海洋安全保障情報旬報 2018年6月11日-6月20日
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6月11日「米国と中露の狭間で新たな戦略を模索するインド―シンガポール専門家評論」(RSIS Commentaries, June 11, 2018)
シンガポール南洋工科大学・ラジャラトナム国際問題研究所(RSIS)の上級客員研究員P S Suryanarayanaは、6月11日付のRSIS Commentariesに、"India's Strategy of Connectivity and Autonomy"と題する論説を寄稿し、中露のインドへの接近はインドが大国との関係で新たな戦略を模索する余地を生んだと指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1)インドのModi首相は、東南アジアにおける中国の「一帯一路構想」(BRI)に対応して、ASEANに対する新戦略「コネクト・イースト」を打ち出した。この背景には、多くの国との間に全方位の連結性を追求するBRIの野心がある。見たところインドは、大胆な戦略的思考と連結性関連の外交におけるスマートパワーの投射という、2つの控えめだが新たな志向をもって東南アジアに相対している。現在の最高政治レベルにおける中印の雪解けは、少なくとも2つの理由でModiに自信を与えたように思える。
a. 第1の理由:Modiは、インドのアンダマン諸島やニコバル諸島近傍のセンシティブな地理的戦略地域に面する、スマトラ島北端のサバンのような場所における港湾開発で、インドネシアを支援することを望んでいる。このようにModiは、インドが最終的に軍事目的でインドネシアの港を使えなかったとしても、大胆なメッセージを発することができた。インドとインドネシアは、Modiの提案を検討する共同作業グループの設置で合意した。大局的な視点で見ると、Modiは他国と戦略的に共鳴する経済的なパートナーシップを探る中国を真似ようとしているのだろう。
b. 第2の理由:Modiは目下のところ、インドを国家間連結性プロジェクトのハイテク分野におけるスマートなプレイヤーとして位置づけようとしている。こうしたことは、Modiの5月31日~6月2日のシンガポール訪問の従来とは異なる重点の大部分を説明することになる。
(2)Modiの「コネクト・イースト」戦略は、6月1日にシンガポールで行われたシャングリラ対話(SLD)における彼の基調講演から窺えるように、広大なインド太平洋地域でのニューデリーによる地政学の一部に過ぎない。実のところ、そのための舞台は4月27日~4月28日の武漢における習近平主席との非公式会談や、5月21日のソチにおけるPutin大統領との会談で用意された。実際、Modiは中ロの指導者から招待を受けていた。招待の事実そのものが、中ロがインドに関与する共通利害がにわかに高まっている証左である。中国外交部によれば、習はModiとの非公式会談の席において「中印の安定した関係は、世界の安定維持にとって重要かつ肯定的な要因である。」と強調した。明らかに習はインドが、中国との良好な関係の必要性を認識することを望んでいる。また、Modiは重大なことにSLDでPutinと多極世界の重要性に関して議論したことを明かした。
(3)明白なメッセージは露中がインドに、世界的な地政学・地経学で米国から自律して動くことを望んでいるという点にある。その論理的な帰結は、ModiがSLDで用いた政策的示唆に富む独自の表現である「戦略的自律性」が、中露が米国と個別、あるいはまとまって取引するに当たっての、利益のヘッジに有用だろうということである。Modiの「戦略的自律性」に対する新たな決意は、インドが現在の中露を一体として一方に置き、有力な米日の紐帯をもう一方に置くときに、これらの関係をヘッジつまりはバランスを取る際にも役立ち得るものである。こうした文脈でModiはSLDの際に、ニューデリーと東京の関係が「重要な実質と目的を伴ったパートナーシップ」となったと評したのである。
(4)それに加えてModiは、インドの比較的新しい米国との「グローバルな戦略的パートナーシップ」が、「逡巡の歴史を克服し、とてつもない広大な範囲にわたって(一連の関係を)深化し続ける。」と述べた。これまでかなりの期間、インドは息を吹き返した公式レベルの戦略対話である「4カ国枠組み」において、日本や米国、オーストラリアとも協力してきた。「4カ国枠組み」が中露パートナーシップに対するModiのヘッジと軌を一にするとはいえ、ModiはSLDの基調講演で「4カ国枠組み」に言及しないことで、米国に対してもヘッジを行うように気を配った。しかしながら、米国のMattis国防長官は、SLDで新たな戦略的メカニズムとして「4カ国枠組み」を「100パーセント」支持すると強調した。
(5)全体として、Modiが最も細心の注意を要する課題は中国である。SLDでModiは、インドと中国の「諸問題を管理して、平和的に国境を守る成熟ぶりと賢明さ」について語った。彼は、両国の経済的に肯定的ないくつかの側面にも言及した。しかしながら、Modiはインドの北京のBRI外交に対する依然として懐疑的な見方や、中国パキスタン経済回廊(CPEC)への反対を強調すべくお馴染みの婉曲な言葉遣いをした。重要なことに中国、パキスタン及びアフガニスタンの当局者は5月28日に、CPECをインドに友好的なアフガニスタンまで延長する「実現可能性」を検討することで合意した。これに伴いModiのBRI関連の課題は複雑さを増すだろう。
記事参照:India's Strategy of Connectivity and Autonomy
6月11日「カナダ潜水艦、ICEX18に参加せず」(CBC, Jun 11, 2018)
カナダ放送協会は米英の原子力潜水艦が参加し、北極の氷原に浮上したICEX18に加潜水艦は参加できなかったとして要旨以下のように報じた。
(1)5週間以上、英潜水艦はボーフォート海の氷の下を航行し、その氷を破って、2隻の米潜水艦のそばに浮上した。カナダは演習には参加したが、氷の下を行くことはできなかった。
Ice Exercise 18 (ICEX)は北極圏の酷寒の気象条件の下での挑戦が求められる一連の演習であり、北極の氷冠の下を行動する潜水艦の技量が問われるように計画されたものである。カナダの潜水艦は参加しなかった。
(2)アラスカ沖約200Kmのボーフォート海で行われ、「この演習は、英海軍がよく訓練されており、考えられる最も厳しい条件下で作戦し、いかなる潜在的脅威からも我が国を守る準備があることを示した。」とMark Lancastere英国防相は述べた。しかし、加海軍は潜水艦について同じような主張をすることはできなかった。
(3)加海軍の潜水艦は20年前に英海軍から購入したもので、この種の氷の下で行動するよう設計されていない。原子力潜水艦と異なり、加潜水艦は開かれた海と氷縁近くでの行動に限られている。予算上の現実のため一般に認められた譲歩である。加潜水艦は通常型であり、定期的に吸気のため露頂しなければならない。米英海軍は原子力潜水艦を保有しており、それらは乗組員の糧食がつきるまで水中に留まる能力を有している。彼らは自信を持って北極の氷の下を行動できる。
(4)それでも、加海軍は2011年以来ICEXに関与してきた。今年は、カナダはICEX2018に通信員を派遣することで「控えめな貢献」をした。加空軍も演習に参加したが、どの関与について加空軍は答えなかった。
(5)カルガリー大学のRobert Huebert教授は、米加海軍の関係は世界で最も強いものの1つと言う。北極の主権を哨戒し、防護する能力はないが、カナダはその実施を助けるための同盟国として、特に米海軍に依存しているとRobert Huebert教授は説明する。
Huebert教授によれば、北極の主権はカナダが絶対的かつ完全な支配を持つと主張している北極地域の境界を定めることを意味する。しかし、氷の下で行動する加潜水艦部隊の能力は主権に関するものではなく、安全保障に関するものだとRobert Huebert教授は言う。
「主権は国際的な法の支配が目的である。しかし、安全保障は執行能力についてである。」長期的には、砕氷船を持ち、北極政策を有する中国海軍を注視することが重要であるとHuebert教授は言う。ある日、中国が氷の下を行動できる潜水艦を保有することを想像するのは難しいことではないともHuebert教授は言う。「そのことが主権者としての支配の疑問を提起する。」とHuebert教授は言う。
(6)北米航空宇宙防衛軍合意の下で、加軍は北米北極海域の哨戒と防衛への統合努力において支援的役割を果たしている。2017年、加軍は北西航路を航行する船舶交通を探知し、追尾することを海軍が実施できるセンサー技術の試験を開始することで、ヴィクトリア大学のカナダ海洋ネットワークと契約した。これは1980年代から運用されている北方警戒システムを代替することになるだろう。加海軍通信補佐官St. Germainは協同北極海行動に関する加沿岸警備隊との合意、新しい北極哨戒艦船の加入は加海軍の「北極におけるプレゼンスが近い将来増加することを意味する。」と述べている。
