、ロシアの兵舎、滑走路、その他の基幹施設が、北海道から14海里離れたところにここ数年で建設されたことを示している。ロシアの軍事力の展開を高めるための措置は、島々が日ロ関係の将来においてひどく有害な役割を果たし続けること、そして日米がこの地域におけるロシアの活動に関する協議を深めるべきであることを示唆している。
(2) 過去5年間、ロシアは国後島、択捉島、色丹島、歯舞群島に大規模な軍事基地建設に従事してきた。ロシアによる千島列島開発の現在の段階は、2015年後半に北方領土に駐留するロシア軍部隊がソ連時代に作られたTor-M2U地対空ミサイルシステムを受領したときから始まった。その後、2017年にはバスティオン対艦ミサイル大隊が択捉島に、バル対艦ミサイル大隊が国後島に配備された。これらのミサイルシステムは、それぞれ310海里と185海里の射程を持ち、北海道に出入りする、または北海道周辺を航行するほとんどの船舶を攻撃することができる。これらのミサイルの配備と歩調を合わせて、ロシアは2018年に4つの兵舎を建設中であると発表し、推定3,500人の兵士を配備した時には、日本政府はロシアに抗議した。衛星画像では、2017年から2022年の間に国後島と択捉島に4つの複合施設が建設されたことを示しており、そこには島々で以前に見られたよりもはるかに大きな建物が含まれていた。2017年、国後島においてフェンスで囲まれた3階建てのアパートのような複合施設の建設が始まった。これに続いて、北海道に最も近いポイントの1つである国後島の南海岸の村では、少なくとも7つの新しい建物と道路の拡張を見ることができた。さらに北方の択捉島では、2019年から2021年にかけて、飛行場の西と東の2つの場所に小さな構造物のある大きな複数階建ての灰色と赤の建物が建設された。2020年12月、ロシアは対空能力を補完しS-300V4対空ミサイル発射装置を択捉島に恒久的に配備した。2021年8月、ロシアは千島列島に択捉島と国後島の7つの新しい兵舎を含む50以上の新しい軍事基幹施設を建設する大規模な建設計画を発表した。このような新機能の日常的な運用には、付随する基幹施設とともに、兵員の実質的かつ恒久的な配置が必要となる。したがって、ミサイル配備の発表に続いて、しばしば新しい建物の建設が続いている。2021年12月、ロシアは日本から約450海里離れた千島列島の真ん中にある松輪島により多くのバスティオン対艦ミサイルを配備すると発表した。2021年に行われた写真撮影作戦によると、松輪島の滑走路のすぐ南に位置するミサイルランチャーがほぼ完成し、カバーに覆われておりており、これにより2020年から2022年の間に基地の規模が倍増し、2つの大きなかまぼこ型兵舎もできていた。千島列島の一番北にある幌筵島の衛星画像では、新しい滑走路が完成に近づいていることを示しており、セヴェロ・クリルスクの町には複数階建ての兵舎のように見える大きな壁に囲まれた複合施設が2つある。
(3) 千島列島は戦略的に重要な位置にある。それはオホーツク海をより広い太平洋から分離し、ロシア太平洋艦隊にとっては重要な出口となる。千島列島はまた、実弾発射訓練や情報収集のための貴重な前方基地をロシアに提供する。ロシアが最近、千島海峡を「あらゆる手段で」防護すると述べた最新の海洋ドクトリンを発表したことは、驚くことではない。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の直後、日本はロシアに制裁を科し、北方四島関連の経済協力を終わらせた。これに対して、ロシアは北方四島をめぐる平和条約交渉を中止し、島々周辺の海域で日本の漁船が拿捕されるのを防ぐための協定を破棄し、侵略を撃退するための訓練に焦点を当てた軍事演習を実施した。最近、日ロの緊張は新たな段階に達している。2022年9月3日、ロシアは、北方四島の日本人の元居住者にビザなしで訪問することを許可する協定を取り消した。同時に、中国と共同で実施されたボストーク2022演習においては、日本が明らかに不快に思うような島嶼の作戦が含まれていた。中国軍がボストーク2022演習で北方四島において参加したかどうかは不明である。これらの事象の進展は、日ロ双方間の対立につながる可能性のある事件の危険性を高めている。
(4) 緊張の高まりにより、ロシアの行動が同盟国の地域の利益にどのように影響するかに関する透明性のある日米対話の重要性が高まっている。日米の両国政府は、地域におけるロシアの活動と意図について共通の利益を最も効果的に維持し、外交、経済、情報に関する包括的対応をいかにして実施するかに焦点を当て、より頻繁に協議を行うべきである。その協議は、北方四島のさらなる軍事化を遅らせ偶発的な事態の拡大を防ぐために、ロシアとの新たな外交交渉と組み合わせることもできるであろう。
記事参照:Russia’s Militarization of the Kuril Islands

9月27日「中国の北極圏の活動とそれによる安全保障への影響―米国とスウェーデンのシンクタンクによる共同の報告書」(RAND, September 27, 2022)

