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論考

No. 124
2022/10/19

2022年中間選挙を目前に控えて

渡辺 将人
北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授

2022年アメリカ中間選挙が目前に迫った。連邦最高裁の人工妊娠中絶をめぐる判決以降、「2022年は典型的な中間選挙ではなくなった」と考えるバイデン政権と民主党の戦略、それに対する共和党予備選挙におけるトランプ派の動きなどから、今回の選挙の構図を読み解く。

中間選挙における大統領政党敗北の「例外」とは

民主党は「2022年を例外年に」を合言葉にキャンペーン戦略を構築している。例外年とは何か。通常、アメリカの中間選挙は大統領側の政党に不利で、特に下院では敗北が定石となっている。中間選挙では現政権への不満が政党の内外から噴出するためだ。大統領側の政党は中間選挙のたびに上院で戦後平均3議席、下院で戦後平均22議席を減らしている。ただし例外年もある。

例外その1はクリントン政権2期目の1998年である。経済が好調だった上に、モニカ・ルインスキー事件をめぐる共和党の執拗な攻撃が世論の支持を得られなかった。政策そっちのけで女性問題追及に執着した共和党のギングリッチ下院議長への批判が吹き荒れた。民主党は下院で5議席増、上院は同数を維持した。例外その2はブッシュ息子政権1期目の2002年で、前年の9/11テロが影響を与えた。全米が超党派で戦時態勢の緊張状態に陥る中、ブッシュ支持率63%で迎えた選挙で共和党は敗北を免れた。

それでは、直近の中間選挙はどうか。トランプ政権中の2018年選挙では、下院では定石通り共和党が40議席を失う大敗を喫した。しかし、上院では共和党が2議席増となった。2018年は上院の全改選議席のうち共和党議席が3分の1程度と少なかったことに救われた。

6年任期の上院は3分の1ごとに改選されるため、上院の勝敗は改選議席運に相当程度左右される。当該選挙年の改選議席配分に加え、改選州の党派色も影響する。自党の改選数が少なければ現勢力を維持しやすい。また、基本的に現職は新人よりも有利である。無論、スキャンダルを抱え職務評価が低い場合は現職が不利になるし、例外的に強い新人候補の場合も流動化する。現職が引退することで生じる新人同士の戦い(open seat)がどの程度発生するかも中間選挙の動向を占う上で無視できない。

拮抗する「トスアップ」で決まる勝敗

連邦上院と連邦下院は力学が違う。上院の勝敗は前述のように改選枠要因が絡むが、全議席が改選される下院は大統領支持率をわりと忠実に反映する。上院は各州2議席(人口上の1票の重みの不平等を犠牲にした州間平等)だが、下院は人口割小選挙区だからだ(そのため国勢調査による選挙区割りの更新が10年ごとに影響する)。

隔離と分断が激しいアメリカ社会では、下院選挙区単位まで分け入ると、人口動態や社会経済階層の同質性が顕著である。選挙区の党派的な色は一朝一夕には変わらない。すると黒人選挙区でどの黒人候補が民主党候補になるのかという内部的勢力争い、つまり予備選が目玉になる。候補が決まれば本選挙は自動勝利という選挙区は多く、共和党か民主党に偏った両端はほとんど議席が読める。本選全体の趨勢は「トスアップ」という両党の支持率が拮抗した無党派層の多い選挙区で決まる(大統領選の州別合戦も「接戦州」で決まるのに似ている)。

だから予備選期間は党内で誰が台頭するか、選挙区で誰が黒人、ヒスパニック、アジア系、労働者層、穏健派、宗教保守などグループの「代表」として台頭しそうかが注目点になる。予備選ではイデオロギーや人口動態が偏った選挙区で著名議員の後釜が誰になるのかをフォローしつつ、本選挙では「トスアップ」の接戦州だけを見る。大統領選挙で予備選は緒戦のアイオワ、ニューハンプシャー、サウスカロライナまでに観察労力の多くを割き、本選はオハイオなどの拮抗州をフォローする。上院選もそのサイクルごとの勝敗が読めない接戦の拮抗州や注目候補をマークすることになる。