記事参照:Canadian submarines not part of international Arctic under-ice exercise
【解説】
Under Ice OPS
山内敏秀
2018年3月はじめ、5週間にわたるIce Exercise 2018(ICEX18)が開始され、シーウルフ級米原子力潜水艦、ロサンゼルス級米原子力潜水艦、トラファルガー級英原子力潜水艦各1隻が参加し、3隻はそろって北極の氷原に浮上した。
ICEX18についてカナダ放送協会(CBC)は、6月11日付でカナダの潜水艦は参加しなかったと報じた。その理由としてカナダ海軍が保有する4隻の潜水艦は通常型潜水艦であることを指摘している。
ここでは、なぜ通常型潜水艦は北極の氷の下を行動できず、原子力潜水艦は可能なのかを整理し、米国、あるいは英国原子力潜水艦が氷の下をどのように航行し、氷原に浮上してくるのかを見てみたい。
通常型潜水艦と原子力潜水艦の決定的な違いは、言うまでもなくその動力システムにある。原子力潜水艦は、原子炉の熱源によって高温高圧の蒸気を得、その蒸気をもってタービンを介して発電機を回し、その電力によって電動機、さらには推進器を駆動するのが一般的である。したがって、CBCが報じたように原子力潜水艦の行動は乗組員の糧食が尽きるまで持続可能である。しかし、これは必ずしも正しくない。米国での場合であるが、原子力潜水艦、特に核抑止任務につく弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の行動を制限したのは乗組員の夫人連である。夫人連は長期の夫の不在を不満として大統領に直訴し、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の行動期間を短縮させた。この事態に対応するため米海軍は現行のゴールデン・クルーとブルー・クルーの1艦2チーム制を採ることとなった。
一方、通常型潜水艦はディーゼル電気推進方式を採用しているものが一般的である。すなわち、水中での行動の動力源は2次蓄電池から得られる電力であり、これによって電動機、推進器を駆動する。2次蓄電池を動力源とする限り、どのような使用形態を採るかによって異なるが、いつかは蓄電池を充電する必要が出てくる。このため、ディーゼル・エンジンを駆動し、直結された発電機から電力を得て、電動機を駆動するとともに、蓄電池の充電に当てる。ディーゼル・エンジンは内燃機関である以上、駆動するためには空気を必要とする。現在では、Uボートや伊号潜水艦のように浮上して充電を行うことはない。第2次大戦末期にドイツが開発したスノーケルによって潜水艦は露頂深度に留まり、給気筒の頂部だけを水面上に出して空気を取り入れ、充電を行う。給気筒の頂部には荒天時等に海水の浸入を防ぐための頭部弁があり、その上に異物が混入しないように格子が設置されている場合もある。そして、通常型潜水艦が24時間の内、何時間のスノーケルを必要とするかは2次蓄電池の性能とどのような行動を行うかに大きく依存しており、ある比率をもってスノーケルを実施することは通常型潜水艦にとって避けることのできない問題である。
このような通常型潜水艦が北極の氷の下を行動する場合でも、スノーケル充電は不可欠であり、このためには少なくとも氷結していない開氷面を見つけて給気筒を水面に出す必要がある。これは盛夏の限られた時期にしか期待できず、ICEX18のようにそれ以外の時期では氷を突き破って給気筒を氷原上に出さなければならないが、給気筒は氷を突き破る際にかかると予想される圧力あるいは衝撃に耐えうる強度は備えていない。
今一つ重要であるが、案外に見過ごされがちなのが、艦内環境、特に艦内の空気の問題である。通常型潜水艦であれ、原子力潜水艦であれ、密閉空間であることには変わりはない。したがって、艦内の空気は原則として、潜入時の空気であり、乗組員の数にはかなりの開きがあるが、通常型潜水艦で20数名から80名が、また原子力潜水艦では約100名から約160名がこの空気から酸素を吸入し、炭酸ガスを排出する。通常、大気中の酸素濃度は約21パーセントであり、炭酸ガスは最近では約0.04パーセントである。これが酸素は18パーセント以下になると個体差はあるもののいわゆる酸欠症を起こす危険があり、炭酸ガスは労働衛生上0.5パーセントが許容値とされており、3パーセントとなると血圧や脈拍が上がり、吐き気や頭痛等、人体への悪影響が顕著になってくる。したがって、密閉空間である潜水艦では艦内の空気環境を適切に管理する必要がある。
通常型潜水艦の場合、艦内空気の管理はスノーケルで行うことが多い。前述の頭部弁を人為的に閉鎖し、汚れた空気をディーゼル・エンジンに吸わせ、艦内気圧が下がったところで頭部弁を開放して新鮮な外気を取り入れることで行う。やむを得ない場合、酸素は高圧空気あるいは応急用の酸素ボンベからの酸素の放出で賄うことができる。しかし、この場合、艦内気圧が上昇するという問題を伴う。しかし、炭酸ガスを抑制あるいは濃度を降下させるためにはアミン式炭酸ガス吸収装置というものもあるが、これを使用するためには電池を消耗することになり、結局スノーケル機会が増加する。
これに対し、原子力潜水艦は豊富なエネルギー源によって容易に艦内空気の管理を実施でき、例えばICEX18のように5週間にわたって全没を維持することができるのである。
潜水艦が北極の氷原に浮上したのは1958年8月の米原子力潜水艦「スケート」が最初である。今回のICEX18の支援基地が「スケート」と名付けられたのも米原子力潜水艦「スケート」の功績にちなんだものである。
原子力潜水艦が北極の氷原下を行動することを米海軍ではUnder Ice Operationsと呼んでいるようである。このUnder Ice Ops.で鍵となる装備が高周波のアクティブ・ソナーである。
北極の氷の底の形状は複雑であり、その形状を正確に把握しなければ、潜水艦は安全に航行することができない。
そこで鍵となるのが高周波数のアクティブ・ソナーである。言うまでもなく、アクティブ・ソナーとは山彦の原理で発振された音が目標に当たって、反射してくる音で目標の存在を知るわけであるが、この音は周波数によってある特徴を有する。
低周波帯域の音は伝搬の際にそのエネルギーの減衰が比較的少なく、遠達性に優れている。その反面、目標の輪郭をはっきりと把握することはできない。
これに反し、高周波帯域の音は遠達性という点では劣るが、指向性が高く、ものの輪郭をはっきりと把握することができる。
北極の氷の下を行動する潜水艦は、この高周波帯域の音の特徴を利用し、氷の底の形状を把握し、自艦の深度から氷の厚さを割り出し、開氷面、あるいは氷の薄い個所を見出し、浮上するのである。
浮上に際して、潜水艦の艦首部には通常、ソナー・ドームが設けられており、構造が脆弱であるため、セイル先端部にハードポイントを設け、ここが最初に氷に当たるように艦のトリムを調整し、浮上してくるのである。
米「ロサンゼルス」級原子力潜水艦の前期型では潜水艦の深さを管制する潜舵はセイルに設けられていたため、潜舵の舵板、舵軸等保護のため、潜舵を垂直にし、氷からの衝撃を緩和するようにしていたが、後期型以降潜舵は艦首に移され、かつ格納型となったのは雑音低減対策が進み、潜舵を艦首部に装備してもその操舵音がソナーの聴音を邪魔しないようになったことが大きいが、氷原への浮上も考慮されたと言われている。
Rachael Gosnell が"Caution in the High North: Geopolitical and Economic Challenges of the Arctic Maritime Environment"(War on The Rocks.com, Commentary, June 25, 2018)が指摘したように、北極の航行の可能性が広がることは、水中での行動の制約もまた少なくなることを意味し、安全保障、特に海軍戦力、就中核戦略に新たな問題を提起してくることになろう。米国がICEXを継続する理由もそこにある。
6月12日「ビジネスファースト:米国のインド太平洋戦略とエネルギー外交-トルコ専門家論説」(Energy Reporters, 12.06.2018)
トルコ・イスタンブールMEF大学のJohn Bowlus教授は、6月1日付Energy Reporters紙に"Business First: The U.S. Indo-Pacific Strategy and Energy Diplomacy"と題する論調を掲載、要旨以下の通り述べている。
(1)中国の「一帯一路構想」は化石燃料の輸入先を確保すると共に再生可能エネルギー技術を入手する市場への足掛かりを得るものでもある。ロシアは原油・天然ガスパイプラインを力の源泉と捉えている。米国にしても同じであろう。
「インド太平洋」がもつ意味はよく分かっていない。Trump大統領は2017年7月にインドのModi首相と会って以降、「アジア太平洋」の代わりに「インド太平洋」との言葉を唱え始めた。米国国防総省もまた2018年に入ってこの言葉を使い始めている。「インド太平洋戦略」は、アジアにおける同盟国と共に米国への挑戦者である中国を封じ込める狙いがあり、インドをその仲間に入れようとするものでもあろう。この戦略はTPP離脱後の米国の地域への空白を満たすものとなるだろう。