 9月27日付の米シンクタンクRAND Corporationのウエブサイトは、同シンクタンクとスウェーデンのシンクタンクSwedish Defence Research Agency(Totalförsvarets Forskningsinstitut: FOI)による、“China's Strategy and Activities in the Arctic: Implications for North American and Transatlantic Security”と題する報告書の要約を掲載し、北極圏における中国の投資と活動が、地域の法に基づく秩序と地域及び大西洋を横断する安全保障に及ぼす影響について、要旨以下のように述べている。
(1) この研究の課題は、①中国の北極圏における野心と現在及び可能性のある将来の活動は何か?②中国の活動は大西洋を横断する安全保障に対してどのような意味があるのか?そして、地域の法ルに基づく秩序にどのような危険をもたらす可能性があるのか?③中国の北極圏におけるもっともらしい展開と発展の好ましくない側面によってもたらされる危険は、どのような戦略によって軽減され得るか?である。
(2) この研究では、北極圏における中国の戦略と外交を評価し、北米(米国、カナダ、グリーンランド)における既存の活動を一覧表にしている。シナリオに基づいた机上演習などの取り組みを通じて、本研究ではまた、世界の他の地域でも問題となり、不安定化させる可能性のある中国の活動の種類と特徴をよりよく理解するために、北極圏以外の地域を含めたより広い視野で考察している。北極圏は、物理的、政治的、経済的、社会的に他の地域とは多くの面で異なる特徴を持つため、これらの活動の一部がどのように北極圏で発生し得るかを評価した。そして、米政府、特にU.S. Department of Defenseが国際的な提携者や先住民と協力して、北極圏の弾力性を維持・強化し、中国による、好ましくないこの地域への関与を緩和するために取るべき5つの提言を示している。
(3) 中国による北極圏の北米区域への投資と展開は、依然としてかなり限定的である。このような状況に関する主な調査結果は以下のようになる。
a. この状況は、米国人、デンマーク人及びカナダ人が、レアアース、石油、海底通信ケーブルなど、国家及びNATOの安全保障の利益にとって重要とされる産業への中国の投資を阻止または制限することに取り組んだことに起因するものである。
b. また、北極圏の地域の行為者は、中国の活動を歓迎することに慎重である。
c. より広い意味で、北極圏には強い抗堪性の要因があり、中国の基幹施設への投資が、世界の他の地域が経験したような安全保障、政治、経済、社会、環境への悪影響をもたらす可能性は低い。
d. 北極圏に特有のこれらの抗堪性の要因には、中国といくつかの北極圏諸国との緊張した2国間関係、北極圏の問題を北極圏諸国間で解決しようとする歴史的努力、中国の潜在的に有害な活動を防ぐかなり厳しい規制、潜在的に有害な活動を監視・防止する地元住民の取り組み、投資を受けることによる代償が大きいため投資の魅力低下、中国の運動を制限する確かな技術開発レベル、搾取的貸付業務から北極圏諸国を守る相対的富が含まれる。
e. しかし、こうした抗堪性の要因の全てが米国とその同盟国の統制下にあるわけではない。
(4) 提言は以下のようになる。
a. 米国政府は、多国間・2国間外交や北極評議会などの国際フォーラムなどの場において、北極圏における米国の同盟国や提携国との連帯を維持しつつ、可能な限りそれを強化すべきである。
b. 米国政府は、ウクライナ戦争後のロシアに対して、北極問題への限定的な関与を回復させるための条件と可能な経路を模索するべきである。
c. 米国はグリーンランド政府への積極的な関与を維持し、相互の利益と持続可能な経済発展を促進すべきである。
d. 米国政府は北極圏への総合的な関与の強化を継続し、他の北極圏諸国や非北極圏諸国に対して、この関与は外交、管理責任及び科学研究の長い歴史に基づくものであり、北極圏がロシアや中国との戦略的競争において果たす役割のみに基づくのではないことを明確にすべきである。
e. 米国は、北極圏の先住民族とより緊密に連携すべきである。
記事参照:China's Strategy and Activities in the Arctic: Implications for North American and Transatlantic Security
Full Report(180頁)
https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/research_reports/RRA1200/RRA1282-1-v2/RAND_RRA1282-1-v2.pdf

9月28日「中国、大規模上陸侵攻で民間フェリーから強襲舟艇を発進させる:衛星画像―海軍専門家論説」(USNI news, September 28, 2022)