2022年上下両院連邦議会選挙の全体環境

2022年中間選挙の連邦上院選挙は、本来は不利なはずの大統領側政党の民主党に一定の追い風要素がある。第1に民主党の改選議員数が少ないことだ。共和党議員は20が改選対象だが、民主党議員は14だけである。第2に、引退数の不均衡だ。今期をもって共和党現職の5名が再選を目指さず引退する。民主党現職は1名しか引退しない。引退数に4議席もの差が生じるのは珍しいことで、少なくとも2012年以降の上院選では引退の政党差は多くて3議席だった。特に共和党議員の引退は2012年以降、同時3名が最多で5名は近年では異例の「大量引退」と言える。つまり、2022年選挙は共和党にとって「世代交代選挙」であり、トランプ色のある保守系候補が乱立する選挙サイクルで共和党が多数派を獲得すれば、共和党の方向性も左右する1

民主党への第3の追い風は、共和党議員の引退で生じる新人同士が争う(open seat)5つの選挙区のうち3つが共和党優勢州ではなく両党の伯仲州であることだ(ノースカロライナ州のリチャード・バー、ペンシルバニア州のパット・トゥーミー、オハイオ州のロブ・ポートマンが引退する)。引退議員が共和党安定州ばかりならば議席はひっくり返らないが、拮抗州なら民主党にも勝ち目はある。民主党の狙う「上院2増」の夢は、これらの優位性を根拠にしている2

春先までは民主党の大敗を予測する論調がリベラル系メディアでも中心だったが、民主党の踏ん張りを強調する声が民主党系戦略家筋には目立ち始めている。FiveThirtyEight の予想は2022年10月3日時点で、拮抗するトスアップはジョージアとネバダの2議席で、共和党19(確実14、可能性大2、やや優勢3)、民主党13(確実9、可能性大3、やや優勢1)と分析している3。他方、クックポリティカルレポートは、トスアップはジョージア、ネバダ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの4議席、共和党19(確実15、可能性大1、やや優勢3)、民主党12(確実9、やや優勢3)と分析している(2022年10月4日時点)4(一見すると共和党優勢に見えるが、前述のように上院改選州は両党で均衡ではない。今回、民主党はそもそも改選州が少ないので優勢州数も当然少なくなる)。

下院は2020年国勢調査に基づく選挙区改正が焦点だった。改正のたびに選挙区が自分の政党に有利になるように歪な凸凹の線引き合戦が行われる。しかし、大統領政党側が敗北する傾向のある中間選挙で、今回不利なはずの民主党が、選挙区の線引きで思わぬ追い風を得ている報告もある。FiveThirtyEightの2022年6月時点の分類では、今回の改正で利益を得たのは民主党だと分析されている。線引きのし直しで民主党優勢の選挙区が6増し、拮抗選挙区が6減したという。線引き要因だけで共和党が勝てる議席は3〜4が限界で、民主党優勢選挙区187、共和党優勢選挙区208、拮抗選挙区40が改正後の勢力図だというのがFiveThirtyEightの見立てだ。これに基づいてのFiveThirtyEightの予想は(2022年10月3日時点)、トスアップ12 議席、共和党215(確実194、可能性大15、やや優勢6)、民主党208(確実168、可能性大30、やや優勢10)であった5。他方、クックポリティカルレポートは、トスアップ30議席、共和党211(確実189、可能性大11、やや優勢11)、民主党194(確実162、可能性大15、やや優勢17)、と予測している(2022年10月5日時点)6。ちなみに各世論調査の平均値はリアルクリアポリティクスで参照可能である。

民主党戦略の骨子:人工妊娠中絶をめぐる最高裁判決で「例外年」に?

それでは民主党の戦略は如何なるものか。民主党は上院で2議席増、下院の多数派維持を最大目標としている。最大目標は敢えて高く掲げている。これは、本来敗北必至の下院での多数派維持がまるで馬鹿げていないと活動家を鼓舞することに焦点がある。上院選における民主現職議席の重点州は、まずネバダ、ニューハンプシャー、ジョージア 、アリゾナ、次に共和現職議席の三つの「open seat」;ノースカロライナ、オハイオ、ペンシルバニアに加え、ウィスコンシン、フロリダ 、アイオワ、ミズーリ(ミズーリ州のみopen seat)に据えられている。

