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オーシャンニュースレター

第429号(2018.06.20発行)

内海水先区の水先と将来を見据えた取り組み

[KEYWORDS]瀬戸内海/内海水先区/水先の将来
内海水先区水先人会副会長◆増井 眞

内海水先区は、瀬戸内海を業務範囲とする日本最大の広域水先区である。
この風光明媚な多島海景観の中で行われる水先は特徴的で、浪漫に溢れているが、他の海事産業と同様に後継者問題を抱えている。
内海水先区の実情と現在の取り組みを通じ、水先の将来の在り方について考えてみたい。

日本最大の広域水先区

瀬戸内は、本州、淡路島、四国および九州に囲まれ、海はいつも穏やかで優しい。
その海に浮かぶ大小さまざまな姿をした島や岬を間近に眺めながら船を操っていると、時として、まるで自分が箱庭の中にいるような気分になる。船が押しのける波は青白くキラキラと光り、陸の明かりは淡く、遥か遠くの星を眺めていると闇の中に吸い込まれそうだ。内海水先区はこの瀬戸内を業務範囲としており、東西の距離は約200海里(320km)と長く、東経131度~135度に亘る。西の端は131度線の通る関門海峡、東は135度線の通る明石海峡、中間の133度線は来島海峡を通る。また、132度線はわが国最初の水先人を祀る椎根津彦(シイネツヒコ)神社のある佐賀関と佐田岬に挟まれた速吸瀬戸(はやすいのせと)、134度線は高松を通る。
内海水先区を語るためには、まず瀬戸内海の特徴について語らなければならない。瀬戸内海は、狭い明石海峡、鳴門海峡、速吸瀬戸および関門海峡から外洋へ出入りするため、潮流は早く、明石海峡では最大7ノット(約13km/h)、鳴門海峡、来島海峡および関門海峡では10ノット(約18km/h)に及ぶときもある。潮の干満差は、明石海峡や速吸瀬戸から離れて奥に行くほど大きくなり、広島湾では最大4mになる。
瀬戸内海の天気は、南からの風が四国山系に遮られるため平穏で、晴天の日が多い。春から夏にかけ、海水の温度が十分に上がらない時期に、南から湿潤な暖気が供給されると、海面付近に霧が発生する。大型船のマスト、船橋が霧の中に浮かんで近づいてくる様は異様で、小型船や漁船はほとんど見えず苦労する。また、潮の速い海峡部、潮の流れる方向が変化する海域では、海底の冷たい海水が表面に湧き上がってくるため、狭い範囲で霧が発生することがある。天気がよく、平穏で安心しているところに急に視界が悪くなるとギョッとする。瀬戸内海には多くの川が流れ込み、山からの豊富な養分が供給されるため、プランクトンが豊富で良好な漁場となっている。そのため、一年を通してさまざまな漁法で漁をする漁船と出会う。2艘引き、コマセ網、流し網、蟹刺し網、イカ巣等多彩で、網を揚げている漁船を双眼鏡で覗くと飽きることがない。

水先業務

太平洋を航行してきた船舶は、大阪湾を北上すると和田岬沖に至る。ここが、内海水先人が乗下船するパイロットステーション(PS)で、ここから内海水先区が始まる。進路を左に変え、明石海峡大橋をくぐり抜け、約230海里(370km)西に航行すると関門海峡東口に至る。ここが、内海水先区の西口、部埼(へさき)のPSである。
松山沖の釣島(つるしま)水道を抜けた後、やや南に進路を取ると、四国の伊方原子力発電所の沖を通って速吸瀬戸に至る。ここが内海水先区の南口、関埼のPSである。
内海水先区では、3カ所のPSから50余りの港への入出港、PSからPSへの航行、あるいは港内だけの業務が東西320kmの中で行われるため、水先人の7つ道具(トランシーバー、双眼鏡、海図、時計、潮汐表、三角定規、ディバイダー)を持って一旦仕事に出ると、本船での寝泊りは言うに及ばず、広い海域での航海、狭水道・強潮流の航行、入出港作業等、その業務内容は多岐に渡り、操船のすべてを満喫できる。
これを150名程度の水先人で効率よく実施するシステムとして、来島海峡を境に業務を分け、休養が明けた水先人から順番に業務に就くよう運用している。また、船舶の大型化、特殊危険物船に対応するため、港内業務を専門に行うハーバー当直制度を併せて採用している。

霧の中の平群水道(屋代島) 大型船にパイロットラダーで乗船

将来を見据えた取り組み

以上が内海水先区の概略であるが、ここからは内海水先区の将来を見据えた取り組みについて述べてみたい。
①後継者の確保
水先人の供給源である外航船員の減少の余波を受け、水先業界全体が後継者問題を抱えている。特に内海水先区を含めた地方の後継者不足は深刻で、安定的に水先人を確保していくためにはどうするべきか。内海水先区では、事務局に広報企画課を新設、広報活動としてフェイスブックの公開、PR用パンフレットや動画の作成、水先人を紹介している書籍の寄贈、さらには水先人の社会的認知度の向上を目指して各種イベントに参加する等、あらゆる機会をPRのチャンスと捉え活発に活動している。その一方で、船員数に左右されずに安定的に水先人を確保するためには、若い人材を確保し、育てていく視点も欠かせない。2007(平成19)年の水先法改正により等級別水先制度が導入され、新卒者でも3級水先人として水先人になれるようになった。幸いにも、内海水先区は海域が広く多様な船舶が出入りしているので、十分な新人教育の場を提供できる。そこで、内海水先区では独自に海事関係の学校を回り、PR活動を行っている。計画的に3級水先人を採用し、10年後20年後の水先人の安定的確保を目指している。
②顧客に対する安全・安心のサービス提供
水先制度は水先法という法律に基づいた強制的制度であり、従来は水先業務が顧客に対するサービス業であるという考えは少なかった。現在では、水先業務はサービス業であるとの考えの下、顧客である船社や船主の要望に対応すると共に、定期的に顧客と交流を重ね、顧客の声を吸い上げる努力を心がけている。
③変化への対応
船舶の大型化や航海計器の進化、交通機関の発達、等級別水先制度による水先人年齢層のばらつき、女性水先人の入会等、水先を取り巻く状況は大きく変化している。例えば、新規に1級水先人になるためには2年以上の船長経験が必要なため、50歳を超えて資格を取得する場合が多く、定年は72歳である。一方、3級水先人は新卒者でも一定の研修を経て20代で資格を取得することができる。20代と60代、70代が同じ条件で働くのか、年齢に応じて就業形態を選択できるような工夫は必要ではないか。これらの変化に対応できる体制を常に模索していく必要があるが、水先業界には古くからの慣習が良くも悪くも残っているため、変革のときを迎えていると言っても過言ではない。今風に一言で表現すれば、「働き方改革」である。
このような取り組みが将来の内海水先区を支え、日本の海運業界がますます発展することを願い、今後も真摯に取り組んでいきたいと思っている。(了)

  1. 内海水先区水先人会HP http://www.ispa.or.jp/

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