太平洋島諸国・国際政治講座

【第1回講座】グローバル化時代における太平洋島嶼国と日本の新たな関係

3.太平洋島嶼国の選択肢
(1)政治的選択肢

カリブ海の場合でも太平洋の場合でも、政治システムに関して小さな島国に住む人々に与えられる選択肢として、ひとつには歴史的な関係を生かしてそれぞれの宗主国に身を寄せ、その政治体制の下で生きるという道もある。
カリブ海では、ジャマイカが独立した際(1962年)に、長い間その属領であったケイマン諸島が英国の直轄植民地(クラウン・コロニー)として生きる道を選んだのが、その典型的な例である。これ以外にも、アンギーラ、タークス・アンド・カイコス諸島、モンテセラート、英領バージン諸島のように、英国の統治下である程度の自治権を享受している島々がある。
また、プエルトリコ(米自治領)や米領バージン諸島(米国の内務省管理下の海外領土)のように米国との関係を保っている例、オランダ領アンティール諸島やアンティール・アンド・アルバのようにオランダの統治下に留まっている例、グアドループやマルティニークのようにフランスの海外県(DOM)としての道を選んだ例などもある。異色なところでは、中南米で最も裕福な国ベネズエラの属領になる道を選んだ島嶼群もある(ベネズエラは1830年に独立を達成した)。

太平洋では、カリブ海のような多様性はなく大部分が独立という道を選んだが、米国の準州であるグアムや、米国自治領である北マリアナ諸島などの例もある。また、クックやニウエのように、ニュージーランドとの自由連合における独立国としての地位 を獲得しながら、経済や市民権という点でニュージーランドとの結びつきを維持する道を選んだ例もある(註3)。
米国の信託自治領という地位を捨てて独立を選んだミクロネシア諸島も、外交や安全保障については米国の指導下にある(これは、従来の国際政治の常識からすれば異例である)。
フランスの3つの海外領土であるニューカレドニア、ワリス・フツナ諸島、フランス領ポリネシアを加えれば、太平洋諸島の政治的地位 もカリブ海諸島のそれに劣らず多様性に富んでいると言えよう。

以上のように、国際的な地位に関して島嶼国が持つ選択肢はかなり幅が広いことに留意すべきである。現在の状態は、政治的独立を達成する上での移行期の現象であるとする見方もあり、実際に今後いくつかの島々が真の独立へと向かうこともあるだろう。しかし、地球上で多くの途上国がグローバリゼーションの挑戦にどう対応するかという難しい課題に直面 し、国家形成のあり方について再考を迫られていることにここで注意を払うべきである。
細分化された小さな国が一方で最大限の独立を望むと同時に、他方では裕福な大国の傘下にあることから最大の利益を引き出そうとするのには、十分な理由があるのである(註4)。したがって、カリブ海諸国や太平洋島嶼国の人々は、その政治的地位 の問題に関して自分たちには多様な選択肢があることを考慮に入れるべきであろう。

(2)社会経済的な選択肢

グローバリゼーションが何を意味するかは人によって異なる。しかし、グローバリゼーションによって資本、労働力、情報などの地球規模の移動が容易になることについては意見が一致している。こうした状況の中で、カリブ海諸国や太平洋島嶼国にはどのような選択肢があるのだろうか。海に囲まれた小さな島国で、世界の経済活動や文化活動の中心地から遠く離れているという特質を活かすには、様々な方法があるはずである。