 9月28日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、海軍、徳に戦史艦船専門家H I SuttonとUSNI News編集者Sam LaGroneの“Chinese Launch Assault Craft from Civilian Car Ferries in Mass Amphibious Invasion Drill, Satellite Photos Show”と題する論説を掲載し、両名は台湾への上陸侵攻を念頭に置いた演習で民間フェリーから水陸両用戦闘車を洋上で発進させたことが、衛星画像から確認されたとして、要旨以下のように述べている。
The Chinese military held a major exercise to prove how the People’s Liberation Army Navy could use large civilian ferries to launch a massive amphibious invasion of Taiwan.
(1) 中国軍は、台湾に対する大規模水陸両用戦において人民解放軍海軍が民間大型フェリーを如何に運用するかを検証するため、大規模演習を実施した。人民解放軍海軍は台湾海峡に近い本土海岸の沖合に何隻かの大型カーフェリーと艦艇を配置した。人民解放軍の水陸両用戦闘車(原文ではlanding craftの用語が使用されており、上陸用舟艇と訳すところではあるが、記事に添付されている画像からType05水陸両用戦闘車を指していると思われることから水陸両用戦闘車とした。:訳者注)は海岸を離れ、カーフェリーに向かい、カーフェリーは洋上で特殊なランプを使用して水陸両用戦闘車を一旦収容した後、水陸両用戦闘車はカーフェリーを離れ、出発した地点に戻った。
(2) 防衛問題専門家Tom Shugartは、この演習を注視し、軍民両用の民間フェリー7隻を追っていた。加えて、衛星画像企業Maxar Technologiesはこの演習の重要な部分詳細を明らかにする高解像度画像をUSNI Newsに提供した。「水陸両用戦闘車群は、以前、民間フェリーを用いた上陸強襲訓練が確認された海岸に近い他の海岸に上陸した。その数はこれまでに確認されているものよりの多かった」とTom Shugartは述べている。RoRoフェリー「渤海恒通」は15,000トン(「渤海恒通」は一般的には総トン数25,000トンと紹介されることが多いが、記事が取り上げた15,000トンは載貨重量トンと思われる。:訳者注)の多目的貨物船である。船内には3層の車両甲板があり、幅3mの車道線(パーキング・レーン)の総延長は2,700mと言われている。このことは、米海軍のサン・アントニオ級輸送揚陸艦の車両・貨物搭載能力の3倍の能力があることを示しているとTom Shugartは言う。「強襲揚陸艦やドック型輸送揚陸艦は、海兵隊員が数週間あるいは数ヶ月、洋上を行動できるように何立方ftもの余積を確保している。もし、海峡を渡る急ぎの旅をするのであれば、その余積は無駄な空間である。このフェリーは特別なものではない。姉妹船「渤海恒达」は同時期に、同じ性能要目で建造されている。船名が示すように、両船は通常、渤海で運航されている。しかし、演習では「渤海恒通」は台湾の対岸まで1,000海里以上を航行している。
(3) 水陸両用戦艦艇を商船あるいは徴用船(ships taken up from trade)によって増強するという考えは人民解放軍では目新しいものではない。中国海軍は何年にもわたって訓練を行ってきた。多くは輸送任務である。しかし、全重量26トンのZTD-05水陸両用戦闘車のような水陸両用戦用装甲車両を洋上において発進させることは新たな展開であるとTom Shugartは言う。
(4) 全ての人が、港湾を第一に奪取しなければならないと考える。民間フェリーは第2梯団であり・・・誰かが港湾を奪取していなければならないとTom Shugartは言う。「我々が、民間フェリーが水陸両用強襲車両を海へ直接発進させたのを我々が確認したのは2021年であり、今や民間フェリーが敵海岸に強襲部隊を送り込む第1梯団を担うことができることを意味する。」「渤海恒通」型フェリーは様々な車両、コンテナーを搭載できるように設計されており、大型ヘリコプターが着陸できる甲板を備えて建造されている。
(5) 「中国のRoRoフェリーは台湾侵攻を支援するのに打って付けである。海上作戦輸送能力を求められない場合でも民間の(輸送能力)強化は重要である」とTom Shugartは言う。演習以降、RoRo船は渤海湾入り口海域を渡る民間車両を輸送する通常任務に復帰している。しかし、その能力は緊急の通告をもって侵攻の体制に転換することができる。「フェリーより優れたものを思いつくだろうか?フェリーは車両と人を迅速に移動し、車両と人を下ろし、人が可能な限り効率的に作業できるように設計されている」とTom ShugartはUSNI Newsに語っている。
記事参照:Chinese Launch Assault Craft from Civilian Car Ferries in Mass Amphibious Invasion Drill, Satellite Photos Show

9月28日「中国の海洋パワーを封じ込める能力と意図-日・仏専門家論説」(The Diplomat, September 28, 2022)

