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論考

No. 113
2022/1/18

きたるべきアメリカにおける「内戦(シビル・ウォー)」

中山 俊宏
慶應義塾大学総合政策学部教授

ペロシ下院議長の招きで、今年のバイデン大統領による一般教書演説は3月1日に決まった。3月に実施されるのは記録上、初めてのことである。ビルド・バック・ベター(BBB)法案をめぐる雲行きが怪しく、オミクロン株によるコロナウイルス感染急拡大の真っ只中で、「連邦の状態(state of the union)」を議会に対して報告するタイミングとして、例年通りの1月後半は、むしろバイデン政権の行き詰まり具合を際立たせてしまうという判断からだろう。バイデン政権が発足してちょうど一年。いまバイデン政権はきわめて厳しい局面に立たされている。支持率は低迷し、過去の政権の同時期の支持率と比較すると、トランプ政権を除けば、かなり低い。FiveThirtyEight平均(2022年1月11日)によれば、支持が43.0パーセント、不支持が51.6パーセントと、不支持が支持をはっきりと上回っている1。国の向かっている方向性に関する調査についても、RCP平均(2022年1月6日)で、30.6パーセントが「正しい方向」、62.9パーセントが「間違った方向」と、後者がはっきりと前者を上回っている2

これは一年前にバイデン政権が想像していた風景ではなかっただろう。ちょうど一年前の今頃は、トランプ支持者による議会乱入事件(MAGA反乱)があり、いくらなんでもこれは許容できないという空気が蔓延していた。トランプに阿(おもね)っていた共和党も、さすがにこれは行き過ぎだとの判断を下したかのように見えた。多くの人が、トランプ現象を生み出した構造自体は変わらずとも、過剰さに特徴づけられたトランプ時代は終わりを迎えるだろうと感じていたはずだ。しかし、あれから一年、トランプ前大統領が消えていく気配は一向にない。いまだかつて現職大統領が大統領選挙で敗退した後、ここまで存在感を示した例はなかっただろう。

この一年で、アメリカがつきつけられた現実は、トランプが大統領でなくとも、「トランプ現象」と呼びうるような傾向は後退していかないということだ。これまでもアメリカは迷走してきたことがあった。しかし、そのたびに世界はアメリカの復元力に期待した。しかし、いまや「アメリカの復元力に期待したい」というフレーズは、まったく効果のない呪文のようにさえ聞こえてしまう。昨年末、アトランティック誌に「トランプによる次のクーデターはもう始まっている」という長文エッセーが掲載され話題になった。まさに、1月6日は、「終わり」ではなく、「始まり」であった可能性を指摘したバートン・ゲルマンによる論考だ3

2020年の選挙が不正であったと信じている人がおよそ2,000万人から3,000万人。これだけの人がトランプの「ビッグ・ライ(大いなる嘘)」を信じている。つまり、これだけの人が、現在のアメリカはバイデン政権によって不法に占拠されている状態にあると信じているということだ。場合によっては暴力をもちいた抵抗もやむなしと考えている人の割合が増えているのは、バイデン政権を単に支持しないということではなく、同政権がそもそも正当性を欠く違法(illegitimate)な政権であると考えている人が少なからずいるからだ4

今年の11月には中間選挙が行われる。新政権が発足して最初の中間選挙は、政権党に不利だ。ここのところ、2002年の中間選挙を除けば、大統領の政党でない党が巻き返している。今年も、共和党が上下両院で多数派になる可能性が高い。しかし、今年、民主党と共和党が入れ替われば、これは単に多数党が入れ替わるということにはならない。新たに選出される共和党の議員の多くはMAGA(Make America Great Again)派ということになるだろう。トランプに反旗を翻した共和党議員は、ことごとくトランプによるRINO(Republican-In-Name-Only, 名前のみの共和党員)批判の標的になっている。多数党になる共和党は、現在のアメリカは不法占拠された状況にあると考えるMAGA派が存在感を増した共和党だ。バイデン政権に対して攻勢をしかけることはもはや義務であると考えるだろう。バイデンはいまのところ再選を目指すとしているが、もし目指さないとなれば、評判が芳しくないハリス副大統領に代わる人を前面に押し出す必要があると考えるのは自然だ5。そうなると、早晩、出馬の意図はなしということを示さねばならなくなる。しかし、一度、それを明かせば、通常のレイムダックよりもさらに求心力は減退していくだろう。それは、「ディープ・レイムダック」とでも呼びうる状況になる。

最近、「シビル・ウォー」という言葉をよく聞くようになった。その登場頻度はあきらかに増している6。それは、南北戦争の時には遥に及ばないものの、1960年代を大きく上回っている。アメリカが内戦状況一歩手前にあるとはいわないが、いまのアメリカの雰囲気を表しているといえるだろう。すでに今年に入ってからも、『いかにして内戦は始まるか、そしてそれをいかにして止めるか(How Civil War Start and How to Stop Them)』と『次なる内戦(The Next Civil War: Dispatches from the American Future)』が刊行されている7。架空の内戦を題材にしたフィクションも数冊出版されている。さすがに「内戦」は大袈裟だ。少し前まではそう思っていた。しかし、どうも単に「分断」という言葉を使っただけでは、いまのアメリカの対立の根深さを表現しきれないという感覚だろうか。もちろん、米国史上、最多の死傷者を出した南北戦争(シビル・ウォー)が起きそうだという話ではない。それは、対立の根深さを表現する言葉がもうなくなってしまったということだろう。安易に内戦という言葉を使うべきでないという主張もある8。いたずらに対立を煽るだけだという批判だ。しかし、分断を和らげることを期待されたバイデン大統領は、どうもそれを達成できそうにないことが政権発足一年経って明らかになりつつある。そうした閉塞感の表れでもあるだろう。