中間選挙では敵政党の政権に「奪われた」被害者意識を強調する戦略が王道である。2010年共和党は、オバマケアによって市民の自由な医療が「奪われる」というレトリックを用いた。2022年に民主党が用いているのは、前政権のトランプによる最高裁判事の指名で女性の人工妊娠中絶を選ぶ権利が「奪われた」というロジックだ。問題は普遍性をどこまで持たせられるかである。つまり、無党派層に対して、あるいは男性やLGBTの民主党支持者にも怒りの共感を拡大できるかが主眼である。例えば、筆者も傍聴したある民主党内部の戦略会議ではペローシ下院議長は「人工妊娠中絶の権利はアメリカ人の自由への防衛」だと謳いあげていた。女性の選択権の「自由」からの敷衍だが、中絶問題を狭義のフェミニストの争点とさせない上で、トランプが奪う「自由」を取り戻せというナラティブの構築である。

人工妊娠中絶の権利を認めるロー対ウェード判決が覆されたことで共和党のキリスト教保守の間でのトランプ評価は高まったが、これがトランプの選挙ではない中間選挙に奏功するかは読めない。むしろ女性票の喪失感と危機感が議席防衛のエネルギー源になる可能性がある。ただ、50年安泰だったロー対ウェード判決が転覆された「事件」が、1998年のルインスキー騒動に対する共和党の執着への世論離反や、2002年の同時多発テロ後の戦時大統領ブッシュ息子支持に匹敵する「例外」年の生成要因に、民主党の目論見通りになるかは未知数だ。

民主党の人工妊娠中絶との関係で鬼門なのはカトリック票である。2000年選挙の頃から民主党全国委員会が作成し各州の大統領選挙支部に配布していた内部文書ではカトリック票が要注意扱いに指定されていた。カトリック教会は人工妊娠中絶、安楽死、幹細胞研究など生命問題では共和党支持だが、それ以外のほぼ全ての争点で民主党支持であり、特に平和、貧困、移民などでは極左的な立場だからだ。サイクルごとのアジェンダ設定次第で民主党にも共和党にも転ぶ集団で、イラク戦争が起きれば民主党に傾き、人工妊娠中絶禁止があと一歩なら共和党への同調に関心を持つ。

しかし、中絶問題だけでトランプに完全に傾かない別の歯止めもある。中年以下の若手を中心としたカトリック層はトランプの移民排斥や人種対立を煽る姿勢に嫌悪感を抱いているからだ。中南米系の最新移民カトリックの増加も関係している。最高裁判事の指名ラッシュが終わった今、中絶問題の主戦場は州に舞台を移す。州知事選挙では中絶を禁じる保守的な候補を好んでも、トランプの大統領としての復権を望まないカトリックは少なくない。民主党内の「カトリックvs.女性」の党内対立がさほど炎上しない一因だ。

しかし、民主党の内部の戦略会議で各種団体の現場がこの話題に触れると、「人工妊娠中絶の権利は国民の大多数に支持されている」と選挙幹部が殊更強調する光景も相変わらずで、本心ではトランプの最高裁判事指名に感謝している民主党支持のカトリック信徒が揃って口を噤むある種の不気味さも続いている。党内のしこりが解消したわけではない。

他にも民主党内は言うまでもなく左派内ですら考えが一致しない争点は少なくない。ウクライナへのロシアの軍事侵攻について、議会レベルでは支援・支持で民主党は足並みを揃えているようにも見えるが、左派内部ではNATOやアメリカ外交の責任を追及する論調もあり激しい応酬になっている。ウクライナの話題になること自体を民主党陣営幹部らは望んでいない風潮があり、活動家代表が戦略会議でウクライナ問題への賛否を持ち出すたびに話題を逸らすことが繰り返されている。

民主党は、経済そして連邦議会突入事件の公聴会に絡めた反トランプ、銃規制と連動する治安問題、移民制度改革、薬価引き下げ、投票権保護などに選挙の焦点を絞ることに腐心している。

レファレンダム(現職信任)ではなくチョイス(トランプ復権か封じ込めかの選択)

