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第210号( 2009.05.05 発行)
第210号(2009.05.05 発行)

離島発! 持続可能な地域再生への挑戦

[KEYWORDS] 海士町/島の活性化/環境漁業
隠岐國・海士町長◆山内道雄

四方を海に囲まれた日本海に浮かぶ外海離島、島根県隠岐郡海士町。
財政破綻寸前だった島は、「先憂後楽」の精神で大胆な行財政改革を断行する一方で、島をまるごとブランド化するという戦略を打ち出し、島に息づく地域資源を最大源に活用して新商品、新産業、新規雇用の創出に奮闘中。
「海」を生かした持続可能な島國らしい生き方とは...。

はじめに--海士町とは

海士町は、日本海の島根半島沖合約60kmに浮かぶ隠岐諸島の中の中ノ島全域を行政区とする一島一町の島である。気候は対馬暖流の影響を受け「暖冬涼夏」の海洋性気候であるが、冬場の日本海は季節風が強く吹き荒れ、フェリーが欠航し孤島化することも珍しくない。島内には旧環境庁選定の名水百選があり、豊かな湧水に恵まれ、稲作を中心とした農業と、天然の海産物により自給自足ができる半農半漁の島である。後鳥羽上皇がこの地にご配流となり、その生涯を終えられた島で貴重な歴史的文化遺産が今もなお数多く残っている。
海士町は、昭和25年に7,000人いた人口も今では2,400人まで減少した。高齢化率は39%を超え、年間出生数は十数人足らず、年少人口率も10%と、高卒のほとんどが島外へ流出し、20~30代の年齢層が極端に少なく地域活力が低い。平成16年、海士町は100億を超える借金と地方交付税の突然かつ大幅な削減で、まさに財政再建団体転落の一歩手前というべき状態にまで追いつめられた。

生き残るための戦略、「守り」と「攻め」の両面作戦を実践!

隠岐海士のいわがき・春香
隠岐海士のいわがき・春香

そこで、私は「島の未来は自ら築く」という理念を掲げ、生き残るための覚悟と二つの戦略を打ち出し、まず、「守り」の戦略では徹底した行財政改革を断行した。「自らが身を削らない改革は支持されない」という信念のもと、平成16年度から私を先頭に、助役、教育長、議会、そして自ら申し出た職員の大胆な給与カットを実施。その規模は最大で、三役が50~40%、職員は30~15%、議会議員も40%を削減するまでに及んだ。日頃から私は「先憂後楽」というが、この精神こそが公務員の基本姿勢であり、真に住民との危機感の共有にも繋がったと確信している。
一方、「攻め」の戦略は一点突破型の産業振興策の実践である。「攻め」の目的は言うまでもなく、島に産業を興し、人と雇用の場を増やし、利益を獲得して、島を活性化することである。要は島の資源をまるごとブランド化することを究極の目標と定めた。その第一弾が「さざえカレー」の開発である。島では昔から肉の代わりに磯で獲れたさざえをカレーの具として使っていた。これが商品にならないかということで役場が先頭に立ち、「島じゃ常識!さざえカレー」として商品化し、今では年間3万個も売れるヒット商品となった。これまで島民には商品価値のあることすら分からなかった当たり前の食文化が、外から見れば驚きとともに新鮮な魅力として映る、そのいい見本がこのカレーの開発であったと思う。
続いて第二弾が「いわがき」のブランド化である。種苗から育成、販売までの一貫生産を目指し、U・Iターンの方々と地元の漁師が協力して株式会社を設立。「隠岐海士のいわがき・春香」という銘柄で販売を開始した。築地市場の評価も高く、今や首都圏大半のオイスターバーに「春香」を出荷している。今年は25万個ほどの出荷予定だが、3年後には50万個の出荷体制が整い、販売額も1億5千万円に達する見込みである。
第三弾は豊かな水産資源である。島では新鮮な魚介類を水揚げしても、海を越えて本土の市場に届く頃には、鮮度が落ち価値を落としていた。そこで磁場エネルギーを活用した冷凍新技術CAS(Cells Alive System 細胞は生きているという意味)という装置の導入を決断した。CASは生の味覚と鮮度を保持したまま凍結ができ、解凍後も一切ドリップが出ない、細胞が壊れないという画期的なシステムで、これを使って離島のハンディを克服し、付加価値の高い商品づくりに挑戦している。現在、外食チェーンを中心に販路を広げ、最近では漁師の食卓がそのまま届けられるという売りが功を奏し、ギフト通販などにも人気が集まるようになった。


ブランドの持続性には、資源管理が不可欠

離島発!持続可能な地域再生への挑戦ー隠岐国・海士町

しかしながら、漁業を取り巻く環境は依然として厳しく、数々の新商品の誕生で活路を見出すも、ここに来て最大の宝である「海」の環境にも異変が生じてきた。近年の気候等の変動に伴う温暖化現象は、磯焼けなど海域環境の悪化を招き、海藻が大きく消滅し、魚の餌場や産卵場がなくなり漁獲は大きく減少。特にアマモ群落の消滅はナマコの漁獲量にもその影響が顕著に表れている。また、貝類の養殖にも影響は否めない。海藻が少なくなったために浄化作用が進まず、一部の海域では底質の悪化が進行するなど、生産拡大もままならない。そもそも底質悪化の原因は、海中の栄養塩の増加にある。栄養塩の増加を抑え、バランスを保てば良質な底質を維持することができる。この栄養塩バランスの維持を、栄養塩で生育する産業利用可能な水棲動植物によって行うことができれば、環境維持と新たな資源創出の両方を同時達成することができる。
そこで着目したのが、磯焼け防止にも繋がる海藻の生産事業である。一見、何の変哲もない事業であるが、海の恩恵に授かり、海の資源再生を願う本町にとっては、海藻生産は豊饒な海をもたらしてくれる源であると同時に新たな可能性にも期待できるからだ。その海藻だが、食用としての価値は従来に増して関心が高く、特に近年は、フコイダンやアルギン酸といった海藻の成分要素を活かしたサプリメント商品にも注目を集めている。本町では、海藻を循環型環境社会構築の中心に据えることで、都市との交流も想定した新たな産業創出にも繋げようと目論んでいる。
海藻の生産と利用方法は前述した以外に大きく二つを想定している。一つは島の農畜産業に使う飼料や肥料への利用や将来を見据え離島のエネルギー源としてのクリーンバイオマスへの利用である。もう一つは、CO2を海藻に吸収させ排出権を生み出し、都市部へ売却するというカーボンオフセットの実現を視野に入れた取り組み。つまり、海を耕すという新しい枠組みの漁業スタイル、「環境漁業」とも言うべきであろうか。離島ならではの画期的なしくみを是非とも構築したいと計画に着手したところである。
事業の鍵を握る海藻を活用した循環システムの構築は、専門の研究機関を持たない本町が単独で推進することは難しい。そこで現在、東京海洋大学と共同で沿岸調査や種苗技術開発を進めようとしている。さらに海藻を育てる藻場の構築には、島外民間企業の参画も仰ぐ予定である。海士町は最先端の冷凍新技術CASを導入し、水産業の発展を目指しているが、今後は環境とも調和した新産業を育てることで、自然力を活かした持続可能な地域再生に一層努めて参りたい。(了)

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