(2)市場の機会
米国とインドとは世界の2大民主主義国であり、生来の同盟である。それにも拘らず、両国はこれまでそれほど緊密な友好関係にはなかった。その要因の1つには冷戦がある。冷戦の時代、ソ連を封じ込めるため米国はパキスタンとの関係を重視していた。ソ連によるアフガニスタンへの侵攻はそれをより一層強いものとした。冷戦終了後も、パキスタンはアルカイダを敵とする対テロ作戦の舞台となった。それが、中国の台頭によって一変した。中国の台頭だけではない。インドの目覚しい経済発展はそれにも増して米国の同盟としての関心を高めている。インドは既に幾つかの産業において世界のリーダー的存在である。そこには、教育、食料、医薬品、鉄鋼の分野がある。"次の中国"と言われる所以である。
経済発展するインドのエネルギー需要は高まっている。昨年12月、国際エネルギー機関 (IEA)のFatih Birol事務局長は、インドのエネルギー需要について、2040年までに欧州の需要に匹敵する量が必要になると述べている。
(3)太陽光エネルギー同盟
インドの巨大市場は、化石燃料と再生可能エネルギーの戦場でもある。インドが、どの程度再生可能エネルギーに依存するかが、気候変動をどの程度押し留めることができるかを予測する要素となる。これはインド自身の安全にも係るものである。最近の調査では、気候変動の影響を大きく受ける国としてインドがあがっている。インドの最大の関心は経済発展の持続であろうが、エネルギー使用が増すほどに排気ガス放出量も増す。課題は、2020年代において、再生可能エネルギー、石炭、天然ガス、原子力のエネルギーミックスをどの割合にするかであろう。
「インド太平洋戦略」は、インドのエネルギーミックスのあるべき姿を導き、中国との競争力をつけるものとなるはずである。インドは、西欧資本との友好的な政治環境を整えることにより、中国に追いつき、更にはクリーンエネルギーをリードする国になれるだろう。国際エネルギー機関によれば、中国は2022年までに世界の再生可能エネルギーの増加の40%をまかない、米国とインドはそれぞれ27%となると予測する。
太陽光エネルギーについては競争が激化している。太陽光エネルギー器材の生産量はインドが世界第3位の生産国であるが、中国のダンピングによる安価な器材生産を警戒している。インドは、2022年までに175ギガワットの再生可能エネルギーを目指しており、そのうち100ギガワットを太陽光エネルギーに充てている。米国と欧州は中国の太陽光エネルギー産業に関税を課している。米国も中国も国際太陽光同盟(the International Solar Alliance)への加入を望んでいる。
(4)米印エネルギー外交
太陽光に限らず、米印にはエネルギー協力の分野は多い。米国からの液化ガスの輸入により、インドにおける排出ガスは減少している。米国からの液化天然ガスの輸入は2018年4月から始まった。その1年前には米国産原油がインドに輸出されている。
インドのエネルギー輸入はTrump政権によるエネルギー外交に合致している。原子力発電もまたインドの経済発展を維持するうえで必要である。
インドとのエネルギーに関わる政策をとり始めたのは、Trump大統領が初めてではない。Obama大統領はインドとの間で、先進クリーンエネルギーパートナーシップ協定(the Partnership to Advance Clean Energy:PACE)を2009年に交わしている。Trump政権では、米印戦略的エネルギーパートナーシップ(the U.S.-India Strategic Energy Partnership)のもとで両国のエネルギーに関わる関係強化に取り組んでいる。Trump政権の新たなエネルギー外交は、ビジネスファーストではあるが、米国の大きなインド太平洋戦略となりつつある。
記事参照:Business First: The U.S. Indo-Pacific Strategy and Energy Diplomacy
6月13日「米朝首脳会談が米海軍の行動を制約する可能性-米海軍協会の報道」(USNI News, June 13, 2018)
USNI NewsスタッフライターのBen Wernerは6月13日付の同ウエブサイトに"Trump, Kim Joint Summit Statement Could Restrict U.S. Navy Presence Near Korean Peninsula"と題する署名記事を寄稿し、識者のコメントを紹介しつつ、米朝首脳会談における「非核化」という用語の定義の曖昧性が朝鮮半島周辺における米海軍の行動に影響を与える可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1)Donald Trump米大統領と北朝鮮の指導者である金正恩が首脳会談後に発した曖昧な共同声明は、米海軍艦艇の韓国港湾への寄港、周辺海域における行動、引いては地域的なバランス・オブ・パワーへのコミットメントを制約するかもしれないと指摘されている。
その共同宣言は「Trump大統領は朝鮮民主主義人民共和国に安全の保証を与えると約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた断固とした揺るぎない決意を確認した。」と述べている。これについて戦略国際問題研究所(CSIS)朝鮮担当主任研究員のSue Mi Terryは「合意に達した定義があるとは思えない。」、「朝鮮半島の非核化とは、北朝鮮による一方的な核開発の放棄だ。」と述べた。
専門家は、米国と北朝鮮で「非核化」の定義が異なっていると指摘する。もしも永続的な合意が達成された場合、比較的狭い米国の定義とより広範な北朝鮮の定義との相違を理解することは不可欠である。北朝鮮分析の第一人者であるヘリテージ財団のBruce Klingnerは、「北朝鮮は非核化をグローバルな軍備管理と定義し、核クラブの自称メンバーとして世界の核兵器をゼロにする」ことを主張しているのだとし、「これは朝鮮ウォッチャーにはよく知られている立場であるが、本年3月に金正恩がその意思を表明した際にはホワイトハウスではこれを理解出来なかった。」として、「本年5月に北朝鮮高官がそのことを公言した際、ホワイトハウスは約束違反と解した。」と指摘している。
(2)また、米国平和研究所(USIP)の北朝鮮専門家であるFrank Aumは、北朝鮮は朝鮮半島における核兵器と運搬手段の保有禁止のみならず寄港禁止も考慮しているとして、「原子力空母や潜水艦、爆撃機も意味していると確信している。」と述べた。Aumは北朝鮮の非核化構想の下で米海軍の原子力推進水上艦や潜水艦の韓国領海通過が許容されるか否かは不明であるとし、これらの詳細は共同声明で示唆される将来の交渉で「アイロンをかけなければならない。」と指摘して「米国、北朝鮮、中国、韓国は何らかの合意に達しなければならないだろう。」と述べている。非核化が何を意味しているのかを巡る相違点は、過去の合意が十分なものではなかっただけに、きちんと検証されなければならないとKlingnerは指摘する。
「米国と北朝鮮では解釈が異なっており、これまで8件の協定が成立しなかったことを踏まえれば、明確な文書と厳格な検証手続きが必要である。これらの要素はいずれもソ連、ワルシャワ条約機構との軍備管理条約には含まれていたが、北朝鮮との協定には含まれていなかった。」
(3)水上艦艇や潜水艦に核兵器が搭載されているか否かについて、米海軍の標準的な対応はその存在を肯定も否定もしないということだ。ヘリテージ財団の海軍アナリスト、Tom CallenderはUSNI Newsに声明を出し、米海軍はこの地域における作戦を変更すべきでないと主張した。過去の事例として、海軍艦艇が核兵器を搭載しているか否かを宣言するのではなく、海軍は原子力規制のある国への寄港を停止しただけであった。1984年にニュージーランドが核兵器搭載艦や原子力推進艦の寄港を禁止する反核法を制定した際、海軍は全ての寄港予定を取り消した。その後、米海軍が再び南太平洋諸国への通常動力推進艦艇の寄港を検討するまで30年以上の期間を要した。
Callenderは「仮に北朝鮮が非核化し、正式な和平協定が調印されても、米海軍は依然として朝鮮半島への寄港を継続し、周辺海域(黄海と日本海)で海上訓練を実施しなければならない。」と指摘する。そして「これはプレゼンスを維持し域内の同盟国に保証を与える米国の強いメッセージを中国に伝えることになる。」とともに「米海軍の日本海への展開と訓練の実施は、ウラジオストクに太平洋艦隊司令部を持つロシアへのメッセージでもある。」と指摘している。
(4)ウッドロウ・ウイルソン・センターのアジア担当ディレクターであるAbraham Denmarkは、この地域における米海軍の行動を縮小することについて協議しているというだけでも、中国にとっては勝利であると指摘した。金正恩の中国訪問を契機とするこの動きは「中国にとってコストフリー」であり、アジア太平洋地域における「中国の影響力拡大と米国のプレゼンス縮小」を象徴するものだとDenmarkは述べている。