 9月28日付のデジタル誌The Diplomatは、関西外語大名誉教授で仏Catholic University of LilleのPaul D. Scott及び関西外語大の平和・紛争研究の准教授Mark S. Coganの” Containing China’s Maritime Power: A Question of Capability and Intent”と題する論説を掲載し、ここで両名は、欧米列強が構築した現在の国際システムは、ルールベースの国際秩序に新興国があからさまに挑戦することを許さないので、中国の最終的な意図が何であれ、大国はそれに立ち向かうしかないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 鄧小平は、国民の所得を上げ、中国の経済政策を進展させることを優先させた。そして2013年、習近平は東シナ海と南シナ海での海洋優位を確立することで、中国を大国にする意図を表明した。これはすでに戦略的に重大な影響を及ぼしており、中国は他の地域大国と衝突する可能性がある。問題は、中国が本当にこの野望を実現するつもりなのか、またその能力があるのかである。これを、商船、港湾、海底ケーブル通信という文脈で検討する。
(2) 商船に関しては、中国は現在、5,600隻以上の商船を管理し、2億7,000万重量トン(DWT)の船舶を持つ世界第2位の船舶保有国である。中国海運経済物流研究院によると、中国COSCO海運は、世界最大の海運会社で、800隻以上の商船を運用し、合計7,450万重量トンの船舶を保有する。米国において1920年に成立したジョーンズ法は、米国の港間で水上輸送されるすべての貨物は、米国で建造され、米国旗を掲げ、米国市民や永住権保持者が所有・乗船する船舶によって運ばれなければならないと規定している。その結果、米国は国際貿易に使用できる船の数が少なくなった。一方、中国は一帯一路構想(BRI)を通じて大規模な商船建造計画を進めている。中国の造船会社は、資産1,200億ドルの国営企業である中国船舶工業集団公司(CSSC)の子会社である江南造船集団など、世界最大の規模を誇っている。
(3) 港湾に関しては、中国が世界各地で数十もの港を建設、維持、運営しており、圧倒的な優位性を持っていることが懸念される。たとえば、南アジアではスリランカのハンバントタ港が11億ドルで北京に99年間の契約で貸し出されている。重要な港湾は、中国東部とアフリカ大陸を海洋で結ぼうとする中国の「真珠の数珠」戦略の一部である。さらに悪いことに、中国海事研究所のLonnie Henleyは5月、商船を兵器化して台湾を侵略しようとする場合には、中国に物流面での優位性をもたらすと主張した。
(4) 海底ケーブル通信に関しては次のとおりである。
a. 米Center for Strategic and International Studies(CSIS)が2021年に発表した報告書は、海底ケーブル網で世界をリードする米国の地位はもはや安泰ではないと警告している。海底ケーブル網は、大陸間のほぼすべての音声およびインターネット通信を伝送するために不可欠であり、世界の多くの地域がデジタル接続される中、中国が海底ケーブルの主要プロバイダーとして台頭している。たとえば、2004年から2019年の間に、米国は全インターネット通信の半分を処理していたが、今は25%未満になった。一方、習近平は、中国を全世界的なデジタル網の中心となるために「デジタルシルクロード」の計画を立てた。
b. French Institute for International Studiesが発表した報告書では、海底ケーブル通信の技術が国際的に政治化しつつあることが指摘されている。フランスUniversity of LyonのInstitute for Strategy and Defense Studies準研究員Camille Morel研究助手は、2022年までに世界に張り巡らされた450本の光ファイバーケーブルは、国際データの98%を運び、デジタル接続された社会にとって不可欠な存在になると指摘している。報告書は、中国が海底ケーブルを政策の道具として、また海洋における主権を主張するために利用しているとしている。海底ケーブルの最適なルートを特定するために中国は海底調査を行い、その空間を占有することを可能にしている。6月には、中国が日本の排他的経済水域(尖閣諸島・釣魚島)に近い場所で、東京の許可を得ずに海底調査を行った。
c. デジタル領域における中国の優位性に対抗するために、太平洋地域や国際的な大国はデジタル基幹施設に多額の投資を行う必要がある。初期の取り組みとしては、2018年に発足した「インド太平洋におけるインフラ投資のための日米豪パートナーシップ」があり、中国の中国東部ミクロネシア・ケーブル・プロジェクトに対抗するためのファンドを呼びかけた。その投資は、太平洋島嶼国、日本、米国、オーストラリア間のMOUにより広まった。米国は、中国の2017年の「中華人民共和国国家情報法」の第7条に示される大手通信事業者が国家安全保障上の危険とされることを警告した。この法律には、「すべての組織と市民は、法律に従って国家情報活動を支援、援助、協力し、自らが知っている国家情報活動の秘密を保護しなければならない」との規定があり、公共部門と民間部門の境界線を消し去り、ハイテク企業に対して、中国の安全保障機関に資料を提供するように統制をかけるものである。
(5) 中国は、経済力と軍事力の構築で驚異的な能力を発揮してきた。それが台頭してきたことに異論はない。しかし、中国の外交政策の自己主張と「戦狼外交」の姿勢は、中国の意図について、特に海上で深刻な懸念を生んでいる。欧米列強が構築した現在の国際システムは、法に基づく国際秩序に新興国があからさまに挑戦することを許さない。したがって、これらの大国は、中国の最終的な意図が何であれ、海洋における力の拡張を封じ込めるか、あるいはそれに立ち向かうしかない。
記事参照:Containing China’s Maritime Power: A Question of Capability and Intent

9月29日「間違った潜水艦を買うべきではない―オーストラリア国防問題専門家論説」(The Interpreter, September 29, 2022)

