太平洋島諸国・国際政治講座

【第1回講座】グローバル化時代における太平洋島嶼国と日本の新たな関係

2.太平洋島嶼国を取り巻く近年の国際情勢の特徴
(1)冷戦の終焉

冷戦期、とくにその後期には、米ソ間の勢力争いが太平洋島嶼国にも波及し、進出するソ連の影におびえた西側諸国が警戒色を強めるという局面 があったが、いまでは、ソ連の崩壊とともに、南太平洋は東西間の勢力争いの舞台としての意味を失っている。
米国を統治責任者とする国連の戦略的信託統治制度が1994年のパラオの独立(同年12月15日に国連加盟)をもって幕を閉じ、その歴史的使命を終えたことは、こうした国際情勢の変化を象徴している。もちろん、米国の海軍基地やミサイル実験場、あるいは化学兵器(有毒ガス)の廃棄場は、今でも太平洋の島々に点在している。また、最近ホンジュラスへ災害救助のために派遣された日本の自衛隊が、グアムの米空軍基地やマーシャル諸島のクェゼリン基地を中継地として利用した事実が示すように、これらの島々が広義の「戦略的意義」を失ってしまったわけではない。
しかし、島嶼国がその軍事的・戦略的価値と引き換えに米国(およびその同盟国)から財政的支援を引き出すという方式は、もはや通用しなくなったと見てよいだろう。このことは、旧信託統治地域への米国のコンパクト・マネーが近々期限切れを迎えるという事実からも明らかである。

(2)「南北問題」の変化

冷戦の終焉とともに、経済援助の理念にも変化が見られるようになった。
OECDの開発援助委員会(DAC)を構成する諸国や世銀、IMF、その他の援助機関は、これまでにも増して経済的効率を重視し、グローバルな資本主義経済システムへの統合可能性という見地から援助政策を評価するようになってきた。途上国経済は、グローバリゼーションの大波に呑み込まれるか、逆にそれから排除されて「周辺化」されてしまうかの瀬戸際に立たされている。最近の東南アジア諸国や韓国は前者の事例であり、世界的な市場経済システムにいっそう深く統合される過程で国内の諸制度の急激な変革を迫られている。
他方、サブサハラのアフリカ諸国の多くは「周辺化」の危機にさらされている。世界経済の中心地から遠く離れ、市場としての規模も小さいことなど、不利な条件を多く抱えたPINは、こうしたグローバリゼーションの大波の中で独自の生き残り方法を見つけねばならないという新たな試練に立たされている。通 常は不利に働く島嶼国の特徴を生かし、むしろそれを逆手にとって利用することによって独自の道を発見できるかどうかがその鍵となるであろう。
グローバリゼーションは、別の意味でも島嶼国の将来に影響を与えようとしている。地球温暖化およびそれによる海面の上昇は、多くの島嶼国の生存可能性を脅かしている。この事実は、島嶼国問題が地球環境劣化に対する人類社会全体の脆弱性の象徴であることを、何よりも如実に示している。

(3)地域主義の台頭

近年の国際関係におけるもう一つの顕著な傾向は、大小様々な規模の地域協力が様々なレベルで進展していることである。カリブ海諸国や太平洋島嶼国のような島嶼諸国も、この世界的傾向への対応を迫られている。 カリブ海諸国の場合は、当然のこととして、北米と中南米を結ぶ試みである米州自由貿易圏(FTAA)構想に関心を抱いている。
1994年に開かれた第1回サミットに続いて、1998年4月に第2回目のサミットがチリのサンチアゴで開催され、2005年までに同構想を実現する計画が打ち出されている。

このサミットでは、
 1)教育環境の整備
 2)民主化と人権の確立
 3)貧困の撲滅と社会的差別の撤廃
 4)経済統合と自由貿易の推進
という4分野での地域協力のあり方が協議された。

サンチアゴ・サミットに出席した34カ国にはカリブ海諸国も含まれている。しかし、これらの諸国としてはまず、カリブ海諸国間や他の中南米諸国との貿易関係の強化に重点を置いた対外経済政策を志向しているように見える。また、すでに存在している様々なチャンネル──カリブ海域構想(CBI)の強化、北米自由貿協定の(NAFTA)枠内での対等性の追求、カナダやメルコスール(南米南部共同市場)諸国との経済関係の推進、そして何よりもヨーロッパ諸国とのロメ協定の延長──を通 して地位の改善を図ることを優先目標としている。これは、いずれ米国主導のFTAAが軌道に乗ったときに有利な交渉に臨むことができるよう、足場を固めておきたいとの期待があるからである(註2)。

太平洋島嶼国の場合は、カリブ海諸国ほど多様な選択肢はないが、それでもいくつかのチャンネルを通 して各種の協力の枠組みにアクセスすることができる。ロメ協定やスパルテカ協定を通 してヨーロッパ諸国やオーストラリア、ニュージーランドとの結びつきを維持、拡大するというこれまでの方法に加えて、一部の加盟国が最近経験したような不況や政治的混乱によってある程度の後退を余儀なくされたものの重要性を一段と増しつつある太平洋経済協力会議(PECC)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)参加国との関係を拡大する道も開けようとしている。 その際には、カリブ海諸国がCARICOM(1968年14カ国によって結成されたカリブ共同体)をベースとしてより大きな地域協力の枠組みの中で地位 を確立しようとしている例にならい、南太平洋フォーラム(South Pacific Forum、間もなく太平洋諸島フォーラム(Pacific Islands Forum)に名称が変わる予定)やその他の地域組織としての連帯をベースとして、交渉地位 の改善を図るのが得策であろう。

註2:"Little hope in trade pact", The Business Authority, Barbados, March 30, 1998; "CARICOM seeks longer transitional periods into FTAA", The Broad Street Journal, Barbados, April 8, 1998.
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