民主党全国委員会や陣営現場の内部文書(トーキングポイントメモ)の想定問答は、民主党が抱える弱点への理論武装に焦点が絞られている。

第1に、各種世論調査で有権者の最大の関心事であることが示されているインフレ問題である。対策が効果を示すまでにタイムラグがある中、そもそも短期的なインフレ対策で選挙の集票を確実にはできないため、民主党はインフレ対策そのものから目を逸らす戦法に舵を切っている。消費者の敵としての大企業をスケープゴートにする戦略である。例えば「プーチンの戦争を口実に石油会社が、パンデミックを口実に製薬会社が価格を引き上げている」「企業の価格引き上げを容認するのが共和党」「インフレ削減法案に共和党議員が全員反対した」といった文言が内部資料には並ぶ。加えて、ガソリン価格の減少、バイデン政権下での雇用増、GDP増、貧困率と無保険、失業率の低さなど、経済を話題にしつつもバイデン政権に明るい材料だけに焦点を絞り、インフレが政権責任にならないように議題設定を工夫している。

第2に、中間選挙をバイデン政権の「業績評価」にせず、トランプをめぐる「選択」にすり替える戦略である。トランプ派の「過激派」と「富裕層や大企業」が支配する世界(これを彼ら民主党はMAGA:Make America Great Againと象徴的に呼ぶ)にしてしまうか、「一般の普通のアメリカ人が望む価値」を選ぶかの「選択」に収斂させる狙いだ。民主党が、共和党が過激な候補者を選出しているとして、共和党マコーネル上院院内総務の「候補者の質」を嘆く発言を繰り返し引用しているのもその一環だ。主要な攻撃対象の共和党上院議員候補は、ウィスコンシンのロン・ジョンソン候補、ペンシルバニアのメフメト・オズ候補(通称ドクター・オズ)、オハイオのJ・D・ヴァンス候補らであるが、アリゾナのブレーク・マスターズ候補もピーター・ティールの側近だった経歴が槍玉に挙げられている。

第3に、致命的ともいえるバイデンの支持率の低さへの対処だ。バイデン大統領支持率は2022年8月末に支持・不支持が逆転し、10月8日時点で42.5%である7。民主党幹部はバイデン支持の急落の原因は、あくまで民主党内における大統領への失望だとしていて、支持率の低さが共和党支持を意味しないと抗弁する構えだ。2024年大統領選挙問題とも関連するカマラ・ハリス副大統領の不人気、バイデン大統領の高齢問題などからくる政権への漠然とした不安が関係しているだけだとして、フランスのマクロンが41%の支持率でも当選した事実を喧伝することで活動家や有権者を安心させることに躍起である。

民主党は最終的にこれらの問題は、投票率や動員、民主党が牽引する有権者の情熱度で乗り越えられる問題であるとしていて、この文脈で前述の最高裁の人工妊娠中絶の判決が徹底活用されている。新型コロナウイルスで思うように実施できなかった地上戦の戸別訪問を2022年には直前動員対策(GOTV)として全面解禁化したことの効果も期待されている。

共和党予備選を席巻した「トランプ派」と注目候補

上記の通り、共和党マコーネル院内総務も言及する共和党「候補者問題」は、共和党内部の主流派(エスタブリッシュメント)とトランプ派の勢力争いを象徴する8。2022年選挙で特筆すべきは、共和党予備選で240にものぼる候補者にトランプが支持表明をしたことで、その92%が本選に臨むという勝率も無視できない9。民主党選挙戦略家はトランプ派候補の多さを「候補者の質の悪さ」と称するが、共和党としてはトランプの支持を得ておかないと共和党内で生存できない、という「風」を読む判断も小さくない。トランプ弾劾に賛成した10名の共和党議員から予備選での落選者が続出したが、チェイニー元副大統領の娘のリズ・チェイニー下院議員(ワイオミング州)の敗北は象徴的だった10

トランプ派の多くは過激な保守派や孤立主義的な傾向を持つ候補だが、他方でお墨付きの候補の全員がイデオロギー的な「保守派」でもない。現在の共和党内ではよほどエスタブリッシュメントの現職が強い選挙区でない限り、新人として挑戦するにはトランプ支持の有権者の勢いを取り込むのが手っ取り早いため、中道的な候補にまで転向してトランプ支持を取り付けているからだ。

プアホワイトとしての出自を赤裸々に記したベンチャーキャピタリストの回顧録『ヒルビリー・エレジー』(光文社、2017年)は2016年にトランプ支持者理解のバイブルとなった(原書Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisisは2016年6月刊行)。その著者J・D・ヴァンスは上院選で2022年話題の候補の一人だが節操のない転向組でもある。かつてはトランプ批判(ネバートランプ派)の急先鋒だったが、今回はトランプ派に寝返った。ヴァンスは、最重要州であるオハイオ州で共和党候補として民主党下院議員のティム・ライアンと両者新人の本選に臨んでいる11