「これは、アジア地域、あるいはグローバルにも米国の影響力の弱体化を望むモスクワと北京にとっては本当に心温まる話である。そして米国大統領はそのための紐を引いているようだ。だから可愛らしいと言うしかないのだ。」とCSISアジア日本上級副部長のMichael Greenも指摘する。
(5)「今後数週間で朝鮮半島における今後の軍事活動については多少明確になるだろう。」とアナリストたちは指摘している。Aumは「米国は北朝鮮が非核化プロセスを続行することを真剣に考えているのか、出来るだけすみやかに数週間以内に知るべきだ。」と述べ、その兆候は米国と北朝鮮当局者間でハイレベル会合が開催されれば、という形で明らかになるだろうと指摘した。
また、ウッドロー・ウィルソン・センター、米中関係キッシンジャー研究所ディレクターのRobert Dalyは、米国が首脳会談で受けた事項はまだ疑問であるとし、今後の対話では、北朝鮮を非核化し、検証を確実にするための道筋や目標を設定する必要があると述べた。しかし、平壌には言行不一致の歴史があり、例えば、1990年代には核兵器プログラムを終了していたが、衛星による監視や査察官の訪問では判らないように地下施設でのウラン濃縮を継続していたともDalyは指摘している。
(6)Trump大統領や国防省の関係者は、北朝鮮が既に手にし、また、中国も望んでいるであろう北朝鮮周辺における軍事活動の抑制に関する部分のコメント、部隊レベルでの共同訓練や爆撃機の飛行等の一部を取り消そうとするだろうと、Greenは述べた。
そして、CSIS朝鮮担当主任研究員のTerryは「共同声明が出たこと自体は中程度の成果と考えられるものの、具体的なことは何も得られなかったので、明らかに最適ではない。」と指摘している。
6月14日「中国の太平洋諸島への関与―米議会委員会報告書要旨」(U.S.-China Economic and Security Review Commission, Staff Research Report, June 14, 2018)
U.S.-China Economic and Security Review Commissionは、6月14日付でEthan Meich、Michelle Ker及びHan May Chanが執筆した"China's Engagement in the Pacific Islands: Implications for the United States"と題するStaff Research Reportを米議会へ提出し、近年の中国による太平洋諸島への関与について、要旨以下のように述べている。
(1)中国が世界的関与を強化する中、そのより広範な外交的・戦略的利益の拡大、台湾の国際空間の縮小、そして、原材料や天然資源へアクセスすることを理由に、近年北京は、太平洋諸島地域への関与も拡大している。北京は主要な外交・経済開発政策である「一帯一路構想(BRI)」にこの地域を含めており、これはこの地域に中国が地政戦略的利益をもつことを示している。また、バヌアツでは、両国が否定したものの、太平洋諸島に中国の基地が建設される可能性があるという懸念が浮上している。
(2)過去5年間、北京は太平洋諸島との経済的関係を大幅に強化し、 貿易、投資、開発援助及び観光データの調査では、中国は大部分の地域で米国を遥かに上回る。北京はこの地域の8ヵ国の外交パートナーとの間で、経済協力、特に援助と観光に重点を置いているが、最近は台湾と外交パートナー関係にある国を含む太平洋島嶼国にも入り込んでいる。
(3)外交・安全保障への関与は、地域枠組みへの参加、高官の訪問及び公的外交努力を通じて、中国のフットプリントが増加している。多国間レベルでは、中国は太平洋島嶼地域の枠組みに深く関与し、支援している。この地域における中国の公的な外交の取り組みは、文化、教育、そして人道支援や災害救援活動を含む、ソフトパワーを拡大するように計画されている。その外交的及び経済的関与への取り組みに比べ、中国の安全保障への関与は限られているが、3つの太平洋島嶼国のみが軍隊を保有しており、それは増加傾向にある。
(4)米国の太平洋諸島への関与の大部分が集中しているミクロネシアにおける中国の侵食は、パラオ、マーシャル諸島及びミクロネシア連邦との自由連合盟約協定を長期的に脅かす可能性がある。中国は、米軍のプレゼンスを弱め、中国の軍事的アクセスのきっかけを創出するために、この地域における米国の影響力を侵食しようとしていると、一部のアナリストたちは懸念している。さらに、中国の経済的関与が高まるにつれて、太平洋島嶼国は北京により恩義を感じ、国際的なフォーラムで味方につくかもしれない。最後に、台湾の18の外交パートナーのうち6つが存在する太平洋諸島の台湾の国際空間を弱めるための北京の取り組みは、インド太平洋における重要な米国のパートナーに負の影響を与える。
記事参照:China's Engagement in the Pacific Islands: Implications for the United States
6月15日「米中間でバランスを探るインドの戦略的な不確実さ―米専門家評論」(War on The Rocks.com, June 15, 2018)
米シンクタンク、The National Bureau of Asian Research(NBR)の客員研究員、Azran Taraporeは、6月15日付の米テキサス大学の安全保障Webサイト、War on The Rocksに"Using Uncertainty as Leverage: India's Security Competition with China"と題する論説を寄稿し、インドは対米関係における戦略的な意図の不確実さが、中国との競争を管理可能なレベルに保つと見ているようだと指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1)シンガポールで6月1日に行われたシャングリラ・ダイアログの講演において、Modi首相はインドが位置するインド太平洋地域のビジョンを打ち出した。その役割はインドの独特な影響力を利用する形での、中国との安全保障上の競争形態を包含している。インドは特に米国との関係における自国の戦略的な意図に関する不確実さが、中国との競争を管理可能なレベルに保つ助けになると計算しているように思われる。Modiは講演において、主権や国際法、航行の自由を尊重するルールに基づく地域秩序に賛意を表し、返済不能な債務を否定することで、中国に対して婉曲だが辛辣な批難を浴びせた。しかしながら、Modiは批判と同じくらい、将来の敵対的な対中連携を控えることを誓い、インドが米国と組んで中国を封じ込めるべきだとの考えを一蹴した。
(2)米国の対中協定に参加するよりも、Modiはインドの真の立場を主張した。即ち、ルールに基づく秩序の擁護者として、自国の意思で中国に立ち向かうということである。したがってModiは、既に実行されている政策様式に対しても首尾一貫した考えを与えた。2017年にインドは、「一帯一路」(BRI)関連の会議をボイコットし、ドクラム高地における領土侵犯に抵抗し、「4カ国枠組み」として知られるインド、米国、日本そしてオーストラリア間の非公式協議メカニズムを復活させた。Modiのシャングリラ・ダイアログにおける講演は、インドの政策を自国の権力拡大を巡る中国との争いというよりも、包括的でルールに基づく秩序の防衛として体系化した。本年の初めには、一部の専門家はModiが中国に対し軟化したと焦燥感を募らせていたが、彼らは外交を融和政策と誤認していた。
(3)インドと中国は、数か月に亘って高まった緊張を経験してきた、経済的な繋がりを増す隣国同士である。両国の指導者がオープンなチャンネルを維持することは、適切かつ賢明なことである。武漢と青島における首脳会談は、中印両国の緊張を緩和したが、構造的な要因が両国間の競争を煽り続けるだろう。中国は自国の膨張する経済力を、長きに亘ってインドの戦略的な裏庭と推定されている南アジアを含む、地域全体に対する政治的な影響力へと変換している。中国とパキスタンの戦略的な同盟は、インドに対する直接的な安全保障上の脅威を高めるものである。もっと具体的には、中国の継続的な軍事近代化やインドとの係争地における領土侵犯が、直接衝突のリスクを増大させている。
(4)インドは徐々にではあるが、中国との安全保障競争を加速させてきた。インドは国境において、大規模な山岳打撃部隊を組織し、道路や滑走路といったインフラを再建している。海上でもインドは、インド洋における「プレゼンス・パトロール」の積極的なペースを宣伝して、海洋状況把握に向けた新たな多国間ネットワークの発展を主導し、オマーンやインドネシアあるいはセーシェルの港湾にアクセスする協定を結んでいる。領域横断的にインドは、徐々に軍事演習計画や米国を含むパートナー諸国との協力を拡大している。これらの変革の多くは、インドの鈍重な官僚的事なかれ主義の作用と、限られた資源のために不完全かつ遅々として進まないペースで進んでいるが、安全保障政策が競争的な方向に進んでいることは間違いない。しかしながら、それはインドが米国の中国に対する安全保障上の競争を真似ること、あるいは米国と緊密に協力して中国に対抗することを意味しない。ワシントンは、「国家安全保障戦略」において中国に「修正主義」勢力の烙印を押すことで立場を硬化させ、インド太平洋地域に対する新たな包括的戦略を公表した。「自由で開かれたインド太平洋」の目指すところに共鳴したにも関わらず、インドはこうした米国のエスカレーションに歩調を合わせなかった。インド海軍は、南シナ海において米海軍と共同で「航行の自由」作戦に参加することに依然として及び腰である。インドは防衛協力に関するテクノクラートの法律文書に署名することを長引かせるだろう。また、Modiは緊張緩和のために武漢のときと同様、来年インドを訪れる中国指導者との首脳会談を模索するだろう。