 9月29日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、オーストラリア研究機関Griffith Asia Institute 客員研究員Peter Laytonの“Buying the wrong submarine”と題する論説を掲載し、そこでLaytonは英米豪安全保障協定(以下、AUKUSと言う)に基づくオーストラリアの原子力潜水艦調達に関して、攻撃型原子力潜水艦の調達ではなく弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の共有を目指すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)は、技術的には素晴らしい。それはオーストラリア海軍の既存のCollins級潜水艦に比べると速力は速く、航続距離は長く、潜航持続時間も長い。しかし攻撃能力に大きな違いはない。だが、航続距離や潜航持続時間の長さは、南シナ海で作戦行動を行う上で利点を提供すると考えられているようだ。
(2) ウクライナ戦争において、ロシア海軍は巡洋艦「モスクワ」に加え、多くの艦船を失ったが、まだ戦争は続いている。フォークランド戦争においてもイギリスのSSNがアルゼンチン海軍の巡洋艦を撃沈したが、戦争は終わらなかった。同じことが南シナ海にも言えるだろう。南シナ海で中国艦船を撃沈したとしても、中国がその周辺での行動を控えるだけで、戦争は終わらないだろう。
(3) ウクライナ戦争の教訓は、核兵器に関するものである。もしウクライナがソ連時代の核戦力を放棄していなかったら、またウクライナがNATO加盟国であったら、ロシアは間違いなくウクライナを侵攻していなかったはずである。逆に、ロシアは定期的に核兵器の使用をほのめかすことで、西側諸国のウクライナ支援およびロシアに対するウクライナからの攻撃に制約を加えている。
(4) 中国はどうも、本土への直接攻撃を恐れているようである。中国国営メディアのGlobal Timesは、オーストラリアがB-21爆撃機を調達したことが「中国に深刻な脅威を突き付けている」と論じた。対照的に、オーストラリアによるSSNの調達は、中国にとって核拡散の観点から問題であるとされているに過ぎない。B-21は抑止力になるが、SSNはそうではないようである。
(5) AUKUSは、オーストラリアに検討すべき全く新しい潜水艦による抑止の選択肢を提供するものである。英国は現在、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)としてドレッドノート級4隻を建造中であり、2030年代初頭に運用可能になるだろう。同潜水艦は核弾頭を搭載できる。オーストラリアは、英国と共同でこのドレッドノート級SSBNの調達や運用に関わることもできるのである。この場合、双方がミサイル使用に関して合意する必要があるが、英豪はこうした合意に到達する可能性がある。
(6) こうした協定は、オーストラリアに自前の核兵器や原子力潜水艦を持たせるものではなく、あくまでSSBNの共有という考え方である。そしてSSBNの共有は新しいものではなく、米国はすでにそれをさまざまな国と進めており、もはやこの点に関して核拡散は懸念事項ではない。SSBNの共有によって、オーストラリアには核攻撃という選択肢を得ることができる。これはSSNの調達だけでは得られないものだ。
(7) 2040年代に整備されるであろうオーストラリアのSSN部隊は、優れた攻撃力を有するであろう。しかし、あくまで既存の潜水艦部隊の強化版に過ぎない。そうではなく、戦争の始まりそのものを抑止できる能力の獲得を今、我々は検討しても良いであろう。
記事参照:Buying the wrong submarine

9月30日「米韓日の対北朝鮮潜水艦訓練―インドニュースサイト報道」(EurAsian Times, September 30, 2022)

 9月30日付のインドニュースサイト EurAsian Timesは、インドを拠点とする東アジアの安全保障の専門家Ashish Dangwalによる“1st Time In Five Years, US Navy Holds ‘Trilateral Drills’ With Asian Allies Amid North Korean Aggression”と題する記事を掲載し、5年ぶりに行われた北朝鮮を念頭に置いた米韓日の対潜水艦訓練について、要旨以下のように報じている。
(1) 米韓海軍及び海上自衛隊は9月30日、東海(日本海)で3ヵ国による対潜水艦訓練を実施した。この訓練は、この地域で好戦的になっている北朝鮮への警告とみなされている。この演習は北朝鮮が東部海域に向けて2発の弾道ミサイルを発射した翌日に行われたもので、1週間で計3発の弾道ミサイルが発射されたことになる。今回の3ヵ国対潜水艦演習が5年ぶりに行われたことが、さらに大きな意味を与えた。この1日限りの演習は、進歩主義の韓国の前政権が南北関係を強化し、2019年から滞っている北朝鮮と米国の軍縮協議が推進しなかったため、2017年から開催されていなかった。韓国海軍は声明で、演習は北朝鮮の潜水艦の脅威が高まっていることに対応する能力を強化する意図があると述べている。米海軍は、この訓練は3ヵ国間の戦術的・技術的な調整と相互運用性を向上させるものだとしている。
(2) 韓国国防省によると、今回の訓練は、潜水艦発射弾道ミサイル(以下、SLBMと言う)を発射可能な北朝鮮の潜水艦の探知、識別、追尾に重点を置いて行われた。訓練の数日前、米国のシンクタンクは商業衛星写真のデータを引用して、北朝鮮が弾道ミサイルを発射可能な新型潜水艦の進水を準備している可能性を示唆した。金正恩政権は、合同演習に真っ向から反対してSLBMの発射を計画していると広く信じられていた。しかし、この権威主義国家は、1週間足らずの間に3発の短距離弾道ミサイルを発射することを選択した。
(3) 2022年、北朝鮮は、米国と韓国からの核交渉再開の要求を断固として拒否している一方で、記録的な数のミサイル実験を行った。米韓の軍事演習や北朝鮮への経済制裁に明らかに関連し、北朝鮮は米国が敵対的行動を放棄しない限り、話し合いに応じないことを表明している。さらに、北朝鮮は9月初め、核戦略の強硬化を示す動きとして、特定の状況下での核兵器の先制使用を認める新法を可決した。一部の評論家によれば、核能力の一部を放棄する代わりに制裁緩和やその他の譲歩を得るために、北朝鮮は米国と軍備管理交渉を行うことを最終的に求めるだろうということである。
(4) 9月29日、北朝鮮は短距離弾道ミサイル2発を海へ発射した。これは、Kamala Harris米副大統領が韓国訪問から帰国した直後の出来事だった。Harris副大統領は、北朝鮮のミサイル発射を「地域の不安定化」を意図した挑発行為とし、米国と韓国は依然として北の「完全な非核化」に専心していると表明した。それにもかかわらず、9月の第5週、北朝鮮は3発のミサイルを発射し、核兵器の規模を拡大し、核保有国として認めるよう米国に圧力をかけるため、記録的な頻度で兵器実験を続けている。
(5) 観測筋によると、北朝鮮はプルアップ(pull-up)機動(弾道ミサイル弾頭が落下軌動に入った後、途中で水平に機動し、さらに上向きに上昇軌道(プルアップ)を描く軌道を指す:訳者注)が可能なKN-23ミサイルを発射した可能性があるという。韓国の聯合ニュースによれば、この兵器は移動式発射台から発射された可能性があるという。
記事参照:
1st Time In Five Years, US Navy Holds ‘Trilateral Drills’ With Asian Allies Amid North Korean Aggression

