No.0036

2016年08月01日

イランと国際社会の関係構築支援事業 国際会議パネリストに聞く Part1:NHK解説委員 出川展恒氏

笹川中東基金では、イランが国際社会に本格的に復帰するにあたり、イランの様々な潜在能力を十分に発揮して地域と世界の平和と安定に貢献できるよう、その環境を整備するための支援を行っています。 今年5月には、イラン女性・家庭環境担当副大統領府、イラン国際問題研究所(IPIS)との共催で「平和と持続可能な開発における女性の役割」と題した国際シンポジウムをテヘランで開きました。日本とイラン両国から専門家が出席し、両国が互いの経験を学び合い協力して取り組むための活発な議論が行われました。 日本から参加した専門家の方々にお話をうかがいました。

Part1では、セッション1 「女性のエンパワーメント:課題と挑戦」にモデレーターとして参加したNHK解説委員 出川展恒氏のインタビュー、Part2では日本から参加した3人の女性専門家の声をご紹介します。

出川展恒氏インタビュー


―国際社会への復帰を望むイランの変化について

今回の国際シンポジウムへの参加で、イランへの訪問は、この半年間で3回目となります。前回は今年2月の議会選挙の取材で訪問しました。 イランは、1979年のイスラム革命以降、37年もの間、国際的な孤立状態に置かれていましたが、昨年7月に核開発問題で欧米など6カ国と最終的な合意に至り、経済制裁が徐々に解除されています。こうしたなか、ヨーロッパ各国、韓国、中国などがイランの石油や天然ガスなど、エネルギー資源の輸入や開発をはじめ、イラン市場に参入する機会をうかがっています。

今回の訪問では、イランが急速に国際社会に接近し、欧米諸国との関係も改善に向かっているなかで、イランの外交や人々の考え方の変化に注目しました。そのなかで最も強く感じたことは、イランの自信、すなわち、国際的な孤立から脱却し、地域大国として成長した新しいイランの姿と存在感を国際社会に示したいという熱意です。

―今回の国際シンポジウムのイラン側の考えはどのようなものでしたか。

SPF NowIranDSC_0338.jpg イラン側が、女性の社会進出の問題をテーマに採用した背景には、今年1月から国交を断絶しているサウジアラビアとのライバル関係があると感じました。

サウジアラビアは、宗教的、伝統的に、女性の行動についてさまざまな制限や規制があります。最近、女性が議員として限定的に政治参加できるようになったものの、基本的に女性が政治や社会に進出するのは非常に難しい国といえます。これに対し、イランでは、都市部を中心に、女性の社会進出が進んでおり、大学進学率も高く、公務員や教職員、医師など、活躍する女性も多いようです。現在、2人の女性副大統領を輩出していることからも、サウジアラビアと比べ、イランのほうが女性の社会進出が進んでいるといえます。イランとしては、国際的なシンポジウムで女性問題をとりあげることで、同じイスラム国家でも、サウジよりもイランのほうがはるかに女性の社会進出が進んでいることを世界にアピールしたい思惑があるのではないかと感じました。

―これからイランに待ち受ける課題や問題

昨年、ロウハニ政権とオバマ政権は、非常に解決が困難と見られていたイランの核開発問題を、政治交渉によって最終合意に導きました。今年2月の議会選挙では、ロウハニ政権を支持する穏健派と改革派が大きく躍進しました。国民の多くが、ロウハニ政権の穏健で現実的な路線、つまり、欧米諸国とも対話を進め、協力できるところでは協力し、国際社会への復帰を果たそうとする路線を支持していることが明らかになりました。しかし、だからと言って、長らく対立してきたイランとアメリカが、そう簡単に、国交回復など本格的な関係改善に向かうとは言えません。

イランの指導部は、核合意によって、経済制裁を速やかに、完全に解除してもらい、経済と国民の暮らしを好転させたいと考えています。しかし、経済制裁は本当に解除され、外国と自由に取引できるようになるのか、疑念も出てきています。たとえば、ヨーロッパの銀行が、イランとの取引に慎重なのは、アメリカの金融制裁が解除されておらず、アメリカからの圧力があると捉えています。最高指導者のハメネイ師は、3月20日のイラン暦の新年にあたる国民向けの講話の中で、あえてこの問題に言及しています。

アメリカでは今年11月に大統領選挙が行われますが、共和党候補のトランプ氏は、自分が当選すれば、イランとの核合意を破棄すると公約しています。ですから、イランは、アメリカ大統領選挙の行方を固唾をのんで見守っています。

来年の6月頃には、イランでも大統領選挙が行われる予定で、ロウハニ大統領が再選されるかどうかが注目されます。イランの国民は、ロウハニ政権の穏健路線と核合意の結果、経済と暮らしが改善することを強く期待していますが、いつまでたっても、それを実感できなければ、ロウハニ大統領の支持率は下がり、保守強硬派が巻き返す可能性もあります。イランが、今後、どういう方向に進むかは、アメリカ大統領選挙や経済制裁の解除の進み方などに左右され、多くの不確定要素があると考えます。

―イランの日本に対する期待について

イランは、イスラム革命後も、日本を信頼できる良きパートナーとして見てきました。国際的に孤立し、アメリカやヨーロッパ諸国との対立や緊張が続くなかでも、日本はイランとの国交を維持し、両国間で紛争が起きることもありませんでした。今回の国際シンポジウムで、イランの参加者はそのことを再認識したのではないでしょうか。イランは、環境分野や教育、エネルギー開発など、さまざまな分野で日本との協力拡大に期待していることを強く感じました。

出川展恒(NHK解説委員)
1985年東京大学教養学部卒業後、NHKに入局。テヘラン、エルサレム、カイロ、バグダッドの各支局長を歴任し、2006年から現職。専門は中東・イスラム地域。イランの核開発問題、外交、選挙を重点的に取材し、イランの要人とのインタビューも重ねている。


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