(5)安全保障上の競争に関するインドのアプローチは、極めて強い戦略的な動機に根差したものである。米国との緊密な戦略的協調は、インドが常に重視してきた行動の自由に対する侮辱であり、もつれあった同盟に束縛されないというイデオロギーを放棄することになる。もっと具体的には、中国と安全保障上の競争を激化させることは、インド国内の政治的な反対勢力と中国、双方の抵抗を招くことになりかねない。それは中国の意向にへつらうということではない。インドは単に軍拡競争を中国に挑んだり、中国に対する地域の影響力を奪い合う余力がないのである。インドが中国との安全保障上の競争をすぐさまエスカレートさせることや、米国とあまりに密接に結びつくことを拒否するのは、歯がゆい逡巡のように見えるだろう。しかしながら、それは少なくとも1つの大きな利点を伴っている。インドの意図に対する不確実さ――具体的にいうと、インドが米国と協力する程度――は、インドの中国に対する最大の影響力である。ニューデリーが非対称的なバランスにある北京に対して用いることができるあらゆる地理的、物質的、概念的な優位よりも、北京を懸念させるのは、インドのいまだ実現していないワシントンとの同盟の可能性である。この点においてインドの政策上の曖昧さは、欠点ではなく特色である。
(6)印米関係の不確実さは、ドクラム高地におけるにらみ合いの緩和意思を含む、中国の姿勢を既に軟化させ、最近の中国による配慮が行き届いた対応ぶりにつながった。中国の戦略は対抗勢力の連合を妨害して分断することに力点を置いているため、中国は「4か国枠組み」に強硬に反対しているのである。性急な米印協定の宣言は、協定に圧力をかけて瓦解させることを狙った、中国のヒマラヤ国境と南アジアにおける一層強引な行動につながるだろう。繊細さを欠くインドの安全保障上の競争は、地域における中国の敵対的な影響力拡大を加速させ、戦端が開かれるリスクを増大させることになるだろう。
(7)インドの独特な競争スタイルは、インドの戦略家が平素なされているよりも多くの称賛を浴びるに値することを示唆している。とは言え、これはインドの言い逃れや臆病風のための、便利な多目的の逃げ口上となってはならない。インドの政策は不確実さから恩恵を受けているが、究極的に安全保障上の競争で通用するのは――そして究極的な自由で開かれたインド太平洋の擁護者―は軍事力と政治的な意思である。
記事参照:Using Uncertainty as Leverage: India's Security Competition with China
6月15日「ウォー・ゲームをキャンセルして経費節約?」(The Washington Examiner.com, June 15, 2018)
6月15日付のThe Washington Examiner電子版は、"How much does the US save by canceling war games? The Pentagon has no idea"と題する記事を掲載し、Trump米大統領による、韓国との共同軍事演習を取り止めて「経費を節約した。」という主張に対し、要旨以下のように述べている。
(1)米国が韓国と共同軍事演習にどれくらいの予算を費やしているか把握しようとすることは、スーパーボウルの儀礼飛行の費用を計算するようなものである。すなわち、とにかくジェット機を飛行させようとしていたのであれば、すでに予算内で支払っているので、実際には何の費用もかからないと思う可能性がある。
(2)Trump大統領は、韓国とのいわゆる「ウォー・ゲーム」をやめることで、米国は「大金」を節約すると述べている。「政権を取った日から私はそれらが嫌いだったが、『なぜ私たちは払い戻しをされていないのだろうか』と言った。」と、Trumpは金曜日、ホワイトハウスの芝生で記者たちに話した。「それは我々にたくさんの金を負担させる。私はたくさんの金を節約した。それは我々のために良いことだ」。しかし、ペンタゴンに共同演習の費用がどれだけかかるのか、それをキャンセルすることでどれほど節約できるのかを尋ねると、その答えは、確固として「我々にはわからない。」とした。
(3)大規模な演習のコストを把握することは、それほど簡単ではないことが分かる。特定の訓練を実施せずに節約した分を計算しようとする場合には、固定費用と増分費用を分けなければならない。たとえば、空母1隻を運用するための、米海軍の平均的な費用は1日約100万ドルである。したがって、空母が10日間の演習に参加すれば、その費用は1,000万ドルかかるのだろうか?そうではない、なぜなら空母は、ウォー・ゲームに参加していなくても依然として運用されているからだ。しかし、航空機、艦艇及び戦車用の燃料、実弾演習のための弾薬、兵士があちこち動き回る費用、プランニング、兵站、そして他国との調整を含めて、特定の演習には追加の費用がかかる。しかし、もし大規模な演習を、控え目な日常的な訓練に単純に取り換えると、実際に訓練予算のどれ程節約されているかを把握することはさらに困難になる。
(4)それはさておき、Trumpの大規模な軍事的増強の主な焦点は、より少なくではなく、より多くのトレーニングに費やすことであった。しかし、Trumpは、グアムの米軍の長距離爆撃機が朝鮮半島の演習に参加するために飛ばす費用を引き合いに出し、その飛行は、Trumpは約6時間半かかると指摘した。そして、規定の任務を破棄する決定を説明した。しかし、ノースダコタ州のマイノット空軍基地のB-52であろうと、ミズーリ州のホワイトマン空軍のB-2sであろうと、米国の戦略爆撃機は定期的に一度に8時間以上の訓練任務を飛んでいる。だから、もしグアムの爆撃機が韓国に飛ばないとすれば、それらはパイロットの能力を維持するためには、別のどこかに飛ばなければならないだろう。実際、過去数年間の予算上の制限によって引き起こされた十分な飛行時間の欠如は、最近の航空事故の原因として疑いのある要素の1つである。しかし、Trumpは、韓国での定期的な訓練任務は単なる大きな金の無駄使いだと主張する。
記事参照:How much does the US save by canceling war games? The Pentagon has no idea
6月18日「米国と民主主義国は中国の台頭に如何に対応すべきか―米専門家論評」(War on The Rocks.com, June 18, 2018)
米プリンストン大学教授Aaron L. Friedbergは、米テキサス大学の安全保障Webサイト、War on The Rocksに6月18日付で、"It is America's Move in its Competition with China"と題する長文の論説を寄稿し、ワシントンと他の多くの先進民主主義工業諸国の首都で、これまでの対中政策が失敗であった、そのためにそれに代わる何らかの対中アプローチが今や喫緊の課題になっているとの認識が高まっているとして、要旨以下のように述べている。
(1)これまでの対中政策が失敗であったとする論説については、例えば、最近では、Obama前政権の2人の元高官が、Foreign Affairs誌に寄稿した論説で、米国は中国の将来について長年「希望的観測」を抱いていたが、今や「近代史における最もダイナミックで、かつ手ごわい抗争相手」に直面することになった、と述べている*。また、英誌The Economist は、「中国の台頭に対する長年の楽天主義は放棄されることになった。」と指摘している**。では、どうするか。その答えは、如何なる意味でも明確にはなっていない。課題の深刻さにもかかわらず、如何に対処すべきかという論議は、始まったばかりで、しかも断片的なものに留まっている。
(2)米国は、冷戦終結後のほぼ四半世紀の間、2本柱の対中戦略を追求してきた。即ち、米国は一方で、多様な分野―外交、文化、科学、教育、そして何よりも経済分野で、中国に対する関与政策を進めてきた。同時に、ワシントンは他方で、米軍の前方展開戦力を維持し、伝統的な同盟関係を強化し、そして中国の増大する力に懸念を抱いているその他の諸国との新たな提携関係を構築することで、アジア太平洋地域における好ましい力の均衡を維持することに腐心してきた。その狙いは、地域の安定を維持するとともに、威嚇や侵略の試みを抑止することであった。一方、関与政策は、中国に対して、米国主導の既存の国際秩序における「責任ある利害関係国」(a "responsible stakeholder")になり、その国家指導の経済計画からより開かれた市場主導の開発経済への移行を促進し、そして最終的には民主的な政治改革につながる動きを促進することを慫慂することであった。しかしながら、この10年、特に習近平が政権の座についた2013年以降、この戦略は、その目的達成に失敗したことが益々明白になってきた。北京は、現状維持の「責任ある利害関係国」になる代わりに、一層高圧的で、時に侵略的な国家になった。