2022年の先を見通すと2024年の大統領選挙があるが、この選挙は選挙に負けた側が、負けを認めない可能性が十分にある選挙だ。それはなにも新しい状況ではない。現在もまさにその状態にあるからだ。そしてその可能性は、トランプが出馬すれば飛躍的に高まる。まさに1月6日のストップ・ザ・スティール集会の再来ということになる。ある意味、治安当局が「MAGA3」(首都DCにおける三つ目の大規模なトランプ集会)と呼んだ昨年のストップ・ザ・スティール集会はあまりに衝動的で稚拙だった。しかし、トランプとトランプ派が、より用意周到に主張を通そうと思えばどうなるだろうか。すでにトランプ陣営は、選挙を運営する州務長官ポストを射程におさめ、接戦州の同ポストをおさえにかかっている。また逆に、もし、トランプが勝利すれば、仮にそれが正当な勝利であっても、民主党左派がこれを認めないという事態も発生しうる。そうなれば、左派の「直接行動(direct action)」の可能性も排除はできないだろう。ジャスティス派とも呼ばれる左派は、正義を軸にした「大衆行動(mass action)」に傾斜しがちだ。

昨年12月17日には、2024年の大統領選挙の後に起きるかもしれないクーデターに備え、ウォーゲームを実施しておくべきだと三人の退役軍人がワシントン・ポスト紙において提言をしている9。いうまでもなく、クーデターにおいて、実力組織がそもそも介入するのか、介入する場合、いかにして介入するか、どちらの側につくかということは事態の趨勢を決定する。少なくとも思考の上でその準備をしておいた方がいいという発想だ。

ここまで述べきたことはすべて過剰反応のようにも思える。しかし、冷静に考えると、それが現実に起こるかどうかは別にして、荒唐無稽な話ではない。いずれも念頭には入れておかなければいけない可能性だ。

かつて、アメリカは国を真っ二つに分ける内戦を戦った。1960年代には、公民権やベトナム戦争をめぐって、国論が引き裂かれた。ここ20年ばかりは、確かに分断が日常風景にもなっている。今回はどうか。少なくとも「アメリカの復元力に期待したい」という言葉で締めくくれば話をどうにかまとめられるほど単純な状況ではないことは確かだ。

(了)

1 FiveThirtyEight, “How unpopular is Joe Biden?” Updated January 16, 2022, <https://projects.fivethirtyeight.com/biden-approval-rating/?ex_cid=rrpromo> accessed on January 17, 2022. (本文に戻る)

2 RealClear Politics, “Direction of Country,” Updated January 12, 2022, <https://www.realclearpolitics.com/epolls/other/direction_of_country-902.html> accessed on January 17, 2022. (本文に戻る)

3 Barton Gellman, “Trump’s Next Coup Has Already Begun,” The Atlantic, December 6, 2021, <https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2022/01/january-6-insurrection-trump-coup-2024-election/620843/> accessed on January 17, 2022.(本文に戻る)

4 Dan Balz, Scott Clement, and Emily Guskin, “Republicans and Democrats divided over Jan. 6 insurrection and Trump’s culpability, Post-UMD poll finds,” The Washington Post, January 1, 2022, <https://www.washingtonpost.com/politics/2022/01/01/post-poll-january-6/> accessed on January 17, 2022. (本文に戻る)

5 渡辺将人「バイデン政権を悩ますハリス副大統領という難題」SPFアメリカ現状モニター、2021年8月27日、 <https://www.spf.org/jpus-insights/spf-america-monitor/spf-america-monitor-document-detail_102.html> (2022年1月17日参照)。(本文に戻る)

6 Googles Books Ngram Viewer, <https://books.google.com/ngrams/graph?content=civil+war&year_start=1800&year_end=2019&corpus=28&smoothing=3&direct_url=t1%3B%2Ccivil%20war%3B%2Cc0> accessed on January 17, 2022.(本文に戻る)

7 Barbara F. Walter, How Civil War Start and How to Stop Them (New York: Crown, 2022); Stephen Marche, The Next Civil War: Dispatches from the American Future (New York: Avid Reader Press, 2022)(本文に戻る)

8 Ross Douthat, “Let’s Not Invent a Civil War,” The New York Times, January 12, 2022, <https://www.nytimes.com/2022/01/12/opinion/civil-war-america.html> accessed on January 17, 2022.(本文に戻る)

9 Paul D. Eaton, Antonio M. Taguba, and Steven M. Anderson, “3 retired generals: The military must prepare now for a 2024 insurrection,” The Washington Post, December 17, 2021, <https://www.washingtonpost.com/opinions/2021/12/17/eaton-taguba-anderson-generals-military/> accessed on January 17, 2022.(本文に戻る)

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