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論考シリーズ | No.105 | 2021.10.28
アメリカ現状モニター

世論調査にみる米国人の外交認識
内向きだがアメリカ・ファーストではない

渡部 恒雄
笹川平和財団上席研究員

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アフガニスタンからの拙速の撤退に続き、AUKUS(米英豪の軍事技術協力)の突然の発表によってフランスの豪州への潜水艦売却プログラムがキャンセルされ、フランスが駐豪大使を召還するなど、バイデン外交は、国際的にも国内的にも批判を受け、信頼が揺らいでいる。一方で、バイデン政権は、中間層のための外交政策を掲げ、インフラ投資法案成立のための議会対策に注力している。バイデン外交は米国人の内向き意識の反映なのだろうか。この点で参考になるのが、 10月7日にシカゴ・グローバル評議会が発表した外交についての世論調査だ1。本稿ではこの世論調査を参照して、米国民の外交認識とバイデン外交の現状との関係を考察する。

米国民は想像よりは内向きではない

バイデン政権によるアフガニスタン撤退が引き起こした混乱に対する国内の批判は大きいが、それ以前には、主な世論調査では米国民の70%が撤退を支持していた。撤退による混乱直後、中国の国営メディアは、米国がアフガニスタンを見捨てたとして、台湾も米国による防衛をあてにはできないという「輿論戦」を展開した2。しかし、シカゴ・グローバル評議会の世論調査は、米国の人々が「長い戦争」に疲れて、世界から撤退を志向しているという想定とは必ずしも一致していない。台湾防衛についての武力行使だけみても回答者の52%が賛成している3。

調査では、64%の回答者はアフガニスタンからの撤退の決定自体は支持しているが、米国の軍事力を縮小すべきだと考えている回答者は15%だけで、52%が現状を維持すべきだと回答している。海外における米国の軍事プレゼンスについては、アジア太平洋では16%が兵力を増やすべきと回答し、63%が現状のレベルが適切とし、削減すべきとの回答は20%だけだ。しかも中東についても、16%がプレゼンスを拡大すべき、52%が現状を維持すべきと回答し、縮小すべきは30%だ。欧州についても、8%が拡大すべきと回答し、64%が現状維持で、27%が縮小すべきと考えている4。

中国との競争に対しては、懸念は持っているが、アジアにおいて軍事プレゼンスを圧倒的に上げるべきだと考えてはおらず、一方で軍事力を削減すべきでもないというバランス感覚をみせている。これはバイデン政権のインド太平洋戦略が、自国の軍事力増強ではなく、同盟国やパートナー国との連携と協力を強めることで、中国に対抗しようとしていることとも符号する。

欧州の同盟国フランスの怒りを買ったことで批判された新たな米英豪による軍事協力の枠組みであるAUKUSも、南シナ海と太平洋における中国の海軍力の劇的な拡大に対応して、勢力均衡を維持するための措置といえる。インド太平洋地域の海洋での覇権争いにおいて、中国の海軍力増強の圧倒的なスピードに、米国だけではついていけないのは明白だ。米国の人々は現状維持か、米兵力の漸増を支持しているが、中東や欧州の軍事プレゼンスを削減することは支持しておらず、かつ全体として大規模な軍事支出を望んでもいない。

そのような中で、近い将来に、冷戦期に導入された米海軍のロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦の退役時期が近づいている5。AUKUSは、オーストラリア側から持ち掛けた話のようだが6、フランスによるオーストラリアへの通常型潜水艦売却の遅れによる力の空白を埋めるために、原子力潜水艦技術を供与して軍事バランスを維持するという策は、米国民が望むラインに沿っている。軍事支出を極端に増やすことなく、地域の同盟国やパートナー国との協力関係を増やし、現状を維持する方向だからだ。

この世論調査はまた、同盟国の防衛に対する米国民の支持が強いことも示している。トランプ前大統領は、同盟国を米国の防衛に「ただ乗り」する相手だと考えていたが、米国の人々はそれぞれの地域における米国の同盟国の存在は自国の利益にもなると考えている(東アジア:59%、欧州:67%、中東:61%)。しかも、71%の回答者が、米国にとって多少の不利があっても、同盟国とともに決定を下すべきだと回答している7。