9月30日「米国はより包括的な太平洋関与戦略を立案せよ―米アジア・太平洋専門家論説」(The Strategist, September 30, 2022)

 9月30日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Georgetown UniversityのCenter for Australian, New Zealand and Pacific Studies 研究員Michael Walshの“The US pivot towards Pacific regionalism”と題する論説を掲載し、Michael Walshは米政府が新たに発表した太平洋戦略に言及し、その不十分さについて指摘し、より包括的な太平洋関与戦略を立案すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 9月30日、Biden大統領は米国の太平洋パートナーシップ戦略を発表した。同文書は、太平洋島嶼地域に対する米国政府の関与の方向性に関する工程表を提供するものである。
(2) この戦略の重要な特徴が、それが、太平洋諸島フォーラムをはじめとする太平洋の地域主義・機関にかなりの力点を置いていることだ。それに対して、メラネシア・スピアヘッド・グループなどの小地域機関にはほとんど言及がない。たとえばミクロネシア大統領首脳会議の加盟国は2021年、太平洋諸島フォーラムから脱退を決定したように太平洋における地域主義と小地域主義との間の緊張関係を考慮すれば、これは重要な意味を持つ。
(3) 米国による太平洋地域主義への傾倒には大きな危険性ある。短期的には、これはミクロネシア連邦やマーシャル諸島との間での、2022年中の自由連合協定(COMPACT)改定の妥結を妨げるかもしれない。長期的には、ミクロネシア諸国間での、またミクロネシア諸国と米国の間の関係が悪化するかもしれない。Biden政権はこの点において、太平洋の地域主義に賭けたほうがマシだと考えたのであるが、それが正しい選択であったことを祈りたい。米国の賭けが失敗すれば、太平洋における米国の覇権維持は困難になる。
(4) もう1つ重要な特徴が、この戦略は太平洋諸島への関与のあり方について、1種類の工程表しか示していないことである。それは、公式の合意に基づくような関係性に関する工程表を提供するものではなく、あくまで2国間ないしそれ以上の、非公式的な合意に基づく、短期的でより限定された目標を共有する関係性に関する工程表を提供するものである。結局、米国による太平洋への関与に関する包括的な工程表は提供できていないということだ。
(5) こうした状況をなんとかしようと、米議会が包括的な戦略の立案を求めてくるかもしれない。その時、政府は2つの国家戦略を追加で作成し、今回の戦略同様、インド太平洋戦略の下部に位置づけるべきである。差し当たり、ここではその2つを太平洋自由連合戦略と太平洋本土戦略とでも呼ぶことにしよう。これらの戦略が全て、1つのチームによって練り上げられるのが理想的である。しかしこれまで、国家安全保障委員会は、これらの戦略立案に関してそうではないやり方を採ってきた。そのため、太平洋への関与に関して、包括的で調和した戦略を完成させることが困難になっている。
記事参照:The US pivot towards Pacific regionalism

9月30日「米太平洋島嶼戦略、その先にあるもの―インド専門家論説」(Asia Times, September 30, 2022)