ペンシルバニア州の共和党上院予備選で対抗馬を僅差で破ったドクター・オズも同様のケースだ。トルコ系アメリカ人(二重国籍で世俗派ムスリムでもある) のオズは、外科を専門とする医師である。医師候補というだけなら眼科医のランド・ポールの前例が共和党上院にはあり珍しくない(ちなみに父のロン・ポールは産婦人科医)。焦点はオズが「TVドクター」だという点である。テレビのバラエティショーに出て、視聴者の健康の悩みに面白おかしく答えたりするパーソナリティで、医師免許を持ったテレビタレントのようなものだ。ペンシルバニア人ではない落下傘候補の彼が予備選で勝てたのは、その全米でのテレビ知名度による。

この点、とてもトランプに似ている。トランプも不動産経営者だが事業は父親から継承したもので起業経験があるわけではなく、氏の真骨頂は独特のキャラクターを活かしたリアリティショーのTVタレント活動だった。さらに似ているのがイデオロギー性の薄さである。トランプが2008年の大統領選挙でヒラリー・クリントンに支持表明をしている超党派的な人物であるように、ドクター・オズも政治信念が希薄だ。

皮肉にもオズを有名にしたのが黒人女性の伝説的なTV司会者のオプラ・ウィンフリーだった。オズはオプラの番組の常連で、切れ味のいいジョークと渋いマスクで女性視聴者の心を掴んでいた。「Dr. Oz Show」という冠番組(2009年〜2022年)もオプラ所有の会社が制作していてデイタイム・エミー賞を受賞している。オプラは間違いなく彼のテレビ出演者としての才能を買っていた。

オズはまた、医療保険賛成派だったがオバマケア反対に転向した。人工妊娠中絶に関しても母体の安全や強姦など犯罪による妊娠には中絶が可能だという見解で、民主党内にもいるカトリックよりもはるかに穏健である。オズの共和党からの出馬には民主党は唖然としているが、一番衝撃を受けているのはトランプ派候補を育ててしまったオプラ本人だろう。

ネガティブキャンペーンの主戦場としてのソーシャルメディア

本稿では字数の関係で詳細を言及できないが、2022年サイクルでは選挙手法にも様々な変容が生じている。

民主党は9月半ばまでに、人工妊娠中絶の最高裁判決への危機感を訴えるテーマだけで1億2,400万ドルをテレビ広告に投じたが、共和党は人工妊娠中絶の成果を殊更強調することを避け、対抗的な広告を打っていない。2020年から飛躍的に伸びたデジタル広告の行方も見逃せない。AXIOS Media Trendsによれば、2022年における地上波広告は2020年を下回り、代わりにCTV(コネクテッドTV)広告が急伸すると予測されている。CTVとはAmazon Fire TVやApple TVなど動画ストリーミングにテレビを使用する形態だ12。旧来のテレビ広告よりも視聴者の好みに最適化された広告を配信できる。

また、2018年から活性化している一般の動画投稿者やソーシャルメディア上でのやりとりによる「インフルエンサー選挙」も深まりを見せ(「デジタル技術と政治の新潮流」、『アメリカ現状モニター』No107参照)、民主党全国委員会はソーシャルメディア戦略のためのハブを始動し、2月から8月までに8,300万のインプレッションに達している。デジタル・アウトリーチ戦略として黒人、LGBT、若年層に焦点を絞り、SlackやGreenflyなどのアプリを通じて特にTikTokの動画制作者と連携してメッセージを拡大している13

デジタル技術は面白いもので文化によって異なる使われ方をすることがありTikTokは典型例だ。日本では若者が既成の音源に合わせて踊る短い動画をシェアするのが中心的な楽しみ方だが、アメリカではトランプ政権が中国製アプリのセキュリティ問題から使用を封じ込めようとした経緯から、それに反発する「民主党アプリ」になっており、特にウォークレフト(Woke Left)と呼ばれる新世代左派が政治風刺を行う利用法が浸透している。他方、保守側はこれを茶化す。ある著名保守系YouTuberの人気コンテンツの1つは左派のTikTokerレビューだが、これは「ヒッピー的な左派が好むアプリ」と決めつけて小馬鹿にするTikTok批判も兼ねている14。「アプリの政治化」である。Googleが拡散に力を入れているYouTubeのショート動画の選挙利用は共和、民主双方の間で活発化している。

