Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第373号(2016.02.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆暦の上では「立春」を過ぎたとはいえ、まだ光のみの春である。それでも、この頃は凛とした朝の大気の中を微かに漂う梅の香に季節の確かな足取りが感じられるようになった。海の中でも季節は確実に進み、新しい命の営みが始まっているはずだ。折しも、日本列島の周辺海域で高速船とクジラと思われる大型海洋生物が衝突したニュースが相次いで入ってきた。
◆人間活動が大気や陸域環境に及ぼす影響については、地球温暖化に関する気候変動枠組条約に代表されるように、人々の関心は高い。身近に感じられる問題だからである。しかし海の環境の変化については、海洋温暖化や海洋酸性化を始めとして、まだ一般の人々の直接的な関心は引くには至っていない。人間活動による海中の音響環境の変化も海洋生物にかなりのストレスを与えているはずであるが、この問題については科学面からもほとんど調べられていない。そこで国際科学会議(ICSU)の海洋研究科学委員会(SCOR)と国際海洋観測機構(POGO)はIQOE(International Quiet Ocean Experiment)という国際計画を開始した。海洋空間の利用は今後ますます活発化することが予想される。海洋生態系と人間活動の持続的な共存関係は重要であり、研究成果が待たれるところである。
◆今号には広い意味で海洋教育に関係するオピニオンを三題頂くことができた。まず、黒川 明氏は(一財)エンジニアリング協会のイニシャチブの下、日本財団の助成を受けて実施した「海洋開発キッズチャレンジ」について紹介している。趣向をこらしたブースを巡る子どもたちのはしゃぐ声が聞こえて来るようだ。自らの手を動かす体験型のイベントは永く記憶に残るものである。ぜひ夏休みのイベントとして定着して欲しいと思う。
◆後藤祐希氏は東京海洋大学の学部学生が運営する「海事普及会」について紹介する。この会は前身の東京商船大学に設置され、既に60年近くにわたって地方の高校をめぐり、海事の世界について講演会活動を行ってきたという。アウトリーチ活動の重要性を早い時代から認識していた先見性には驚くばかりである。海事クラスターの広がりに「海なし地域」の高校生はさぞ新鮮な印象を受けたに違いない。次世代を担う若者がさらにその次を担う若者と連携するユニークな活動にエールを送りたい。
◆大森良美氏は水産業界が立ち上げた「おさかなマイスター制度」について解説する。これは魚介類の幅広い知識と正確な情報を消費者に伝えるとともに、魚食の普及活動にも貢献する「伝道師」を育て、認定する制度である。日本おさかなマイスター協会では特に小、中学校での文字通りの食育出前授業に力を入れているという。魚を美味しく食べる喜びは魚をとりながら増やしていく政策につながる。国連の持続可能な開発目標(SDGs)2030の目標 14は「持続可能な開発のために海洋資源を保全し、持続的に利用する」ことである。「おさかなマイスター制度」が国境を超えて世界に展開するならば、この目標達成に大きく貢献するのではないだろうか。(山形)

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