 9月30 日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、インドJawaharlal Nehru University教授Swaran Singhの “US Pacific Islands Strategy: what lies beyond”と題する論説を掲載し、Swaran Singhはワシントンで9月28~29日に開催された太平洋島嶼諸国首脳会議では、この地域の持続的な緊張を示す深刻な懸念が垣間見られたとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国は9月28~29日にワシントンで、初めての太平洋島嶼諸国首脳会議を開催した。クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー、仏領ポリネシア、ニューカレドニア、パラオ、パプアニューギニア、マーシャル諸島共和国、サモア、ソロモン諸島、トンガそしてツバルの国家元首あるいは政府首脳が出席し、ナウル共和国とバヌアツ共和国はそれぞれ駐米大使が出席した。サミットでは米・太平洋パートナーシップ宣言*を発出し、米国は太平洋パートナーシップ戦略**と題された初めての太平洋島嶼諸国戦略を別途発表した。
(2) 首脳会談を通じて、米国と太平洋島嶼諸国は、この地域が大国間の地政学的抗争の犠牲になりつつあるという感覚を共有した。言うまでもなく、中国の前例のない経済的台頭と太平洋島嶼諸国における存在感の拡大は、ついにこの地域の均衡を崩し始めた。しかし、双方は、これが何を意味するのかについて相反する説明をし、またそれへの対処方針についても相反する戦略を提示しているように思われる。たとえば、米国の太平洋パートナーシップ戦略は、「地政学的抗争の高まり」が彼らの生活に影響を与えることへの懸念を表明した太平洋島嶼諸国フォーラムの「ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略(The 2050 Strategy for the Blue Pacific Continent of the Pacific Islands Forum)***」を引用している。しかし、その後で、「中国による経済的威嚇は、この地域、引いては米国の平和、繁栄そして安全を損なう危険がある」と非難している。
(3) 同様に、中国もまた、米国とその同盟国がこの地域でますます受け入れられていると見なすもの(中国)を「中傷するキャンペーンを展開している」と非難している。特に、中国が2022年3月にソロモン諸島との間で特別安全保障協定に署名してから、米国のこの地域の同盟国、オーストラリアとニュージーランドは、Biden米大統領の非常に活発なこの地域への再関与政策を中国に対抗する願望に突き動かされたものと見なすよう太平洋島嶼諸国の人々に促し、中国の動きに対する不安を声高に主張してきた。米国のこの地域への再関与政策は、たとえば、Biden大統領による1993年に閉鎖されたソロモン諸島の大使館再開、さらにはトンガとキリバスを含む多く島嶼国への大使館開設、クック諸島とニウエを主権国家として承認する計画など、サミット開催時にも見られた。これらの島嶼諸国は全て、中国の存在感の拡大を目の当たりにし、中国政府との友好関係を強化してきた。
(4) 米国は過去5年間、この地域に対する非常に活発な関与政策を展開してきた。この政策は、当時のPence副大統領による2018年のパプアニューギニアで開催でのアジア太平洋経済協力(APEC)フォーラム出席が最初で、それに続いてTrump大統領(当時)によるパラオ共和国、マーシャル諸島共和国そしてミクロネシア連邦との自由連合盟約首脳会議の主催などを経て、コロナ禍による中断後、2022年2月には、Blinken国務長官がフィジーを訪問した。その後のBiden政権高官の現地訪問に続いて、7月にはHarris副大統領が太平洋島嶼諸国フォーラムでのオンライン演説で、新しい大使館の開設、平和部隊の帰還及びForum Fisheries Agency(南太平洋フォーラム漁業機関)への資金供与の増額など、この地域への米国の関与政策の拡大計画を発表した。8月には、Sherman国務副長官とKennedy駐豪大使が、第2次世界大戦時のガダルカナル作戦80周年を記念してソロモン諸島を訪問した。これら全てが、中国のこの地域への関与と影響力の拡大によって動機付けられたものでなかったかもしれない。実際、米中両国には、相互に相手を弱体化させるという理由以上に、太平洋島嶼諸国への関与を強化する理由がある。
(5) たとえば、太平洋島嶼諸国地域における米国の権益は、近年の米中抗争以前から存在するものであることを強調しておかなければならない。米国は、この地域にハワイ州、米領サモア、北マリアナ諸島自治連邦区及びグアムを含む主権領土を持っており、したがって、このことが中国の太平洋地域全般への影響力拡大に対する懸念の要因となっている。第2に、米国は、かつて「信託統治領」を管轄してきた。「信託統治領」は、現在、パラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦からなる自由連合盟約を形成している。この特別な関係は、この地域における中国の展開の強化に対して米国が警戒心を抱く、期待と責任を示している。第3に、一部の太平洋島嶼諸国の指導者は米国が中国に対抗するに当たって域内諸国を関与させることに不快感を表明しており、このことが如何にBiden政権をして地政学的動きを抑え、現地の生活、教育、訓練、漁業資源の乱獲、及びその他のコロナ禍や気候変動に関連する諸課題を重視する方向に向かわせているかを、注視しなければならない。このことは、2022年2月に公表されたBiden政権の「インド太平洋戦略」において、米国を「太平洋島嶼諸国にとって不可欠な提携国」にするという誓約を強調して太平洋島嶼諸国へのより深い関与を示した理由でもある。最後に、太平洋島嶼諸国は、地球表面の15%に及ぶ「ブルーパシフィック大陸」であり、インド太平洋地域の重要なサブリージョンを形成している。
(6) 同様に、中国はこれら14の太平洋島嶼諸国との間で、国際的なフォーラムでの支持基盤を拡大し、「一帯一路構想」と新たに立ち上げた「世界開発・グローバル安全保障構想」における新たな提携国を見つける必要がある。そして何よりも、中国はこの地域における台湾の外交空間を一層制限するために、新たな提携国を必要としている。現在、台湾を承認しているのは、マーシャル諸島、ツバル、パラオ及びナウルの4ヵ国である。
(7) インドでさえ、「インド・太平洋島嶼諸国協力フォーラム」を創設し、2014年と2015年の2回の首脳会議を開催し、2017年5月にはニューデリーで「インド・太平洋島嶼諸国持続可能な開発会議」を開催した。フィジーは、太平洋島嶼諸国で2番目に大きく、人口の38%がインド系フィジー人であり、インドとは密接な絆を持っている。インドはこれまでこの地域で最も活発な行為者ではなかった。しかし、インドの外相がワシントンで最近、太平洋島嶼諸国最大のパプアニューギニアの外相と会談したことから、インドが中国に対抗するために太平洋島嶼諸国への関与を活性化している米国に与するのではないか、との地政学的憶測が評論家の間で高まったが、どの程度真実かは謎のままであろう。
記事参照:US Pacific Islands Strategy: what lies beyond

Note*: Declaration on U.S.-Pacific Partnership
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/09/29/declaration-on-u-s-pacific-partnership/
Note**: PACFIC PARTNERSHIP STRATEGY OF THE UNITED STATES
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/09/Pacific-Partnership-Strategy.pdf
Note***: The 2050 Strategy for the Blue Pacific Continent of the Pacific Islands Forum
https://www.forumsec.org/wp-content/uploads/2022/08/PIFS-2050-Strategy-Blue-Pacific-Continent-WEB-5Aug2022.pdf

