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オーシャンニュースレター

第438号(2018.11.05発行)

第2次竹富町海洋基本計画の策定 ~美ら海とともに生きる町~

[KEYWORDS]島嶼型海洋自治体/離島の保全等/海洋と共に生きる町
沖縄県竹富町政策推進課課長◆通事太一郎

竹富町は自治体としてわが国初の海洋基本計画を策定した。
各種施策の実行は成果を上げているが、町をとりまく情勢は変容してきており、その情勢に即応し、町の役割を踏まえて海洋基本計画の改定を行っている。

日本最南端の海洋自治体

わが国は今年5月、海洋基本法の目的である「新たな海洋立国を実現すること」を目指すため、「新たな海洋立国への挑戦」を政策の方向性として位置付けた、第3期海洋基本計画を閣議決定しました。これに合わせて竹富町は、昨年度から行っていた、竹富町海洋基本計画の改定を終え、6月の議会に上程、承認を得ました。
この第2次竹富町海洋基本計画は、第1次計画に引き続き、竹富町における海洋政策の方針であり、海に囲まれた多島で構成される本町の政策において非常に重要な役割を持っています。
竹富町は、沖縄県の最南西端に位置する八重山諸島に属する自治体で、南北約40km、東西42km、約1,700km2の広大な海洋に合計陸地面積約334km2の、7つの無人島を含む16の島々で構成されています。
年間を通して温暖で多湿な亜熱帯海洋性気候に属しているため、この温暖な気候と海に囲まれた島々という地理的な条件が重なって豊かな生態系が形成されており、イリオモテヤマネコに代表される数々の貴重な野生生物の住む自然豊かな島々は、 そのすべてが西表石垣国立公園に指定されております。またその海域は、石西礁湖と呼ばれる国内最大規模のサンゴ礁域で、島々と島間で有するそのサンゴ礁の面積は、陸地面積とほぼ同等の296km2もあります。また、そこに住む島民も、この自然の恵みを頂く事によって、各島々で個性豊かな文化を醸成してきています。
このような特徴を持つ竹富町ですが、「海洋」に起因する地域的課題がある自治体でもあります。島民の移動手段は基本的に船舶しか無く、高額で航路も限定されます。また天候によって就航率が大きく左右されます。そのような海上交通においては物流コストが非常に高く、医療環境は不安定であり、島には高校がないため教育環境も不十分です。総じて社会資本整備にかかるコストが割高です。広大な海域に点在する「島嶼自治体」であるため行政コストそのものが高く、亜熱帯海域に存在する島嶼であることによって、自然災害や環境変動に対しても脆弱です。また島は人的負荷に脆弱な自然生態系であり、自然環境および景観の保全も課題を残します。
近年は延べ100万人の観光客が訪れるようになった竹富町の島々ですが、本来は生活のさまざまな面で困難を伴う所なのです。

町の海洋基本計画の策定と改定

竹富町海洋基本計画は、2011年3月にわが国の自治体で最初に策定しました。 この計画は、わが国の海洋基本法に基づき、日本最南端の自治体である竹富町が、自主的かつ独自に策定する活動計画です。これは、海洋基本法という、海洋に関する国の基本理念、国、地方公共団体、事業者、国民の責務が明記された法律を適切に活用し、海洋に起因する町の課題を自ら解決していくためのツールとするため、策定しています。
この計画では、23の施策項目が設定され、自然環境、生活環境、産業振興に関わるさまざまな取り組みが行われました。海岸漂着ゴミ対策として発泡スチロールからスチレン油をつくる油化装置を導入し、これを島産エネルギーとして活用し雇用を創出する事業として実施しました。また、本町にとってサンゴ礁海域は、漁業資源、観光資源、また、航路は道路と同様の役割を果たしており、日常的な生活域としての場でもあるため、このサンゴ礁内を地方交付税算定面積にするために国へ要求活動を行うなど、この計画であげられた事業項目を着実に実施しております。
しかしながら、海洋と島々の自然環境、海洋と島々の安全・安心な生活基盤、海洋を活かした産業振興、海洋に育まれた歴史・文化の継承、財源確保と人材育成に関して、継続的な取り組みが必要な課題が残されています。また、本町の将来人口は、20代の世代の転入増が継続されないと減少していくと推計されています。
さらに、第1次計画後に町を取り巻く海洋に関して新たに生じつつある課題として、国内外観光客の増加等に伴う急増する開発圧力および入域者による貴重な自然環境への影響と安全の確保、海水温上昇等地球規模の環境変動に伴う自然環境への影響と安全の確保、近隣諸国との海洋圏域を舞台とした摩擦の増加、人材および財源不足などがあげられます。
また、町内の島々には領海等の根拠となる国境離島が有人島(黒島、西表島、波照間島、鳩間島)および無人島(外離島、内離島、ヨナ曽根、午ノ方石、中御神島(仲御神島))あわせて9 島が存在しております。無人島を含めた町全体がわが国の領海保全等に大きな役割を果していることが、再認識されています。
このような各種の情勢に即応し、また、わが国の領海等の根拠となる国境離島を有する竹富町の役割を踏まえ、海洋に育まれた貴重な大自然と文化の次代への継承、より良い生活環境の実現、国境離島地域の保全等を主な目的として「第2次竹富町海洋基本計画」を策定しました。
これは国の第3期海洋基本計画と合わせて策定しており、竹富町の海洋と島々をとりまく現状と重要課題を認識した上で検討・策定しております。
大きな特徴として、これまで以上に各事業の達成について、地域協議会での町民代表者による評価や外部有識者を交えた第3者委員会による評価などを強化したことや適切な進捗管理を行うべく指標を設け、計画内に記載したこと等があげられます。

■海洋に関する法と町の基本計画との関係
■国境無人離島である中御神島(なかのおがんじま)

隔ての海を結びの海に

竹富町はこの広報の一環として、国境有人離島を中心に各島を同時中継(Web会議)で結んで行うシンポジウムを2019年1月に開催する予定です。これはテーマを「海洋」とし、これまでは島々を隔てる海だったものを結びの海に変えていこうという試みです。島にいながら他島と同時に公聴や議論ができる場を構築し、町の海洋をテーマに、海域を意識した町のさまざまな課題や将来等を島の人同士で議論してみたいと考えています。このような本計画に基づく各種施策の活動を通じて、美ら海(ちゅらうみ)とともに生きる町としての新たな発展と、わが町のより良い未来を築くとともに、新たな海洋立国をめざすわが国の海洋政策の推進に寄与していきたいと考えております。(了)

  1. 竹富町は、2018年第11回海洋立国推進功労者表彰の受賞者。

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