No.0037

2016年08月12日

イランと国際社会の関係構築支援事業 国際会議パネリストに聞く Part2:日本からの女性登壇者の声

笹川中東基金では、2016年5月9日、イラン女性・家庭環境担当副大統領府、イラン国際問題研究所(IPIS)との共催で「平和と持続可能な開発における女性の役割」と題した国際シンポジウムをイランの首都テヘランで開きました。会議は基調講演の部と3つのセッションから構成され、日本とイラン両国から専門家が出席し、女性の力を生かし貢献できる社会の実現に向けて、積極的な意見交換が行われました。

Part1ではこの国際シンポジウムにモデレーターとして参加したNHK解説委員の出川展恒氏インタビューをご紹介しましたが、Part2では日本から参加した3人の女性専門家の声を、登壇順にご紹介します。

筑紫みずえ氏(株式会社グッドバンカー代表取締役社長)
セッション1「女性のエンパワーメント:課題と挑戦」にパネリストとして登壇。プレゼンテーションタイトル"Empowerment of Women: Issues and Challenges"

中西久枝氏(同志社大学大学院、グローバルスタディーズ研究科教授)
セッション2「平和構築と女性」にパネリストとして登壇。プレゼンテーションタイトル「平和な社会を構築する上で果たす女性の役割-イランと日本社会の比較の視点から」

石井美恵子氏(東京医療保健大学、准教授)
セッション3 「災害時救助活動における女性の役割」にパネリストとして登壇。プレゼンテーションタイトル「防災と女性ー災害医療支援活の経験から」

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女性が家庭を大事にしつつ社会参加する方法
イランの聴衆とシェア

筑紫みずえ氏(株式会社グッドバンカー代表取締役社長)

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<略歴>

専業主婦に専念したのち、フランス系企業に就職。1998年日本初のSRI(社会的責任投資)専門投資顧問会社「グッドバンカー」を設立し、社長に就任。環境的な視点から企業を評価し投資対象とする「エコファンド」を企画し、商品化に結びつける。2005年「男女共同参画社会功労者」として内閣総理大臣表彰を受けた。

5月のシンポジウムは、非常に良いテーマにフォーカスしていて、効率的な運営ができていたと思います。イランの人々も地球と社会のsustainability(持続可能性)の重要性に関して議論していこうという並々ならぬ気持ちが感じられました。私は、家事と子育てという主婦と母としての経験が、その後の金融機関での勤務で生かされ、実際自分が起業するのに大変役立ったことを話しました。社会の単位として家庭がいかに大事か、女性にいかにポテンシャルがあるかということをイランの聴衆とシェアできたと思います。


DSC_0339.jpg一番伝えたかったのは、家庭と仕事のバランスです。そのバランスをとるということは、外資系の会社にいたときに、フランス人の上司からずっと言われていた事です。「夕方の決定は必ず翌朝見直しなさい。人間、行きすぎた長時間労働ではむしろ仕事の能率が下がる。バランスをとりなさい。」と言われてきたことを、今、自分の会社で実践しています。ワークとライフのバランスが悪くて葛藤があるということは、雇用のシステムに問題があり、それは変えられると思います。聴衆の皆さんは興味深そうにうなづいていたので、伝わった、良かった、と思いました。。

イランには、1975年に一度訪れたことがあり、今回は41年ぶりの2回目です。若い時に、イランの詩人のオマール・ハイアーム(※11~12世紀のペルシアの哲学者、詩人、「詩集ルバイヤート」で酒をたたえ人生への深い洞察を詠み、19世紀末のヨーロッパで流行)の詩が好きで読んでいました。今回イランに来て、自然、植物などの匂いを感じたとたん、オマール・ハイアームが好きだった若いときに一挙に戻されて不思議な気持ちになりました。

毎日の生活そのものが自己実現であり、目の前にあることを一生懸命やっていると、木の実が熟するように、自分の人生の機が熟するときが必ず来るものです。イランでも日本でも、家庭を大事にしながら女の人が積極的に社会参加できる方法は必ずあると思います。


高学歴の優秀な女性の層が厚いイラン
グローバルなトレンドにも敏感

中西久枝氏(同志社大学大学院、グローバルスタディーズ研究科教授)

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<略歴>

中東研究を専門とする国際政治学者。米国カリフォルニア大学大学院歴史学研究科にて博士号取得。2010年4月より現職。イランを中心に、中東の政治社会変動と紛争防止をテーマに研究。NHKのニュース番組にイランの核開発問題についての解説者として出演。政治、外交から平和構築、ジェンダーなど幅広く研究している。