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1)China Could Decide Now Is The Time For War With America
https://www.19fortyfive.com/2022/09/china-could-decide-now-is-the-time-for-war-with-america/
19FortyFive, September 27, 2022
By James Holmes holds the J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and served on the faculty of the University of Georgia School of Public and International Affairs.
 9月27日、U.S. Naval War College教授James Holmesは、米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトに、“China Could Decide Now Is The Time For War With America”と題する記事を投稿した。その中で、①もし戦争が避けられないのであれば、立場がさらに悪くなる前に、弱者が強者に戦いを挑むことは、時には理にかなっている。②もし中国が絶頂期に達し、中国共産党の大物たちがそれを知っているならば、今こそ軍事力を使って遺恨を清算する絶好の機会であると判断するかもしれない。③今後数年間は、中国にとって誘惑にかられる時期であり、インド太平洋地域にとって危険な時期である。④中国は数十年にわたり、政治的・戦略的に有利な環境の恩恵を受けてきたが、取り巻く環境はもはやそれほど恵まれてはいない。⑤そして、内部事情もあり、人口統計、GDP、資源、環境などの重要な指標は、むしろ国力を抑制する方向にあり、中国の台頭は続かず、西太平洋で中国政府が優位に立てないかもしれない。⑥しかし、中国の台頭が近い将来行き詰るとはいえ、今後数年間、米中間の対立がなくなるといは言えず、衰退の入り口にある中国は危険である。⑦あるいは、中国政府は安全策を取りながら、将来的な展望を高めるような状況を望むかもしれない。⑧もし、米国とその同盟国が今後10年程度、中国の戦争を抑止することができれば、中国との戦略的競争は長期的にはより管理しやすいものになる。⑨しかし、もし今後数年間が最大の危機であったとしても、宿命論と危機感は長期にわたって米国の政策と戦略を推進するものでなければならない。⑩中国はすでに、東アジアに深刻な被害をもたらすのに十分な手段を講じており、中国軍の海軍、空軍、ロケット軍が現在存在し、来るべき人口減少の時代にも存在し続けるといった主張を述べている。

(2)GUARDING THE PACIFIC: HOW WASHINGTON CAN COUNTER CHINA IN THE
SOLOMONS AND BEYOND
https://warontherocks.com/2022/09/guarding-the-pacific-how-washington-can-counter-china-in-the-solomons-and-beyond/
War on the Rocks, September 30, 2022
By Alexander B. Gray, a senior advisor at the Marathon Initiative
 2022年9月30日、米シンクタンクMarathon Initiativeの上席顧問Alexander B. Grayは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" GUARDING THE PACIFIC: HOW WASHINGTON CAN COUNTER CHINA IN THE SOLOMONS AND BEYOND "と題する論説を寄稿した。その中でGrayは、2019年4月の政権発足以来、ソロモン諸島のSogavare政権は、中国寄りの政策を展開するなど、米国とその同盟国、そしてより広い地域の安定の利益にますます敵対する一連の措置を取ってきたが、幸いなことに、中国のソロモン諸島支配に内在する危険性は米政府に南太平洋の戦略的重要性に対する認識を喚起したようだと評している。Grayは具体的に、中国は南太平洋諸国に対する欧米諸国の支援の縮小を補うことで安全保障上の進出を果たしてきたが、米国は今、過去の過ちを捨て、これら南太平洋諸国との重要な関係を強化する機会を得ているのだから、外交的関与を深め、それらの国々とU. S. Coast Guardとの協力を強化し、相手国政府が米国各州の州兵部隊と協力できる、ステート・パートナーシップ・プログラムを拡大する必要があると主張している。

(3)Managing the risks of US-China war: Implementing a strategy of integrated
deterrence
https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2022/09/FP_20220926_nds_china.pdf
Brookings, September 30, 2022
By Michael E. O’Hanlon, a senior fellow and director of research in Foreign Policy at the Brookings Institution 
Melanie W. Sisson, a fellow in the Foreign Policy program's Strobe Talbott Center for Security, Strategy 
Caitlin Talmadge,  Associate Professor in the Edmund A. Walsh School of Foreign Service and a core faculty member of the Security Studies Program
 2022年9月30日、米シンクタンクThe Brookings Institute のMichael E. O’Hanlon上席研究員、同シンクタンクのMelanie W. Sisson研究員、そして米Georgetown University Edmund A. Walsh School of Foreign ServiceのCaitlin Talmadge准教授は、同シンクタンクのウエブサイトに" Managing the risks of US-China war: Implementing a strategy of integrated deterrence "と題する論説を寄稿した。その中でO’Hanlonらは、中国と台湾の間で続いている統一の是非をめぐる不一致と米中間の競争激化が、米台中の3国間関係を圧迫しているが、米国が両岸戦争の勃発を防ぐために建設的な役割を維持するためには、中国の台湾侵略を抑止する戦略を、米国の利益と能力に合致し、かつ、万が一紛争が発生した場合には核戦争への事態拡大を防止するという重要な目的を明確にした上で実施することが必要であろうと指摘している。その上で、今年示された「統合抑止力(integrated deterrence)」の概念は、米国の「一つの中国」政策の再確認、西太平洋の地理的条件に適した通常戦力への投資、中国のシステム戦という軍事概念への耐性向上、台湾への侵略の経済的・政治的影響に関する明確な情報伝達、そして、予想される中国の対米禁輸措置やサイバー攻撃に対する米国内の脆弱性の低減によって、強化することが可能であると主張している。