同盟国の防衛のために武力を行使すべきと回答した具体的なケースは、1位:北朝鮮の韓国への侵攻(63%)、2位:バルト諸国などNATO加盟国へのロシアの侵攻(59%)、3位:イスラエルへの近隣諸国の侵攻(53%)、4位:台湾への中国の進攻(52%)の順だ。特筆すべきは、1982年には北朝鮮に対する武力行使の支持は22%、中国に対する武力行使の支持は19%と低かったが、北朝鮮については過去5年で、中国については過去1年で大きく武力行使への支持が伸びている8。

米国人は世界で影響力を保つためには国内問題を解決すべきと考えている

シカゴ・グローバル評議会の世論調査で、最も興味のあるデータは、世界において米国が影響力を保つために必要な措置についての回答だ。1位が公的教育の向上(とても重要73%、どちらかといえば重要22%)、2位が自国での民主主義を強化すること(とても重要70%、どちらかといえば重要23%)、3位が米国の経済力を維持することで(とても重要66%、どちらかといえば重要28%)、4位が米国の軍事力の優位性を維持すること(とても重要57%、どちらかといえば重要28%)である9。

軍事力よりは経済力を重視しているのは、おそらく、米国の地位の相対的な低下が軍事力よりも経済力で起こっていると見ている米国人が多いという事情が反映している。別の箇所では、米中の力の拮抗についての質問がなされているが、軍事力については、現在、46%の回答者が米国優位、35%が互角、18%が中国優位と考えている。2年前には58%が米国優位と回答していたが、この1年で、米国という回答が12ポイントも低下し、逆に中国が優位と回答する数は2年前の11%から7ポイント、互角と回答する数は30%から5ポイント上がった。

一方、経済力については米国人の40%が中国優位、31%が互角、27%が米国優位と回答しており、経済力については、7割以上の米国人が中国は米国と互角かそれ以上だと考えているということになる。また、中国との貿易は米国の安全保障を強くするか弱くするか、という質問には、2019年には64%が米国の安全保障を強くすると回答していたが、2021年には38%に減り、58%が弱くすると回答するようになった。

国内の教育と民主主義の強化が上位に来ているのも興味深い。この問題意識に関連して、世界において米国が影響力を保つために必要な措置についての回答の第5位は1月6日の議会乱入事件のような政治的暴力を防ぐこと(とても重要54%、どちらかといえば重要25%)、第6位は国内の人種差別を減らすこと(とても重要53%、どちらかといえば重要25%)、第7位は国内の経済的不平等を減らすこと(とても重要50%、どちらかといえば重要30%)、第8位は合法的な移民の受け入れを進めること(とても重要46%、どちらかといえば重要36%)で、第9位は世界における民主主義と人権の推進(とても重要44%、どちらかといえば重要42%)、第10位は国内のインフラ投資を増やすこと(とても重要43%、どちらかといえば重要40%)という結果だ。

このあたりの選択肢とその回答の傾向をみると、民主党支持者のバイアスが掛かっているように思われる方もいると思うが、実際の世論調査は、全米でサンプルを抽出しており、回答者の党派別の割合は、共和党支持者27%、民主党支持者32%、無党派39%で、極端に共和党支持者が低いわけでもない。大統領の支持についても、回答者の56%がバイデン大統領を支持したと回答しているが、トランプ前大統領支持者も40%いる。

この結果を素直に読めば、米国民は、世界で影響力を発揮するためには、まず国内の問題、国内の民主主義や人種差別、経済の不平等を改善すべきだと考えているということになる。それをより「見える化」した質問が、「もし米国の政府予算全体を100ドルだとするとどのように使うか」という質問だ。結果は、教育($15.61)、医療・保健($15.21)、社会保障($14.92)、交通インフラ($13.85)、国防($11.90)、環境保護($9.35)、国内の失業対策($8.07)、他国への軍事援助($3.79)、他国への経済援助($3.71)、米国の政策の海外へのPRプログラム($3.58)だ。

国防費の順位が思ったより低いことと、他国の軍事援助に対する支持の低さが目に付く。トランプ主義的な「アメリカ・ファースト」を望んでいるわけではなくとも、米国人は全般的に国内課題を優先したいという気持ちが強いことがわかる。特に、海外に民主主義や人権をプロモートしたり、軍事援助を行ったりするよりも、自国の民主主義の問題や格差を解消することが先決であり、それこそが、自らの世界での影響力を増すための効果的な道筋であると考えているようだ。

バイデン政権の同盟政策をどう見るか?