デジタル戦略は効果も大きいが火傷もしやすい。前述の共和党候補のドクター・オズは4月、インフレへの庶民的な共感をアピールするため夫人のお使いでスーパーに値上がりしている野菜を買いに行く動画をアップした。しかし、スーパーの名前を間違えた上に、フランス語で前菜の生野菜を意味するクリュディテ(crudité)を買いにきたと発言した。動画は誰にも注目されていなかったが、8月になって22歳を自称する匿名のツイッターアカウントに「誰がこれがいい作戦だと思ったのか」と題して拡散された15。瞬く間に民主党支持者の間で拡散され、対抗馬の民主党候補で庶民派を売りにするジョン・フェッターマンは「ペンシルバニアではこれを野菜盛り合わせ(veggie tray)としか呼ばない」とYouTubeショート動画で反撃した16

一般の支持者が、ドクター・オズが間違えた名称で架空のスーパーのアカウント(Wegner’s Groceries)をTwitter上に作成し、揶揄のバイラルは止まらなくなった17。ソーシャルメディア時代のネガティブキャンペーンの仮想敵は相手陣営やPAC(政治活動委員会:政党の代わりに政治広告による代理キャペーンを行う)だけではなく、一般のソーシャルメディアのユーザーであり思いがけないところから矢が飛んでくる。この動きだけでわずか数日内の展開だった。陣営も板付きの広告を発注する発想だけでは、このスピード感についていけない。オズの動画への反発だけでわずか1週間でフェッターマン陣営には100万ドルの小口献金が集まった18。週末のCBS「60分」で候補者がインタビューに応じて批判に応戦すればいいという悠長な「週単位」レスポンスは通用せず、ソーシャルメディアでの即時レスポンスが死活的になっている。

中間選挙後に待ち受ける一層の分断と政局

しかし、選挙広報の応酬のスピードが加速化しても、選挙戦の全体のメッセージには前向きなトーンは少ない。ヤスミーン・アブデュタレブが指摘するところの「終末が来る(Apocalypse now)」恐怖を煽るキャンペーンの前景化だ。バイデンの民主党の支配が続く世界、トランプが復権する世界を、両党は互いにデストピア的な終末と位置付けて恐怖を煽る。バイデン政権は「トランプ派(MAGA Republicans)」と他の共和党を分け、穏健な共和党に超党派協力を持ちかけているつもりだが、民主党は全共和党候補と支持者をファシスト扱いしている、と共和党は反発を強める19

NDNのサイモン・ローゼンバーグが言うところのリベラルな「反MAGA」連合20の形成には、トランプが元気で適度な脅威でいてくれ続ける方が好都合な事実がある。逆に言えば、トランプが保守化させた連邦最高裁が人工妊娠中絶判決を転換させる、現代アメリカ政治のリベラル史における大事件にもかかわらず、その直後の今回の選挙が低調に終われば、民主党の未来は相当に暗い。2年に1回の全米選挙はアメリカのデモクラシーの根幹でもあるが、どちらが勝利しても分断を深める道に突き進んでおり、バイデンが語る統合が絵に描いた餅になることは間違いない。

共和党側では、トランプ派候補が大量当選すれば、穏健性が強い上院は超党派性を維持するとしても、下院ではトランプ派が党内の無視できない派閥として定着するだろう。彼ら全員が旧来のパット・ブキャナン的な保守ではなく、本心とは無関係に勝ち馬に乗る「処世術としての」トランプ派議員かもしれない。だが、確実にポピュリストではある。ポピュリストは有権者を喜ばせることだけを考えるので、結果として右傾化が迎合的に促進される可能性がある。かつては「隠れトランプ」と言われたが、これからは「隠れ主流派」の勢力を正しく把握することも難題になる。共和党内の反トランプ派は20%ほどだと見積もられており、予備選で敗北したチェイニー、元共和党全国委員会のマイケル・スティール、ネオコン論客のビル・クリストル、反トランプの「リンカン・プロジェクト」などのうち一部が今回の中間選挙で民主党への支持を表明しているが、これは共和党への裏切り行為にも見えるだけに、共和党での主流・周辺のパラダイムシフトの種を自らまいている側面もある。共和党が下院多数派に返り咲いた場合、現在共和党下院院内総務を務めるケビン・マッカーシーが下院議長を目指す際の身の処し方にもこれらの党内攻防が透けるだろう。