昨年、国連加盟国は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択しましたが、その中に「持続可能な開発目標」(SDGs)が17あります。女性のエンパワ-メントとジェンダー平等という目標が、このSDGsのゴール5に入っています。イランの国際シンポジウムは、まさにSDGsの中で最も重要なテーマを真正面から取り上げた会議だったと思います。 イラン側のプレゼンテーションの中身もグローバルなトレンドにあった視点からのものでしたね。イランの女性の政策決定者のお二人、環境問題担当副大統領のエブテカール氏と女性家族問題担当副大統領のモラベルディ氏がSDGsに立脚したプレゼンテーションをされていたので、日本との比較において共通した認識で女性のエンパワメントをとらえることができたと思います。


(縮小)中西会議風景IMG_0218.jpg私のプレゼンテーションでは、イランと日本社会の比較の視点から、労働市場において女性がより積極的に参画できるようにするためには、育児休暇制度を充実させるなど法的整備が両国にとって必要だということなどをお話ししました。私の出たセッション後に質問に来た10人くらいの女性たちもたいへん優秀な人たちで、イランが女性の社会進出で今何をすべきかと質問したり、日本に行って研究したいと熱く語っていました。イランには高学歴の優秀な女性の層が厚いと思います。

イラン自身が経済制裁という大変な立場にありながらも、常に国際基準にあった内政と外交を展開しようというスタンスを持ち続けていたことが、二人の女性副大統領からの基調講演の中で強く押し出されていました。

ローハニ大統領は、経済発展のために、女性の積極的な政治参加を促し、女性の就労を後押しする姿勢が必要だという路線を追求しています。私は仕事で40カ国ほど回ってきましたが、政治意識と国際認識が高い人材がこのイランという国には多いと感じています。潜在的に大変優秀な人材がいる国ですね。


男女ともにリーダーシップを発揮
互いのニーズを高めあう「男女共同参画」の追求

石井美恵子氏(東京医療保健大学、准教授)

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<略歴>

北里大学病院等の勤務を経て、救急・災害の専門看護師となり、臨床・理論・現場という多角的アプローチで災害看護の専門性を説き後進の育成にあたる。2011年東日本大震災の被災地に3770人の災害看護師の派遣を取りしきった。2012年日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2012」で大賞に選ばれる。

厳格な父のもとで、自分が自由になるためには自立しなければならないと思っていました。災害看護師として、災害時における救急医療の場面で、圧倒的に力を持った男性の医師達と人命を救うために一緒に活動することを通じて、フェアな関係を構築することにチャレンジしてきました。医療関係者たちのネットワークをつなぐ役割を担い、医者と看護師が職域を越え、対等な関係でお互いを必要としあえるレベルまで行き着いた時、「男女共同参画」ということこそ、私の人生のテーマなのだということに気づいたんです。もしかしたら私は、それを追求するために、無意識にイラン人の夫と結婚するということを選んだのだろうかと思うこともあります。


(縮小)石井先生パネルIMG_0237.jpg私の仕事は、医療チームがこの被災地でどういう活動をしたら効果的かというプランニングをし、マネジメントすることです。私は、若い医師たちに、「物語を描きなさい」と言っています。ただ、目先の患者さんの治療をするのではなくて、地域全体を見てどうしたら早く回復するか、自分たちの仕事が必要でなくなる最終章までしっかりプランニングし、物語りを描きながら仕事をすることが大切です。

シンポジウムでは、自分の経験とともに、男女ともにリーダーシップを発揮することで、男女双方のニーズを満たすことができることを話しました。聴衆はこちらを見てニコニコしていました。リーダーシップを発揮する用意ができていますよ、という女性たちからの賛同の笑顔だったのかもしれません。私の生き方や災害支援活動の経験が、若い女性たちの何かヒントになったのではないでしょうか。

イランと日本は人としてのありようが似ているんですよ。お正月にお年玉とかお供え物があるんです。それ日本にもあるな、と思うことが多いんです。「お疲れ様」という言葉の直訳の英語はないと思いますが、ペルシャ語には「ハステナボシ」という日本語の「お疲れ様」と同じ意味の言葉があります。イラン人と日本人は感性が似ているのではないかと思います。


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中東地域で過激派の台頭や武力紛争の長期化など、様々な難問が押し寄せる中、今後イランに対しては、平和と安定を取り戻すための重要な役割を果たすことが期待されています。本シンポジウムの開催に引き続き、イランと日本のさらなる信頼関係を築くため多角的な交流活動が必要です。

日本からご参加いただいた女性専門家の皆様は、2泊5日(機内2泊)の強行軍をものともせず、活発に議論を展開され、知見をご披露いただき、イランの聴衆との交流を積極的に行っていただきました。それぞれの分野でさらなるご活躍を祈念するとともに、引き続き、イランと国際社会の関係構築支援事業でもご協力をいただきたいと思います。

<了>

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