◆移住
かつては国家が資本を選ぶ時代であったが、今や資本が好ましい条件のある土地を選んで移動する時代になった。しかし、島嶼国の遠隔性や小規模な立地条件は、資本を誘致するに上では有利に働かない。むしろ、島嶼の人口が有利な労働市場を求めて海外へ移動することのほうが多い。
ジャマイカでは、国民の半数近くが北米やヨーロッパに出稼ぎに出ている。このように海外で働く人々からの送金は、ジャマイカの国庫収入の相当な部分を占めている(問題の性質上、正確な統計を得るのは困難であるが)。
同じような現象は太平洋でも起きている。たとえば、トンガとサモアでは国民の大部分が海外で生活している。また、ポリネシアの人口の半数以上がニュージーランドで暮していると言われている。こうした出稼ぎの結果 として、彼らの故郷の島々が過疎化してしまうのは、島に留まる人たちにとっても不幸なことであり、また、出稼ぎに出た人たちにとっても、自我喪失の危機(アイデンティティ・クライシス)を招いたり、本来の文化を失った移住者集団になったりするリスクがあるので望ましいことではない。しかし、人と情報の移動が容易になったグローバリゼーションの時代では、海外の出稼ぎ労働者と故郷の島に留まる人たちとの間で経済的・精神的な絆を維持することにより、一人の人間が2つ以上の故国を持つこともそう難しいことではなくなった。

◆観光
グローバリゼーションの時代でも動かないものがある。土地がそれである。むしろ動くのは人の方であって、島嶼国に魅せられた人たちが島々へとやってくる。
観光が島嶼国の経済にとって重要な地位を占める所以である。
バルバドスは、米国や西欧諸国の富裕階級に快適なリゾート地を提供することで島の経済を立てている典型である。カリブ海では、こうした裕福な諸国からの適度の距離が幸いして、このような生き方を選ぶ島が多い。太平洋諸島の場合には、距離が遠すぎること、島の規模が小さすぎて観光客の収容能力が限られること、および自然環境に与える影響が大きすぎることなど、カリブ海諸国ほどの好運には恵まれていない。とはいえこれらの問題を緩和できれば(たとえば航空路の改善など)、こうした生き方も全くの不可能事ではないだろう。

とくに注目に値するのは、JANCPECCがニュージーランドと共同で取組んでいる「フィジー・エコツーリズム・プロジェクト」である。1991年にスタートしたこのプロジェクトでは、フィジーのビチレブ島のKoroyanitu山岳地帯にあるAbaca村が、エコツーリズム開発のパイロット・サイトとして選ばれた。このプロジェクトはまだ完成していないが、太平洋地域の島嶼国の多くにとってエコツーリズム開発のモデルになるものと期待されている(註5)。

◆資本
すでに説明した通り、島嶼国の条件は、通常、資本誘致には適していない。だが、やや皮肉な見方をすれば、島嶼国が国境を越えて移動する資本に魅力的な条件を提供できる場合もある。その顕著な一例は、ケイマン諸島のオフショア・バンキングである。人口30万人程度のこの島は、銀行融資の扱い高で世界第5位 にランクされると言われている。
また、オランダ領アンティール諸島は、米国への資本供給地として世界でも有数の地位 を占め、ジョージ・ソロスのクォンタム・ファンドをはじめ世界で最も資金力のある投資機関がここに拠点を置いている。税金その他の法的な規制の緩いことが、投資家にとっての魅力となっているのである。いささか皮肉ではあるが、これは、島々をベースとする取引には規制当局の監視の目が届きにくいという性質を利用した、したたかなアプローチである。   こうしたオフショア・バンキング・センターは、IMFの専門家が嘆くように、国際金融システムのアキレス腱になっている(註6)。太平洋ではクック諸島がオフショア・バンキングを重視しており、バヌアツのように様々な税制上の優遇措置を講じている国もある(いわゆるタックス・ヘイブン)。

◆越境犯罪
もちろん、法の網の目をくぐり抜けやすいという島々の特質を利用しようとするのは、リスク覚悟の投資家だけではなく、麻薬、ギャンブル、銃の密輸、マネーロンダリングなどのいかがわしい類いの行為に携わる輩もいる。
また、資本といえども常に好ましい結果をもたらすとは限らないことは、短期資本(資産運用投資)の急激な出入りによって大きな経済混乱を被ったアジア諸国の最近の事例が示す通 りである。いずれにせよ、法規制が緩く、また法があったとしてもそれを守らせる力が不足している島嶼国は、越境取引に従事するいかがわしい者たちが集まる格好の舞台となりやすい。
この典型的な例は、ジャマイカなどカリブ海諸島を舞台とする麻薬取引であり、コロンビア産の麻薬が北米などの市場に輸出されるルートになっていると言われている。幸いなことに、太平洋ではこうした違法行為は今のところそれほど大っぴらにはなっていないようである。それはともかくこの種の危険を覚悟で敢えて「規制の緩い離島」としての魅力を活かす道を選ぶかどうかは、苦しい選択である(註7)。