民主党側では、2024年大統領選挙が焦点になる。バイデン大統領のオリジナルの計画の1つはカマラ・ハリスになるべく早期に禅譲し、女性大統領の誕生に手を貸すことで女性からの党内不信を払拭してジェンダー政策におけるレガシーを確立することだった。しかし、大統領周辺は「大統領は現時点では身体が動き続ける限りは再選を目指す」ことを十分見据えていると筆者に語る。バイデンのハリスに育ってほしいという願望は変わっていない。だが、ハリスの「党内」不人気は中間選挙を目前とした現在においても変動がない。統治能力と選挙能力が両立しない別のものであることは、政治関係者の間では常識である。ハリスの問題はこのどちらも欠如していると見なされていることだ。

議会との駆け引きや外交の指導力がなくても大衆的支持率が高く選挙に強い政治家はいるし、その逆もある。政策の鬼(policy wonk)で院内駆け引きの達人なのに地元活動が嫌いな政治家だ。ハリスは自分が出馬した大統領選挙の指名争いで一勝もできないままアイオワ前に敗退した。深刻なのは民主党内のハリス批判のリークが党内の女性幹部界隈から出てくることだ。大統領に王手をかけて惨敗したヒラリー・クリントンはもとより、エリザベス・ウォーレンやエイミー・クロブシャーなど2020年予備選で善戦した女性候補とその支持者の評価は辛口である。民主党幹部が誰もが認めるのはハリスの検事としての能力で議会公聴会での尋問は秀逸だった。ただ、その能力と大統領や副大統領に期待される能力が別であったことに、今頃になってバイデン政権は頭を悩ませている(「バイデン政権を悩ますハリス副大統領という難題」、『アメリカ現状モニター』No102参照)。

バイデン大統領が再選を目指せるかは中間選挙の結果も影響を与える。残り2年の法案実現可能性を考慮せざるを得ないからだ。2024年に82歳になる年齢や健康の問題には民主党内にも厳しい見方が多い。また、バイデンと同じく高齢で70代のトランプを、相対的には若く見せることになる。バイデン大統領周辺は急速なレームダック化の悪影響をとにかく恐れており、筆者に対しても「再選を目指さない場合は、引退の意思表明は来年の第三四半期前には明かしにくい」と回答している。また、同じく高齢のペローシ下院議長については、議長周辺によれば、仮に民主党が奇跡的に下院で多数派を維持できれば2年続投に意欲を固めている。しかし、その先の進退は未定だ。いずれにしても民主党は中間選挙後、世代交代と人材問題に早晩直面することになる。

(了)

1 Amee LaTour, “28 U.S. Senators running for re-election, 6 retiring,” Ballotpedia News, January 18, 2022, <https://news.ballotpedia.org/2022/01/18/28-u-s-senators-running-for-re-election-6-retiring/> accessed on October 14, 2022. (本文に戻る)

2 Nathaniel Rakich and Geoffrey Skelley, “What All Those GOP Retirements Mean For The 2022 Senate Map,” FiveThirtyEight, January 25, 2021, <https://fivethirtyeight.com/features/what-all-those-gop-retirements-mean-for-the-2022-senate-map/> accessed on October 14, 2022. (本文に戻る)

3 FiveThirtyEight, updated October 13, 2022, <https://projects.fivethirtyeight.com/2022-election-forecast/senate/?cid=rrpromo> accessed on October 14, 2022. (本文に戻る)

4 “2022 Senate Race Ratings,” The Cook Political Report, October 4, 2022, <https://www.cookpolitical.com/ratings/senate-race-ratings> accessed on October 14, 2022.(本文に戻る)

5 “What Redistricting Looks Like In Every State,” FiveThirtyEight, updated July 19, 2022. <https://projects.fivethirtyeight.com/redistricting-2022-maps/> accessed on October 14, 2022.(本文に戻る)

6 “2022 Senate Race Ratings,” The Cook Political Report.(本文に戻る)