(3)北京は、人民共和国建国以来、3つの相互に関連した目標―中国の行動の源泉―を追求してきた。そして、それらは、冷戦終結後、一層明確になってきた。3つの目標とは、即ち、①国内政治における中国共産党の一党独占体制を維持すること、②米国の同盟体制を弱体化し、米軍の前方展開プレゼンスを押し返し、そしてユーラシア東部における支配的パワーとしての中国の正当な地位を回復すること、③中国を米国と対等な、そして最終的には米国を凌駕する真のグローバルパワーにすること、である。今や、習近平は、こうした目標をあからさまに語り始めた。習近平は、鄧小平の「韜光養晦」政策を継承せず、「中華民族の偉大な復興」という「中国の夢」を、2049年の建国100周年までに達成すると宣言している。要するに、少なくとも21世紀の半ばまでに、中国は域内における首座の地位への復活を目指しているわけである。こうした目標を追求する過程において、中国は、米国が築いてきた安全保障の信頼性を傷つけることによって、米国の同盟体制を弱体化させながら、自国沖合の海洋とそこにおける資源に対する支配を強化するために、その増強しつつある軍事力を活用してきた。北京は、習近平の「一帯一路」構想(BRI)の下、ユーラシア大陸を跨ぎ、更にインド洋南部やペルシャ湾に至るまで、経済力と外交力を駆使して、その影響力を西方に拡大しつつある。北京は、中国の市場主導の経済と権威主義的政治をミックスした「他の諸国に対する新たな選択肢」を提示することで、西側に対してイデオロギー競争を仕掛けている。習近平は、国内で、アジア地域で、そして全世界で、強い一貫性のある主題を持った政策を追求している。習近平の戦略は、成功しないかもしれないし、また壊滅的な失敗に終わる可能性もある。しかしながら、それを追求する勢いと目的意識、そしてそのために動員される資源は、強烈な印象を与えていることは否定しようもない。
(4)この激しい攻勢に直面して、米国は、予測し得る将来に亘って、冷戦後の野心的で、楽天的な目標を断念して、より防衛的な形でその目標を定義しなければならない。即ち、①ユーラシア東部における敵対的な支配を阻止し、②国際公共財の自由な利用を確保し、③友好国や同盟国の防衛を支援し、そして④経済的、政治的に開放された自由主義の原則に根ざした世界的な規範と制度を食い物にしたり、弱体化したりする、あるいはまた偏狭な規範や権威主義的政権の団結や拡散を推し進めようとする、中国の試みに対抗することである。こうした目標に加えて、米国と同盟国は、自らの繁栄と技術的優位を脅やかす略奪的な経済慣行から防衛するとともに、そのために経済的影響力あるいは政治的闘争を活用する北京の試みを無力化する処置を講じる必要があろう。
(5)こうした目標を追求するに当たっては、米国と同盟国は、利害の一致する問題については協力するとともに、紛争回避に最善を尽くすために、北京との間で可能な限りベストな関係を維持するようにすべきである。とはいえ、米国と同盟国は、協力の限界を見極めておくべきだし、また、何時の日かリベラルで民主的な政府への移行をもたらすことになるかもしれない中国内の趨勢を、例え間接的にせよ慫慂する努力を断念すべきではない。現在の形の関与政策の失敗は明らかだが、それは目標としての政策そのものを断念すべきことを意味するわけではない。中国の国内政治体制の根本的変化がなければ、米国と他の民主主義諸国は、中国との間で永続的で、信頼でき、かつ互恵的な関係を実現することは不可能であろう。ワシントンは、冷戦終結以来追求してきた2本柱戦略を放棄する必要はないが、同盟国と共に、2本柱の内、外交的、軍事的要素を含む、力の均衡維持をより重視していく必要がある。
(6)中国の増大する力と、益々高圧的になる行動に対抗して、アジア全域においてこれを相殺しようとする強い傾向が見られる。外交分野において、米国の最優先課題は、そのコミットメントの信頼性と永続性をアジアの友好国と同盟国に再保証することによって、こうした傾向を助長していかなければならない。ワシントンはまた、アジアにおける共通の目的を追求していくために、ヨーロッパの同盟国の一層の支援を動員していかなければならない。軍事分野では、米国は、抑止力を強化し、同盟国に再保証し、そして中国の増大する接近阻止/領域拒否(A2/AD)能力に対抗して、インド太平洋の広い地域に対する戦力投射能力を維持することによって、安全保障の提供国としての態勢を強化していかなければならない。そうするためには、西太平洋における米軍と同盟国軍隊及びその基地の脆弱性を減らし、長射程精密通常兵器による報復攻撃を遂行するための能力を強化し、更に中国の侵略に対して何らかの形での海上封鎖を伴う対応能力を開発する必要があろう。中国の「近海」を取り囲み、支配しようとする試みに対応するために、米国と域内の友好国、同盟国は、英仏等の域外国と共に、国際法が許す限りどの海域においても継続的な作戦行動を遂行することによって、排他的な空域や海域を確立しようとする、北京の如何なる試みも拒否するために協同する必要がある。米国はまた、域内のパートナー諸国の海空監視能力やA2/AD能力の強化を支援すべきである。
(7)アジアの友好国や同盟国が中国主導のユーラシア「共同繁栄圏」("co-prosperity sphere")に一層強く引き込まれるのを阻止するために、ワシントンは、他の先進民主主義工業諸国と共に、そして米国自身も含めた、相互間の可能な限り広範な貿易投資の流れを促進する措置を採るべきである。このためには、最近調印された環太平洋経済連携協定(TPP)や日本・ EU 経済連携協定等は有益だが、米国がTPPから離脱するというTrump政権の間違った決定を取り消せば更に好ましいものとなろう。米国は、北京に対して、懲罰的な関税を課す代わりに、民主主義同盟国と貿易相手国と共に、彼らの重商主義的経済慣行を修正するか、あるいは断念するよう圧力をかけるべきである。それが上手くいかなければ、市場経済民主主義諸国は、中国企業との不公正な競争から、自らの最先端産業を防衛するために協同しなければならないであろう。更に、先進民主主義工業諸国は、発展途上国を拘束する中国のインフラ投資に対抗するために協同し、国際援助機関と共に、中国の高金利ローンに代わる健全な選択肢を提供する用意がなければならないであろう。
(8)最後に、中国共産党の影響力拡大攻勢は、自由主義社会に対して特別の課題を突きつけている。こうした攻勢に対する自らの強靱性を強化するために、民主主義諸国は、防諜能力を強化し、「統一戦線」("united front")関連組織や個人の活動に関する情報を交換し、そして外国の不当な影響力を監視し、統制するための法制と最善の対処方法に関する経験を共有することによって、共同対処すべきである。こうした防衛的な対応に加えて、効果的な政治的闘争に対する対応戦略であるためには、攻勢的な側面もなければならない。民主主義諸国政府は、北京が絶え間なく語る「ウイン・ウイン協力」という旨い話に惑わされることなく、北京の遣り口の実態―即ち、中国は、他の社会に対して、高圧的で、動揺させ、国際規範を無視し、そして不釣り合いなコストを課し、当該社会の長期的な自立、繁栄及び安全を脅かす大規模な活動を展開している―を暴く方法を見出す必要がある。しかも、中国の政治制度は、残忍で、抑圧的で、そして不正に満ちている。中国共産党政権は、表現の自由や自らの指導者を選ぶ中国人民の固有の権利を拒否し、彼らの行動を監視し、統制するために、膨大な資源を投入している。これらは、米国と同盟国が無視するよりも、むしろ暴くべき実態である。米国を始めとする民主主義諸国は、自らの統治システムの永続的な価値を他の国にも確信させたいと望むなら、自らの政治制度と社会を蝕んでいる増大する機能不全を修整し始める以外に選択肢はない。もし修整することに失敗するなら、長期的に、民主主義諸国は、中国の政治的闘争に対応し、あるいは軍事、外交そして経済の各分野で、首尾良く競争することができないであろう。しかし、民主主義諸国は、時間をかけて自らを奮起させる程の時間的余裕を持ってはいない。もし民主主義諸国が共有する利害と共通の価値観を護ることを望むなら、これら諸国は、直ちに、そして望むべくは協同で行動すべきである。
記事参照:It is America's Move in its Competition with China
Note*: The China Reckoning: How Beijing Defied American Expectations
**: How the West got China wrong
6月18日「インド洋をめぐるインドとセーシェルの微妙な関係、そしてフランスの関与―印博士候補者論評」(The Quint.com, June 18, 2018)