シカゴ・グローバル評議会の世論調査をまとめれば、米国民は想定していたよりも内向きではなく、同盟国との協力を重視しており、海外での軍事プレゼンスも維持すべきだと考えている一方で、国内の民主主義や経済などに取り組むことが優先事項だとも考えており、国内を立て直すことが、グローバルな指導力の回復の一歩だとも考えている。したがって、国外に対しては、適切なレベルの支出による協力を求めており、同盟国の協力や自主性をより重視する傾向が見て取れる。同盟国を安保「ただ乗り」の相手とみなして金銭的な対価を強要するトランプ主義的な「アメリカ・ファースト」ではないが、自助努力をしない同盟国に過度な投資をすることには慎重だ。バイデン大統領は、アフガニスタン撤退に際し、「米国人は戦う意志のないアフガニスタン政府軍のために生命を賭けて戦うことはしないし、すべきでもない」と明言している10。この世論調査は、様々な点で、バイデン政権の外交・安全保障政策の方向性と符合する要素が大きいということが言えるだろう。

(了)

  1. Dina Smeltz, Ivo Daalder, Karl Friedhoff, Craig Kafura, and Emily Sullivan, “A Foreign Policy for the Middle Class-What Americans Think,” The Chicago Council on Global Affairs, October 7, 2021,<https://www.thechicagocouncil.org/research/public-opinion-survey/2021-chicago-council-survey> accessed on October 27, 2021.(本文に戻る)
  2. “Why the US will abandon island of Taiwan eventually: Global Times editorial,” Global Times, August 18, 2021,  <https://www.globaltimes.cn/page/202108/1231877.shtml> accessed on October 27, 2021.(本文に戻る)
  3. Smeltz et al., “A Foreign Policy for the Middle Class-What Americans Think,” p. 9.  (本文に戻る)
  4. Ibid. p. 29.(本文に戻る)
  5. Richard R. Burgess, “Navy Plans to Retire 48 Ships During 2022-2026,” Sea Power, December 11, 2020, <https://seapowermagazine.org/navy-plans-to-retire-48-ships-during-2022-2026/> accessed on October 27, 2021.(本文に戻る)
  6. 佐竹知彦「AUKUS誕生の背景と課題―豪州の視点」『笹川平和財団IINA(国際情報ネットワーク分析)』2021年9月28日 <https://www.spf.org/iina/articles/satake_03.html> (2021年10月27日参照)。(本文に戻る)
  7. Smeltz et al., “A Foreign Policy for the Middle Class-What Americans Think,” p. 31.(本文に戻る)
  8. Ibid.(本文に戻る)
  9. この項のデータはすべて脚注1の世論調査による。(本文に戻る)
  10. “American troops cannot and should not be fighting in a war and dying in a war that Afghan forces are not willing to fight for themselves.” In “Remarks by President Biden on Afghanistan,” The White House, August 16, 2021, <https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2021/08/16/remarks-by-president-biden-on-afghanistan/> accessed on October 27, 2021.(本文に戻る)

​​​「SPFアメリカ現状モニター」シリーズにおける関連論考

  • 渡部恒雄「バイデン政権の対イランJCPOA間接交渉が示す柔軟な現実主義」
  • 中山俊宏「アメリカをめぐる4つのナラティブと国際主義」  
  • 森聡「バイデン政権と『民主的連帯』の外交をめぐる論議」
  • 中山俊宏「米国の中東政策とミドルクラス外交」
  • 渡部恒雄「バイデン外交100日の評価―自由で開かれたインド・太平洋戦略の布石が打たれた」

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