7 “How unpopular is Joe Biden?” FiveThirtyEight, updated October 13, 2022, <https://projects.fivethirtyeight.com/biden-approval-rating/?ex_cid=rrpromo> accessed on October 14, 2022.(本文に戻る)

8 Sahil Kapur and Frank Thorp V, “McConnell says Republicans may not win Senate control, citing 'candidate quality',” NBC News, August 19, 2022, <https://www.nbcnews.com/politics/2022-election/mcconnell-says-republicans-may-not-win-senate-control-citing-candidate-rcna43777> accessed on January 31, 2022. (本文に戻る)

9 “Endorsements by Donald Trump,” Ballotpedia, updated September 28, 2022, <https://ballotpedia.org/Endorsements_by_Donald_Trump> accessed on October 14, 2022. (本文に戻る)

10  Maggie Astor and Azi Paybarah, “A Look at Trump’s Endorsement Record as the Primaries End,” The New York Times, September 13, 2022, <https://www.nytimes.com/2022/09/13/us/politics/trump-endorsement-primaries.html> accessed on January 31, 2022. (本文に戻る)

11 Katie Glueck, “In G.O.P.-Leaning Ohio, the Vance-Ryan Senate Race Is Closer Than Once Expected,” The New York Times, September 16, 2022, <https://www.nytimes.com/2022/09/16/us/politics/jd-vance-tim-ryan-ohio-senate.html> accessed on October 14, 2022. (本文に戻る)

12 Sara Fischer, “Digital TV ads will flood living rooms during 2022 midterms,” Axios, October 12, 2021, <https://www.axios.com/2021/10/12/digital-tv-ads-campaigns-2022-midterms> accessed on October 14, 2022.(本文に戻る)

13 Makena Kelly, “The TikTok influencers are coming for the midterms,” The Verge, August 9, 2022, <https://www.theverge.com/2022/8/9/23298040/dnc-democrats-midterms-elections-tiktok-instagram-influencers> accessed on October 14, 2022.(本文に戻る)

14 例えば以下。Ben Shapiro, “LOL: Ben Shapiro REACTS to INSANE Woke TikToks | Volume 5,” YouTube, December 5, 2021, <https://www.youtube.com/watch?v=po1cS4BsrSM> accessed on October 14, 2022.(本文に戻る)

15 Umichvoter, Twitter, August 15, 2022, <https://twitter.com/umichvoter/status/1559011904076529664?s=20&t=iSmRuHq1wJmurjb5tXFR4A> accessed on October 14, 2022.(本文に戻る)

16 John Fetterman, “In PA, we call this a Veggie Tray,” YouTube, <https://www.youtube.com/shorts/PcMvJg7mpOU> accessed on October 14, 2022.(本文に戻る)

17 若年層に人気のリベラル系風刺YouTubeチャンネル(チャンネル登録者数522万人)が大々的に扱ったことも大きかった。The Young Turks, “Fetterman Expertly Trolls Dr. Oz After Campaign Video Goes Viral For All The Wrong Reasons,” YouTube, August 17, 2022, <https://www.youtube.com/watch?v=_MMOa3ZQO78> accessed on October 14, 2022.(本文に戻る)

18 Jasper Goodman, “The trolling of Dr. Oz: Satire and snark take center stage in Pennsylvania Senate race,” Los Angels Times, September 7, 2022, <https://www.latimes.com/politics/story/2022-09-07/2020-election-fetterman-dr-oz-trolling-reaches-voters-in-pennsylvania-senate-race> accessed on October 14, 2022.(本文に戻る)

19 Yasmeen Abutaleb, “Apocalypse now: Democrats embrace a dark midterm message,” The Washington Post, October 2, 2022, <https://www.chicago.gov/city/en/depts/mayor/press_room/press_releases/2018/september/CREATE.html> accessed on October 14, 2022. (本文に戻る)

20 Greg Sargent, “Opinion: Meet the lonely Democrat who thinks his party can win in 2022,” The Washington Post, July 13, 2022, <https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/07/13/democrats-2022-midterms-abortion-guns-trump/> accessed on October 14, 2022;
Max Tani and Alex Thompson, “Meet the most optimistic Dem online,” Politico, August 3, 2022, <https://www.politico.com/newsletters/west-wing-playbook/2022/08/03/meet-the-most-optimistic-dem-online-00049651> accessed on October 14, 2022 (本文に戻る)

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