インド人の博士候補者であるAditi Malhotraは、6月18日付のインドのニュースサイトであるThe Quintに"As Indian Ocean Heats Up, India Sees a Ripple in Seychelles"と題する論説を寄稿し、インド洋地域(IOR)の安全保障に関連した現在のインドとセーシェルの二国間関係について、要旨以下のように述べている。
(1)2015年3月にインドのModi首相がセーシェルを訪問した際、ニューデリーとビクトリアは、アサンプション島で軍事施設を造成することに合意していた。インドによる5億5千万米ドルの計画投資は、セーシェル沿岸警備隊のための滑走路、港湾及び住宅インフラの開発を含んでいた。この共同プロジェクトは、セーシェルの130万平方kmの排他的経済水域(EEZ)における監視と効果的なパトロールを行う能力強化を意図していた。
(2)6月4日、セーシェル大統領Danny Faureは、インドとの合意が「進展しない」と述べ、6月下旬に予定されているFaure大統領とModi首相による今度の会合の議題には、この問題を取り上げないと述べた。セーシェル政府は、インド政府に対し、契約破棄というその決定について正式に通知していない。注目すべきは、Faure大統領は、アサンプション島に軍事基地を設ける必要性を繰り返し述べ、沿岸警備施設のための予算を割り当てる計画を明らかにしたことだ。
(3)近年、インド洋はますます争いの最中にある。グローバルな世界秩序における戦略的な流れを考えると、この地域は、多くの地域内及び地域外の大国の注目の的となっている。中国のIORへの進出、そしてスリランカやモルディブのような小規模なIOR沿岸地域の国々に言い寄るための中国による熱心な試みは明らかである。他に関心が高まっている例としては、米太平洋軍(USPACOM)が米インド太平洋軍(USINDOPACOM)に改称したこと、そして、この地域におけるフランスの新たな関与と海軍の動きが挙げられる。この海をめぐる争いが激化するにつれて、インドはその地位を強化し、その伝統的な海域を越えようと試みている。
(4)ニューデリーは、IORにおける「安全保障提供者」(provider of net security)としてのその役割を公式に強く主張している。その役割の運用を可能にし、その地位を強固にするために、IOR 沿岸諸国とのその安全保障協力を強化しようとしている。セーシェルはこの点で重要な役割を果たしている。
(5)インドとセーシェルの首脳は、2015年に(原則として)協定に合意したにもかかわらず、それはセーシェル議会による批准を必要とした。しかし、過去3年間で、進展は非常に遅れており、多くの妨害に悩まされている。主要な遅滞要因の1つは、この協定に関する国内の論争である。最大の失敗は、"Detailed Project Report"の文章がYouTubeに流出し、この協定の性質に関する論争と疑問に火がついた3月にあった。国内の政治的懸念や、この島がインドに「売却された」という主張を緩和するため、この協定は修正された。修正案には、戦争目的のための施設の不使用に関する明確化と、合意に達した後の第三者への許可が含まれていた。それにも拘わらず、悪影響がないと再確認されているが、軍事インフラの影響に疑問を抱く環境活動家のような異なる方面から、この協定に対する抗議は継続している。野党すらもこの協定への支持を取り消した。一部の国内の懸念には、インドと中国の地域競争に巻き込まれる可能性が含まれている。
(6)フランスの歴史的な海外拠点と影響力の分散を考慮すると、セーシェルは、IORにおけるインド・フランス海洋協力の重要な結節点になる可能性が十分ある。パリはセーシェルとの安全保障協力を再開した。インドとフランスはこの地域に共通の利益をもち、近年海洋領域における共同活動を強化している。
(7)この情勢の中で新たに出現しているIORの重要性が継続しているため、セーシェルにおける現在の出来事は、協力の機運、そして、航行の自由やルールを基盤とした秩序の追求に影を投げ掛けない、単なる小波であることが望まれている。
記事参照:As Indian Ocean Heats Up, India Sees a Ripple in Seychelles
6月18日「世界の核弾頭数―2018年SIPRI年鑑」(SIPRI Press Release, June 18, 2018)
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は6月18日、世界の軍備に関する年次報告書、SIPRI Yearbook 2018を公表した。同報告書は、世界の核戦力の動向について、全ての核保有国は新型核兵器システムを開発しており、また既存システムを近代化しているとして、要旨以下のように指摘している。
(1)2018年1月現在、核保有8カ国―米国、ロシア、英国、フランス、インド、パキスタン、イスラエル及び北朝鮮―は、総計約1万4,465個の核弾頭を保有しているとみられ、これは2017年1月の総計1万4,935個に比して、約470個減となっている。これは主として、米国とロシアの弾頭数の削減によるもので、米ロは新START条約によって、更なる削減を進めているが、それでも両国の核弾頭数は全核保有国の92%近くを占めていることには変わりない。
(2)一方で、米ロ両国とも、核戦力を更新するとともに、既存の核弾頭、搭載ミサイル・航空機、及び核兵器生産施設を近代化する長期計画を進めている。2018年2月に公表された、米国の核戦力見直し報告書(NPR)は、こうした近代化計画の推進を再確認するとともに、新型核兵器の開発を承認している。NPRはまた、核及び「非核兵器による戦略的攻撃」を共に抑止し、必要なら撃退するために核オプションを拡充することを強調している。SIPRIの専門家は、「核抑止とそのための能力の戦略的重要性が新たに強調されたことは、極めて憂慮すべき趨勢である。世界は、効果的かつ法的拘束力を持つ核軍縮の促進に対する、核保有国による明確なコミットメントを求めている。」と指摘している。
(3)米ロ以外の核保有国の核戦力は小規模だが、何れも新型核戦力を開発したり、配備したりしており、あるいは近代化の意図を公表している。インドとパキスタンは共に、核戦力を増強するとともに、新型の陸、海、空の運搬システムを開発しつつある。中国は、核運搬システムの近代化を継続しており、また核弾頭数も徐々に増えている。
(4)北朝鮮の核弾頭数は、10~20個と推定されている。北朝鮮は2017年に、核兵器能力の開発において、9月の水爆実験と称するものを含め、技術的な進展を続けている。北朝鮮はまた、2種の新型長射程弾道ミサイル―7月に初のICBM「火星14」のロフテッド軌道での発射を成功させ、11月には米本土に到達するICBM「火星15」をロフテッド軌道で発射し、成功させた。
世界の核弾頭数(2018年1月現在)
国名 |
配備弾頭数* |
その他の弾頭数** |
2018年総計 |
2017年総計 |
米国 |
1,750 |
4,700 |
6,450 |
6,800 |
ロシア |
1,600 |
5,250 |
6,850 |
7,000 |
英国 |
120 |
95 |
215 |
215 |
フランス |
280 |
20 |
300 |
300 |
中国 |
280 |
280 |
270 |
|
インド |
130-140 |
130-140 |
120-130 |
|
パキスタン |
140-150 |
140-150 |
130-140 |
|
イスラエル |
80 |
80 |
80 |
|
北朝鮮 |
.. |
.. |
(10-20) |
(10-20) |
総弾頭数 |
3,750 |
10,715 |
14,465 |
14,935 |
出典:SIPRI Yearbook 2018
備考*:「配備弾頭」とは、ミサイルに搭載、または実働部隊の基地に配備された弾頭を指す。
備考**:「その他の弾頭」とは、貯蔵または予備弾頭に加え、廃棄待ちの弾頭を指す。
注記:北朝鮮の弾頭数は不明確で、総弾頭数には含まれていない。数字は推定値である。
6月19日「立ち後れた米国の北極へ対応、早急に戦略の構築を-米ジャーナリスト論説」(Examiner, June 19, 2018)
元CNN国防総省担当記者Jamie McIntyreは、米メディア会社のWebサイトExaminerに"The next 'cold' war: America may be missing the boat in the Arctic"と題する記事を寄稿し、沿岸警備隊副司令官の議会証言を軸に米国は北極を等閑視しているとして、要旨以下のように述べている。
(1)6月の議会小委員会公聴会で共和党のDuncan Hunter下院議員の質問に沿岸警備隊副司令官Charles Ray大将は米海軍との様々な作業部会、統合訓練の価値、「砕氷船の予算の増加」の必要性について述べた後、問題点は1月に国防長官が公表した国防戦略には北極は全く触れられていないことだと述べた。
(2)北極で明らかになりつつあることは、近代においてこれまでに経験したことのない北極の氷冠の加速する溶解であり、見込みのある新しい航路が開け、世界で未発見の石油の13パーセント、天然ガスの30パーセントが埋蔵されていると推測される地域の支配をめぐる競争が引き起こされていることである。「我々に最も近い力を有する競争者、ロシアと中国は両者とも北極を戦略的優先事項と宣言しており、地域における影響力を発揮し、機会を獲得するための能力、力量、専門的知識を積極的に開発し続けている。」とRay副司令官は6月7日の公聴会で証言している。