◆情報産業
国境を越えた情報の流れが加速化しているのも、グローバリゼーションのもう一つの側面 である。情報技術(IT)の革命が、距離に起因する島嶼国のハンディキャップを軽減する可能性があるからである。また、情報産業はあまり広い土地は必要としない。こうした要因により、遠隔地域の島嶼国が世界的な情報時代を生きぬ くための選択肢を広げることができる。
北米に拠点を置く企業の多くが情報処理基地をカリブ海の島々に設けていることを、太平洋島嶼国も参考にすべきだろう。そのためには、この地域で衛星通 信網を発展させることが必要不可欠である。幸いなことに、米国が冷戦時代に開発したPEACESATや、それから派生したUSPNetなど、そのための基礎はすでにできている。2000年3月末には、日本、ニュージーランド、オーストラリアの共同援助のもとで、このUPSNetを改良したシステムがスタートした。これにより、南太平洋大学(USP)の遠隔教育が広く普及することになるだろう。また、日本政府の宇宙開発事業の一環であるPARTNERS開発計画もある。
こうした基礎をさらに発展させるためには、国際協力が必要である。このような通 信手段の改善によって距離を克服することができれば、島嶼国の住民が情報産業にアクセスできるようになるばかりでなく、島嶼国間のコミュニケーションも容易になり、地域的な個性(アイデンティティ)を確立するのにも役立つだろう。グローバリゼーションの仲間入りをすることは、個々の島々や地域としての個性の喪失を必然的に伴うというものではない。

◆グローバルな「国土政策」の必要性
以上の例から、島嶼国がその特質を活かしながらグローバリゼーションという問題に取組む必要があること、および、それには様々な選択肢やアプローチがあることがわかる。こうしたアプローチに共通 しているのは、遠隔地にある島々を世界の政治・経済の中心地(都市圏)と結びつけるための体系的な努力が必要だということである。離島や山村の過疎化対策(日本には離島や山村が数多くある)で豊富な経験を持つ日本は、こうした経験を活かして太平洋島嶼国向けの方針を策定すべきである。国際社会における遠隔島嶼国の問題は、グローバルな見地からの「国土政策」として取組むことが必要である。換言すれば、島嶼国の問題に適切に対処できるような方法で、国際的支援のあり方を考える必要があると言える。

  • 註3:Terry Chapman et al., Niue: A History of the Island (The Government of Niue and the Institute of Pacific Studies of the University of the South Pacific, 1982), p.137.
  • 註4:Ron Crocombe, "Geopolitical Change in the Pacific Islands", in Dennis Rumley et al., Global Geopolitical Change and the Asia-Pacific: A Regional Perspective (February 1996), p.288.
  • 註5:Akio Maita and Hiroshi Iwase, "The Development of Ecotourism in Fiji and Its Effect----With Particular Focus on the Village of Abaca", EEZ Technology, 5th Edition (ICG Publishing Ltd.), Autumn 1999, pp.37-43.
  • 註6:William Greidner, One World, Ready or Not: The Manic Logic of Global Capitalism, (A Touchstone Book, Simon & Schuster, 1997), pp.32-33.
  • 註7:あるジャーナリストは、ニウエの「マルチメディア・シティ」計画はあるドイツ人がプロモーターとなっている夢物語にすぎないとしている。John Andrews, "Money or the flask: Niue's dilemma", Weekend Herald (Fiji), March 25-26, 2000を参照。
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