Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第525号(2022.06.20発行)

編集後記

日本海洋政策学会会長◆坂元茂樹

◆第73回国連総会は、生物多様性条約第14回締約国会議の要請を受け、決議73/284を採択し、2021年から2030年を「国連生態系回復の10年」と定めた。世界中の生態系の劣化を予防し、食い止め、反転させるための努力を支援し、拡大させることを目的とする同決議は、加盟国に対して、そのための計画の策定や資金の確保、科学研究の実施、優良事例の共有促進を求めている。
◆柳谷牧子国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)プログラムコーディネーターからは、この決議成立の背景と目的についてご説明いただいた。柳谷さんが所属する国連大学は、この取り組みを主導する国連環境計画(UNEP)と国連食糧農業機関(FAO)の協力機関であり、最もふさわしい方にご寄稿いただいたことに感謝したい。本誌を発行する(公財)笹川平和財団海洋政策研究所(OPRI)は、UNU-IASと環境省との共催で、沿岸生態系の再生と捉えうる里海の実践につき、「国連生態系回復の10年─里海再生国際シンポジウム─」と題したオンラインシンポジウムを開催した。その内容については本誌に譲りたい。
◆釣りタレントの高本采実さんからは、2019年、2020年と2年続けてアウトドアレジャーの1位に輝いた釣りについて、それを持続的に楽しむための制度と課題について広い視野から語っていただいた。水産資源の減少が進むが、市場に並ぶ魚種が500種にのぼる中、TAC対象魚種の指定が8種類に留まっている現状の問題点や、2022年3月に閣議決定された新たな水産基本計画の中で「遊漁についても漁業と一貫性のある管理を目指す」とされていることを踏まえ、釣り人に資源管理を促す主張は説得力がある。1位といっても釣り人が減少している理由にルールやマナーの問題があること、さらに解決策としてのライセンス制の提案など傾聴に値する。
◆角南沙己東北大学理学部地球惑星物質科学科3年からは、(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)が主催した若手人材育成プロジェクトのガチンコファイト航海に参加した経験が、若者らしい夢にあふれた筆致で描かれている。深海潜水調査船支援母船「よこすか」での調査航海と有人潜水調査船「しんかい6500」に乗船し、熱水噴出孔を調査した経験が生き生きと語られている。海洋調査における有人潜水探査の魅力を発見したこのような若者が、将来研究者の道に進み、自らが希望する地球化学研究者になることを期待したい。こうした学問への憧憬こそが、まだ何者でもない若者を研究者に育てると信ずるからである。(坂元茂樹)

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