(3)北極の氷冠は過去何十年にもわたって着実に縮小し、薄くなってきている時、米国は中国、北朝鮮、イランのような他の脅威によって注意が散漫になっていたとCSISの北極専門家Heather Conleyは言う。
「新しい海洋の出現は予算に組み込まれていない。今、我々は後塵を拝している。」とHeather Conleyは言う。8月、液化天然ガスを輸送するロシアのタンカーは、砕氷船の支援無しに北極海を航過する記録を樹立した。その偉業は、海氷が消滅したことだけでなく、新しく、より早い交易ルートの経済的魅力を強調している。
(4)「ロシアは積極的に北方ルートから収益が上がるように仕組みを作り、北極での軍事能力を再構築しつつある。同時に中国は自らを北極近傍国家(near-Arctic state)と宣言し、「一帯一路」構想の北方の側面として北極シルクロードの建設を意図している。」とペンシルベニア州立大学のDavid Titley教授は議会で証言している。
ロシアは北極の海岸線の50パーセントを有し、そこにはいくつかの主要都市と水深の深い港が含まれる。米国はそれに相当する北極の基幹設備を有していない。
「もし、大規模な事故が発生したら、対処するために艦船を送ることさえできないだろう。我々はそこにヘリコプター部隊を保有していない。沿岸警備隊はなんとか間に合わせてきた。そして、彼らが成し遂げようとしたことの全ては称賛されるべきである。しかし、それらはいつも現有の資源の範囲であった。」とCSISの北極専門家Heather Conleyは言う。
ロシアは40隻以上の稼働状態にある砕氷船を保有し、他に8隻が建造中である。米国はわずかに2隻で、大型砕氷船と中型砕氷船である。そして、ロシアは最も新しい砕氷船の一部を武装しつつあり、同時に北極地域を軍事化する他の動きをしつつある。」とConleyは言う。
「ロシアは既に北極に特殊戦部隊、部品段階の地対空ミサイルを配備しつつある。我々はそのことを評価し、米軍の組成がその変化を反映するためにどうなければならないかを見る必要がある。」とConleyは言う。2018会計年度の国防権限法は、追加の6隻の砕氷船を承認したが、歳出法案ではたった1隻だけが予算化されており、それも2023年まで就役してこない。
(5)もし、北極の氷が減り続ければ、新しい海上交通路を切り開くために砕氷船をあまり必要としなくなるだろう。特に、より新しい貨物船は強化船殻を使用して設計されているためである。より大きな脅威は南シナ海で進行しているような国際紛争の類である。
米国は既に、ロシアと中国が石油、鉱物、その他の資源に恵まれたアラスカ北部の広範囲な米国の大陸棚の海域を侵害しつつある兆候を見ている。
「我々は、海軍、沿岸警備隊、米海洋大気庁といった我々の資産全てを首尾一貫し、持続可能な北極でのプレゼンスを開発するために使用しなければならない。そうすることは、我が国の利益に長期にわたってコミットすることを示し、同盟国を安心させ、我々の大国のライバル達に間違いようのないメッセージを送ることになるだろう。」とDavid Titley教授は言う。
David Titley教授は、米国は国連海洋法条約を批准すべきであると付け加えている。批准によって海底資源に対する主張を米国は提出することができると言う。しかし重要な問題は、6月4日の公聴会でHunter議員が狙いを付ける問題である。Hunter議員はRay沿岸警備隊副司令官に「北極について国防戦略がない。我々は沿岸警備隊と海軍に立ち戻り、その共通の戦略とは何なのかを我々に説明するよう求めることで修正しようとしている。」と食いついた。
2018権限法には6ヶ月以内に「北極戦略に関する報告」を提出するよう求めた指示が含まれている。「不足しているものは指導者である。」とCSISのConleyは言う。「誰もこの件について担任していない。あなた方は毎日、誰かを目覚めさせ、米国がどのように新しい海洋について準備すべきかを考えさせる必要がある。」議会の誰かが北極軍の創設を提起しても驚いてはいけない。
記事参照:The next 'cold' war: America may be missing the boat in the Arctic
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
1 How Beijing, Delhi and the China-Pakistan Economic Corridor could reshape global foreign policy in Asia
South China Morning Post.com, June 11, 2018
Raffaello Pantucci, director of international security studies at the Royal United Services Institute (RUSI) in London
英国のthe Royal United Services Instituteの国際安全保障研究部長Raffaello Pantucciによる中印協調の動きが西側諸国の南アジア戦略に与える影響についての解説記事。
武漢会議以降、中印両国は協力の手始めとなる事業を求めており、これがアフガニスタンに焦点を当てるとの観測がパキスタンの懸念を増大させている。例えば、中国-パキスタン経済回廊は一帯一路構想の旗艦的計画である一方、中国はかって安全保障問題でインド側に付くことを示唆したこともある。中国は南アジアの安定化を望んでおり、また、インドも一帯一路には懐疑的であるものの、アジアインフラ投資銀行のような投資を呼び込む機会への関与には熱心である。すなわち、北京にとっては繁栄するインド、安定したパキスタン、アフガニスタンは地域全体の目標達成を意味しているのであり、中印協調の動きは今後の南アジアの一つの方向性を示唆するものである。西側諸国は中国へのカウンターバランスとしてインドを使用する戦略について、パキスタンとの関係も含め、現在の南アジアの動きが何を意味しているのかに焦点を当てなければならない。
2 Trump-Kim Summit Creates New Anxieties for Asian Allies
https://www.nytimes.com/2018/06/13/world/asia/trump-kim-summit-asian-allies.html
The New York Times.com, June 13, 2018
The New York Timesは、米朝会談の結果、良い面として朝鮮半島における戦争の危険が遠のいたとする一方、米国のアジアの同盟国の間で地域の安全に対する米国の長期戦略に対して懸念が生じていると報じた。イスラマバードが留意しなければならない点は、中印は相互の経済機会に関与し、利用する方策を見出すことを望んでいることである。
3 In the Philippines, Dynamite Fishing Decimates Entire Ocean Food Chains
https://www.nytimes.com/2018/06/15/world/asia/philippines-dynamite-fishing-coral.html
The New York Times.com, June 15, 2018
ダイナマイトを用いた違法漁業により、フィリピンにおけるサンゴ礁が減少するとともに、生態系の破壊により漁獲量も減少しつつあると報告したNew York Timesによる記事。ダイナマイトの使用のほか、世界における二酸化炭素の排出量削減がサンゴ礁の保全に必要不可欠であるが、こうした現状に直面しながら、漁業者の間では「魚がいずれ捕れなくなる。」という科学者の指摘に、非常に懐疑的であることが指摘されている。
(編集注)
本件は、ブルーエコノミー(「統合的な海洋経済」として打ち出された概念であるが、現時点で確定的な定義はない。)と、海洋安全保障との問題も注目されるようになりつつある中、参考として取り上げたものである。
(参考)
海洋安全保障旬報2018年5月1日-5月10日
5月3日「インド太平洋の本質に向けたインドの闘争」
海洋安全保障旬報2017年11月合併号
11月1日「インドネシアのブルーエコノミー構想-RSIS専門家論評」
4 The US Navy is fed up with ballistic missile defense patrols
Defense News.com, June 16, 2018
米週刊紙Defense News電子版は、米海軍作戦部長John Richardson大将が海軍の常続的な弾道ミサイル防衛配備(日本周辺海域におけるイージス艦の展開等を念頭)から、イージスアショア等の地上配備型に移管すべきと発言したと報じた。
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